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仮面ライダーZX 〜十人の光の戦士達〜

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廃墟の巨人

 「そうか、ドクロ少佐も敗れたか」
 豪奢な椅子に座した男が戦闘員の報告を聞きながら言った。
 「ハッ、シンガポールにおいて建設中であった我等の基地はインターポールの手に落ち破壊されました」
 戦闘員が敬礼し引き続き報告する。
 「あの基地がか。そしてドクロ少佐は今どうしている?」
 何処かの地下に造られた部屋らしい。掘り抜かれた岩が露出し松明により灯がとられている。座した男の前には黒檀のテーブルがある。
 「御自身の本拠地であるイタリアへ戻られました。傷を癒されていると思われます」
 「そうか。それでは暫くの間動けぬな」
 「ハッ、残念ながら」
 「よし、御苦労。下がって良いぞ。引き続きライダー達と他の者達の諜報を怠るな」
 「了解致しました」
 戦闘員は敬礼し部屋を後にした。
 「ドクロ少佐が生き残ったか。あの女が動いたか」
 机の上に置かれたグラスに酒を注ぎ込む。赤い血の様なワインだ。
 杯を手に死一気に飲み干す。ワインの香りが部屋に満ちていく。
 「さて、これからどうするかだ」
 杯を置いた。その手は白手袋で覆われていた。黒いスーツとマントに身を包み首には白スカーフを巻いている。暗い為かその顔はよく見えない。しかしその至る所から異様な光を発している。その光から彼が人でないことがわかる。
 「ブラック将軍達も欧州での戦局建て直しに忙しい。インドは壊滅状態だ。鋼鉄参謀も動けぬか」
 壁に掛けられている世界地図に目をやる。その中の九つの場所にマークが付けられている。そのういの二つ、欧州とインドにはダーツが刺さっている。
 「ダブルライダーが。小癪な真似を」
 忌々しげに吐き捨てる。
 「そして今度はⅤ3.やはり奴等を何とかしなければいかんな」
 懐からダーツを取り出す。シンガポールに射ろうとしたその時だった。
 「ムッ!?」
 彼がダーツを放つより早く何かが地図に突き刺さった。丁度シンガポールの場所だった。
 刺さっているのはトランプのカード。それもスペードのキングである。
 「・・・・・・貴様か」
 カードが飛んで来た方に憎々しげに顔を向ける。そこに奴はいた。
 白い服にマント、腰の左右には剣が吊られている。やはり首から上は見えない。しかし全身から発せられる気が彼が只者ではないことをあらわしていた。
 「これは申し訳ないことをした。くつろいでいるところだったか」
 不敵さと余裕をこれ以上ない程込めて言う。その口調から自身に対する絶対の自信が感じられる。
 「フン、今それは止めた。一体何の用だ」
 「足した用事ではないが。聞きたい事があってな」
 「聞きたい事?」
 言葉尻がピクン、と上がった。
 「そうだ。この前ドイツに行っていたそうだな」
 以前オオカミ長官と密会した時の話だ。
 「ドイツ?知らんな」
 わざととぼけてみせる。
 「それはそうと俺も貴様に聞きたい事がある」
 逆にこちらから切り返した。
 「何だ?」
 「インドでの件だが。何故犬猿の仲のあの二人が合ったのだ?」
 続けた。
 「裏で仕組んだ者がいると言われているようだが」
 「さて、何の事やら」
 白服の男も知らぬふりをする。二人共腹の中を探り合うが互いにそれを隠し合っている。
 「知らないか。ならいい。用件はそれだけか」
 「もう一つある。情報を持って来た」
 「情報?」
 「そうだ。知りたいか」
 「内容によっては高く買ってやる」
 「そうか」
 一枚のカードを黒服の男の前に投げた。それはダイヤのナイトだ。
 「このカードは・・・・・・」
 男はカードを手に取りいぶかしんだ。
 「ベイルートにある男が来た」
 「ある男?」
 「貴様も知っている。結城丈二。またの名をライダーマンという」
 「何ッ、あいつがか!」
 黒服の男は思わず声をあげた。
 「これが何を意味するか解かるな」
 「おのれっ、感づいたか」
 「既にベイルートにも情報は入っている筈だ。今頃対策が検討されているだろう」
 「ぬうう、それにしても・・・・・・」
 「ベイルートにも改造魔人がいるだろう。誰だ?」
 「・・・・・・・・・岩石男爵だ」
 黒服の男は忌々しげに言った。
 「ほお、あの単細胞が。これは面白い事になりそうだな」
 その口調には明らかに嘲笑の色があった。
 「貴様、何が楽しい」
 黒服の男は白服の男を睨みつけた。
 「別に。それにしても何か焦っているのか?急に機嫌が悪くなったようだが」
 「フン、何でもないわ」
 「そうか、これは失敬」
 白服の男は表向き謝ってみせた。
 「まああの男の事だ。何も考えず力のみでライダーマンを倒そうとするだろう。かってデストロンで将来を渇望されライダー達の知恵袋とも言われるあの男に力のみの攻撃で勝てるとは思えぬがな」
 「むう、確かに」
 これには黒服の男も納得した。岩石男爵の粗暴さと浅慮さはデルザーの時から有名であったのだ。
 「では俺はこれで失礼させてもらう。こちらにもやらねばならぬ仕事があるのでな」
 そう言うと何処からか数枚のカードを取り出してきた。
 「マントフェイド!」
 パッとカードを上に投げるとその中に隠れるように消えていった。カードも地に落ちると煙の様にスウッと消えてしまい後には何も残らなかった。
 「・・・・・・奴め、俺と岩石男爵の関係について知っているな」
 黒服の男は一人残った部屋で忌々しげに呟いた。
 「それを知ったうえで情報を伝えに来たか。相変わらず腹の底の読めん奴だ」
 東部にある無数の、特に中心の巨大な光が妖しく輝く。
 「だが奴の言う事は道理。岩石男爵だけではライダーマンの知略の前に敗れるのは目に見えている。・・・・・・度し難い馬鹿だがあれはあれで使いようがある。手駒は大事にしなくてはな」
 そう言うと男は羽織っていたマントを脱ぐとそれを上から被った。するとマントだけが地に落ち男は何処かへ消えていた。
 
 「奴も動き始めている頃だな。まあ手駒を粗末にするわけにもいくまい」
 先程の白服の男が足下に白い煙が立ちこめる真っ暗闇の部屋で赤い円卓に座していた。
 「では俺も手を打たせてもらおう。いよいよとっておきのクイーンに働いてもらう時が来た」
 カードを切りテーブルの上に一枚、また一枚と置いていく。その真中のカードを手に取った。
 「ハートのクイーン、これでよし」
 指にスナップを効かせ手首を捻っただけでカードを上に投げる。カードは放物線を描いて回転しつつ地に落ちた。
 「イーーーーッヒッヒッヒッヒッ」
 カードが変化し不気味な笑い声と共に誰かが立ち上がって来た。
 「お呼びですか?」
 赤い双眼が暗闇の中に光った。
 「うむ。少しばかり働いて欲しいのだ」
 「お安い御用です。イヒヒヒヒヒ」
 再び不気味な笑い声が木霊する。暫しの話し合いの後杯を重ね当てる音がし二人の姿は消え去っていた。



 古来より木と地を巡りメソポタミアの血では争いが絶えなかった。ヒッタイト、アッシリア、バビロニア、ペルシア等多くの帝国が興亡した。『海の民』と呼ばれる謎の民族やフェニキア人、ミケーネ人等海洋民族もいればエジプト人やペリシテ人といった陸の民族もいた。ユダヤ人もいた。多くの民族がこの荒涼とした地において国を造り滅びそれを繰り返していた。
 マケドニアのアレクサンドロス大王の遠征以後は彼の遺臣達が国を持ったがやがてローマに飲み込まれていく。そのローマも宿敵ペルシャとの終わりなき争いに入りゼノビアの台頭を招いてしまった事もある。
 ローマが東西に分裂し東ローマ帝国となってもそれは変わらなかった。この地を巡ってペルシャとの争いは続いた。とりわけユスティニアヌス帝とホスロー一世の対決は有名であろう。やがてこの地に大変革が訪れる。
 預言者ムハンマドがイスラム教を興し瞬く間にこの地を席巻したのである。その勢いは止まる所を知らず中央アジアや北アフリカ、そしてイベリア半島にまで広がった。さしもの東ローマ帝国も劣勢に追いやられローマ=カトリック教会に援軍を求めた。
 これに対しローマ=カトリック教会は十字軍でもって応えた。イスラム諸国と彼等の死闘が繰り広げられそれが約二百年間続いた。モンゴル帝国や東ローマ帝国も交えこの地は混沌とした状況になった。
 十字軍もモンゴルも去り東ローマ帝国も斜陽になるとオスマン=トルコが台頭した。強さと寛容さを併せ持ったこの国は飛ぶ鳥を落とす勢いで勢力を拡大し東ローマ帝国も滅ぼしこの地の覇者となった。この大帝国による支配は長い間メソポタミアと中東に平和と繁栄をもたらした。
 多くの民族がこの地において興亡を繰り返したがユダヤ人達もそうであった。
 ローマにエルサレムを追われ流浪の民となった彼等は世界各地に散った。
 彼等は欧州にも散った。金融業等を営みつつ生活を送っていた。知識人や政治家となった者も多い。異教徒である彼等に対する偏見は強く事あるごとに迫害と弾圧が加えられた。
 彼等に強い団結心と望郷の念が生まれたのは自然なことであった。これはやがて自らの国を持とうという思いへと変わる。いわゆるシオニズムである。長い間強勢を誇ったオスマン=トルコも栄枯盛衰の理には逆らえず第一次大戦での敗北により崩壊は決定的となった。対戦中にイギリスと協約を取りつけていたユダヤ人達はエルサレムにおいて自分達の国を建国すべく入植を開始した。
 しかしイギリスの舌は二枚舌であった。この地に住むパレスチナ人達の独立も密約していたのであった。
 ユダヤ人のこの地への入植が進むにつれ対立の芽が育つようになった。
 ビリヤードの球の様なものであろうか。一時大戦により崩壊したドイツ帝国に魔性の独裁者が出現した。彼の名はアドルフ=ヒトラー。何もかもが崩れ去っていたドイツを強力な全体主義国家として復活させた彼は同様にユダヤ人に対する弾圧を開始した。奇しくも同じ全体主義国家であるソ連の悪夢の独裁者ヨシフ=スターリンも政敵トロッキーへの敵愾心からか同じ様にユダヤ人を弾圧していた。
 これ等の暴風の様な迫害を避け欧州を出るユダヤ人は後を絶たなかった。多くは故郷であるカナンの地を目指した。
 人類の歴史にその禍々しい名を残す全体主義国家によって多くの同胞の命を奪われ生き残った者の多くも死の恐怖に曝されたユダヤ人達はもう躊躇しなかった。二度目の大戦の後この地において自らの国、イスラエルを建国した。ユダヤ人の悲願がここに達成されたのである。だがイスラム教徒、とりわけパレスチナ人の面子は丸潰れである。アラブの全てのイスラム国家がイスラエルに対し一斉に宣戦を布告した。長きに渡る中東の戦乱がここに幕を開けた。
 数的には圧倒的に優位であったイスラム諸国であったが確固たる連携も強力な指導者もおらず敗北を重ねた。次第にアラブ人の中でイスラエルの存在を既成事実として認めようという考えを持つ者が現われてきた。
 エジプト、サウジアラビア、ヨルダンといったイスラム諸国でも穏健派に属する国々がイスラエルと国交を結んでいった。強硬派の国々も表向きは強硬な発言を繰り返すものの矛は収めるようになった。大々的に干戈を交える事はなくなった。
 国同士の衝突こそなりを潜めたが一人一人のレベルでイスラムの大儀とイスラエル打倒の旗を掲げる者達が現われてきたのだ。
 その代表とも言えるのがPLO-=パレスチナ解放機構である。彼等はカナンの地でのパレスチナ人の独立国家建設を目指し
イスラエルに対しテロ行為で挑んだ。これに対しイスラエルも精鋭をもってなる正規軍と中近東にその名を馳せた諜報機関モサドをもって対抗し再び血で血を争う抗争が始まった。双方に多大な犠牲を出しようやく和平に至った。
 だがこれで話は終わりではなかった。PLOが穏健路線に転じはじめると狂信的なイスラム原理主義者達が台頭してきた。
 超国家的ネットワークを持つ彼等は詩すら恐れずイスラエルに無差別なテロ攻撃を行なった。対するイスラエルも徹底的な報復を行なった。やがてイスラエルでも強硬派が発言力を持つようになり一旦和平が成立したパレスチナに対しても原理主義者達との関係を理由に兵を進めるようになった。再び際限無き戦争が続くかと思われたがパレスチナ政府が決して強硬な態度を取らずイスラエル強硬派が国際世論から完全に見放されたことにより双方は矛を収めようとしている。原理主義者達はまだ動いているが戦火は収まる方向へ動こうとしている。ここに至るまで実に多くの血が流れた。
 レバノン共和国の首都であるベイルートはかって『中東の真珠』とまで謳われた美しい都市であった。しかし度重なるテロにより廃墟となってしまった。ようやく復興しつつあるとはいえ戦禍の爪跡はまだ深い。
 そのベイルートに男はいた。さほど高くなく細身だがよく鍛錬されているのであろう引き締まった身体をした黒い髪の東洋人の青年である。上が紺、下が薄いブルーのスリーピースのスーツを着込みネクタイを締めている。カッターはズボンと同じ色だ。
 やや頬の薄い顔はエラが無く細長い印象を与える。黒い瞳は眉とバランスが取れており知性をたたえている。全体的に知性を感じさせる印象であるが同時に熱さも併せ持っているようだ。この青年の名は結城丈二。ライダーマンとしてその名を知られた人物である。
 日本に生まれた。幼い頃より神童と謳われる程の天才であった。だが両親を事故で失い施設に預けられる。奨学金を受け大学まで無事卒業したがその身は常に孤独であった。
 才を買われある政府機関の助手となったがその優秀さが裏目に出た。あまりにも優秀すぎたが故に誰にも理解してもらえず孤立してしまったのだ。
 その孤独に彼は絶望した。世を捨てようとしたその時声を掛ける者がいた。デストロンという組織の者だった。
 その者は彼に言った。我々は平和で平等な理想社会の建設を目指している。その為に力を貸して欲しいと。
 彼は一瞬迷った。だが承諾した。最早全てに絶望し孤独に苛まれていた。それから脱却出来るのなら構わないと。
 デストロンにおいて彼はその才能を開花させた。平和利用の為の薬品開発や改造手術において名を知られるようになり科学班きっての俊英と言われるようになった。
 また彼はその孤独な生い立ちからか部下にも優しく責を負う事も厭わなかった。やがてデストロン科学班のリーダーとされるまでになった。
 その彼をデストロン首領は重用した。彼も自分を拾ってくれた首領に対し絶対の忠誠を近い将来のデストロン最高幹部と目されるようになった。
 これを快く思わない者がいた。デストロンの大幹部の一人であり日本支部長であったヨロイ元帥であった。元々はデストロン出身でない彼は生え抜きである結城丈二とは境遇が違った。その上彼は首領の憶えめでたく部下からの信望厚い結城に嫉妬していた。そして彼が抜擢される事により自らの地位が脅かされるのを危惧した。腹は決まった。
 彼は結城に反逆者の冤罪を着せ最高幹部会議にかけ死刑とした。会議前に各幹部に根回しをしておく事も忘れなかった。報告を受けた首領は彼の才を惜しんだが刑は執行される事となった。
 ヨロイ元帥は彼を処刑場へ連行すると硫酸のプールの上に彼を逆さ吊りにした。そしてゆっくりと彼を嬲り殺しにせんとしていた。まずは右腕から。彼の右腕は白い煙となり溶け落ちた。
 それからじっくりと時間をかけて溶かしながら殺すつもりであったが結城の部下達が乱入してきた。彼は科学班の若きリーダーでありその敬愛を一身に集めていた。彼を救う為部下達は命を賭してその救出を行なったのである。
 命からがらデストロンを脱出した彼は失った右腕を補う為に部下達の協力を得て義手としてアタッチメントを取り付けた。そしてヨロイ元帥への復讐の為彼が最も忌み嫌う存在である仮面ライダーを模したマスクを作り上げた。そして彼はライダーマンを名乗った。
 右腕を失った結城だが鎧元帥が放った刺客によって部下達も殺されてしまった。以前にも増して激しい復讐の念に捉われた彼の前にかっては彼と同じ様に復讐に心を燃やす男が現われた。
 男の名は風見志郎。デストロンに両親と妹を殺された男、またの名を仮面ライダーⅤ3という。復讐に燃える彼にかっての自分の姿を見た彼は共にデストロンを倒そうと共闘を呼び掛けた。
 だが彼はその呼び掛けを断った。彼はヨロイ元帥を倒せればそれで良かったのだ。同時に彼の心にはまだデストロンに対する忠誠心が残っていた。
 その才故に誰からも理解されず孤独となり絶望に陥っていた彼を拾ってくれ目をかけてくれたのはデストロン首領であった。その恩義を彼は忘れていなかった。彼の心は悪の中にいながらも正義を信じ純粋であった。否、彼はデストロンが悪だとも知らなかったのだ。世界平和を目指す組織だと信じて疑わなかった。それが為にデストロンを撃ち滅ぼそうとするⅤ3とは対立する事もあった。デストロンを離れても彼の心はデストロンの下にあり彷徨っていたのだ。
 だがデストロンを離れヨロイ元帥の首を狙ううちに彼は次第にデストロンの実態に気付くようになる。そして不本意ながら風見と共闘するうちに彼の言う復讐よりも大きな『何か』に考えを巡らすようになっていく。
 科学班きっての俊英であり将来の最高幹部結城丈二の離反はデストロンにとって大きな損失であった。その戦力の殆どを失い遂に最終作戦として東京にプルトンロケットを打ち込む作戦を発動させた。
 Ⅴ3と共にその作戦の阻止に向かったライダーマンはさそり谷にて宿敵ヨロイ元帥と対峙する。そして自分が首領に利用されていたに過ぎなかった事を知る。
 その彼の前にプルトンロケットがあった。これが発射されれば東京は壊滅し多くの人が死んでしまう。彼はこの時理解した。復讐より大きなものとは何か、が。
 彼はすぐに動いた。最早ヨロイ元帥への復讐は頭になかった。それよりも人々の命を、生活を護る方が大事だった。Ⅴ3に後を託すとロケットに乗り込み空中で自爆して果てた。命を賭して多くの人の命と東京を救った彼に対しⅤ3は仮面ライダー四号の名を贈った。
 この時に彼は死んだと誰もが思った。Ⅴ3もデストロンもそうであった。だが彼は生きていたのだ。
 デストロンの最終作戦を察知したダブルライダーはⅤ3と共闘する為日本に向かっていた。Ⅴ3に合流する直前にプルトンロケットが空を飛ぶのを見た彼等はその動きから中に誰かがいるのを察知した。そして新サイクロンで空を駆るとロケットの中へ侵入しライダーマンを救出したのだ。
 一命をとりとめたライダーマンとダブルライダーがデストロンの基地へ向かった時にはデストロンは崩壊し首領もⅤ3により倒されていた。首領はⅤ3を基地もろとも爆死させようとしたが叶わなかった。ダブルライダーは風見や立花とはあえて顔を合わさず日本を去った。結城は暫く迷っていたが風見の家に向かった。だが既に風見は日本を後にしていたのだった。
 結城は次に立花藤兵衛が経営するスポーツ用品店セントラルへと向かった。そこには店を喫茶店へ改装しようとしている立花がいた。彼を認めて結城は声をかけた。
 目の前に立つ結城丈二の姿を認めて彼はまず呆然とした。そして次に彼に駆け寄りその両手を強く握り締めた。そんな彼を見て結城は笑った。自分も仮面ライダーであり支えてくれ気にかけてくれる人がいるのが嬉しかったのだ。
 それから暫くの間彼は立花と行動を共にした。デストロンとの戦いにおいて己が非力さを痛感した彼は更なる鍛錬を積んだ。そしてヘルメットやアタッチメントに改造を加えた。それを終えると彼も立花に別れを告げ日本を後にした。そしてダブルライダーやⅤ3と同じく世界の平和を守る為にあくの者達との戦いに身を投じたのである。
 「前に来た時より復興が進んでいるな」
 結城は街並を見回しながら言った。大統領官邸や議事堂等があるベイルートの中心地でありとりわけテロ活動の激しかった地域でもある。l手が足りないのである。
 大トルコ宮を右に回り住宅地に入る。ここにもテロの傷跡が残る。
 路を歩きながら彼は何者かがつけている事に気が付いた。サッと小路に入った。
 その後を追って誰かが小路に入ってきた。尋常でない速さと身のこなしで結城の後をつけて来る。
 「ムッ」
 結城が角を曲がるとその者も後を追い角を曲がった。角の向こうは袋小路だった。窓の無い家々の壁で囲まれ所々に鼠の穴がある。
 「残念だったな。俺はここだ」
 男が上を見上げると壁の上に結城丈二がいた。いや、それは結城丈二ではなかった。彼の持つもう一つの姿、ライダーマンであった。
 青い中央が赤と白、緑に塗られたヘルメット、顔の下半分は露出している。黒のバトルボディの胸は赤く腹部はヘルメットと同じカラーリングである。手袋とブーツはシルバーであり大きなマフラーは黄色である。腰にあるベルトは四つの小さなタイフーンである。歴戦の四人目のライダー、ライダーマンだ。
 「何者だ。ジンドグマの残党か?」
 男は答えようとしない。そのかわりであろうか。着ていた黒いスーツの上着を脱ぎ捨てた。すると男の姿は不気味な怪人となっていた。
 「ガオーーーーーン」
 ドグマの火炎怪人ファイアーコングである。
 「やはり改造人間か。ならば容赦はしない!」
 壁から飛び降りファイアーコングの前に着地した。小路にて両者の一騎打ちが始まった。
 ファイアーコングが次々と拳法の技を繰り出す。ライダーマンはそれを左手で防ぐ。
 「ガオーーーーッ!」
 間合いが離れると怪人は炎を吹き出してきた。
 「うぉっ!」
 これにはライダーマンも怯んだ。しかしすぐに体勢を立て直す。そして腰から何かを取り出し右手に入れた。
 「スモッグアーーーム!」
 右手が瓢箪形のアタッチメントと化しその先から煙幕を発した。ライダーマンはその中に隠れ見えなくなってしまった。
 「ガッ!?」
 視界を完全に遮られてしまった怪人は必死にライダーマンの気配を探ろうとする。だが敵の気配は全く感じられない。次第に焦燥感が募る。
 「グォッ!」
 何かがファイアーコングの脳天を一閃した。怪人は急所を直撃され即死した。
 煙幕が晴れていく。ライダーマンは既に結城丈二の姿に戻っていた。
 ファイアーコングの亡骸もあった。怪人ではなく人の姿に戻っていた。何処も変わったところのない普通の男だった。
 「刺客だな。だとすれば一体誰が」
 男の死骸に歩み寄ろうとする。その時上から何かが撃ち込まれてきた。
 「ムッ!」
 結城は咄嗟に跳びその攻撃をかわした。だがそれは結城を狙ったのではなく死骸を狙ったものだった。ファイアーコングだった男の死骸は四散してしまった。
 「証拠隠滅か。これでは持ち帰っても意味がない」
 骨の欠片一つ残ってはいなかった。結城は舌打ちすると小路を後にした。
 その結城を上から見下ろす男がいた。黒服の男だ。その右手にはリボルバーが握られている。
 「危ないところだったな。奴に我々の事を知られるわけにはいかん。しかし・・・・・・」
 男は顔を顰め舌打ちした。
 「岩石男爵め、一体そういう作戦指揮をしているのだ」



 黒服の男が岩石男爵の作戦に疑問を抱いている頃ベイルートの破壊し尽くされたビルの地下に設けられた基地で奇妙な一団が密談をしていた。
 「何ッ、まさか街中で結城丈二を消すつもりだったのか?」
 中央に位置する男が思わず驚きの声を挙げた。
 オレンジ色のヨロイに全身を包み白いマントを羽織っている。左手には無数の棘が突き出た鉄球があり顔の口の部分以外を兜で覆っている。ヨロイの胸の部分には二匹の蠍が描かれており兜にも蠍かザリガニの如き脚が八本装飾されている。この男の名をヨロイ元帥という。デストロンにおいてその悪名を轟かせた男だ。
 モンゴルの奥地に誰にもその名を知られていない謎の一族がいた。その名をヨロイ一族という。モンゴル高原に住みながら馬に乗らず思い鎧でその全身を覆っていた。その鎧はあらゆる武器をはね返し何者をも寄せ付けなかった。一説にはチンギス=ハーンの末裔とも言われるこの一族はやがて奇怪な妖術に手を染め固い外皮や鱗を持つ生物の力を己が身体に取り込むようになった。
 その一族の長の家に生まれたのがヨロイ元帥である。彼は自身が長となる為に障壁となりそうな者を次々と抹殺し一族の長となった。そしてモンゴル中を荒らし回り多くの人達を殺していった。
 その彼の残虐さと悪辣さは程無くデストロン首領の耳に入った。彼はデストロンの大幹部として迎え入れられることになった。
 デストロンにおいても彼はその悪辣さを遺憾なく発揮した。嬉々として非道な作戦を執り行ない罪無き人を嬲り殺しにしてそれを見て楽しんだ。その残忍さはデストロンにおいても随一であった。
 また彼は自らの地位に異様なまでに固執した。少しでも自分の地位を脅かしそうな者は次々と陥れていった。その事からも彼は組織内で非常に憎まれ恐れられていた。
 「そうじゃ、それが何か悪いのか?」
 左手に立つ男が平然と答えた。そのさも当然といったような口調に流石のヨロイ元帥も呆れてしまった。
 「悪いも何もあるかっ、もし市民に見られでもしたらどうするつもりだ」
 「簡単な事。見た者もついでに始末すればいいじゃろが」
 男はまた平然と言った。その態度にヨロイ元帥は匙を投げてしまった。
 (やはりこの男には何を言っても無駄か)
 ヨロイ元帥がこの男、と心の中で読んだ男は人であり人でなかった。
 体型は人のものであったがその上半身はしろと土色の岩石で出来ていた。白いズボンを履き黒の短めのマントを羽織っている。名を岩石男爵という。デルザー軍団改造魔人の一人である。
 ギリシャ神話にスフィンクスという魔物が登場する。半ば神としての属性を持つテューポーンとエキドナの間に生まれた人の頭に獅子の身体、そして鳥の翼を持つ魔物であり路行く旅人に謎かけをし答えられぬ場合は容赦なく食い殺していった。この魔物はエディプスという若者にその謎を解かれると怒りと悔しさのあまり谷に身を投げ自害して果てた。邪悪でありながら誇り高い魔物であった。
 エジプトにもこの魔物と同じ名の魔物がいた。ただこちらには翼は無くギリシャのものより遥かに巨大であった。邪神アピスの眷属であったのだろうか。太陽神ラーを護るセトやトトといった武に秀でた神々と果て無き戦いを演じた。やがて力尽きナイルの地に座して死を迎えた。その力と潔さに魅入られた時のファラオはこの魔物を王の墓の守護者に任じた。たとえはじめは神々の敵であっても調伏されナイルの守護者となる事を期待されたのだ。この魔物はエジプトに座し続けこの地を守護し続けた。ナイルの尊き流れは今尚尽きることなくこの地の民に繁栄と豊穣を約束している。
 このスフィンクスの子孫が岩石男爵である。力技や岩を使用した戦法を得意としておりデルザーでもその強力は知られている。その反面短絡且つ粗暴な事でも知られており知略の無い作戦を展開している。
 「まあ奴はライダーの中でも特に弱いと言われているそうじゃないがや。なあ~~~んも心配する必要はないきに」
 ガンラガンラと笑って答える。 
 「それじゃあわしはこれで失礼させてもらう。次に送る怪人に伝えねばならん事があるんでのう」
 「待てっ、話は終わっておらんぞ」
 岩石男爵はヨロイ元帥の言葉を最後まで聞こうともせずその場を後にした。
 「何という愚かな奴だ。力技でライダーマンが倒せるとでも思っているのか」
 扉が閉められるのを見て忌々しげに吐き捨てた。
 「おそらくあの攻撃で奴は少なくともこのベイルートで何かがあると察する。そうすれば頭の切れる奴の事だ、すぐに我等の存在と計画に気付くぞ」
 「あら、それはそれでいいんじゃなくて?ライダーマンをこちらの手の中に誘き寄せられるのよ」
 右側から女の声がした。ヨロイ元帥は声のした方へ顔を向けた。
 「妖怪王女か。何か考えがあるな」
 「ええ」
 暗闇の中から女がスット現われてきた。
 黒い髪と瞳を持つ小柄な女である。顔の上半分は蝶を模した桃色のマスクで覆っているがかなりの美女である。薄い桃色と金のレオタード状の服を着、腿まで隠したスカートは白く何重にも巻かれフワリとしている。彼女こそ妖怪王女。ジンドグマにおいて四幹部の一人としてその名を怖れられた女である。
 ハンガリーとオーストリアの境にあるショプロン近郊に生まれた。幼い頃からその声と容姿の美しさを認められソプラノ歌手となるべく育てられた。その期待にそえ十代にしてウィーン国立歌劇場等欧州に名立たる歌劇場で歌うようになった。誰もがその将来を渇望する天才歌手であった。
 このままいけばそうなったであろう。しかし時代がそれを許さなかった。世界を飛び回る彼女に目をつけたハンガリー当局が彼女をスパイとしても育成しはじめたのだ。
 彼女はそちらの方面の才能もあった。それを遺憾無く発揮し諜報、破壊工作、そして暗殺と任務を次々に成功させていった。やがて世界各国の諜報機関は姿の見えぬこのスパイの存在に恐れをなすようになった。その正体が美貌のオペラ歌手であるとは誰も想像だにしなかった。
 スパイ活動を続けるうちに彼女は破壊工作や暗殺に心を傾けるようになり歌への情熱は薄れていった。その時に現われたのがテラーマクロであった。
 彼女はテラーマクロの誘いを受けドグマに入った。そしてメガール将軍等と共に大幹部の一人に任じられた。
 しかし彼女は元々陽性の性質であり陰気なテラーマクロとはそりが合わなかったのだろう。悪魔元帥がテラーマクロと衝突し喧嘩別れすると彼についた。そしてジンドグマ四幹部の死鳥となったのだ。スパイ時代とおなじく破壊工作や暗殺等を得意とするジンドグマきってのテロ活動の専門家である。
 「あえて騒ぎを起こしてライダーマンを誘い出すのよ。多分岩石男爵の方も動いているからその戦力と合わせてライダーマンを倒すの。どう、いい作戦でしょ」
 「うむ、奴が感づいているのを利用する。そして岩石男爵も知らず知らずのうちに利用する、か。面白そうだな」
 「そうでしょ。ならそれで決まりね」
 「うむ。ところで我等の本来の作戦はどうなっている?」
 「上手くいっているわ。イスラエルもパレスチナも互いを罵り合い報復に明け暮れているわ。裏で私達が焚きつけているとも知らないで」
 「そうか。それで良い」
 ヨロイ元帥はその話を聞き満足げな笑みを浮かべた。
 「双方が争うことにより戦火はさらに拡がる。そしてそれによる混乱が極みに達したその時こそ我等が動く時だ」
 両者は互いに笑い合う。不気味な笑いが地下に木霊した。

 ファイアーコングを倒した結城は大トルコ宮からイスラム地区である西ベイルートへ向かっていた。ベイルートはいスラム教徒とキリスト教徒がそれぞれの地区、東西に分かれて住んでいる。
 西地区のハムラシチーと呼ばれる一帯は大銀行が立ち並んでいる。この街は元々は商業都市としても有名であった。
 一見この一帯はアラブ有数の商業地域であるがその陰にはよからぬ者達も潜んでいる。テロリスト達が何時その隠し持っている牙を剥くかわからないのだ。 
 結城も密かに気を張っていた。まるで何かを探しているように。
 不意に爆発が起こった。ラスベイルートにほど近い場所だ。
 「もしかすると」
 爆発のした方へ向かう。炎と煙が巻き起こり人々の悲鳴が聞こえてくる。軍隊がその場へ急行する。
 結城は軍より早く現場へ到着した。正確に言うと結城丈二ではなかった。ライダーマンであった。
 銀行で爆破テロが行なわれたらしい。腕や脚を吹き飛ばされた遺体が散乱し瓦礫に埋もれた人々が助けを呼んでいる。ビルの下からその惨状を確認した彼は右腕にアタッチメントを装着し救助に向かおうとする。その時だった。
 ビルの破片らしきコンクリートが飛んで来た。ライダーマンはそれをかわした。
 破片の飛んで来たほうを見ると向かいのビルの上に妖しげな人影が立っていた。ネオショッカーの誇る野猿怪人マントコングだ。
 「フォフォフォ」
 まさしく野獣そのものの動きでライダーマンに襲い掛かる。渾身の一撃をなんとか受け止める。しかしその衝撃が容赦なく全身を打ちのめす。
 「グッ・・・・・・」
 怯んだところを息をつかせず連続して攻撃し続ける。それを遠くのビルの上から眺めほくそ笑む女がいた。
 「これでいいわ。もうすぐ岩石男爵の兵が来る。それでライダーマンは終わりよ」
 妖怪王女だった。マントコングは彼女の手兵だったのだ。守勢に立たされるライダーマン。しかし彼も今まで数え切れぬ程の死闘を潜り抜けてきたわけではない。一瞬の隙を見て右腕にパワーアームを装着する。これで状況が好転した。その技量もあり次第に盛り返してきた。
 「何じゃあ~~~~っ、貴様わしの獲物を横取りするつもりかやぁ~~~~っ!」 
 そこへ岩石男爵が来た。後ろには怪人が控えている。ゴッドの合成怪人キマイラである。
 「ンゲエーーーーーッ」
 犀のような角を振り回し吠えている。
 「ライダーマンじゃな」
 「貴様・・・・・・デルザーの岩石男爵か」
 ライダーマンはその異様な姿を認め眼の前の敵が何者であるか即座に解した。
 「ホォ、わしの名は知ってくれちょるようじゃのぉ。感心感心」
 ガンラガンラと笑う。
 「エジプトのスフィンクスの子孫にしてデルザー軍団でも屈指の怪力の持ち主、知らない筈がない」
 「そうかそうか、嬉しいのぉ。そこまでわしの名を知ってくれて有り難いがこれでお別れじゃあ。行けぇい、キマイラ!」
 キマイラが跳びかかって来る。その角をパワーアームの刃で受け止める。そこへマントコングの拳が襲い掛かる。
 「グワッ!」
 頭にその一撃wpまともに受けた。吹き飛ばされコンクリートに叩き付けられる。口から血が滲み出る。 
 「グファッ・・・・・・」
 だがそれでも立ち上がる。血がコンクリートに滴り落ちる。口に苦悶の色が浮かび上がる。
 「流石よのぉ、それでも立ち上がれるか。だがそれもここまでじゃあ、死にさらせ!」
 まだ体勢も整わないライダーマンへ二体の怪力怪人の一斉攻撃が迫る。絶体絶命の窮地だった。だがその前に一体の怪人が現われ彼等を制止した。その怪人はショッカーの耐熱怪人ゴースターであった。
 「ウウォーーーーッ!」
 高らかに叫んだ。
 「何じゃあっ!?」
 「何ッ!?」
 これには岩石男爵も妖怪王女も驚かされた。思いもよらぬ乱入者だった。
 「何じゃ貴様、何処から来おったぁ、わしの手柄を横取りするつもりかぁ!」
 岩の棍棒を振り回し突如として現われたゴースターに対して喚き散らす。だがゴースターはそれには一切耳を傾けずライダーマンに対して向き直った。
 「ウウォーーーーーッ!」
 叫びと共に口から炎を吹き出す。岩さえも飴の様に溶かしてしまう炎だ。だが既に体制を整えていたライダーはそれを跳躍
でかわし隣のビルへ移った。
 「おのれっ!」
 三体の怪人がそれを追う。だがライダーマンはその動きを冷静に見ていた。右腕に別のアームを装填した。
 「ネットアーーーームッ!」
 アタッチメントから網が射出された。その網は怪人達の上に覆い被さった。
 どうやら特殊な繊維で編まれたネットらしい。人のそれとは比較にならぬ程の怪力を誇る三体の怪人達が必死に引き裂こうとするが無駄だった。
 ライダーマンはその間に右腕に別のアームを装着した。すると腕がそれまでの射出器から銃へと変化した。
 「マシンガンアーーーーームッ!」
 左腕を右腕に添え安定させた。銃口が火を噴き薬莢が次々と飛び出す。
 「グオオッ!」
 弾丸が怪人達を撃った。それにより三体の怪人も爆死して果てた。
 「何だ、あれはっ!」
 「またテロかっ!?」
 その爆発は下で救出にあたっていたり騒ぎに寄せ付けられた人々にも認められた。ザワザワと再び人だかりが形成される。
 「こうなっては仕方無いわね。一先撤退して次案を練るわ」
 妖怪王女はそう言うと建物の陰に隠れてスッと姿を消した。
 「おのれ~~~~~っ、やってくれよるのぉ、しかし次はこうはいかんぞぉ~~~~~っ!」
 岩石男爵は棍棒を振り回しつつ騒いでいたが人が上へ昇ってくる気配を感じると姿を消した。
 ライダーマンは敵が去ったのを確かめ変身を解き結城丈二に戻った。
 爆発した跡を見る。怪人達は四散して一欠片も残っていない。
 薬莢を足でビルの下に蹴落とす。これで闘いの跡は残っていない。
 「これでよし。テロに遭った人達の救助に向かわなくてはな」
 結城も下へ降りていった。後には爆炎の残りと火薬の残り香が漂っていたがそれもすぐに消えてしまった。



 ビルの下での闘いの後岩石男爵は基地に帰還し自室にこもっていた。
 「くそぉ、後一歩っちゅうところじゃったのに忌々しいーーーーーっ!」
 椅子を蹴飛ばし棍棒を振り回し荒れ狂う。
 「折角二対一でライダーマンの奴を仕留められたのに何であんなのが出て来るんじゃあーーーーーっ、一体誰の差し金じゃあーーーーーっ!」
 テーブルを叩き壊しグラスを壁に向かって投げる。最早手のつけようがない。
 “そう怒るな。まだ打つ手は幾らでもあるぞ”
 不意に部屋の中に声が響いた。
 「ん?おんしか?」
 それは男の声だった。闇の中からスッと影が現われた。例の黒服の男だ。
 「どうやら邪魔が入ってライダーマンを排除しそこね頭にきているな」
 フフフフフ、といわくありげに笑いながら言う。
 「それがどうかしたのかや!?」
 不機嫌さをあからさまに出している。
 「まあ怒るな。今日は貴様に渡したいものがある」
 「渡したいもの!?」
 男は余裕をもって指を鳴らした。すると壁から一体の怪人が現われた。
 「こいつを貸してやる」
 「ほお。有り難いのう」
 「だがこれだけではない」
 また指を鳴らした。すると怪人は再び壁の中へ消えた。
 「ライダーマンは確かに切れ者だ。しかし力は全ライダーの中で最も弱い。怪人一体を相手にするのが限度だ。三体を相手には出来ん。それを衝けば容易に倒せる筈だ」
 「ぐう・・・・・・」
 男はあえて三体と言った。先程のビルの上での闘いの事が岩石男爵の脳裏をよぎる。それまでも頭に入れてあえて言ったのだ。 
 「だが今は三体も出せない。しかしこの怪人ならライダーマンの力をかなり消耗させる事が出来る。その後貴様が奴の相手をすればいい。そうすればライダーマンの首を挙げられる」
 「ほほぉ、良い案じゃのう」
 満足気に頷く。
 「後はライダーマンを誘き出す事が必要だがそれは俺に任せてくれ」
 「そうじゃのう。わしはそういった事がどうも苦手じゃからのう」
 苦手なのはそれだけではないだろう、と内心罵ったがあえて口には出さなかった。
 「場所は後で連絡する。それまで鋭気を養っていればいいだろう」
 「うむ、そうさせてもらうかや」
 そう言うと早速ソファーに寝転がった。そして高いびきをかき眠りはじめた。
 「・・・・・・全く救い難い単細胞だな。奴やオオカミ長官の言う通りだ」
 侮蔑の眼差しで岩石男爵を見下ろしながら言った。
 「だがこれはこれで使い道がある。精々駒として動いてもらうか」
 そう言うと闇の中へ消えていった。
 建物の外へ出た。ビルの周りは度重なるテロの結果であろう瓦礫の山だった。
 「・・・・・・・・・」
 男はおもむろに首のマフラーを外した。そして右の方へ向けてそれを投げた。
 マフラーは火球となった。そして轟音と共にそのまま飛翔した。
 火球が空中で弾け飛んだ。何かしら鞭のようなもので叩き落とされたような感じであった。
 「隠れているのは判っている。さっさと姿を現わせ」
 「イーーッヒッヒッヒッヒ、流石は地底王国の主。お見通しかい」
 ヌウッと不気味な影が姿を現わしてきた。全身を鱗で覆われ頭からは禍々しく曲がった二本の角が生えている。唇は無く毒々しくヌラヌラと光る牙が上下から生えておりその両眼は赤く血の色をしている。その大きい胸はこの怪人が女であることを現わしている。赤いマントを羽織り右手の鞭は生きた蛇である。左腕は巨大な蛇そのものでありシュウシュウと黒い息を吹き出している。この女怪の名をヘビ女という。デルザー軍団ではある男の片腕として辣腕を振るった恐怖の改造魔人である。
 インドでは古くよりナーガという半神が崇拝されていた。上半身は人、下半身は蛇という姿であり水を司る言うならば水の精であった。このナーガ達は不死性と毒を持つとされその性質はおおむね善良えあった。仏教の竜王のルーツであるとされその信仰は根強いものであった。
 多くのナーガ信者達は正しく信仰していたのだが中にはその心を邪なものに転じてしまった者達もいた。
 彼等はナーガの持つ不死性と毒に憧れその力をもって世を支配せんと企てた。遂には呪術でヘビの力を得たのである。残念ながら不死の力は得られなかったが毒、そして蛇に変化する術を身に着けるに至った。
 彼等はこの力によって暗躍した。時の王朝の重臣達が次々と暗殺され王も幾度となく命を狙われた。やがて寵妃の一人の行動がおかしい事に気付いた王は彼女に対し密かに見張りを付けた。やがて妃が夜毎宮廷を何時の間にか出ている事がわかった。だがどうやって姿を消し何処へ行っているのかまではわからなかった。そこで王は一計を案じ兵達を宮中に潜ませたうえで妃と寝床を共にした。あえて死地に入ってみせたのである。
 王が寝入ったとみると妃は起き上がった。そしてやにわに巨大な蛇へと変化し王に襲い掛かった。
 だがそれは王の計算のうちだった。サッと目を覚ますと隠し持っていた短剣を蛇の喉に突き刺した。
 蛇は獣の如き絶叫を上げ床の上でのたうち回った。そして次第に人の姿に戻るとそのまま息絶えた。
 蛇の断末魔を聞き宮中へ蛇達が一斉に攻め寄せて来た。計画が漏れていた事を知り実力行使に出たのだ。
 しかしそれも王の思惑通りだった。武装し、待ち構えていた兵士達にことごとく討ち倒されてしまった。こうして邪な蛇の邪教徒達は費え去ったのである。
 しかし僅かながら逃げ延びた者達もいた。彼等は地下深くに潜伏し復活の時を待った。その子孫こそがこのヘビ女なのである。人の血と死を好む残虐にして奸智に長けた改造魔人である。
 「貴様だと思っていたわ。ゴースターを送ったのもそうだろう」
 「さあて何の事やら」
 ヘビ女は男の質問に対しあえてはぐらかしてみせた。
 「あいつの指示か?」
 「それは言えないねえ。イーーッヒッヒ」
 答えない。だがそれだけで充分であった。
 「フン、相変わらず喰えない女だ。だが一つ忠告しておく。邪魔をしたらただでは済まぬぞ」
 ジロリ、と睨みをきかす。その様子が単なる恫喝ではない事をはっきりと表わしていた。
 「おやおや物騒さねえ。けどライダーマンの相手をあんた達だけがしていいなんて誰が決めたんだい?」
 「何ィ!?」
 明らかな挑発だった。男も右足を半歩前へ出した。
 「ヒッヒッヒ、いいのかい?どっちかが死ぬ事になるよ」
 「クッ・・・・・・」
 懐から何かを出そうとした男の腕が止まった。ヘビ女の言う通りだったからだ。生き残った方もただでは済まない。どちらにしても結果は明白だった。
 「フン」
 懐から手を離した。そして止む無く足を元に戻した。
 「やっぱり切れるねえ。じゃああたしの言いたい事も判るねえ?」 
 「チッ、まあいいだろう。ライダーマンの首は早い者勝ちだ」
 「そういう事。じゃあ失敬させてもらうよ。これからの準備があるからねぇ」
 そう言うと目から光を発し蛇に変化した。そして瓦礫の中へ隠れていくようにその姿を消した。
 「糞っ、蛇風情が。調子に乗るなよ」
 ポケットから葉巻を取り出した。忌々しげに咥え火を着けた。そして不機嫌な足取りでその場を後にした。

 テロの被害に遭った場所での救助を終えたライダーマンこと結城丈二はアメリカ大学の近くにあるカフェレストランにおいて一息ついていた。
 表向きは酒を飲まないという事にしている人が一般的なイスラム教徒はコーヒーを嗜む。異教徒が飲むのも大歓迎である。本質的には現実主義をヒジュラの頃より積極的に取り入れているのがイスラム教である。商人の宗教である彼等は異教徒達に対し口喧しく言う事は無い。イスラムの戒律に従い対応するのみである。従って今ここでコーヒーを飲んでいる結城はいいお客さんなのである。むしろ気前がいいので店の人から喜ばれている程である。
 コーヒーを飲み終え英字新聞に目を通しつつ結城はある事に考えを巡らせていた。終わる事を知らぬイスラエルとパレスチナの抗争に奇妙な法則があるのだ。
 双方共戦乱には飽いている。双方の強硬派も発言力を持っているがその彼等でさえ何時終わるとも知れぬ争いに辟易しているのだ。
 これまでの争いで双方共甚大な被害を出している。人も、その心も大きな痛手を受けた。どの大国も匙を投げようとしている。経済的な負担は最早無視出来ない。和平に至るしか道は無い。しかしそのテーブルに着くや否やテロが起こるのだ。そして抗争がまた続く。それの繰り返しである。何時終わるともしれない。
 この抗争を終わらせる為国連は結城丈二に一連の抗争の裏の調査を依頼したのだ。同時に災いの元があったならばその排除をも。これは極秘任務であり彼がここにいる事は国連のごく一部の者しか知らない筈である。そう、知らない筈だ。しかし彼はベイルートに降り立って以来二度も襲撃を受けている。これは国連内に情報をリークしている者がいるか余程の情報網を持っている組織があるか。結城は後者だと確信していた。前者である可能性も無きに非ず。しかし彼を襲ったのは全て改造人間であった。彼の異形の者達を造り出し得る者、その存在を結城は一瞬たりとも忘れた事は無かった。
 (もしやまた新たな組織が)
 かって彼はデストロンという世界征服を企む悪の組織に所属していた。ヨロイ元帥に陥れられ無実の罪により殺されかけたが部下達に救出され以後ライダーマンとしてヨロイ元帥、そしてデストロンと戦った。その時の記憶は今でも残っている。デストロンにいた時はデストロンこそが絶対の正義と信じ首領と組織に忠誠を誓っていた。しかしデストロンを出その実態を目の当たりにし彼は真実の正義に目覚めたのだ。だが過去にデストロンでその野望の為に働いていた事は消えない。それは彼が永劫に背負っていかねばならない十字架なのだ。償い、正義、真実。彼の心を司る神は厳格な神である。だからこそ彼は悪と戦うのだ。
 彼の身体は他のライダーと比べて脆い。戦闘能力も高くない。それでも彼は己が命を賭して悪と戦い続けるのだ。
 (だとしたら察しがつく。この紛争を陰で煽っている者達の正体が)
 新聞を畳んだ。コーヒーを飲み干すとチップとコーヒー代を払い店を出た。
 (両者の構想は共に疲弊を招く。そうすればそこに付け込む隙が出る。そうでなくとも戦乱こそ奴等の最も好むところだしな)
 アメリカ大学の裏手にある公園へ向かう。緑の生い茂る美しい公園である。
 森林の中へ入っていく。誰からも見られない程深い場所へ行くと足を止めた。
 「出て来い、さっきから俺をつけている事は判っている」
 木の陰から二人の男が現われた。
 「インターポールの滝和也、そして日本の警察庁から出向して来ている役清明警部補だな」
 「へえ、やっぱり凄いね。もう俺達の事を調べていたのか」
 滝は人懐っこい笑みを浮かべながら言った。
 「貴方達の事は風見から聞いています。俺と接触する為にこのベイルートへ向かっていると」
 「流石ですね。かってその将来を渇望されただけの事はある」
 役の言葉に結城は眉をピクリ、と微かに動かした。しかしその言葉尻には嫌味や悪意は感じられなかった。何か別の意志が感じられたのを彼は内心妙に思った。
 「二人共ここへ来た目的は判っています。この街を根城にイスラエルとパレスチナの紛争を陰で煽動する何者かを倒す為に来ている俺に協力を申し出る事」
 「その通りです。黒の森、ベナレス、そしてシンガポールでの事はご存知ですね」
 「ええ。特にシンガポールの事は。ドクトル=ゲーが指揮を執っていたとか」
 「はい。ならばこの街にデルザーの岩石男爵が潜んでいるのも」
 「さっき遭いましたよ。妙な奴でした」
 「そうですか。では話が早い。今より我々は貴方と行動を共にさせて頂きます」
 「有り難い。是非ともお願いします」
 「はい」
 「おお」
 二人が握手をする為に結城へ歩み寄る。しかし彼は全く歩み寄ろうとしない。
 「すいません。握手をする暇はないようです」
 「?」
 滝が不思議に思ったその時だった。木の上から何かが一斉に降り注いできた。
 「これは・・・・・・」
 それは蛇の群れだった。地に着くと白い煙と共に人の型へと変身した。
 「ヒューーーヒューーー」
 それは戦闘員達だった。右手を蛇の鎌首の様にもたげて奇声を発しつつ近寄って来る。
 「くっ、つけられたか」
 滝が口惜しげに漏らした。
 「どうやらこちらの動きも読まれているみたいですね」
 役が襲い来る戦闘員の一人を鉄拳で倒しつつ言った。
 「しかしこの連中は岩石男爵の部下ではない。他の幹部、いや改造魔人の手の者達ですね」
 「だとしたら誰だ?」
 結城と滝は戦闘員達を倒しつつ話を続ける。
 「この独特の動きと雰囲気、おそらく・・・・・・」
 推理を続ける結城。だがその前に何かが襲い掛かる。
 「キィーーーーーッ」
 それは回転鋸だった。何者かが鋸を振るっているのだ。その鋸は腕だった。デストロンの女性怪人ノコギリトカゲの腕だった。
 「結城!?」
 「結城さん!?」
 滝と役が思わず声をあげる。しかしそこに結城はいなかった。
 「キィッ!?」
 怪人も戦闘員達も辺りを見回す。木々に紛れ込んだのか、それとも後ろか。焦りを覚えたその時だった。
 「ギッ!?」
 何かがノコギリトカゲの首に巻きついた。そして上へと思いきり引っ張っていく。
 「ギィーーーーーッ」
 それはロープだった。木の枝から吊り上げられもがき苦しむノコギリトカゲの下にはライダーマンがいた。
 「ノコギリトカゲ、貴様を設計し改造したのはこの俺だ。貴様の事は俺が一番よく知っている」
 ライダーマンはそこに片膝を着き座して言った。
 「ギギ、ギーーーーーッ」
 「貴様の弱点は首、首を攻められればすぐに倒れる」
 そう言うと右手を下へ引いた。
 「貴様を生み出した俺の手で・・・・・・滅びろ」
 ガクン、と首を垂れた。ビクッ、ビクッと硬直化し遂には動かなくなってしまった。
 ロープを収める。ノコギロトカゲはドサリ、と大きな音と共に地に落ちた。
 「俺の過ちは俺の手で償う。・・・・・・・・・それが俺のやらねばならない事だ」
 「ライダーマン・・・・・・」
 滝はここにも哀しい心を持つ男を見た。彼もまた悲哀と孤独を心に秘め戦い続けるライダーなのだと悟った。
 既に戦闘員達は全員倒していた。ライダーマンが変身を解こうとした時不意に不気味な声が響いてきた。
 「イーーーーッヒッヒッヒッ、やっぱりライダーの一人、見事な戦い方だねえ」
 地から這い出てくる影があった。ヘビ女である。
 「デルザーの改造魔人・・・・・・。ヘビ女か」
 変身を解くのを止め滝、役と共に取り囲んだ。
 「安心おし。今はあんた達と戦うつもりは無いよ」
 「何!?」
 驚くライダーマン達。
 「いい事を教えてあげに来たんだよ」
 ヘビ女は笑いながら言った。
 「・・・・・・情報か。また内部で権力争いでもしているのか」
 「ヒヒヒ、さてね」
 ライダーマンの言葉にとぼけてみせた。
 「まあ話を続けるよ。港へ行ってみな。そこであんた達が捜している事がやっているからさ」
 「・・・・・・武器の受け渡しか?イスラエルかパレスチナの過激派達に対する」
 「それは行ってみたのからのお楽しみだね。自分の目で確かめな」
 「・・・・・・ううむ」
 「待てライダーマン、罠かもしれないぞ」
 滝が口を挟んだ。
 「そうですね、デルザーでゼネラルシャドウの懐刀として暗躍した女、油断は出来ませんよ」
 役もそれに同調した。
 「フン、あたしを見くびらないで欲しいもんだね」
 「何!?」
 「あたしはインドで怖れられたナーガの血を引く者、あんた達を倒そうと思えば何時でも出来るんだよ」
 ヘビ女の目が赤く光った。
 「ムッ・・・・・・」
 「そのナーガの血があたしの誇り。その誇りにかけて情報を伝えてやってるんだよ」
 気が全身に纏われた。それはいつものドス黒い纏わりつくものではなく青い炎の様な気であった。
 「・・・・・・解った、信じよう」
 ライダーマンは変身を解いて言った。
 「よく情報をリークしてくれた。礼を言おう」
 「感謝する必要は無いよ。いずれあんた達は我々の軍門に降る事になるんだからねえ」
 耳まで裂けた口で笑いながら言った。
 「今はあんた達の武運を祈ってやるよ。けど覚えておくんだね。今度こそ我々悪の力が世界を支配するってことを」
 ヘビ女は不気味な笑い声を残しながら消えていった。後に残されたライダーマン達は森を後にし港へ向かった。



 「何ッ、どういう事だ。それでは俺の策が全く意味をなさぬではないか」
 廃墟の中にそびえ立つビルの地下で例の黒服の男が岩石男爵に詰め寄っていた。
 「仕方無いじゃろう。港にライダーマン達が向かっているという報告が入ったんじゃから」
 岩石男爵は何が悪いのか、とでも言いたげな顔で言った。
 「そもそもライダーマンは怪人一体を相手にするのが精々だと言ったのはおんしじゃろうが。何をそんなに怒鳴る必要があるんじゃ」
 「それは二体同時に攻撃をかけた場合だ、今向かわせても奴に各個撃破されるのがおちだというのが解からんか!」
 「じゃあ何であいつをわしに送り届けたのじゃ?それでは意味が無いではないか」
 「奴の体力を削ぐ為だ、その直後に貴様が行く為の捨て駒だと言った筈だ!」
 「その捨て駒じゃ」
 岩石男爵は反論した。
 「わしは捨て駒という発想が納得できんのじゃあ。科学班やら後方担当やらが必死こいて集めて作った改造人間を何でそうも簡単に捨て駒に出来るんじゃ」
 「それが戦争というものだ、損害や犠牲を恐れて戦争が出来るか!」
 男は思わず激昂して言った。
 「犠牲なんて必要無いじゃろがあ。結局わしがこの力でライダーマンをぶっ潰しゃあそれでいいんじゃろがあ」
 「なっ・・・・・・」
 男は絶句した。それは一見正論であった。しかしそれが出来ないからこそ今まで敗れ続けてきたのだ。それを言おうとしたが止めた。もう何を言っても無駄だと思った。急に脱力感が彼を支配した。
 「解かった、貴様に任せよう。ライダーマンの首を挙げるのを楽しみにしている」
 「おう、待っちょるがいい」
 能天気に答えた。最早その言葉は男の耳には入らなかった。肩を落とし部屋から消え去った。
 「まさかこれ程まで愚かとはな。使い道も全く無いわ」
 地に何かを投げ付け煙を発した。そしてその中に入ると煙と共に消え失せてしまった。

 妖怪王女はルート港の端にある寂れた、しかし大きな倉庫に向かっていた。
 「さて、今日も楽しい死の取り引きといくわよ」
 いささか上機嫌である。彼女達の主な仕事はやはりイスラエルとパレスチナの抗争を悪化させる事、その為に過激派へ武器や資金を供給する事は最も的確かつ即効的に効果が見られる活動だったのだ。
 「今日はハマスの中でもとりわけ過激な一派だったわね。昨日は日本赤軍の残党、その前はイスラエル軍のタカ派、どれも愚かな連中だこと。我々に煽られているとも知らずに」
 楽しそうに言う。
 「それも今日までだな」
 ふと声がした。辺りを見回す。すると倉庫の上に声の主がいた。
 「仮面ライダー四号、ライダーマン。貴様等の邪な野望を打ち砕く為ここへ来た」
 「おのれ、どうしてここが・・・・・・」
 「答える必要は無い。行くぞ!」
 そう言い放つと倉庫の上から飛び降りてきた。
 「くっ、こうなれば・・・・・・」
 妖怪王女はサッと右腕を上げた。
 「出でよ!」
 王女の掛け声と共に戦闘員達が影から身を現わした。怪人もいた。ブラックサタンの特攻怪人奇械人アルマジロンである。
 「ブルルルルルーーーーーッ」
 アルマジロンが奇声を発しライダーマンに迫る。戦闘員達もそれに続こうとする。その時だった。
 倉庫の上から何やら新しい影が舞い降りて来た。そして戦闘員達を次々に倒していく。
 「予想通りだな。雑魚は俺達に任せといてくれ」
 滝である。
 「貴方は怪人の方に専念して下さい」
 役もいる。
 「よし、頼むぞ」
 ライダーマンは構えを取り奇械人と対峙する。アルマジロンは左腕の鎌を縦横に振るうが全てライダーマンのパワーアームにより防がれる。
 「ブルルルルルーーーーー」
 埒が明かないと見て身体をボール状に丸め体当たりを敢行する。だがそれも何無くかわされてしまった。 
 「その様な攻撃、このライダーマンには通用しない!」
 「ググゥ・・・・・・」
 その言葉を受け元の身体に戻り右腕の鞭をも駆使して攻撃する。両手を使い攻撃する事により防御に隙が生じた。それげ狙いだった。
 「トォッ!」
 堅い外皮に覆われていない柔らかなその腹へ蹴りを入れる。怯んだところへパワーアームを一閃させた。
 「グォォォォォッ!」
 腹部から鮮血をほとぼしらせ後ろへよろめき倒れた。そして爆死して果てた。
 「おのれっ、よくも」
 妖怪王女は手駒を失い呪詛の言葉を漏らした。
 「ジンドグマの妖怪王女、後は貴様ただ一人だ!」
 爆煙を背に言った。
 「部下達の仇、こうなったらあたしの手で」
 仮面に手をかける。人ではない別の何かに変化しようとする。その時だった。
 「シャアアアアアアアアア」
 何者かがフックの様なものを振り回しライダーマンに襲い掛かった。緑色の身体を持つ怪人、ジンドグマのツリボットである。
 「えっ、この怪人はここにはいない筈じゃ・・・!?」
 妖怪王女は驚きの色を隠せない。
 「岩石男爵の指示でこちらに来ました。妖怪王女に協力してライダーマンを討つようにと」
 ツリボットに同行している戦闘員が言った。
 「岩石男爵から!?男爵には私達がここにいる事は・・・・・・」
 王女は言葉の途中で岩石男爵の身辺に気が付いた。
 (成程、そういう事ね)
 やや上へ向けて視線をツリボットに戻した。
 「判ったわ。協力、感謝するわ」
 「有り難き御言葉」
 「ここは任せるわ。すぐに援軍を率いてこの場に戻るからそれまで持ち堪えるように」
 「ハッ!」
 妖怪王女は戦闘員の言葉を受けると右手の平を顔の前にかざした。そしてそれを合図に姿を消した。
 「フン、妖怪王女も俺やあの女の動きに気付いたか。まあ当然だな」
 その状況を遠く離れた船の上からあの黒服の男が見ていた。
 「気付かぬのはあの愚か者だけだ。戦力を集中させ敵を知る事こそ戦いだと知らぬ馬鹿が」
 忌々しげに吐き捨てると懐から葉巻を取り出した。目の前ではライダーマンと怪人の闘いが幕を開けた。
 「キィーーーキッキッキッ」
 ツリボットが奇声を発し迫る。右腕のフックが妖しげな光を放つ。
 ライダーマンはそのフックをパワーアームで受け止めた。銀の火花と鈍い金属音が響き渡る。
 怪人の回し蹴りがくる。ライダーマンはそれを右脇に掴むと右から左へ身体を捻り投げ飛ばした。
 「鉤爪アーム!」
 アタッチメントを取り替えた。鉤爪アームである。
 「おのれっ!」
 怪人のフックが振り下ろされる。それをアタッチメントで絡め取った。そして前から後ろへ捻り破壊してしまった。
 「まだだっ!」
 返す刀で切り裂いた。断末魔の叫びをあげツリボットは爆死して果てた。
 「やはりな。いくら他のライダー達に体力的に劣るとはいえライダーはライダーだ。それに知力ではライダー随一とも言われている。一対一で怪人がそうそう容易に勝てる相手ではない」
 男は怪人の爆死を見届けつつ落ち着いた声で言った。
 「奴の居場所もすぐに判るだろう。どの道ベイルートでの我々の作戦は水の泡だ。これ以上の戦いは無意味だ。だが・・・」
 男の眼がギラリ、と光った。
 「今はどの様なものであれ手駒は一つも失うわけにはいかぬな」
 葉巻を海に投げ捨てるとスゥッと姿を消した。

 

 その頃岩石男爵は自らの基地にて悠然と昼食に興じていた。その食材は人のそれとは全く異なり岩や砂からなっている。
 「フフフフフ、ツリボットの奴今頃は上手くやっておるじゃろに」
 岩を手掴みで口に運び込むとバリバリと音を立てて噛み砕いた。
 「まあ今は奴からの報告を楽しみにしちょこう。もうすぐライダーマンの首が見られるきにのう」
 その時伝令の戦闘員が部屋に入って来た。何事かあったのだろうか。ひどく慌てており息を切らしている。
 「なんじゃあ、無粋な奴じゃ。わしは今食事中じゃぞ」
 「報告します、ベイルート港での戦いにおいて我々の戦力は壊滅、ツリボットは撃破されました!」
 「何っ!」
 「さらに捕らえられた戦闘員の一人からわれわれの基地の所在を聞きだしたようです。こちらに急行しております!」
 「な・・・・・・!」
 岩石男爵はその報告に唖然とした。咄嗟に席を立ってしまった為テーブルをひっくり返してしまった。岩や砂が床に散らばる。
 「結城丈二の他にインターポールの者達もこちらに向かっています。岩石男爵、如何致しましょう!」
 「ぬうう、決まっちょるじゃろうがあ!」
 声を荒わげた。
 「全力で叩き潰すんじゃあ、一人残らず表へ出るんじゃあ!」
 「ハッ!」
 伝令の敬礼を受け荒々しい足取りで外へ出る。戦闘員達がそれに続く。

 ビルの外へ出る。そこは廃墟だ。左右に屈強な男達が並んでいる。
 「岩石男爵、ここは既にインターポールが包囲した。最早逃げられんぞ!」
 滝が岩石男爵を指差して言った。
 「言うのう、インターポールの雑魚共が。返り討ちにしてくれるわい。やっちゃれえいっ!」
 「イワ~~~~~ッ!」
 戦闘員達の叫び声が開戦の合図となった。インターポールと岩石男爵達との死闘が始まった。
 インターポール側は桁外れの戦闘力を誇る岩石男爵は相手にせず戦闘員達に向かった。戦闘員達が岩に変化して突攻してくるとそれをさけ元に戻ったところに攻撃を仕掛ける。滝と焼くの的確な作戦指揮の下一人一人確実に倒していき隙は見せない。対する岩石男爵側は指揮官である岩石男爵のお粗末な戦術指揮もあり序々に戦力を消耗していった。
 「うおのれえ~~~~っ、わしに向かって来んとは軟弱な奴等じゃ。そんなにわしが怖いのか~~~~っ!」
 戦場で孤立した状況になり叫ぶ岩石男爵。その前に一人のスーツの男が姿を現わした。
 「貴様の相手は俺がしよう」
 「おんしは!?」
 「結城丈二・・・・・・ライダーマン」
 岩石男爵の問いかけにその男、結城丈二はあえてゆっくりと答えた。
 「ライダーマン・・・・・・。おんしがか。なら相手にとって不足はないがや。かかって来んか!」
 「望むところ・・・・・・行くぞ!」
 そう言うと両手を大きく天へと掲げた。

 トォーーーーーッ
 叫び声と共に掲げられた両手にマスクが浮かび上がる。それと共に両手が銀色の手袋とブーツに包まれる。
 ライダーマンッ
 掛け声と共にマスクを被る。胸が赤く、腹が赤と白、そして緑の三角のカットとなり他の部分も黒いバトルボディに覆われていく。ベルトもそれと共に四つの小さな風車がバックルに配されたものへと変わっていく。
 マスクを完全に被り終えると四つの風車が一斉に回りはじめる。風車が光を発すると両手首を合わせた状態でクロスさせ最後に胸の位置で拳を突き合わせる。それと共に凄まじい力が全身を駆け巡る。
 
 「行くぞっ、岩石男爵!」
 右腕のアタッチメントにパワーアームを装着させると立ち向かった。対する岩石男爵も岩の棍棒を振るって突進する。
 重い棍棒を縦横無尽に振り回す。その重苦しい巨体からは信じられない程俊敏でライダーマンも攻撃をかわすだけで必死である。
 「どうしたどうした、それでもライダーの一員かや!」
 攻撃を受けてはひとたまりもない。例え戦略戦術は劣っていてもやはりかって人々を震え上がらせた魔物の血を引くデルザー改造魔人の一人である。その力は絶大なものであった。
 「わしの力、まだまだこんなものではぬわいぞお!」
 間合いを離すとジャンプした。そして空中で身体を丸め巨大な岩石に変身した。
 「秘技、岩石落としっ!」
 激しくバウンドし地響きを立てつつライダーマンに襲い掛かる。
 「くぅっ!」
 かろうじてそれをかわした。だがビルを壊しつつ跳ね返ると今度は一直線にライダーマンへ向かってきた。
 「岩石弾っ!」
 速い。よけられるものではなかった。鈍い何かがひしゃげ潰れる音がした。
 「ぐぶうぅっ・・・・・・!」
 胸に直撃を受けたライダーマンが口からドク黒く濁った血を吐きつつ苦痛の表情を浮かべる。岩はなおも回転し肋骨の折れる嫌な音が聞こえてくる。
 岩が弾きかえる。ライダーマンは後ろにとばされ激しく地面に叩き付けられる。
 「がはああぁぁっ・・・・・・!」
 鮮血を噴き出した。マスクから露出した顔の部分だけでなく壊れたコンクリートや煉瓦で埋められた地面まで赤く染め上げた。
 「どうじゃあ、岩の味は。こたえられんじゃろがあ」
 まだ口から鮮血を滴らせながらも立ち上がってきたライダーマンに対し高笑いしつつ言った。
 「まぁだ立ち上がってくるとは感心な奴じゃ。しかしそれも終いじゃ。せめて苦しまんようにしてやっから安心しい」
 そう言うと再びジャンプし岩へと変身した。
 「止めじゃあ!」
 再び地を鳴らしバウンドしてくる。
 ライダーマンはバウンドしつつ迫るその巨大な岩石を直視していた。足がよろめく。身体中に鈍い激痛が走る。立っている事さえつらい。口の中は鉄の様な錆臭い味で満ちている。避ける体力は残っていない。一撃を受ければ命は無い。そういった状況だった。
 「だが負けるわけにはいかない・・・・・・!」
 岩が来る。ライダーマンはその岩を見ていた。
 「岩・・・・・・・・・そうだ!」
 ライダーマンの脳裏に閃きが生じた。
 「アタッチメントチェンジ!」
 パワーアームのセットを指から取り外した。そして別のセットを入れた。
 「ドリルアーム!」
 鋭い金属音を立てドリルが回転する。そのドリルを回転させたままライダーマンは迫り来る岩石男爵を直視していた。
 「・・・・・・・・・」
 「何をやろうとしちょるか知らんが無駄な事じゃああ!」
 岩石男爵が余裕に満ちた声で言った。
 「もう逃げられん、成仏しりゃあせ!」
 「・・・・・・そこだ!」
 頭上から急降下してくる岩に対してアームを構えた。そして力を溜め跳び上がった。
 「止めようとしても意味無いわぁ!」
 勝ち誇る。だから気が付かなかった。ライダーマンが必勝の笑みを浮かべていることに。
 硬い物がぶつかり合う音がした。空中で両者は時が止まったかのように静止していた。
 「あ、が、ガアアアアア・・・・・・」
 岩が次第に岩石男爵の姿へと戻っていく。その腹をライダーマンのドリルアームが貫いていた。
 「やはりな、急所はそこだったか」
 ドリルを岩石男爵の背から引き抜いた。着地したそのすぐ後ろに岩石男爵の巨体が地響きを立てて落下した。
 「ど、どういう事じゃあ、わしの岩石落としが破られるとは・・・・・・」
 「岩の結点を衝いたのだ」
 ライダーマンは言った。
 「結点!?」
 「そうだ。どんなに硬い物でも分子、原子を結合させている点がある。それが結点だ。そこを衝けば例えダイヤの様に強固なものでもたちどころに壊れてしまう」
 「ではおんしはわしの・・・・・・」
 「そうだ。あと0コンマ一秒でも見極めが遅れていたら俺が押し潰されていた」
 「フフフ、見事じゃ。わしの完敗っちゅうことじゃな」
 「そうだ。悪いが止めを刺させてもらおうか」
 マシンガンアームを装填したその時だった。新手の戦闘員達がライダーマンの前に立ちはだかってきた。
 「ムゥッ!?」
 射撃を開始しようとしたところで手を止めた。見れば滝達インターポールの捜査官も取り囲まれていた。
 「クッ、まだこれだけの戦闘員がいやがったのか」
 滝が口惜しげに言うとそれを待っていたかのように一人の男が現われた。
 「このベイルートに配した全ての改造人間と我等の作戦は全て水泡に帰してしまったがな。貴様等のおかげで」
 「その声は・・・・・・・・・」
 ライダーマンはその声を忘れたことがなかった。自らに無実の罪を着せ陥れた男。命を賭して救い出してくれた部下達を殺戮した男。ライダーマン、いや結城丈二にとって忘れ得ぬ憎んでも有り余る男だ。
 「久し振りだな、ライダーマン」
 目の前に現われたその姿を認めライダーマンの眼に怒りの炎がともった。
 「貴様が・・・・・・。やはり生きていたのか・・・・・・・・・」
 「我等が偉大なる神の御力により甦った。今一度悪をこの世に栄えさせん為にな」
 「言うな、今ここで貴様を再び地獄へ送り込んでやる」
 「ほお、死に損ないのその身体でか」
 ヨロイ元帥はマシンガンアームを構えるライダーマンを口の両端を三日月の様に歪めてせせら笑った。
 「心配するな、貴様なぞ何時でも始末出来る。だが今はベイルートから撤退せねばいかん。そこにいる岩石男爵と共にな」
 横目でチラリ、と岩石男爵のほうを見た。
 「このような男でも貴重な戦力でな。ある男に頼まれわざわざここまで出向いてきたのだ」
 「す、済まぬ・・・・・・」
 岩石男爵は戦闘員二人に両脇を担がれ戦場を離脱していった。
 「グッ・・・・・・」
 それを見てライダーマンも滝達も歯噛みするだけだった。
 「デーストロンの時の借りもある。ライダーマン、いや結城丈二よ。貴様はカァーーメンライダーⅤ3共々この俺の手で時間をかけてゆっくりと殺してやる。その時を楽しみに待っているがいい」
 そう言うと高笑いと共に姿を消した。後にはライダーマンとインターポールの者達だけが残された。
 「ライダーマン・・・・・・」
 役が声を掛けようとする。だが滝がそれを役の左肩に右手を置き頭を振って制止した。
 「ヨロイ元帥・・・・・・。俺は負けん」
 ライダーマンは呟いた。静かで落ち着いた声であったが暗く、それでいて熱く激しく燃え盛る炎を宿した声だった。
 「必ず、必ず貴様を倒しこの右腕、片桐達の仇、そして人々の笑顔を取り戻してやる!」
 結城は叫んだ。砂埃が辺りに舞った。


 廃墟の巨人  完


                             2003・12・18
 
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