馬乳酒
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第一章
馬乳酒
モンゴル人達は馬乳酒をよく飲む、特それこそ老若男女誰でもだ。
毎日相当な量を飲んでそれを食事代わりにする者すらいる、他国から来た使者はその様子を見て驚いた。
「何と、酒を飲むだけでなのですか」
「おかしいか」
モンゴル帝国のハーンであるチンギス=ハーン丸い顔と日に焼けた顔と薄い髭を持つ彼はその使者に尋ねた。
「何か」
「我が国にも他の国にもありません」
使者は驚いた顔のまま答えた。
「全く」
「酒を食う代わりに飲んでか」
「過ごすということは」
「馬乳酒は身体にいいのだ」
ハーンは使者に笑って話した。
「だからだ」
「誰もが飲んで、ですか」
「中には肉等を食わずにな」
そうしてというのだ。
「酒だけでだ」
「動く者もいますか」
「モンゴルではな」
「そうなのですか。しかも」
使者はハーンにさらに言った。
「馬に乗ったままです」
「飲んでか」
「そして動いていますが」
「モンゴルでは普通だ」
ハーンは自身の巨大なゲルの中で使者に話した。
「そうしたこともな」
「馬に乗ったまま飲むことも」
「食うことも寝ることもな」
そうしたこともというのだ。
「モンゴルでは普通だ」
「モンゴル人の足は四本といいますが」
「誰もが馬に乗ってな」
そうしてというのだ。
「何でもだ」
「為されますか」
「そうだ、何が言いたいかわかるな」
「はい」
覇者の笑みを見せてきたハーンにだ、使者は畏まって応えた。
「降ればよし、ですね」
「戦えばな」
「王にお伝えします」
「吉報を待っている、我等は馬に乗ったままでだ」
そのうえでというのだ。
「あらゆることが出来る」
「左様ですね」
「そしてだ」
「お強い」
「その強さを敵として見たいなら見せてやり」
そしてとだ、ハーンは覇者の笑みをそのままにさらに言った。
「滅ぼすまで、よいな」
「承知しました」
使者は畏まって応えた、そしてだった。
国に戻り王にそのことを話すと王は戦っても無駄だと悟りモンゴルへの恭順を申し出た。するとだった。
モンゴルは王も使者も君全体も寛容に扱った、その寛容さは彼等にとっては驚くまでであった。それでだ。
使者はまたハーンのところに赴いた時に言った。
「まさかここまで寛大に扱って頂けるとは」
「モンゴルに降ればか」
「はい、信仰も商いもしていいとは」
「従えばよい」
ハーンはここでは明るく笑って答えた。
「それでな」
「そうなのですか」
「我等は何もせぬ」
「そうなのですね」
「左様、確かにモンゴルの者達を送り」
そうしてというのだ、実際にそうしてきている。
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