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高いものはそうは売れない

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第一章

                高いものはそうは売れない
 八条家電京都店で働いてだ、石田吉継細面できりっとした顔立ちで黒髪を短くしている長身痩躯の彼は毎日頑張っていた、だが。
 とある高級クーラーを見てだ、難しい顔で言った。
「これ売れないな」
「そうですね」
 後輩の大谷幹代が応えた、長い黒髪を後ろで束ね切れ長の目と小さな唇に大きな耳を持っている。背は一六四位で胸が大きく全体的にすらりとしている。
「どうも」
「いい商品だってね」
「ネットでも評判なんですが」
「どうもね」
「他のクーラーに比べてですね」
 そのクーラーを見つつ話す、その他にもだ。
 高価な、十万以上するものは売れ行きが悪い。石田はこのことが気になっていた。
 それで何とか売ろうとしていたがやはり高価なものはそうは売れない、入社二年目の彼はそのことで悩んでいたが。
 店長の星谷良成痩せて飄々とした感じの赤がかった髪の毛の中背の彼がだ、そんな彼に笑って言ったのだった。
「当たり前だろ」
「高いものが売れないのは、ですか」
「ああ、お金がないとな」
 それならというのだ。
「もうな」
「それで、ですか」
「売れないんだよ」
 こう言うのだった。
「君も高いとどうかってなるだろ」
「同じ商品でもですね」
「いい品って聞いてもな」
 それでもというのだ。
「高いと安い方を買うだろ」
「そう言われますと」
「それでだよ」
 まさにというのだ。
「あのクーラーにしてもだよ」
「性能はいいのに」
「評判よくてもな」
「中々売れないですか」
「そうだよ、しかもな」
「しかも?」
「今こんなご時世だろ」
 今度は世相の話をした。
「戦争があってな」
「物価が高いですね」
「それで何もかもが高くなってな」
「電化製品もですね」
「しかも給料は上がってないだろ」
「生活苦しいですね」
「しかも節電が言われてるんだ」
 このことも言うのだった。 
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