現実世界は理不尽に満ちている!
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第85話「”彼ら”はやって来た」
前書き
ネオ・代表O5−1です。第85話「”彼ら”はやって来た」になります。
どうぞ、ご覧ください。
土星沖海戦で後退に追い込まれてしまった連合軍は戦いの舞台が火星沖と移り、やがては絶対防衛ラインである地球沖での決戦となった。
そして現在、地球沖で生じた戦闘はどちらが優位であるのか分からない程に、膠着状態となっている。
何故、膠着状態となっているのか?
答えは、難攻不落であった彗星都市帝国こと《滅びの方舟》が半壊状態と化したのだ。
彗星都市帝国は地球軍の…いや、ヤマト副長を務める”彼”によって設計・開発された、新兵器【トランジット波動砲】によって半壊。
スヴェート砲と波動砲攻撃を何度も全て防ぎ切った絶対防壁の盾が、トランジット波動砲が繰り出した破壊力により、半壊。
オレンジ色を纏った必殺の矢であるトランジット波動砲は、重力傾斜など存在しないかのような勢いで三重の盾を貫通し、ガス帯全てを焼き払うかのように消し飛ばしたのだ。
資源惑星として確保していた惑星全て破壊されてしまい、惑星の檻は半数を破壊。今も無残な姿を晒している。ガトランティスは、動揺を隠せないでいた。
直掩艦隊含めた大艦隊を周囲に配置していたが、それが役に立つことなく全て消滅してしまう。トランジット波動砲の巨大なエネルギーふく射、余波が、広範囲に渡って影響した。
それを真面に浴びた大艦隊は戦わずして全て消失したのだから、気持ちは分からなくはない。
今もなお空いた穴の戦力補充のため生産中だが、戦闘艦として運用するには未だ時間が掛かる。現存するのはバルゼー艦隊の約一万隻と、警告色の艦色をする後期ゴストーク級の約千隻だ。
だが、それがどうした?
たとえ両軍共に倒れてしまったとしても、後に《滅びの方舟》が残っていれば、ガトランティスの勝利だ。
ヤマトが【大帝の間】に到達しなければ、勝利は絶対に揺るぎることはない。
ズォーダー大帝は、最終的に自身の目的が完遂することを確信していた。
だが、トランジット波動砲に続いて予想外な出来事がまた起きた。
なんと、ガトランティス艦を生産する区画に侵入されたのだ。それも、次元潜航で。
気づいたのはヤマトがその区画の通常空間へと浮上した時と、【葛城透子】が座乗していたことを感知した際だ。
そして今、不敵な笑みを浮かべるズォーダーへと相対している、一人の戦士がいた。そう、古代進である。
「勝負は決した、とでも言うつもりか?」
「貴方達も人間なら、話し合う余地がある筈だ」
「人間、だと…?」
古代はズォーダーへと向けていた銃口を下ろし、言葉を掛けた。
「貴方の未来であるミルが、教えてくれた」
ズォーダーは目を閉じ、笑みを崩さぬまま答える。
「その未来は、死んだ…!」
ズォーダーは静かに怒る。その通り、大帝の未来ミルは確かに教えてくれた。別の選択肢である、引き金を引かぬ道を。
だが、結果はどうだ?
ミルはノイ・デウスーラの艦橋で射殺された。…救援に駆けつけたデスラー総統の親衛隊に…ではなく、親衛隊と共に駆けつけた、ブリリアンス軍の部隊によって。
何故、そこに居たのにも関わらず止めなかった?
何故、盾になろうともしなかった。
あぁ、駄目だ。自分は大帝だ。ガトランティスを率いる存在で、全知的生命体を根絶する使命がある。ましてや人間共のように、そういった”愛する”のは不要で、復讐など”愛”の次に要らぬもの。
…それなのに。
「…ゴホっ、ゴホっ!…あ、あぁ、そなたは、無事、だのうぅ、…本当に、よかった」
何故こんなにも悲しい想いと、なっているのだろう…。
ズォーダーの腕の中で息絶えた老齢の人物、ガイレーン。ズォーダーはガイレーンの顔を覆っていた特殊なゴーグルが床に落ちているのを横目に、彼を見つめる。隠されていたガイレーンの顔は、…現大帝ズォーダーと瓜二つだった。
彼は、先代大帝ズォーダーの引退した姿であり、人間で例えると父子同然の関係にあった。
ズォーダーは、先代の亡骸を目前にした際に、ふと芽生えた不合理な感情を感じた。これまで復讐の感情に流されてきたメーザー提督、そして、不要な親子心を持ったゴーランドとゴーランドの未来であるノイを、ビデオが再生するかのように思い返えさせた。
その中には…若き自分とオリジナルのサーベラー、そして彼女の腕の中で静かに眠る赤子ミルがあった。
この芽生えた感情が、認めたくない感情が、人間と何ら変わらぬ心を持った存在だということを、ズォーダーは悟らざるを得なかった。
「ふっ、我もまた、人間…」
人間では無いガトランティスはかつてゼムリア人より創られ、その後幾年か月日は流れ、ズォーダーはサーベラーなる女性に出会い、やがては彼女と結ばれた。
だが【不幸な出来事】がズォーダーへと襲い、彼は絶望した。
過去から決別するかのようにズォーダーは立ち上がり、人間という不完全な存在を根絶し、新たな世界を生み出さんと千年間行動して来た。
…しかし、それがどうか?
……憎み続けていた人間と変わりないとあっては、人間を根絶しても結局のところ変化など無に等しい。再び争いが繰り広げられる、世界が到来するだけだ。
「…ならば」
こうなった以上、自分が存在する理由は無い。
「―――やめろ、ズォーダーっ!!」
【ゴレム】を起動させ、自分を含めたガトランティス人は滅ぼう。
「(…【創造主】の使命を果たそう)」
ズォーダーは大剣を床へと強く突き刺した。
同時に【ゴレム】は破壊された事により、【滅びの歌】が奏でられる。
バルゼー艦隊旗艦アポカリプス級〈バルゼー〉の艦橋にて、思考力を奪われていく状況下に戸惑いを隠せなかったバルゼーは、何秒か経たない内に前のめりと倒れ込む。
バルゼーの背後には、彼と共に屍へと変貌した副官と将兵の姿があった。
「敵ガトランティス艦隊、陣形乱れる!」
「敵ガトランティス艦隊、次々と戦列を離れる!」
「敵ガトランティスの通信途絶!」
「遂に、か。…全艦隊、戦線を離脱! 月軌道に集結せよ!」
これらの現象は全戦域に起こっており、連合軍将兵は困惑しつつも戦線の離脱を始めた。
【滅びの歌】でガトランティス人が死滅する一方、未だ死なぬ人物が一人だけ存在していた。ズォーダーである。
見渡すと、二人の人物が目に映る。
一人は【滅びの歌】により死滅した、ゲーニッツ司令長官。
もう一人はズォーダーを守り死んだ、先代大帝ガイレーン。
ズォーダーは視線を手にやり、手を開く手を握るを何回か繰り返し、ふっと笑みを零す。
「…やはり、か」
なるほど、知恵の実を喰らったガトランティスは只では死なないか。
ましや自分だけは死なない…のは当然か、”人間”になったのだから死ぬ筈がないか。
ズォーダーは古代進へと向きなおった直後、両手を大きく広げ、虚空へ向けて宣言する。
「―――我こそは人間。滅びの方舟よ、真の目覚めを!!」
同時に突風が大帝の間を襲い、その突風はズォーダーを運ぶように、上へ上へと少しずつ上昇していく。
ズォーダーは再度、決意を固める。
【創造主】の使命を果たそう。
ガトランティス軍人を生み出す、必要は無い。白銀の巫女は生贄として利用しよう。
何故ならば自らによって、遂行してゆくのだから…。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『伝達! 伝達! ブリリアンス本部より緊急伝達!【荒らし殲滅プロトコル】発動!【荒らし殲滅プロトコル】が発動された! 繰り返す!―――』
『―――【荒らし殲滅プロトコル】発動!【荒らし殲滅プロトコル】発動! 目標、〈滅びの方舟〉! その一切を破壊せよ!!』
”彼ら”はやって来た。…”対象”を殲滅する為に。
後書き
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!
ページ上へ戻る