人を守る神
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第一章
人を守る神
古い話である。
王であるエラ、若々しく毅然とした表情で見事な黒髪を持つ彼は玉座から大柄で筋骨隆々の岩の様な顔の宰相イシュムに言った。
「今は戦をすべきか」
「難しいところです」
イシュムはエラに厳かな声で答えた。
「それは」
「内政も大事か」
「はい、神々は申されていますが」
「戦をすべきとな」
「私が思うにです」
その厳かな声で言うのだった。
「今はです」
「戦よりもだな」
「国を整えるべきです、また戦は」
それはというのだった。
「どうしてもです」
「血が流れるな」
「人も家畜も攻めるので」
「血はな」
「私自身武器を持ち」
イシュムは今度は己のことを話した。
「数多くの戦に加わりです」
「敵を倒してきたな」
「そうしてきました」
「私もだ。よく戦ったな」
「共に」
「そうだったな、だが戦はか」
「そうした惨いものですので」
それ故にというのだ。
「私はです」
「戦は避けるべきとだな」
「考えます」
こう言うのだった。
「これ以上は」
「今はすべきでなくだな」
「これからも出来るだけ」
「そうか、しかし神々は言っておられる」
エラは神々からの神託の話をした。
「今はな」
「戦ですね」
「それをすべきとな」
「そして多くの血を流し」
「そうしてだ」
そのうえでというのだ。
「領土を拡大すべきとな」
「それは何故でしょうか」
「神々を讃える者達を増やしたいからだ」
エラはそれ故にと答えた。
「神々はそれを望まれている」
「領土が増えればですね」
「それによってだ」
「神々を讃える者が増える」
「そうなるからな」
それ故にというのだ。
「戦を望まれている」
「それは果たして神々の本意でしょうか」
エラの話をここまで聞いてだ、イシュムは王に問うた。
「果たして」
「何故そう思うか」
「神々は人も家畜も屠れと言っておられますね」
「戦を行いな」
「それでは領土を増やしてもです」
神々が望む様にというのだ。
「人は減ります」
「そうだな」
エラもそれはと頷いた。
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