神の婚姻
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第一章
神の婚姻
アナトリアかつてヒッタイトという国があった場所に伝わる話である。
龍神イルルヤンカシュは天候神テシュブと長く争っていた、天候即ち空の神と龍即ち海の神はその領分を争っていたのだ。
それで長い間争っていたが争いは決着がつかず遂に他の神々が仲裁に入った。
「もう空は空でか」
「海は海でか」
「そうだ」
主神が二柱の神々に話した、テシュブは白髪に長い髭を生やした老神でイルルヤンカシュは本来は蛇の様に長い身体を持つ漆黒の巨大な竜で四本の足と角のある頭を持つが今は切れ長の赤い目と細面に黒髪の若々しい男の姿をしている。
「分けてだ」
「争わずか」
「それぞれの世界を治めるべきか」
「そうだ、そなた達はそれぞれの世界に興味はあるか」
「ない」
どちらも神もはっきりと答えた。
「空は空だ」
「海は海だ」
「我等はその境で争っている」
「それが何処かな」
「ならばだ」
主神は彼等の話を聞いて言った。
「そこは我等が定めて壊さぬからな」
「だからか」
「それでか」
「もう争いは止めてだ」
そうしてというのだ。
「そしてだ」
「以後は争わず」
「確かであることか」
「そうだ」
そうすべきだというのだ。
「それで和解するのだ」
「和解か」
「そう言われてもだ」
テシュブもイルルヤンカシュもだった、ここでだった。
お互いを睨んでだ、それぞれ語った。
「我等は長い間戦って来た」
「その仲は実に険悪だ」
「和解と言われてもな」
「そうおいそれとは出来ぬ」
「ではだ」
主神は二柱の神々の言葉を聞いて提案した。
「婚姻して縁戚となればどうか」
「結婚だと」
「我等がか」
「お主は今細君がおらぬ」
主神はイルルヤンカシュに言った。
「そうだな」
「先立たれてな、子供達は皆すくすくと育っているが」
イルルヤンカシュはまさにと答えた。
「しかしな」
「それでもだな」
「妻がいない、それでだ」
「寂しく思っているな」
「実にな」
「そうだな、そしてだ」
主神は今度はテシュブに顔を向けて彼に話した。
「そなたには娘御が何柱かいるが」
「皆結婚してだ」
テシュブはすぐに答えた。
「末の娘もそろそろいい頃だと思ってだ」
テシュブはすぐに答えた。
「相手を探している」
「ではだ」
「この者にか」
「妻となる様にな」
イルルヤンカシュ、向かい合っている彼を見たテシュブに話した。
「すればどうか」
「そうなのか」
「どうだろうか」
「そうしてか」
「長い戦を止めてな」
「それぞれの境を定め」
「和解の証そしてだ」
主神はさらに話した。
「双方の結びつきを深め」
「以後もか」
「争わない様にしてな」
そうもしてというのだ。
「縁戚としてそれなりに付き合っていけばどうか」
「これからはか」
「そうすべきか」
「どうだろうか」
今度はどちらの神にも言った。
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