英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~
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第46話
~サルバッド・宿酒場”三日月亭”~
「―――――なるほど。大体の状況はわかった気がする。細かい所は省かれてるみたいだけど。」
「…………それは…………」
「そいつはお互い様、だろ?お前さんと”剣迅”がエルザイムの公太子となんで懇意にしてるのかも含めてな。」
フィーの指摘に対してアニエスが複雑そうな表情で答えを濁している中、肩をすくめたヴァンは意味ありげな視線をフィーに向けて指摘した。
「単なる個人的なコネだけど…………ま、確かに細かい話はいいかな。ただ隠すほどのものじゃないから”演奏家つながり”とだけ言っておく。」
「…………なるほどな。」
「ふふ、噂だけは存じておりますがいまだ影響力は衰えず、ですか。」
(”演奏家”…………?)
フィーが答えたある人物が誰であるかを知っているヴァンは納得し、リゼットが苦笑している中二人と違って唯一誰を示しているかわからないアニエスは不思議そうな表情を浮かべた。
「で、ギルドはどう考えてるんだ?今回の――――――いやメッセルダムから続く一連の事件について。」
「ジンたちの見解も合わせてだけど”A"の関与は、ほぼ間違いないと思う。そちらの”捜し物”はともかく、サルバッドで活動している”エースキラー”の存在に天使の傀儡を連れた怪しげな使い手の介入――――――何より”薬物汚染”を思わせる状況とその原料っぽい植物が見つかったからには。」
「同感だ――――――だが”天使使い”はともかく、マフィアそのものの気配が無さすぎる。少なくとも構成員、ないし半グレどもがサルバッド入りしている気配はねぇぞ?」
「はい…………ラングポートの時とは明らかに違うみたいですね。もしかしてメッセルダムの時とも?」
「ええ、あちらは元本拠地という事もあり、息の掛かった人間は確認されていました。反移民テロを装って、ないし利用して事を起こした可能性は高そうですね。」
フィーの話に同感した後指摘したヴァンの指摘に頷いたアニエスはある疑問を口にし、アニエスの疑問にリゼットが答えた。
「対してこちらでは気配がないのに水面下で薬物汚染が広がっている…………どういう事かな、裏解決屋さん?」
「ハン…………どうやらそちらの方も大体当たりをつけてそうじゃねえか?」
「仮にサルバッドにドラッグ汚染が広がっているとしたら…………恐らく何らかの組織的な力がどうしても必要になりますよね。マフィアの構成員や準構成員が現時点でこの街にいないとなると――――――たとえばベガスフィルムのような現地企業なら可能かもしれませんね。もちろん警察やギルドなんかも組織力としては十分でしょうが…………」
フィーとヴァンの会話を聞いていたアニエスは考え込みながら自身の推測を口にした。するとアニエスの推測に対して誰も意見を口にせず、黙り込んだ。
「あのっ、仮定の話ですから…………!警察に加えてギルドまで…………すみません、遊撃士の方を前に。」
静寂に耐えられなかったアニエスは思わず声を上げて謝罪した。
「いや、それは構わないけどちょっと驚いた。ギルドは仮定でも難しいかな。仕事が忙しい上に人数は限られるし。ついでに現地警察もシロっぽい。少しだけ疑ってたんだけど。」
「ああ、裏付けを取ったのか。だったらこちらの手間も省けたぜ。”これで一つに絞り込めたわけだ。”」
「じ、自分で言って何ですけどそちらもあり得ないのでは…………?依頼したのは女優さんたちですし、殿下が動いている事も考えると――――――」
ヴァンの答えを聞いたアニエスは目を丸くしてある指摘をした。
「いえ、アニエス様。ニナ様にジュディス様にしてもベガスフィルムの所属ではありません。エルザイム公国も後援しているだけで同社との関係はここ半年ほどだとか。」
「…………あ…………」
「ちなみにサルバッド映画祭はメッセルダムと関係なく企画されたが…………伝統あるメッセルダム映画祭と比べて当初は知名度はかなり低かったようだ。だが、メッセルダムの中止を受けてここ二ヶ月ほどで一気に名前が知られた。」
「無理もないかな。カルバードは映画が盛んみたいだし。年に一度のファンたちのお祭り気分を引き受けることになったわけだね。少なくとも主催者であるベガスフィルムは”得”をしている構図になる。」
「―――――辿り着いたようだな。」
ヴァンとフィーがそれぞれ推測を口にするとヴァン達に声をかけたディンゴが近づいてきた。
「ディンゴさん…………マリエルさんは?」
「ホテルに戻るなり疲れて眠った。――――――早速”借り”を返そうと思ってな。ベガスフィルム絡みの怪しい話は何も今回の映画祭だけに留まらない。サルバッドに本社を構えた事も含めて、政財界に巨額の裏金を動かした噂がある。それも――――――何らかの非合法組織を介してな。」
「あ…………」
「業界の裏話か…………裏は取れてんだろうな?」
ディンゴが口にした情報を聞いてベガスフィルムの疑惑が高まったことにアニエスは呆けた声を出し、ヴァンは真剣な表情で確認した。
「ああ、九割九分までは。黒月も含め、大小様々な組織の線を俺が独自に洗った結果、全てがシロ―――ただし、”ある一つ”を除いてな。」
「”アルマータ”…………」
「繋がったね――――――なるほど、噂通りのやり手みたいだね?」
「フッ、そちらこそ。だが――――――この構図が正しかった場合、わからなくなるのが”脅迫状”だ。」
「ええ、映画祭そのものを危うくするのは主催企業としての利益とも矛盾しますし。」
「ふむ…………」
ディンゴとリゼットの意見を聞いたヴァンが考え込んだその時ヴァンのザイファに通信が来たのでヴァンはザイファを取り出して通信を開始すると、映像にアーロンとフェリが映った。
「ヴァンさん、アニエスさん…………!」
「まだ宿だったか…………銀髪の遊撃士もいるみたいだな。」
「フェリちゃん、アーロンさん?」
「どうした…………血相変えて。妹の方は送ったようだがお前ら、今どこにいるんだ?」
「ベガスフィルムです…………!その、家に送った直後にそちらの方から連絡があって…………!」
「なんでもスタジオから踊り子姉が消えちまったらしい。俺らが砂漠に行ってる間にな。」
「え――――――」
「なんだと…………!?」
フェリとアーロンからもたらされた凶報に血相を変えたヴァン達はベガスフィルムに急行した。
~ベガスフィルム~
「サァラ姉………」
「シャヒーナさん…………」
姉の身を心配しているシャヒーナをフェリは心配そうな表情で見守っていた。
「…………最後に見たのは、リハーサルの休憩時間でした。お手洗いに行ったサァラさんがそのまま帰ってこなかったんです。」
「いつまでたっても戻らないから心配でね。守衛さんにも聞いてみたんだけど。」
「そ、それらしい人が通れば必ずわかると思いますが………各フロアに確認しても、どこにもいらっしゃらないようでして。通用口を通った形跡もなさそうです。」
「その…………お気を悪くさせるつもりはないのですけど。パレードに気乗りがしないような事を言っていませんでしたか?」
ニナとジュディス、守衛の話を聞いたアネラスは複雑そうな表情である疑問を訪ねた。
「そ、そんなわけないよ!お姉が投げ出すなんて…………!」
「はい、近くで見ていても熱心に参加されていたと思います。」
「ええ…………それもあたしたちが本気で引っ張られちゃうくらいに。女優と踊り手、分野は違うけど圧倒的な才能を感じさせてくれたし。」
「うむ、ワシの目に狂いはない。サァラちゃんはまさしく逸材じゃ!」
シャヒーナの意見に続くようにそれぞれ”女優”としての意見を答えたニナとジュディスの意見にゴッチ監督は力強く頷いて答えた。
「ま、間違いなくプロだ。怖じ気づくのはあり得ねぇだろ。」
「ん、だったらいい。ゴメンね、気を悪くさせて。」
「…………ん…………」
それぞれの意見を聞いたアーロンは納得し、フィーはシャヒーナに謝罪した。
「えっと…………これも念のために聞きたいんですけど…………現在このサルバッドに滞在しているお二人をスカウトした”アルカンシェル”の”舞姫”―――――リーシャ・マオさんはサァラさんがパレードに出演する事に反対とかされていないんですよね?」
「勿論だよ!お姉がパレードの出演にスカウトされた時もお姉は念のためにリーシャさんに連絡して確認したけど、リーシャさんはスカウトをしている時点ではまだ自分にお姉がパレード出演するかどうかについて意見をする資格はないから、お姉自身が決めるべきだって言っていたし、お姉が出演を決めた時も『パレードが成功できるように、応援しています』って言っていたよ!」
「え…………リーシャがこのサルバッドに滞在しているの!?」
「先輩…………?もしかして”アルカンシェル”のリーシャ・マオさんとお知り合いなのですか?」
アニエスの確認にシャヒーナが答えるとジュディスは驚きの表情で訊ね、ジュディスの様子が気になったニナは不思議そうな表情でジュディスに訊ねた。
「えっ!?え、ええ…………昔、ちょっと縁があってね…………」
訊ねられたジュディスは答えを誤魔化した。
「アルカンシェルの”舞姫”の一人であるあのリーシャ・マオがこのサルバッドに滞在していることに気付かなかったとは何という不覚…………!今からでも遅くない、彼女にもフォクシーパレードに出演してもらうのじゃあっ!!」
「か、監督…………リーシャ・マオさんは”アルカンシェル”の所属ですから、出演してもらう為には彼女に出演の依頼をする前にまず”アルカンシェル”に出演の許可を取る必要がありますよ…………」
一方リーシャの滞在を知ってリーシャにもパレードに出演してもらうことを決めているゴッチ監督のマイペースさにその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ニナは困った表情で指摘した。
「コホン。民間人が行方不明になった以上、この件はギルドも噛ませてもらう。文句ないよね?」
「はい、是非お願いします。」
「ギャラならいくらでも出すぞ!パレードを完成させるためにも何としても見つけ出してくれぃっ!」
「アンタたちの方は――――――」
フィーの確認にニナは頷き、ゴッチ監督は力強い答えを口にし、ジュディスはヴァン達に視線を向けた。
「守ると約束した依頼人の一人だ。言われるまでもねえ。追加の報酬くらいは請求させてもらうかもしれねぇが。」
「…………お兄さん…………」
(…………こっちで何とかする。アンタは後先考えずに動くなよ?)
(っ…………な、なんの話よ!)
ヴァンに小声で話しかけられたジュディスは一瞬表情を引き攣らせた後反論した。
「いったん支部メンバーと共有する。警察方面の情報も仕入れておくから。」
「俺も各方面を当たってみよう。ベルモッティにも伝えておく。」
「えと…………ヴァンさんの方はできればエースキラーの人達と接触して、エースキラーの人達が手に入れた情報を仕入れておいて欲しいのですけど…………」
「エースキラーの方は可能だったならな。そんじゃ、それぞれ任せたぜ。」
そしてそれぞれ情報収集のためにベガスフィルムから出たフィーとアネラス、ディンゴとすれ違ったギャスパー社長がヴァン達に近づいて自身の疑問を訪ねた。
「やれやれ、騒がしいことですな。この映画祭直前に何事ですか。」
「なぬ、まだ聞いておらんのか!昨日スカウトしたサァラちゃんがいなくなってしまったんじゃ!」
「…………ほう…………?」
「こうしちゃおれん、ベガス社を上げて動くんじゃ、ギャスパー!社員やスタッフを総動員してでもサァラちゃんの行方をじゃなあっ…………!」
「―――――フン、馬鹿馬鹿しいですな。たかが踊り子の一人や二人、逃げたくらいなんだというのです?」
ゴッチ監督の要求に対してギャスパー社長は鼻を鳴らして呆れた様子でゴッチ監督の要求を断った。
「な、なにィ!?」
「だ、だからお姉は――――――」
「それ、どういう意味でしょう?」
「…………ただの失踪ではない可能性が高そうなのですが…………」
ギャスパー社長の答えを聞いたゴッチ監督は驚き、シャヒーナが反論しようとしたその時ジュディスは真剣な表情でギャスパー社長に真意を訪ね、ニナはある指摘した。
「フン、どのみち映画祭の進行に支障は出るまいと言っているのだよ。君たちが欠けるならまだしも、所詮は即興で雇ったエキストラだろう?」
「っ…………!
「バッカモン、何度も説明したじゃろうが!?サァラちゃんはワシのパレードを完成させる最後のピースにして唯一無二の――――――」
「もういい、これ以上の御託は結構です。こちらはどんな形であれ、パレードが実行されるなら文句はない。見つかればよし――――――でなければ妥協していただくしかありませんな。」
「ぐぬぬ…………!」
ギャスパー社長の冷酷な答えにシャヒーナが唇を噛み締めている中、ゴッチ監督は怒り心頭の様子で反論しようとしたがギャスパー社長は聞く耳を持たずその場から去って行き、その背中をゴッチ監督は唇を噛み締めて唸りながら睨んでいた。
「ええい、なんじゃアイツは…………!」
「ヒドイです…………」
「ハッ、露骨に余裕がなさそうだな。」
ギャスパー社長が去った後ゴッチ監督は怒りの声を上げ、フェリはギャスパー社長の冷酷さを非難し、アーロンは鼻を鳴らした。
「映画祭前日ともなれば――――――というだけではなさそうですね。」
「…………はい。」
「状況証拠は揃ってきた…………さぁて、どう動くか。」
(…………?)
(…………)
一方ベガスフィルムがアルマータと繋がっている可能性が高い事を知っているリゼットやアニエス、ヴァンが口にした言葉を聞いたニナは首を傾げ、ジュディスは真剣な表情でヴァン達を見つめていた。
「監督、お姉は絶対に戻ってきます!いつだってそうなんです――――――大切な興行前に風邪を引いても治して最高の踊りをして!でも…………ひょっとしたら遅れたりしちゃうかもしれないから…………その時はお姉が戻ってくる”繋ぎ”としてあたしを使ってくれませんか――――――!?」
するとその時決意の表情を浮かべたシャヒーナがゴッチ監督にある申し出をした。その後ヴァン達はホテルでニナと話をしていた。
~アルジュメイラホテル~
「シャヒーナさん…………大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ。先輩もついてくれていますし。ふふ、あのゴッチ監督が押し切られた所なんて初めて見ました。」
フェリの心配は無用であることを答えたニナは微笑み
「まだ15歳とはいえ…………立派な”プロ”なのですね。」
「はい、きっとサァラさんと過ごして手に入れた強さなんでしょう。」
「そうだな…………」
リゼットとアニエスの話に頷いたヴァンはシャヒーナがゴッチ監督に申し出をした時の事を思い返した。
~数十分前~
「折角の申し出じゃが…………お前さんじゃサァラちゃんの”代わり”にはなれんわい。」
「で、でも――――――あたしはずっとお姉の踊りを近くで見てきました!他の誰よりもきっと…………!」
腕を組んで真剣な表情で自分の申し出を断ったゴッチ監督にシャヒーナは必死に反論した。
「彼女の持つ色気や踊りの魅力は嬢ちゃんとは全く違うタイプのものじゃ。姉妹だから、同じ踊りだからといってそのまま通用するモンじゃあない――――――少なくともワシの目指しているパレードには噛み合わんのは確かじゃろうな。」
「っ…………あたし…………もうイヤなんです…………お姉ばかりに苦労をさせるのは…………いつもなんでもないフリをして、生活が苦しいのなんて絶対見せなくて…………たまに彼氏に会いに行くようなそぶりで夜中に出かけていくのだって…………”せめてそんな人が、、ホントにいてくれたら良かったのにって”…………!」
(シャヒーナさん…………)
(気づいて、いたんですね…………)
「……………………」
シャヒーナがサァラが夜中に自分に内密での”仕事”をしていることに気づいていたことにフェリは驚き、アニエスは辛そうな表情を浮かべ、ヴァンは目を伏せて黙り込んだ。
「―――――必要ならどんな努力もします!どんな衣装だって着こなしてみせます!イメージが合わないっていうなら、お姉とは違う方向で食らいついて――――――監督さんのイメージを絶対に超えてみせますからっ!」
「!!」
「ぁ…………」
「ハッ…………」
決意の表情を浮かべたシャヒーナの啖呵にゴッチ監督は目を見開き、ジュディスは呆けた声を出し、アーロンは感心した様子で鼻を鳴らした。
「―――――よぉし、いいじゃろうっ!その大言壮語、言ったからにはせいぜい実現してもらうぞっ!?そしてサァラちゃんが戻ってきたら姉妹揃って伝説となってもらおうかっ!」
「か、監督さんっ…………!」
「ゴッチ監督…………」
ゴッチ監督が自分の申し出を受け入れる事を決めたことにシャヒーナは明るい表情を浮かべ、ニナは静かな表情で見守っていた。
「言っておくが、ワシはやると決めたら絶対妥協せん男じゃ!映画祭は明日――――――モノになるまでぶっ通しで仕上げてもらうぞいっ!!」
「望むところです!!」
「…………見たところ技術は十分、お姉さんの踊りも繰り返し見ている。なら、ちょっとした所作と貴女自身の”魅せ方”が課題かしら。ついてきなさい、女優としての”魅せ方”を叩きこんであげるわ。一夜漬けだろうが踊りに融合させてお姉さんの域に届かせるために…………!」
「…………!はいっ!」
ジュディスの申し出に目を見開いたシャヒーナは力強く答えた。
「ニナ、彼らやギルド方面の報告はあんたの方で受けえ取っておいて。」
「ええ、任せてください。」
「よぉし、それじゃあ始めるぞ!!奥のスタジオにレッツゴーじゃいっ!!」
~現在~
「フフ…………さすがはトップ女優ですね。」
「ああ、本質を見抜いてそうだしイイ感じで仕上げてくれんだろ。」
「クク…………オマヌケ痴女とは思えねえな。」
「えへへ…………ちょっと見直しましたっ。」
「???」
「えっと…………?」
グリムキャッツの時のジュディスを知っているアーロンとフェリが口にしたジュディスに対して感心している様子の言葉の意味がわからないアニエスとニナはそれぞれ不思議そうな表情を浮かべた。
「こっちの話だ――――――それよりも。状況は軽く説明したが…………何か心当たりはねぇか?ベガスフィルムの疑惑について。」
「…………裏社会との関係と違法薬物への関与…………でしたか。業界内でそんなことが、なんてあまり信じたくはありませんが…………ゴッチ監督の起用だけでは説明のつかない事業拡大ぶり――――…………業界でも色々言われているのは私もちょっと耳にはしていました。そんな時にあの脅迫状が届いて…………どこか引っかかっていたのも確かです。」
「そうだったんですか…………」
「ハッ…………ベガスフィルムが黒だとすればあの社長が何も知らねえはずはねぇ。違法ドラッグの流通にしても何らからの形で関わっていたはずだ。脅迫状はわからんが――――――それこそ姉貴の失踪に関わってんじゃねぇか?」
「…………あの社長が…………」
ヴァンの問いかけに答えたニナの話を聞いたアニエスは相槌を打ち、アーロンはある推測をし、アーロンの推測を聞いたフェリは複雑そうな表情を浮かべてギャスパー社長を思い浮かべた。
「……………………」
「ニナさん…………?」
目を伏せて黙り込んでいるニナが気になったアニエスはニナに声をかけた。
「いえ、その…………微妙にしっくりこなくて。あのギャスパー社長がそこまで大それたことをするかと思いまして。いつもゴッチ監督に押し切られてパレードなんかも認めるくらいですし。」
「そうでなくても違法薬物絡み――――――露見した時のリスクは計り知れないかと。マフィアと結託してそこまでの事をする胆力はお持ちでないと言う事ですか。」
ニナの話を聞き、ニナが抱いているギャスパー社長のイメージをリゼットが自身の分析と推測で答えた。
「はい…………失礼は承知ながら。」
「…………ですが状況的に一番有力なのは確か、ですよね。そんな人がそこまでの事を”やらざるを得ない”状況があるとすれば…………」
「ハッ…………そういうことか。」
「考えてみれば反社会勢力としてごく当然のやり方かもしれません。」
「どこからどこまでかはともかく…………少なくとも違法薬物の流通については”脅されて”ということですか。」
アニエスの言いたい事を察したアーロンは鼻を鳴らし、リゼットは納得した様子で呟き、ニナはアニエスが言いたいことの明確な内容を口にした。
「あ…………」
「ああ――――――そういう事だな。あの社長がアルマータの力を借りて業界で急成長したのは確かなんだろう。政財界への裏金、出所の不明な資金調達、メッセルダム映画祭を潰して我田引水。――――――だが裏を返せばそれだけの”弱み”を相手に晒すってことでもある。それもアルマータのような最悪の相手にな。」
「それは…………」
「ハッ…………ヤベエ所の話じゃねえな。そうするとドラッグの流通だけじゃねえ、もっとヤバイことをさせられてそうだ。しかもタイミング的に、この”映画祭に関わるような仕掛けを。”」
「…………!そ、そうするとあの”脅迫状”というのは…………」
アーロンが口にした推測を聞いて目を見開いたニナは信じられない表情で呟いた。
「はい――――――この地で映画祭を乗じてアルマータが起こそうとしている”何か”。自分も加担してしまっているそれを、取り返しのつかなくなる前に何とかしたい…………その一方で映画祭自体も潰したくない――――――そんな葛藤の現れなのかもしれません。」
「じゃ、じゃああの社長さんが脅迫状を…………!?」
「ええ…………確かにそう考えると全ての辻褄が合ってきそうです。…………!でしたらサァラさんがこのタイミングで失踪したことも…………?」
リゼットの推測を聞いて驚きの声を上げたフェリの言葉に頷いたアニエスはあることに気づき、真剣な表情を浮かべた。
「ああ、アルマータの仕業でも、もちろんサァラ本人の意志でもない。ギャスパー・ディロン――――――ヤツが”何処か”に連れ去ったんだろう。」
そしてヴァンがサァラの失踪について確信をもった推測を口にした時ヴァンのザイファに通信が来たのでヴァンはザイファを取り出して通信を開始した。
「ヴァンちゃん、やったわよ!」
「!特定したか…………!」
通信相手――――――ベルモッティの言葉を聞いたヴァンは血相を変えた。
「ヴァンちゃんたちが見つけた植物と、街で暴れた連中から検出された成分――――――その二つが完全に一致したの!」
「あ…………」
「勿論、マリエルたちを攫った男たちからも検出された。」
「違法ドラッグの存在が完全に確定した形になるね。」
「おいおい、いつの間に…………っつーか警察を差し置いてそんな検査ができんのかよ!?」
ディンゴとフィーの話を聞いたアーロンは感心と同時に呆れた後驚いた様子で訊ねた。
「ウフフ、ヴァンちゃんのコネで届いたこの検査機のおかげね。」
「いや、貴方の薬学の知識があってこそでしょう。」
「ええ、さすがはベルモッティさんね。」
ベルモッティの言葉に続くようにそれぞれ聞き覚えのある男性と女性の声がヴァン達とは別のベルモッティ達の通信相手の声がベルモッティを称える言葉を口にした。
「んもう、昔ちょっとかじってただけだってば♪」
「あはは………………”ちょっと”でできるレベルではないんですが…………」
「今の声は…………」
二人の声の自分への称賛にベルモッティが気を良くしている中アネラスは苦笑し、聞き覚えのある声にアニエスは目を丸くした。するとヴァンのザイファの映像にキンケイドとエレインが映った。
「また一つ貸しだな、ヴァン。」
「ふう…………お互い様でしょう、ルネ。」
「エレインさん、それに…………!」
「ハッ、そういや昨日どこかと連絡を取ってたみてぇだが…………」
エレインとキンケイドの登場にアニエスが驚いている中アーロンは昨夜ヴァンがどこかに連絡をしている様子を思い返した。
「ま、念の為の保険ってヤツだ。昨日ハメを外してた馬鹿共を見かけた時に可能性くらいはな。」
「ふう、相変わらずカンが働くわね。違法薬物絡みとわかっていれば私もサルバッドに…………」
「エレインが今抱えてる案件も重要。ここは役割分担でいこう。」
ヴァンの答えを聞いて溜息を吐いたエレインにフィーが指摘した。
「”バーゼル理科大学”から手配した最新式の検査器だ、精度は信用していい。流通経路と形態についてはこちらでは探りようもないが…………お前のことだ、そちらももう当たりはつけてるんだろう?」
「え…………」
「そ、そうなんですか…………?」
キンケイドの指摘にニナは目を丸くし、フェリは戸惑いの表情でヴァンに確認した。
「まあな――――――多分、こっちのSC殿もだろうが。」
「ふふ、やはりヴァン様も気づいてらしたのですね。」
「チッ、勿体ぶりやがって…………だが確かに違和感はあったな。あの”いかにも”な馬鹿共も含めて、薬物取引の証言はまだ出てねぇんだろ?」
「ん、誰一人ね。」
「そもそも、”服用した覚えすらない”…………そんな話でしたね。」
ヴァンとリゼットの意味深な会話に舌打ちをしたアーロンはある疑問を口にし、アーロンの話にフィーとフェリがそれぞれ答えた。
「…………何らかの方法で。”無理矢理”薬物を服用させた…………?映画祭前の短期間――――――それもギルドや警察の目もかい潜る流通ルート…………(そんな方法があるとしたら…………)――――――嗜好品への混入ですか?」
アニエスの推測にヴァン達はそれぞれ頷いた。
「…………思えば、シャヒーナさんたちを攫った人たちも最初から持っていました。近頃広まり始めたという最新式の”導力シーシャ”―――――あの中にドラッグの成分が混入されているんですね………?」
「…………!」
「それは…………」
「…………なるほど、アレか。」
「ああ――――――恐らく正解だ。そんじゃあGIDにギルドもそれぞれ汗を掻いてもらおうか?波乱含みの映画祭――――――少しでも安全に開けるようにするためにな。」
アニエスが出した答えを聞いたフィーやアネラスはそれぞれ真剣な表情を浮かべ、ベルモッティは納得し、ヴァンは頷いた後エレインとキンケイドにある要請をした。
近頃、サルバッドの歓楽街を中心に広まり始めていた”導力シーシャ”―――――現物そのものは、各地の販売所で簡単に手に入れることができ…………再びベルモッティらが調べた結果、違法薬物と同一の成分が検出された。その結果、ギルドと警察は連携して内内に取り締まりを行うことを決め…………GIDもメンフィル帝国政府に手を回した結果、短時間のうちに市内全域での販売が差し止められたのだった。その後、ヴァン達は一旦、宿でしばしの休息をとった後…………協力者たちの”一部”と連絡を取りつつ、改めてベガスフィルムに向かうことにした。
20:21――――――
~歓楽街~
「バザールの方も少し騒がしかったな。ま、狙い通りか。」
「…………はい、無事に全て撤去できたみたいで良かったです。」
「”仕込み”と”裏取り”も済ませた。ギルドと警察もいったん様子見――――――動くなら今しかねぇだろう。」
「はい――――――では”予定通り”、ベガスフィルムに向かいましょう。」
「ついでにシャヒーナさんの様子も見て行かないと、ですねっ。」
「……………………」
「どうした、何か気になることがあるのか?」
考え込んでいる様子のアニエスが気になったヴァンはアニエスに声をかけた。
「結局連絡が取れなかった”エースキラー”の人達の動きが気になりまして…………確か滞在先は既に判明しているんでしたよね?」
「ああ。ディンゴ達の調べによると二週間程前からアルジュメイラホテルに3部屋も取って宿泊し続けているとの事だが…………改めて考えてみると気になるな。」
アニエスの確認に答えたヴァンは真剣な表情で考え込みながらアニエスの意見に同意した。
「アルジュメイラホテルの一般用の一部屋で宿泊できる人数は3人――――――それを考えると彼らに協力している”北の猟兵”も含めて最低で7人、最大で9人が宿泊していることになりますが…………」
「にも関わらず一人もホテルには滞在していないってのは気になる話だな。」
「はい。7人もいれば1人は待機役として拠点に控えさせていると思いますし…………」
「加えて普通に考えれば最低でも誰か一人はホテルに戻っていてもおかしくない時間だ。だが、”現在一人もホテルに滞在していない状況”ということは…………」
「”アルマータに関わる何かを見つけ、その何かへの対処の為に全員が外で活動する必要がある状況”だからではないでしょうか?」
リゼットとアーロン、フェリの話に続くように答えたヴァンが考え込んだその時アニエスが答えを口にした。
「そいつは…………」
「現在のサルバッドの状況を考えれば、その可能性は高いでしょうね。」
アニエスの答えを聞いたアーロンとリゼットはそれぞれ真剣な表情で呟き
「…………いずれにしても、まずはベガスフィルムに向かうぞ。」
ヴァンは自分達の目的を優先するように促した。
その後、ヴァン達は玄関ロビーで待ち合わせをしていたニナと合流し――――――幾つかの段取りをしてからシャヒーナたちがいるトレーニング室に向かうのだった――――――
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