色々と間違ってる異世界サムライ
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第29話:無視された聖剣
アリューシャperspective
「ここはお前達の踏み込める場所ではない。すぐに帰れヒューマン」
……何なんだ今日は!?千客万来か!?
それは確かに、我々の先祖は里の奥にある聖なる武器の神殿を護る為にここに里を作ったとは聴いているが、最近のなって……どうしてこうもどこどこ来る!?
「違うんだ!聴いてくれ!」
「また言い訳か?内容次第では、覚悟してもらうぞ」
すると、侵入者は突然両膝を地面につけて理由を語り始めた。
「儂はただ、わが師を救えるかもしれない者達に逢いたいだけなんだ!」
ダニィ!?
じゃあ、何でその要救助者に背を向けながらこの里に不法侵入しようとしているのだこいつは!?
「で、誰を助けたいって?」
「この儂に鍛冶の基礎を叩き込んだ者、バゼルフ」
「バゼルフ!?」
鍛冶が得意なドワーフの中でも特に頑固で凄腕のあのバゼルフが!?
「で、そのバゼルフに背を向けてまで、何故この里に来た?」
「背は向けていない……ただ、儂1人だけでは勇者セインには勝てないからだ」
「勇者と戦う気か?」
「そうだ!きゃつはバゼルフを攫い、奴隷の様に扱っているのだ!」
なんか……彼女の為に戦いたくなったが、私にはこの里に不法侵入する不届き者を―――
「あれ?ドワーフじゃん。何でこんな所に?」
こいつは確か、セツナとか言うビーストだったか?
「お前さんも、この先に在る聖剣が目当てか?」
だが、彼女の答えは違う。
「ツキツバ・ギンコと言うサムライに逢いに来た!」
その途端、セツナの眉がピクっと動く。
「……何者だ?」
「儂はユーミル。ドワーフ王の娘でバゼルフの弟子だ」
「バゼルフ!?」
セツナの奴も驚いている……
バゼルフ殿も随分有名になったねぇ
「あの凄腕鍛冶師のバゼルフか!?そいつ、息災か?」
だが、ユーミルの答えはセツナの望む物ではなかった。
「囚われた!勇者セインに!」
が、セツナは別段驚く感じは無かった。寧ろ、
「で、この里でそのウンコクズのセインを待ち伏せする為にオーサムに来たと?」
まるでユーミルの主張を予想していた感じであった。
と言うか……ウンコクズ!?
「セツナ!アンタ、この緊張感満載の場で笑わせないでよ!」
が、当のセツナは真顔で答える。
「ウンコセインをウンコクズと呼んで何が悪い?」
「本気かよアンタ」
「バゼルフにとって、勇者セインはもうウンコクズだよ」
……
「確かに、最近のヒューマンの傲慢さに飽き飽きしているが、可憐な乙女の口からウンコクズは無いだろ!?」
だが、セツナもう私に興味は無く、ユーミルにしか話しかけていなかった。
「丁度良い機会だ、この里でウンコクズのウンコセインを待ち伏せするか?どうせあいつの事だ、オーサムの聖剣も狙ってるからな」
と言う事は、そこのドワーフの……
あれ……
私……
セツナに指摘されるまで、ユーミルがドワーフの王女だって事に気付いていなかった事になるんですけど!
……長老にバレたら、私の勘の鈍さに対して説教をたれるんだろうなぁー……
ああ、憂鬱だ……
セツナperspective
あのクズセインがウンコクズだって事は知っていた心算だったが、とうとうドワーフまで敵に回したのか……
これでウンコセインが魔王の討伐に成功してみろ、ドワーフ共が暴動を起こすぞ!
ここはやはりオーサムでウンコセインを待ち伏せして正解だったか?
ただ……問題は……
「何を言ってんだ!セイン様は、魔王を倒して世界を救う勇者様だぞ!」
「じゃあ何か!?ドワーフが勇者セインに暴行されて連行されても、儂は指を銜えて観ていろと言うのか!?」
大方の予想通り、ノノとユーミルが口論となった。
勿論、両者は譲らない。
「そう言う見当違いな想定が出てくる時点でもう違う!セイン様がドワーフを暴行する。そんな存在しない記憶に縛られてどうする!?」
「有るわ!勇者セインがバゼルフを誘拐した証拠がな!」
「それは、アンタの存在しない記憶の中にしかないの!」
「だったら、これを視ろ!」
ユーミルが鞄から取り出したのは、使い古された金床。
「その重しが何だって言うんだよ!?」
「いくら何でも物を知らな過ぎだろノノ!それは金床と言ってな、熱した鉄を叩いて伸ばす時に使う土台だぞ!」
が、そこでツキツバが反応してしまう。
「そなた、鍛冶職人か?」
「そうじゃ!儂らドワーフと言えば鍛冶だろ!」
「その歳で目標を立てて行動しているとは、天晴です」
あれ?
『この歳で』と言う事は……
「で、そのどわーふとは何なのですか?」
やっぱりねー!
久々だからすっかり忘れてたわ!
「儂らドワーフを知らぬだと!?何なんじゃこいつは!?」
「すまない……信じないかもしれんが、こいつ、異世界から来たんだ」
「で、こいつは儂らドワーフが居ない世界から来たと?そっちの方が存在しない記憶だろ!」
「怖い事を申すな!」
「すまんツキツバ、ドワーフについては後で説明するから―――」
「ツキツバ!?」
あ。
しまったぁー!
そうだった!こいつの目的はツキツバとウンコセインを激突させる事だった!
「そなたが……本当にツキツバ・ギンコなのか!?」
「あのぉー、それよりその金床が証拠の意味を説明して欲しいのですが―――」
「お願いですツキツバ・ギンコ!儂の師であるバゼルフの奪還に力を貸してくれ!」
……駄目もとで言ってはみたものの、やっぱり私の言葉は無視されてる。
「先ずは、ツキツバの力が必要な理由の説明!」
「おっと、そうであったな」
「……しっかりしてくれよ」
すると、ユーミルが金床の平滑部を撫で始め、平滑部から文字が出て来た。
「ドワーフは鍛冶の達人とは聴いていたが、まさかここまでとは」
で、その内容なウンコセインを救世主と仰ぐノノにとっては都合が悪い……もとい、ノノが信じないであろう……
セイン達がバゼルフの許を無断で訪れ、バゼルフに暴行を加え、強引に武器を作らせ、主従契約を刻んでバルセイユに売り飛ばした。
優先度の高い命令は主人が撤回しない限り、自力での変更は出来ない……
つまり、考えうる無礼・非礼をバゼルフに行ったのだ。あの糞ウンコセインは!
ユーミルperspective
これがツキツバ・ギンコ?
デルベンブロやベルディアを討伐して英雄の称号を得たサムライ……なのか?
少なくとも勇者セインを足止め出来るだけの、規格外の切り札として見込んでここに来た……
だが、この者は若々しい乙女!
儂らドワーフを知らぬ無知から考えると……実年齢は見た目通り……
本当にこの者に勇者セインに足止め出来る程の力が有るのか?
「ん?」
「どうしたのじゃ?」
「随分大きな鉞ですな」
マサカリ?このバトルアックスの事か?
「ちょっと、素振りさせて頂きたい」
素振り!?
儂のバトルアックスでか!
「ば……バカ!これはオモチャじゃねんだぞ!あぶねーぞ!手を放せ!」
だが、ツキツバは儂から早々とバトルアックスを奪ってしまう。
「あ!?」
ドワーフの王女であるこの儂が、一瞬で力負けした!?
少なくとも……見た目に騙されて良い相手じゃないって事か……
「コ……コラ!君、返したまえ!子供が刃物を持っちゃいかん……」
しかし……それどころかツキツバは儂のバトルアックスを軽々と振り上げた!
「ひー!」
が、きゃつは本当に何度も素振りしただけだった……儂のバトルアックスでだ!
「ウムッ!良い武器です!」
120㎏のバトルアックスなんじゃが……
「疑ってたろ?ツキツバ・ギンコの力を」
そこのビースト!急に喋るな!
「な!?何だいきなり!」
それに、儂は本当にツキツバ・ギンコの事を侮っておった。
そう言う意味もあってか、儂は2つの意味で驚いてしまった。
「で、ウンコセインの現在のレベルを知っているか?因みに、私達は知らん」
「それを訊いてどうするのじゃ?」
「ウンコセインのレベルが300を下回っている内は、こちら側に勝ち目は有る!」
300!?
なんだその桁違いなレベルは!?
こやつ……本当に人間なのか?
気付けは……儂は両手と両膝を地面につけていた!
「ツキツバ・ギンコ殿!恥を忍んで頼みがある!」
「勇者セインと戦ってくれと?」
「そうだ……そして、この儂にバゼルフを奪還させてくれ!」
「ならば好都合!」
「え?」
好都合!?
それってどう言う意味だ!?
「某達は、セイン殿の真意と本心を確かめるべく、この里で待ち伏せしておるのです」
「待ち伏せ?根拠は?」
「あのウンコセインが、あそこの神殿の中にある聖剣を狙ってるんじゃないかと思ってな」
だとしたら……このままでは、ツキツバは何時まで経っても勇者セインに遭遇出来んぞ!
「恐らく、勇者セインはこのオーサムには来ません」
「……根拠は?」
「これは、儂が衛兵の噂話を立ち聞きしただけなのだが、円卓会議は勇者セインにグレイフィールド国の城塞都市への出向を命じたそうだ。なんでも、魔族との最前線の地だからって」
「セイン殿があそこに有る聖剣を抜くのを待たずにか?」
そんなツキツバの予想に対する答えを言おうとした時―――
「きゃぁーーーーー!」
「何ぃーーーーー!?」
「襲撃だぁーーーーー!?」
襲撃!?
誰がここに来たって言うのじゃ!?
月鍔ギンコperspective
最近……何かおかしい!
某がセイン殿に逢おうとする度に、何らかの妨害が某の許にやって来る!
デルベンブロの時も、ベルディアの時も!
まるで某がセイン殿に逢うべく通るべき街道に事前に配置されているかの様に!
「そなた……某にセイン殿に逢うなと申す気か?」
相手は、背中に蝙蝠の様な翼を生やした、これまた異様な姿の大男達であった。
「何の事だ?我らは人間に悪戯するのが生きがい!我等の様な翼を持つ魔族は侵略も容易だな!?」
やはり直ぐに真実を言う筈が無かったか。
「つまり、某の名を知らぬと?」
「いや、お前がツキツバ・ギンコだって事は知ってる」
この程度のカマで重要な事をペラペラ喋るとは……この者、意外と口が軽いと視える。
「お前をいたぶれば、我らグレムリンの名は鰻登りだ!どうやって悪戯してやろうか―――」
「遅い!」
で、口も軽いが腕も軽かった。
デルベンブロやベルディアと比べたら下の中……と言ったところか?
やはり考え過ぎか……
てっきり、某達がグレイフィールドに向かうのを阻止しに来たとばかり―――
「さあ、亡者共。この死人使いグロブが今1度命を与えましょう。ミハリ・クシゼキキ・イヨカナ・ハグジソラム!」
「誰だ!?」
「死人使いグロブです。これから死に逝く者にこの様な事を言っても無駄ですがね」
死人使い!?
不快な文言だ!
「どう言う意味だ?死人使いとは?」
「文字通りの意味です。直ぐに解ります」
その途端……某の……最も外れて欲しいと願っていた予測が、非情にも当たってしまった!
「グレムリンが甦った!」
「ありえん!両断されて生きていられる程、グレムリンはしぶとい魔物ではないぞ」
セツナ殿達が、某に斬り捨てられたぐれむりんに襲われて困惑しております……
それってつまり……
「貴様か……ぐろぶ!?」
許せぬ!
思う存分戦って死ねた者の死を愚弄し、誉高い死を得た者を無理矢理叩き起こして更なる労働を課すとは……
「ぐろぶ!率直に言おう……死ね!」
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