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五大院宗重にはならない

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第二章

「誰からも嫌われた」
「漫画だと主人公も敵に突き出そうとして返り討ちに遭いましたね」
「そうだったな」
「しかも主君の叔父にあたっていたのに」
「太平記だとあまりにも酷くて敵に殺されかけて逃げてな」 
 そうなりというのだ。
「それでも不忠者、屑とみなされて誰からも相手にされなくなってだ」
「死んだんですか」
「何でも餓え死にしたらしい」
「自業自得ですね」
「そうだな、妊婦さんは大事な人だ」 
 子供を授かっている、だからだというのだ。
「幼い命が宿っているんだ」
「妊婦さんだけの命じゃないですね」
「そんな人を見捨てるなんてな」
「絶対にしてはいけないですね」
「それをしたらな」
 それこそというのだ。
「あいつと同じだ」
「五大院宗重と」
「あんな奴になりたくないな」
「最低な奴ですからね」
「そうなりたくないならな」
「ああした時はですね」
「報告、連絡、相談は社会人として絶対だが」
 それでもというのだ。
「助けないとだ」
「絶対に駄目ですね」
「平気で見捨てるならあいつと同じだぞ」
 五大院宗重と、というのだ。
「だからあそこで俺もだ」
「助けろって言われたんですね」
「そして君も助けたな」
「取引先に遅れても」
「それで文句を言う取引先なら同じだ」
「五大院宗重と」
「碌でもないところだ、以後取引を考える」 
 そうするというのだ。
「それで人としてな」
「ああした時はですね」
「これからも助けないと駄目だ」
「絶対にですね」
「そうだ、あいつは最低なことをした最低な奴だったからな」
 それ故にというのだ。
「最低な死に方をして皆それが当然と思った」
「そうなりたくないなら」
「あいつみたいなことはするな」
「そういうことですね」
「そうだ、覚えておいておくんだ」
「わかりました」
「俺も心掛ける」
 手塚は強い声で言った、二人共あの男の様にはなりたくないと心から思った。
 後日会社に沼田がしたことと手塚の判断に妊婦の女性と彼女の夫から感謝の言葉が届いた。二人はそのことに笑顔になった。そして自分達の行いが正しく五大院宗重にならずに済んだと喜んだのだった。


五大院宗重になるな   完


                  2024・8・19 
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