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第72話「テレザート星の封印、必ず完遂してみせる」
前書き
ネオ・代表05−1です。第72話「テレザート星の封印、必ず完遂してみせる」となります。
どうぞ、ご覧ください。
―――ゴーランド艦隊旗艦〈ゴーランド〉。
ミサイル戦艦のみで構成されているゴーランド艦隊は封印作業最後の仕上げとして、運搬された巨大岩盤の前面に展開していた。
艦首に備えた白色の巨大ミサイルを効率的に運用する為、艦隊は横列となって並んでいる。鳥が翼を広げるように、艦隊旗艦〈ゴーランド〉は中央に位置していた。
「……」
艦隊を率いる男―――仁王立ちするゴーランドは、戦場となるこの宙域を俯瞰する。テレザート星を覆う巨大岩盤表面を地表とするならば、その上空には防空網が3つ存在している。
第一層は、自分が率いるゴーランド艦隊。
複横陣に近い緩やかな角度の梯形列を、前後左右に八列。
第二層は、巨大岩盤後方―――開口部に布陣する直掩艦隊。
100隻を超える直掩艦隊は開口部に空間跳躍してきた際、袋叩きにする任を担っている。
第三層は、岩盤内壁面。
岩盤内壁面が最後の砦―――つまるところ地上とするならば、最後の層にはザバイバル陸戦師団が展開している。ノルの教育者にして、自分とは長い付き合いの間柄であるザバイバルが守備しているのだ。この層が陥落しなければ、勝利はコチラのものとなる。
「ザバイバル、メダルーサ級戦艦改―――ヘルベスティアの主砲をいつでも撃てるようにしておけ。アイルノーツ、〈ヤマト〉がやって来たところで慌てるな。如何に強固な波動防壁といえども、袋叩きにすれば必ず撃沈できる」
そう言いながらも、ゴーランドは〈ヤマト〉が無鉄砲に突っ込んでくるとは考えていなかった。かつて〈ヤマト〉は大マゼランを本拠地とする、あのガミラスの本星まで辿り着いた。目的が《コスモリバース・システム》を受領する為イスカンダルへ赴く為とはいえ、ガミラスの艦隊を打ち破ったのだ。
その〈ヤマト〉が、此処テレザート星へと向かって来ているのだ。戦闘力はそうだが、イスカンダル航海時よりクルーが変わっていないのならば、指揮や士気も侮れない。
「テレザート星の封印、必ず完遂してみせる」
ゴーランドがそう呟いた時だった。敵艦の到来を告げる、ワープアウト反応が示された。
「テレザート直掩艦隊より一報」
一拍おいた通信士が報告する。
「敵、奇襲部隊が空間跳躍。数は多数。現在、これと交戦中とのこと」
ノルは顔を動かすことなく瞳だけを動かし、確かめるようにその視線を通信士へ送った。
「〈ヤマト〉1隻のみではなかったのか?」
ノルにも一瞥することなく、ゴーランドは瞑目する。〈ヤマト〉単独で《テレザート》へ来る。あの時、投影スクリーン越しに大帝よりそう告げられた。
であるならば、この奇襲部隊は艦載機で構成されているのか。
しかし地球が、艦載機クラスの空間跳躍が成功したという情報は無い。ガミラスから技術供与されたという情報も無い。人型機動兵器―――戦術機とやらを搭載しているという、情報だって無い。
もしや、この奇襲部隊は〈ヤマト〉のではなく…。
ゴーランドが答えに辿り着いた時だった。観測士官が声高に報告する。
「敵は〈ヤマト〉ではありません。ブリリアンス艦隊です!」
ノルは驚く。
「ブリリアンスだと!〈ヤマト〉ではないのか!?」
瞑目していたゴーランドは、瞳を開ける。どうやら、正解したようだ。
ブリリアンスは、地球の同盟国。アルポ銀河と呼ばれる銀河系に本星がある勢力で、ガミラスより同等以上の戦力を保有すると”想定されている”。
戦力が如何ほどなのか同盟国である地球にすら制限されている為、定かではない。戦力だけでなく、あらゆる面で情報が制限している。
だが分かるとしたら、だ。
一発とはいえ火焔直撃砲の攻撃を耐えた艦を保有している事と、かの国の女王―――スヴェート・ブリリアンスが歳を取らないという事くらい。
その他はどうでもいい情報なのだが、地球の若い女はハンカチを噛み女王スヴェートに対し嫉妬しているようだ。凄いどうでもいい情報だ。
ゴーランドは疑問に思う。
何故、ブリリアンスが此処にやって来たのだろうか。〈ヤマト〉と同じく、テレサのメッセンジャーを受け取ったのだろうか。
思考を続けようとしたその時だった。ブリリアンス艦隊の到来を告げる、ワープアウト反応が示された。今それは、考えるべきではない。目の前の事を、対処しなくては。
「艦隊前方、多数の重力干渉波を確認!数は120隻!」
次の瞬間、漆黒の艦隊は現れた。
ナイフのような楔型の形状は被弾面積を抑えているかのようで、その全長は500mを誇る。5つの連装主砲を装備するその艦は艦隊の中核を為しているようで、旗艦であろうアクラメーター級戦闘航宙艦に付き従っていた。
ワープアウトした500m級―――エリス級機動打撃駆逐艦は前進し、重粒子砲を一斉掃射する。
「前列、中破多数!」
それに対し、ゴーランドは命令を下した。
「反撃だ」
射程圏内に入ったからである。ビーム砲塔が斉射されると共に、対艦ミサイルが多数発射された。迎撃に奮闘するブリリアンス艦隊へフッと笑みを浮かべると、ゴーランドは口を開く。
「前列に達する。艦首ミサイル、発射」
前列のミサイル戦艦から一発の巨大ミサイルが発射される。
発射された巨大ミサイルの合計で20発。艦首の巨大ミサイルは艦隊殲滅の際に使用される代物で、特に固まっている敵艦隊には有効な兵器といえた。
そう、今のブリリアンス艦隊のように。
ブリリアンス艦隊は迎撃するが半分以上もの撃ち漏らしてしまい、ミサイル戦艦より放たれた巨大ミサイルは命中した。すると鮮やかで爆炎を生み出し、前方の敵艦隊の内の60隻が大破した。
そのブリリアンス艦らを、ゴーランド艦隊は優先して攻撃を開始した。前列のミサイル戦艦から、巨大ミサイルと多数の対艦ミサイルが放たれる。
ミサイル戦艦のみで構成されているゴーランド艦隊は、正面からのぶつかり合いに特化している艦隊だ。巨大ミサイルを筆頭に多数のミサイルは前方に装備してこそ、その真価を発揮する。
「ほう、攻勢を強めたか」
口元を緩めたその時だった。悲痛さの色を浮かべる、アイルノーツからの通信が入る。
『ゴーランド提督、我が軍の被害拡大。私のメダルーサ級は現在、敵兵に侵入されました。このままでは制圧され、敗北してしまう恐れがあります』
一泊置いたアイルノーツは提案する。
『《破滅の矢》で、我々ごと撃滅していただけないでしょうか』
その提案に、ゴーランドは軽く驚いた。自分達ごと撃滅して欲しいと提案してきたのは、アイルノーツで初めてだった。
いや、それだけではない。メダルーサ級を旗艦とした100隻の直掩艦隊が、まさかここまで被害が拡大してしまうとは。
「ブリリアンスの奇襲部隊、やりおるな」
そう称賛していたその時だった。
「ゴ、ゴーランド。ブリリアンスの奇襲部隊が、〈テレサ〉を開放してしまい…」
その報告に蒼ざめるノルに、ゴーランドは一喝した。
「狼狽えるな、馬鹿者!」
ビクッと一瞬震えるノル。
ゴーランドは言葉を並べ、幼生体を卒業したばかりの「後継者」を落ち着かせる。
「忘れたか、陸戦師団がいる限り敗北は無い。我らの相手は前方のブリリアンスだ、見誤るでない」
冷静の色を取り戻したノルは、ゴーランドへ謝罪する。
「見苦しい姿でした、申し訳ありません」
一瞥しないゴーランドは、頷きを以って応えた。
「我らの戦は大胆にして緻密。戦いの始まる前から、布石は打たれている」
艦隊による攻撃を継続するよう命令したゴーランドは、続けて新たな指示を出した。
「〈ゴーランド〉回頭せよ、《破滅の矢》を放て!」
『ありがとうございます!―――』
「通信、途絶えました」
本来ならば直掩艦隊に袋叩きにさせる予定であったが、止むを得ない。封印作業をやり直さなければならないデメリットもあるが、こればかりは仕方ない。
それに、だ。
ガトランティスの為に―――大帝の為に死ねるのは、とても誉れで名誉な事なのだ。
最後方に位置する〈ゴーランド〉は回頭を終えると、ゴーランドは発射命令を下した。
「《破滅の矢》、発射ァァ!」
《破滅の矢》は外装がなく骨組みや内部が剥き出しで、砂時計のようにも見える鋭角的なデザインの巨大ミサイルだ。
それが今、発射される。
直後、艦首に搭載された《破滅の矢》―――破滅ミサイルが切り離された。接合部に設えた爆砕ボルドがパージされ、〈ゴーランド〉と同等以上の大きさを誇るミサイルが前へと押し出される。
次の瞬間、破滅ミサイルに特徴的な透明感ある青色の煙が拡散した。加速に加速を重ね、巨大岩盤へ吸い込まれるように突き進む。
「破滅ミサイル、命中」
瞬間、白銀の閃光が宙域を染まった。巨大岩盤の一点から輪のように広がり、艦隊は黒々とした影となる。閃光が引いた時、巨大岩盤は最早原型を留めていなかった。
巨大岩盤は砕け散り、爆発の高熱は瞬時に中心部の強固な岩も溶かし、気化するやプラズマ化した。プラズマ化した巨大な渦は嵐となり、周囲に漂う破片を弄んだ。
その光景に、ノルが息を飲んだ時だった。観測士が報告する。
「重力場の乱れを検知」
ゴーランドは、満足げに目を細めた。
「流石は《テレザート》より吸い上げた、反物質を充填したミサイル。面白い働きをする」
投影スクリーンは、破滅ミサイルによって生み出された嵐を捉えていた。残骸は踊り、互いに衝突しては砕けるの繰り返しであった。
岩盤の残骸だけではない。
ブリリアンスの奇襲部隊だけでなく、直掩艦隊さえも同じだった。爆発の光が、続々と発せられる。残骸に翻弄される、艦隊の残骸では無い。この光の正体は破滅ミサイルに巻き込まれ、それによって破壊される奇襲部隊と味方の直掩艦隊なのだ。
最後の巨大岩盤をはめ込もうとしていた穴は、今や坩堝のような有り様だった。全てが掻き回され、衝突しあっては押し潰されていった。
「岩盤後方の敵艦隊、全滅を確認」
ゴーランド艦隊の勝利は、確実に来ている。20隻は失ったが、残る40隻は戦闘に支障がない。対するブリリアンスの戦力は約30隻。シールドを消失し、大破している艦のみだった。
間もなくだ、間もなく勝利を手にすることが出来る。誰もがそう思ったその時だった。
「ゴーランド提督!敵艦隊後方、未確認の重力干渉波あり!空間跳躍です!」
次の刹那、全長1000mを超える漆黒の戦艦が、ゴーランド艦隊の射程圏内にワープアウトした。見たことの無い艦だったが、どこかアクラメータ級に似ており、その漆黒の戦艦はまるで姉のようだった。
堂々とした威容を誇る漆黒の楔型戦艦は、一際目を引く存在だった。矢じり型の幅が広い船体、船首に向かって尖ったデザイン。艦尾から隆起した、ブリッジと思われる2つの上部構造物に設けられていた。
この漆黒の戦艦は、ブリリアンスではこう呼ばれていた。
―――ヴェネター級スター・デストロイヤー、と。
その戦艦は、彼女―――ダークネス卿の座乗艦でもあった。ワープアウトが完了した〈ダークネス〉は、旗艦を除いた全てのガトランティス艦へ砲撃を開始した。
そして1分が経過すると、ゴーランド艦隊旗艦〈ゴーランド〉のみを残し艦隊は全滅した。
―――漆黒艦隊旗艦ヴェネター級〈ダークネス〉。
「旗艦ヲ除キ全テ撃沈シマシタ」
「次ダ。照準、敵旗艦。EMPイオン砲、発射」
「ラジャーラジャー!」
スーパー戦術ドロイド―――カラーニ将軍が命令すると、EMPイオン砲が発射された。イオン化された青色の粒子が着弾すると、標的の〈ゴーランド〉は宇宙に浮かぶ無力な漂流物へと変えた。全てのシステムを、停止させたのだ。
それを確認したカラー二将軍は、次の命令を下した、
「コレヨリ制圧スル。ハンターポッドを送り出せ」
ヴェネター級〈ダークネス〉のハンガーベイより、ハンターポッド―――ドロック級ボーディング・シップが出撃した。
ハンターポッドが出撃してから、5分が経過した。
「第3、7分隊ハ―――」
艦橋ではB1とB2バトルドロイドとの操作コンソール上に艦内簡略図が表示され、バトルドロイドの展開状況、制圧状況が表示。エアロック、艦橋、機関室などの位置が大まかに表示され、多数のバトルドロイド分隊が制圧に向かっている状況がリアルタイムに更新されている。
そんな時だった。艦橋に、若い女性の声音が満ちる。
「―――中々順調じゃないか、将軍」
そこに現れたのは黒いマントを翻し、漆黒の装甲服に身を包む黒髪の美女。4号―――ダークネス卿である。指揮する将軍に、彼女は告げる。
「此処は任せる」
背を向け、艦橋を去ろうとする時だった。何処に向かうのかを問う将軍に対し、ダークネス卿は愉しげな色を浮かべた。
「挨拶、していなかったからな」
靴を響かせながら、彼女は悠然と艦橋を後にした。
後書き
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!
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