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第59話「第十一番惑星、救出作戦を開始する!」
前書き
ネオ・代表05−1です。第60話「第十一番惑星、救出作戦を開始する!」となります。
どうぞ、ご覧ください。
———第十一番惑星。
爆発音が聞こえると共に、部屋が揺れる。その正体はガトランティスの攻撃機―――〈デスパデーター〉で、これは断続的に続いていた。
この部屋はシェルターで、某鉱山基地の内部に存在している。そして、此処は簡易なれど管制室を兼ねている部屋でもある。全区画の様子を管理出来る他、簡易であれど通信設備が備わっているのだ。
避難民は、100人を超える。隊員達は備蓄されていた水と非常食を配ると同時に、身元確認と傷病者の応急手当も行っていた。
「この星が墓場とならずによかったぁ」
そう口にしたのは、フォーマルスーツを着用する黒髪赤眼の女性―――ラウラこと3号だ。彼女は非常食を食べ終え、現在は水を飲んでいる。
「それにしても、避難民の皆は不安の色で占めているな。まぁ、私もその一人だが」
無理はないと、3号は思う。ガトランティスがこの星に攻め込んで来てから、既に1日が経過した。クリスマス・イベントを開催していた某スタジアムと都市は灰燼と帰した。その衝撃と疲労が、多くの避難民は緊張の糸が途切れ泥のように眠り込んでいるのだ。
当然だろう、と3号は懐かしんだ。夜を徹しての避難行は厳しいものだった。何よりもだ。避難民の数は、これが全てではない。元々は、今の何倍もいたのだ。それがガトランティスの人型自律兵器により攻撃を受け、今に至るという訳だ。
「不謹慎ながら、カッコよかったな」
横長のレーダーも兼ねているであろう頭部と胴体部と腕部は細いシャフトで接続された―――ガトランティスの人型自律兵器。なんと驚くべきことに、肩部にはアケーリアス特有の紋様がマーキングされていたのだ。不思議だなと、今でも思う。
「天城。それの調子、どうだ?」
その声に、3号は顔を向けた。その方向には、第七空間騎兵隊の隊長―――斎藤始がいた。巨躯な身体をし、顔の左頬には大きな十字傷が存在する男だ。
天城と呼ばれた大柄な男は、通信機に向き合い操作していた。斎藤の問いかけに、彼は首を横に振るう。
「駄目です隊長、通信施設は全てやられています」
その返答に、斎藤は溜息を吐いた。基地司令部から敵襲を報せる通信が送信されれば、現在パトロールの任に就いている艦隊はワープで駆けつけてくれる。しかし、それが出来ないのは、通信施設が全てやられてしまった為だ。
聞いていた3号は、斎藤と同じく溜息を吐いた。それに対する溜息でもあるが、携帯型の通信機を持っていたほうがよかったな、と自分に対しての溜息でもあった。
「彼が向き合っている、その通信機は使えないのか?」
3号はそれに振り向くと、メガネを掛けた50代の男が天城へ問うた。確か彼は、アケーリアス文明について調査している考古学者の―――ロバート・レドラウズ教授だったか。レドラウズ教授に対し、倉田と呼ばれる空間騎兵隊員は吐き捨てるように言い放つ。
「こいつ―――簡易通信機は、出力が弱すぎるんですよ。正直、地球にも付近の艦隊にも救援要請が届くかどうか怪しい」
倉田は語る。通信可能な範囲はこの第十一番惑星と衛星軌道までで、即時の連絡をする為には通信施設で中継する必要がある。しかしその通信施設は、ガトランティス攻撃機〈デスパデーター〉によって全て爆撃されてしまった。破壊された通信施設以外にも、軌道上に存在する衛星を通じての通信を試みるも果たせなかった。
この第十一番惑星を攻め込んで来たガトランティスは入念で、そして迅速だ。事前に偵察でもしたか、情報提供者でもいたのか、データを収集でもしなければ、真っ先に軍施設や通信施設を爆撃なんてしない。
ふと、3号は”彼女”を見やる。あのビルのベランダにいた長い黒髪の女性―――桂木透子を。レドラウズ教授の助手にして考古学者である彼女は、長い緑髪の幼いガミラス人の少女を自身の膝枕に乗せていた。
3号は、ふと思った。もしや彼女は、敵に情報を渡している提供者ではなかろうか。大きく両手を広げ空を見ていたのは、おそらくテレパシーの類で情報を提供していた。容姿は地球人なのは、偵察に適すから。
3号は笑みを零した。…ふふっ、なんて名推理なのだろうか、名探偵かな。
「なら救援は…」
避難民の誰もが不安の表情を浮かべ、悲観的に見ていた。私は名探偵だなと、内心で自分を褒め称えている3号を除いて。
天城が顔を上げ、斎藤へ振り向くと共に報告する。
「外洋防衛師団司令部の通信波、捉えました」
その報告に、斎藤は満面の笑みを浮かべた。
「そうだよな、親父さんはそう簡単に死ぬタマじゃねぇ」
斎藤は続きを促すと、天城は応えた。そういえば斎藤は親父とは言っていたが、父親がその司令部で勤務しているのだろうか。にしても、親父さんとは…。3号は、小さく首を傾げた。
「こちらからの通信は妨害されているようですが、司令部とガトランティスの交信を捉えることは出来ました。音声のみではありますが」
どうします流しますか、と問うた天城に斎藤は頷いた。それを確認した彼はポチッと押すと、通信機越しの会話がこの部屋に満ちる。
『―――戦いの選択肢は幾つも残っている。我々は、貴官らを一人でも多く道連れにするという選択肢もある」
スピーカーから、凛とした土方の声が聞こえる。だが、と彼は言葉を紡ぐ。
『これ以上、犠牲を出すことは望まない。それは、貴官らも同じ筈」
降伏しよう、と土方は告げた時だ。ガトランティスの指揮官らしき男が声を上げる。
『こうふく?』
それは冷たい声音で、土方の発言を理解が出来ないようなものだった。ガトランティスの指揮官が訊き返したのは、言葉の意味が伝わっていないから。いや、或いは、そもそも「降伏」という概念が存在しないのだろう。3号はそう思った。
『こうふく、とは何だ?それは、どのようなものなのだ?』
事実、ガトランティスの指揮官は問うた。「降伏」という概念は、自分達にとって未知なるものだから。土方は、降伏とは何かと簡単に答える。
『降伏はものでは無く行為を示し、敗北を認め戦いを終わらせることだ』
『そうか…』
降伏、降伏、とガトランティスの指揮官は繰り返し口にする。そんな彼に、土方は告げる。
『貴官らは―――』
『戦いを終わらせたいのか?』
ガトランティスの指揮官は、土方が続けようとした言葉を遮った。そうだ、と彼が答えるよりも先に、敵の指揮官は冷たくゾッとするような声音で告げた。
『―――ならば死ね、戦って死ね』
直後に、地鳴りのような音が交じる。司令部が爆撃を受けているのだと、3号は理解した。
『さすれば、この星にも安寧が訪れる』
爆撃が一層に激しさを増したであろう音が聞こえると共に、土方とガトランティス指揮官の交信は途切れた。代わりに、砂利を混ざるような雑音が流れている。
天城が操作すると、通信機の電源はオフになった。部屋は、シーンと水を打ったように静まり返る。
なんて怖い種族なんだ、と3号はドン引きしていた。我がブリリアンスとは違うな、と彼女は思う。クロイン以下の国家群との戦争時では軍人のみをサヨナラしているし、武器を持っていない民間人には手を出すなと指示。我がブリリアンスの属国と化した異星国家群に対して、我々ブリリアンスは丁重な扱いを今もしている。なんて優しいんだと、彼女はそう思わずにはいられなかった。
「戦って死ねだと、…上等じゃねぇか!」
ふん、と斎藤は鼻を鳴らしたことで3号は現実に戻る。斎藤はコンソールの一角に向かい、太い指先で操作していく。するとディスプレイにこの施設内に存在するカメラを通して、宇宙船発進口の映像が表示されていた。
「だが、戦いは俺ら軍人の務めだ。民間人を巻き込む訳にはイかねぇ!」
映像には垂直発進型の宇宙船が屹立しており、その下部には束ねられた推進ロケットが集中していた。ガミラスの宇宙船ではない、地球が建造した宇宙船だ。それを知っているのか、空間騎兵隊の女軍人はその名を口にする。
「高速艇〈シーボルト〉?」
彼女に対し、斎藤は頷く。そういえば彼女、私の手を引いて助けてくれた女軍人だったな。確か名前が―――永倉詩織だったか。容貌はブラウンのロングヘアをポニーテールに纏め上げているが、3総ほど前髪が垂れている。口元の黒子がチャームポイントだろう。
「そうだ、緊急連絡用のヤツだ」
画面を切り替えると宇宙船の3D画像が表示され、内部構造と諸元が並ぶ。高速艇〈シーボルト〉はサイズこそ小型舟艇であるが、民間の宇宙船にも標準装備されている―――ワープが可能な艦となっている。
避難民にも観えるよう、斎藤は脇へと退けた。避難民は身を乗り出し、画面に映る〈シーボルト〉を食い入るように見つめる。
「コイツで脱出する」
斎藤は笑みを浮かべ、その画面に映る〈シーボルト〉を親指で指さした。
「無理だ!」
即座に、レドラウズ教授は言い放つ。彼は落胆し、目を逸らしていた。
「とても全員は乗れない」
レドラウズ教授の言う通り、全員は乗れない。〈シーボルト〉船体の殆どは、加速用のブースターとワープ機関に占められている。操縦士は1名のみであり、操縦士以外に無理に搭乗させれたとしても数人が限界だ。
「せめて、子供達だけでも…」
レドラウズ教授はそう言うが、それは無理だろう。その子供達だって、何人もいるのだ。倉田は左腰に左手を置き、天を仰ぐ。
「子供達を乗せてちゃぁ、包囲網突破の無茶な操縦などうしたって無理だ」
軌道上に展開するガトランティス艦隊の規模はどれほどか、現状ではその全容を掴められていない。この施設からの通信波は妨害され、設置されている簡易レーダーでの観測も難しい状態だ。ただ、攻撃の規模から空母を中心とした機動艦隊であるのは判っている。
それでも〈シーボルト〉が軌道上へ出れば、攻撃を受けるのは明白だ。ましてや武装はおろか、波動防壁すら搭載されていないのだ。子供達だけでは、倉田の言う通り包囲網突破は無理だ。
「その通り。此処は、お前に賭けるしかねぇ」
大きく頷いた斎藤に、倉田と天城も続く。それに対し、永倉は訝しんだ。皆して、自分に顔を向けているからだ。
「え、ちょ、ちょっと、あたしが?なんで?…まさか、あたしが女だからっていうんじゃないでしょうね?」
隊長と同僚に注がれる視線に戸惑う永倉は、隊長―――斎藤へ睨みつけながら訪ねた。斎藤は苦笑いを浮かべ、睨みつけている彼女へ歩み寄った。
「地獄の底に、助けの船を引っ張って来るんだ。お前にしか、出来ねぇよ」
背の高い斎藤の顔を、永倉は仰いだ。自分を見下ろす彼の瞳には、決死の色があった。助けを連れて来るまで待つ、と言外に告げているのだ。此処を死守し避難民をこれ以上、一人たりとも死なせないという覚悟を斎藤達は宿している。
「…はぁ」
その眼差しに耐えられるなくなったのか、永倉はぷいっと背中を向けた。
「貸しだよ、隊長」
彼女は歩き出し、その場を後にした。
―――海王星宙域。
叛乱容疑が晴れた宇宙戦艦ヤマトは、かつて太陽系の最遠部であった海王星軌道に到達していた。
現在〈ヤマト〉の中央作戦室では、ブリーフィングが行われていた。この場には艦長代理の古代、航海長の島、技術長の真田、機関長の徳川、アドバイザーとして乗艦しているガミラス人の駐在武官―――クラウス•キーマン、そして月面基地から〈ヤマト〉に合流した坊主頭の男―――加藤三郎が集っている。
加藤三郎は〈ヤマト〉ではかつて航空隊の隊長を務めた男で、イスカンダル航海の帰還後は月面基地にて《筆頭教官》として航空隊の後進の育成をしている。
そんな彼がヤマトに合流したのは、妻―――真琴に後押しされたからである。
中央作戦室には、テーブルや椅子といった物は一切無い。ブリーフィングの際は、床型の大型なスクリーンが使用される。そのスクリーンは上に立つ者から立体視出来るよう設えられており、宇宙空間を映せばそのまま虚空を足下に見下ろすような感覚を覚えるだろう。
航海科のトップ―――島が告げる。間接照明の明度が落とされた中央作戦室の足下―――床型スクリーンに航路図が表示され、下方からの光は出席者の顔を照らし、ぼんやりと影が刻まれていた。
「現在の座標から、再加速を掛けた場合の最短ルートがこれだ」
島に呼応した床型スクリーンの表示は、その範囲を広げていく。やがて真っ直ぐと延びる一筋の道筋は太陽系を超え、オリオン腕を超え、地球から銀河系の南の方向へ向かっていった。
説明すると共に、島は古代を見やる。
「16時間ごとにワープを消化すれば、〈ヤマト〉は29日後にはメッセージが発進された宙域に到達出来る」
島だけではない。この場に集う皆が、古代へ視線を向けた。
「……」
古代は、床型スクリーンに表示されている宙域を見つめていた。目的地であるテレザート星ではなく、太陽系の最果ての星―――第十一番惑星をだ。
古代はブリーフィングの前に、真田と共に艦内の通信室で司令部と連絡を取り、第十一番惑星への事態についての対応を話し合った。相手は統括司令長官―――藤堂と、統括司令副長官―――芹沢だ。
藤堂と芹沢は、その事態への介入を許さなかった。
―――諸君には予定通り、テレザート星へ向かって貰いたい。
―――協議が整い次第、第十一番惑星の奪還を敢行する。
異議を唱えた古代だが、2人の返答は変わらずだった。古代にとって、承服しかねること。
『……』
彼だけではない。この場に集うイスカンダル航海を共にした仲間も、同じ気持ちなのだ。彼らは、古代と同じく第十一番惑星を見つめていた。…ガミラス人の駐在武官―――キーマンを除いて。
「観ての通り、第十一番惑星は航路の外だ」
古代達は、アドバイザーとして乗艦しているキーマンへ視線を向けた。注がれる視線を受けている彼は、言葉を紡いだ。
「一刻も早く《テレザート》へ辿り着く、それが〈ヤマト〉の目的だ。それは、第十一番惑星の件より優先される任務」
表情変えずそう言ったキーマンに、古代の拳に力が込められた。
「……」
古代を一瞥したキーマンは、見渡しながら告げる。確かにガトランティスが第十一番惑星にまで攻め込んでいた事は重要な情報だが、寄り道などしている時間は無い。地球に危機は伝えた。〈ヤマト〉の役目は、それで十分だ。一刻も早くテレザート星へ向かう。それが、キーマンの判断だった。
「〈ヤマト〉の目的である以上―――」
「目的は人助け」
続けようとした時、1人の若い女性によって遮りられるキーマン。彼と古代達の視線は、彼女へ注がれる。白色のショートヘアと緋眼をする、褐色の女性は加藤の隣に並ぶと口を開いた。
「《テレザート》の救援要請に応じることが《ヤマト》の目的だと、私は理解しております」
にもかかわらず、と静かにキーマンを睨みつける玲。
「目の前で溺れている者を見捨てるというのは矛盾です、承服出来ません」
断固たる口調で、彼女は告げた。
「君は、確か…」
キーマンは、彼女の顔を見て思い出した。イスカンダル航海中で航空隊に転属しエースパイロットとして君臨、帰還後は月面基地航空隊に配属され新人の指導に当たっている女性。
「中尉に命を救っていただいた者です」
間違いない、彼女は―――山本玲だ。
「何故、此処にいる?此処は、上級士官のみの会議だが」
キーマンは驚くことなく玲へ問いかける。突然の介入にも、それがここにいる筈で無い人間に驚いた訳ではない。何者かは把握している故の反応だからだ。
キーマンに向き直った玲は、その問いかけに無視し問い返す。
「同胞の危機を見過ごせないのは、ガミラスも地球も変わりないのでは?」
嫌な物言いだと、キーマンは思う。答えようによっては『ガミラスでは見殺しにするのが常套でしょうけどね』と捉えられるだが、彼はここでガミラス人を代表して釈明の議論をするつもりは無い。
「残酷なようだが、時間が経ち過ぎている。もう生存者はいない」
しかし、玲は引き下がらなかった。
「行ってみなければわからないでしょう?!現に脱出してきた者が―――」
「水掛け論だ」
キーマンが遮ったことで、玲は静かに睨みつけながら黙る。それは確認した彼は、古代へ顔を向ける。
「艦長代理の判断を伺いたい」
「……」
古代はこのやり取りの間も、視線を落としたままだった。その視線の先にあるのは、先と同じ第十一番惑星。全員の視線が注がれる中、古代は告げる。
「〈ヤマト〉単独で突入するには、この状況は過酷だ」
だが、と彼は顔を上げると同時に断言する。
「《バラン星》の時と比べれば、ものの数ではない」
バラン星とは天の川銀河と大マゼランの中間に位置する浮遊惑星で、アケーリアス文明の遺産―――亜空間ゲートが存在しエネルギープラントをも管理するガミラスの中核基地である。
眉を顰めるキーマンに構わず、古代は言葉を紡ぐ。
「あの時の、沖田さんの戦術に倣う。ワープアウトのポイントは、人工太陽と地表の中間だ。―――死中の活を求める、だ」
古代は、あの時の事を追憶した。
あの時、《バラン星》では一万隻を軽く超えるガミラス戦闘艦が集っていた。当時は知らなかったが、閲兵式が行われていたのだ。
真田は迂回を提示したのに対し、艦長の沖田はその反対だった。驚愕する全員に対し、あの時の沖田はその理由をこう述べた。
『これを迂回した場合、時間はロスするが1万隻を超える大艦隊の脅威はパス出来る。ただし、ガミラスに再補足された時、大艦隊の一部が亜空間ゲートを用いて先回りし追撃に回されれば、如何に〈ヤマト〉といえども沈む可能性は高い』
『だが、後を考えれば、この状況は同時にチャンスとなる。単独で《イスカンダル》を目指すとなれば、遅かれ早かれこの大規模艦隊の一部とは必ず交戦する必要が出てくる。もしガミラス艦隊戦力の大部分がバラン星に集結しているならば、大マゼランは手薄。今一度言うが、この状況はチャンスだ』
敵方の心情で考えてみれば、〈ヤマト〉単独に対しガミラスは一万隻を軽く超える大艦隊。正気であれば、普通は突撃したりしない。
この戦いだけを見れば、真田のその判断は正しかっただろう。しかし、沖田の「死中に活を求める」は、イスカンダル航海全体が死中であり、その中でこの戦いこそが”活”を戦略的に見出すことが出来ると踏んでの判断だったのだ。
もしもこの場面一つだけを見て沖田が無鉄砲な突撃をする人物ならば、そもそも偵察した意味はないのだ。
そうして、作戦は決行された。
閲兵式中の横っ腹に突撃した〈ヤマト〉は《バラン星》の雲海に突入し撃沈を装い敵の油断に成功し、エンジン全開で《バラン星》を離脱後にゲートを背にし波動砲を発射。《バラン星》のエネルギープラントを撃ち抜き、重力アンカーの解除によって〈ヤマト〉は一気に後退と共に亜空間ゲートへ突入。
大マゼランに到着したことで、作戦は無事に成功。《バラン星》は崩壊し、ガミラスの大艦隊は約90日の彼方に置き去りとなった。
「危険過ぎる」
島は抗議した。真田と徳川も、彼と同じだ。
「惑星表面へのグラビティダメージで、波動エンジンは一時的に使えなくなるぞ」
「復旧までに2時間。その間は、ショックカノンも波動防壁も使えん」
承知の上です、と古代は凛とした声音で応じた。
「潔い。まさしく、沖田戦法か」
キーマンは大仰に手を叩いた。声音には、厭味が込められていた。一度その瞳を閉じていた彼は、古代に対し嘲笑の色を浮かべる。
「それだけのリスクを冒して、死体の回収をノコノコと赴くのが〈ヤマト〉の使命か」
死体の回収、という言葉に玲と加藤は反応する。
「死体ですってッ!」
「この野郎ッ!」
彼女と彼は憤り、キーマンのその綺麗な顔を殴らんと歩を進めようとした時だ。
「万に一つ」
古代の決然とした声音に、玲と加藤は動きを止めた。2人は視線を彼へ向け、キーマンも同様に視線を向ける。キーマンとしては、危険を冒してまでする価値があるのか疑問に思う。
「万に一つの可能性にかけて、彼女は戦場から脱出した。その万に一つは生きている者が未だいると、俺達が信じることしか始まらない」
古代の視線の先へ一同は振り向くと、そこにはSOSを求めた空間騎兵隊の野戦服を着崩した女性―――永倉が直立不動の姿勢で古代達を見ていた。
彼女の隣には、赤いロボットの【アナライザー】と御年60歳である艦医の【佐藤酒蔵】がいる。
「……」
キーマンは思う。なるほど、ここの出入りはそれほど厳格なものではないらしい。
当事者である永倉本人を前に、それでも見捨てろと断言するほど自分は冷酷では無い。気遣いや優しさというよりは、ここで心情を逆撫でするのはどちらにとっても有益ではないと考えたからだ。こちらの意向が必ずしも最善とは限らない、これ以上どうこう言う必要は無い。
やれやれと、キーマンは肩を竦めた。それを尻目に、古代は全員へ目を転じたと同時に宣言する。
「総員、第一種戦闘配置を維持しつつ、 ワープ準備! 第十一番惑星、救出作戦を開始する!」
同時に宇宙戦艦ヤマトのレーダー範囲外ギリギリで、5隻からなるブリリアンス艦隊が〈ヤマト〉の後方を航行していた。
―――ブリリアンス艦隊旗艦、改アクラメータ級〈アラレス〉。
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『最高機密文書を運んでいるとはいえ、お前達は第十一番惑星に襲来したガトランティス艦隊を蹴散らせ。分かったな』
「ラジャー、ラジャー!」
ブリリアンス大使リンガルの命令を聞いたOOMコマンダーバトルドロイドは、挙手敬礼すると共に力強く頷いた。
「トイウコトハ、第十一番惑星ノ生存者ハ救助スルナデスネ!」
『違う違う』
ブリリアンス大使リンガル―――2号は、こめかみを抑えたのだった。
後書き
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!
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