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第56話「建造開始の叫び」
前書き
ネオ・代表05ー1です。第56話「建造開始の叫び」となります。
どうぞ、ご覧ください。
「遂に…!遂に私は、ギルド長級を……!!」
ブリリアンス・ギルドの頂点に君臨するギルド長―――スヴェートは”それ”を前に、両手を天へ振り上げて叫んだ。
「これが、ギルド長級の専用建造ドック!デカい!広い!」
声高に叫ぶスヴェートの左後ろで控えている、漆黒のコスチュームを着用するスラクルは口を開く。
「お待たせ致しました。時間は掛かりましたが、これでギルド長級《スヴェートⅠ世》の艦船建造が可能となりました」
本部が設置されている《ブリリアンス星》からそう離れていない惑星に建造された専用ドックへ、足を運んでいたスヴェートは絶賛興奮していた。
「素晴らしい、実に素晴らしいではないかね!」
「はい、ギルド長閣下」
この専用の建造ドックは全天候型であり、同じく全天候型の大型艦船ドック群と併設されている。内部では建造機械と建造ドローンが移動しており、専用ドックでは《スヴェートⅠ世》の建造が開始されていた。
スラクルは語り出す。
「ギルド長級《スヴェートⅠ世》は、エターナルストーム級戦艦を基に建造しております。オリジナル機関―――ブリリアンス・ドライブを多数搭載、また重力ドライブを搭載します。ブリリアンス艦隊の総旗艦として運用が出来るよう、指揮機能は充実しています。《スヴェートⅠ世》の建造が完了次第、惑星破壊兵器と同様に《秘匿宙域》に移送する予定です」
《秘匿宙域》は球体―――灰色の惑星破壊兵器が駐留している宙域で、外部との繋がりが限られている場所だ。《秘匿宙域》には、次元跳躍阻害と通常空間に引き戻す能力を持つ兵器と通信妨害に特化した艦船、そしてAC721駆逐艦シリーズとアクラメータ級Ⅰ型戦闘航宙艦の艦隊が警備の任に就いている。そこに、《スヴェートⅠ世》が移送されるのだ。
視線をスヴェートへ向けているスラクルは思う。ギルド長はどうせ、地球に喧伝しようと考えているに違いない。
「我が娘スラクルよ」
興奮していたスヴェートは、顔を少し後ろへ振り向けた。あ〜やっぱりか、と微笑みの色を強引に浮かべさせたスラクルへキリッとした顔で彼女は告げる。
「地球に喧伝したい。《秘匿宙域》へ移送するのは、中止にしたほうがよいのではないかな」
はい、キリッとした顔でいただきました。その気満々のスヴェートへ、スラクルは首を横に振った。
「地球へ喧伝は、やめたほうが宜しいかと思います。地球は今、復興の最中。あまりこういった事を喧伝してしまうと、復興に専念出来ないでしょう。《スヴェートⅠ世》の喧伝は、時期尚早かと。ここは、私に任せていただけませんか」
「うむ、宜しく頼むぞ」
迷うことのない即答だった。
「お任せください」
建造中の《スヴェートⅠ世》に視線を戻すスヴェートは、興奮状態へと戻った。それを見ているスラクルは、微笑みを浮かべていながら思う。確約はしてない、「絶対にやる」とは一言も。リアルで存在していた政治家の台詞を参考にして言ってみたが、まぁあれだ、迷うことなく即答するギルド長が悪い。悪徳商法のように、コロッと騙されてもらおう。
そもそも、だ。
惑星破壊兵器の時もそうだったがギルド長の思考回路は、今でもどうなっているのか不思議でしょうがない。何故彼女は、こうも喧伝しようとするのだろうか。そもそも知っているのだろうか…いや、この人のことだから知っていたとしても「なんでかなぁ?」と首を傾げるだけか。全く……仮想敵には、ブリリアンスも含まれている意味を理解して欲しいものだ。
スラクルはチラリっと、建造中である改アクラメータ級戦闘航宙艦と上位互換の艦船を見た。それを見て、ブリリアンスが仮想敵であるのは納得です、と内心で頷いた。アクラメータ級を何隻も保有している挙げ句、それ以上の大きさを持つ艦船をも建造出来るのだ。当然だろう。
情報開示を制限しているとはいえ、こう予測している筈だ。―――艦隊戦力はガミラスと同等もしくは同等以上ではないか、と。
事実その通り、正解である。
はぁ、とスラクルは溜息を吐いた。もしも喧伝してしまえば、地球が波動砲艦隊で進撃してくる可能性だってありえる。波動砲を装備しているアンドロメダ級は全長500mにも満たないというのに惑星を一撃で死に至らせる挙げ句、拡散波動砲という対艦隊戦に特化しているモードにも切り替え可能とは、…チートではなかろうか。正直なところ、ブリリアンスといえども、仮に迎え撃ち勝てたとしても損害は決して無視出来ないだろう。
西暦2203年の4月には、一万三千隻を超える波動砲艦のみの艦隊が完成するようだが……滅亡の淵にあった地球にしてはインフレし過ぎではなかろうか。波動砲艦隊が一つの銀河系を制覇するは、やろうと思えば簡単なのは計算するまでもない。異星人への警戒により軍拡に集中するのは理解出来るが、それにしてもインフレし過ぎだ。
もう、あれだ。逆にブリリアンスが地球を仮想敵に断定したいくらいだ。その地球出身のギルド長はだが、波動砲艦隊がそれはもうカッコイイ大好きなんて言っている。………お気楽で羨ましいことだ。
艦隊は防衛としてアルポ銀河の国境に艦隊を配置し、多数の艦隊を遊弋させているスラクル。手元にある戦力を泳がせるのは性に合わないと、本星周辺を固めていたギルド長は当時そう言っていたがゲーマーの性を出さないでもらいたい。現実世界は、ゲームの世界ではないのだ。大戦力を本星の防衛のみに利用するというのは、忌避すべき事だ。
スラクルは、スヴェートへ向けていた視線を《スヴェートⅠ世》へ向ける。
建造機械とドローンが船体を出力していた。予定では、104時間で船体の出力が完了する。その後、進宙させる。
そして、乗員の習熟期間は不要だ。建造開始から、おおよそ1週間もしないで戦力化が可能。単独での行動は出来るが、ギルド長が座乗する艦船であるため随伴艦は必要だ。
「《スヴェートⅠ世》の進宙後、ギルド長直属の艦隊―――スヴェート艦隊を準備しなくては」
スヴェート艦隊の規模は、千隻〜五千隻の艦艇で構成される《アルマダ(無敵艦隊)》だ。これは、かつてのWOS時代でもそうだと聞く。
この艦隊は直属であると同時に、《荒らし殲滅プロトコル》の為の艦隊。この艦隊はギルド長によって率いられ、惑星破壊兵器をも艦隊に編成されるのだ。
資源は無限ではないというのに、とスラクルは苦笑いを浮かべた。最も、今の資源収支であれば新たに艦隊を造ることなんて訳ない。
「完成が待ち遠しい!」
「全くです」
スラクルは、ギルド長スヴェートを見守っていた。
後書き
次回第57話「〈ヤマト〉が反乱したのか」もお楽しみに!
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!
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