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第48話「就役式典」

 
前書き
ネオ・代表05−1です。第48話「就役式典」となります。
どうぞ、ご覧ください。 

 
 ―――就役式典会場。

 雲一つない青空に花火が打ち上げられ、幾つもの色が青空を飾り、花びらのように広がっていった。花火に続き、楽団が演奏をしていく。
 
 観衆は5万人にも及び、来賓席の真下には二段の観客席が設けられ、びっしりと観客で埋まっていた。この観衆は新鋭戦艦の進水式を、一目見ようとやって来た者達だ。

 地球では、宇宙戦艦は海を航行する艦船と同じように見做(みな)していた。ガミラス以下の星間文明からすれば、奇怪な形状をしていることだろう。だが新鋭戦艦と宇宙戦艦ヤマトは、数世紀前に海で浮ぶ戦艦をベースにし造られており、地球人とブリリアンス女王スヴェートからすれば違和感のない形状だ。

 進水式は船体が完成した段階で水に浮かべ、その後で兵装などを取り付ける艤装を行う。進水は建造された艦船が水上の存在として生まれる瞬間だ。そこでこれを祝い、艤装作業の成功と航海の安全を願って就役式典である進水式が挙行するのだ。

 宇宙戦艦であってもそれは同様で、観客席の真下に除く新鋭戦艦―――アンドロメダ級を進水式と銘打っているのは、新鋭戦艦アンドロメダ級に対する心象を表しているからだ。新設計の戦艦を就役させ、それを公表するのは久しぶりの事であり、市民の関心は極めて高い。その証拠に、市民は今もなお歓喜の声を上げている。

 首都の北側に位置するこの港湾施設は、1年前より建設されていた。造船ドックそのものは背後の工場区画に置かれ、関係者以外は見ることが叶わなかったが、海に向かうスローブと数km先で天に向かうカタパルトが出来ていく様子は、市民の好奇心をそそらずにはいられなかった。

 そして現在、新鋭戦艦ことアンドロメダ級の就役を政府が発表しようとしている。好事家達の間で、話題を呼んだ。先ずアンドロメダ級を滑走させる滑走台の電磁レール幅が、100mを超えていたのだ。
 しかも、電磁レールと連なるカタパルトは四基も設けられている。それを見た1人の好事家は、こう唱えた。―――政府は〈ヤマト〉を超える戦艦を4隻同時に就役させるのではと。最も、「現実を見ろよw」で押し返されてしまう。

 そもそも、だ。

 地球は、かつての生産力を取り戻したとは言い難い。同時に4隻なんて、先の事だろうと。それは当然の思考であり、押し返した側は信じて疑わず、唱えた側は心の何処かでは現実的ではないと思うようになった。どちらも、そう思っていた。―――瞳に映るアンドロメダ級4隻を見るまでは。

 もう生産力が向上したのかと、好事家達は驚きの声を上げたと共に疑問を浮かべたのだが、「アンドロメダ級カッコイイ!」と興奮し疑問をポイした。ちなみに、とある好事家の妻はツッコミをし呆れていた。

 さて、だ。

 地球連邦初代大統領―――ペネット・アントニックが登壇したことで、いよいよ発表されようとしていた。拍手と歓声がペネットを迎える中、彼は演壇の前に立つ。演壇直下の貴賓席に座る軍需産業オブザーバーはペネットが演壇してもなお談笑しているに対し、オブザーバー前列の貴賓席に座る5人の者達は静かにしていた。
 
 ペネット大統領は、観客達へ応えるよう暫くの間は沈黙していた。それからゆっくりと見渡してから、全世界の皆さん、と呼びかけた。

 「私は、地球連邦政府初代大統領として、今日ここに最新鋭艦アンドロメダ級の完成を、報告する者であります」

 登壇した以上に、歓呼が湧き上がる。華々しくも晴れやかな式典は、地球連邦の影響力を及ぼす範囲全てに渡り生中継されている。ペネット大統領は続ける。

 「宇宙の平和、それをもたらし、それを守る力となるのは、我が地球とガミラス、そしてブリリアンスの同盟であります。その重責を担うシンボルとして、既に一番艦である〈アンドロメダ〉は共同作戦に従事し、華々しい戦果を挙げております。続く4人の姉妹も、必ずや我々の期待に応え、平和を守る盾となってくれることでしょう!」

 この4隻とは別に、〈アンドロメダ〉が就役していることを多くの者は聞かされていなかった。その為、どよめきの色を観客は浮かべているのは当然だった。けれど、それがどれ程の意味を持っているのか、観客は理解する。

 ―――5隻!?〈ヤマト〉よりも大型の戦艦が5隻も!これは凄い!
 ―――華々しい戦果を挙げた!流石は地球連邦!
 ―――早くプラモデルとなって出て来て欲しい!

 どよめきは歓喜へと変わった。熱狂と興奮が、観客を支配する。

 貴賓席に座るガミラス人の駐在武官―――クラウス・キーマンという名の金髪の青年は、熱狂と興奮が貴賓席にまで伝わるのを感じていた。この式典の模様は、本星にも送られている。本星は地球を頼もしい国家と見るか、それとも脅威と見做すのか。反応は、現時点では分からない。
 ガミラス本星と同じく、ブリリアンスの本星にも送られていることだろう。ブリリアンスは我が国と同様に、地球を頼もしい国家として見るのか、脅威とするのか。だが、あの国家の反応は、前者だろう。

 ブリリアンスはどのような国家なのか、それは定かではない。分かるとすれば、ガミラスと同じく一つの銀河を支配し、そして、火焔直撃砲の砲撃を防御してみせた全長700m級の楔型艦を何隻も保有していることだ。

 チラリっと、正面の海へと視線を向けていたクラウスは、地球連邦軍統括司令長官―――藤堂の左隣に座るブリリアンスの大使を見やる。ブリリアンス大使は女性で、年齢は23歳。艶かで美しく、きめ細かな黒髪。整った形の眉に、スッと筋の通った小鼻。女性らしい長い睫毛。強い意志を感じさせる唇。雪のように白い肌にはシミひとつ無く、シルクのように滑らかで女性特有の柔らかさがあった。

 常に黒サングラスを掛け黒スーツ姿である彼女の名前は、リンガル・フォーネット。黒サングラスを掛けているため瞳からの感情は分からないが、クラウスは見た。彼女の口元が緩んでいるのを。なるほど、リンガルとしては前者か。

 ペネット大統領の演説に続いて、式典は命名式に移行する。

 「これより、命名式に移ります!」

 士官が封書を開き、アンドロメダ級4隻の名称を読み上げた。二番艦〈アルデバラン〉、三番艦〈アポロノーム〉、四番艦〈アキレス〉、五番艦〈アンタレス〉、それぞれは神話に登場する女性の名前が与えられている。

 「何故、教えていただけなかったのですか」

 今まで静かであった5人の内の1人、ガミラス大使―――ローレン・バレルは顔を動かさず口を開いた。紫色の短髪をし、顎鬚と繋がる容姿をしている。年齢は47歳。文官肌で思慮深いバレル大使は、時には剛腕とも言える外交手腕を発揮する。
 彼の声音は、問いかけだった。それは藤堂と統括副司令長官―――芹沢に向けられていた。彼は続ける。

 「ガトランティスの兵は、肉体に所定の処置を施さねば自爆する。そのように造られているのです」

 バレル大使は語る。失敗に終わった敵艦の首都特攻事件の後、唯一の生き残りを研究施設へ移送し生体データの収集に努めていなければ、元ヤマトクルーの女性を除き、研究者が死亡することは無かった。ガトランティス兵は人の形をした、兵器のような存在なのだ。

 「我々に一報してくだされば」

 何故、黙っていたのか。生体データを収集するにしても、ガミラスであれば自爆防止処理が施せるのだと。問い続けるバレル大使を、芹沢が抗弁する。

 「お言葉ですが、重要な情報を今更開示されるというのはどうも―――」

 「我々の落ち度であると?」

 バレル大使は芹沢の言葉を遮り、訊き返す。それに、藤堂は困惑する声音を漂わせながら言葉を発する。

 「いいえ、しかしせめて共同作戦の実施前に―――」

 「確かに、過去に不幸な行き違いはありました」

 「……」

 藤堂が話し始めたところで、芹沢が声を被せてきた。それに対し藤堂は彼へ視線を送ったが、当人は構わず続けた。藤堂は、ほんの少し悲しくなった。

 「しかし、今やガミラスは同盟国です。対等なパートナーであると信じております」

 鐘の音が、辺り一帯へ響き渡る。この鐘は、滑走台に設えている安全装置を外した合図だ。その合図から少しして、アナウンスが流れた。「支網切断」が行われる旨を、だ。

 ペネット大統領の演説が終わると、かつて欧州管区の行政局長を務めた初老の女性が現れた。彼女はペネット大統領へ一例すると、係員から恭しく差し出された銀の斧を受け取った。銀の斧は12月の柔らかな陽射しを受け、鋭く光っていた。彼女はそのまま演台の一角に設えた支網へと向き直り、銀の斧を勢いよく振り下ろした。支網が、切断された瞬間だ。

 支網が切断されると、二番艦〈アルデバラン〉、三番艦〈アポロノーム〉、四番艦〈アキレス〉、五番艦〈アンタレス〉、に祝い酒瓶が叩きつけられる。ガラス製の砕ける音と共に、くす玉が割れた。4隻の新鋭戦艦の舳先に、誕生を祝う大量の紙テープと紙吹雪が舞う。

 刹那、割れんばかりの歓声が湧き上がった。支網は酒瓶やくす玉に連動しているだけではなく、滑走台の射出機構にも連動していた。アンドロメダ級4隻の舳先が、ゆっくりと動き始めた。同時に、だ。

 歓声は今もなお湧き上がっているが、藤堂は肌で感じながらバレル大使へ地球の立場を訴える。

 「今の地球の人口は、往時の三分の一。デスラー体制の崩壊により国が乱れていようと、ガミラスがその気になれば侵略するのは容易です。無論、もうそのようなことは起きないでしょうが」

 アベルト・デスラー。
 永世総統として君臨し国家を恐怖で支配していた男だが、それはもう過去の事。何故なら指導者アベルトが座乗していた〈デウスーラⅡ世〉は、〈ヤマト〉との戦いで爆沈したからだ。今のガミラスは、恐怖支配から脱却しているのだ。

 「疑心暗鬼、という言葉は我々ガミラスにもありますよ。何事にも、バランスが必要です」

 バレル大使は、なおも藤堂の顔を見ることは無かった。彼は続ける。

 「波動砲で国力の差を埋めるおつもりならば、危険な火遊びであると忠告させていただきます」

 地球連邦の同盟国はガミラスとブリリアンスの二国で、どちらも一つの銀河系を支配する勢力。国力で劣っている地球連邦は波動砲を、ガミラスとブリリアンスとの国力差を埋める為の”道具”として扱っている。バレル大使はその事を、忠告しているのだ。

 「恩人であるイスカンダルの約束を反故にしてまで―――」

 しかしそれを芹沢は遮り、一蹴する。

 「そう、あれは一宇宙戦艦艦長の沖田十三がした単なる口約束に過ぎない。条約でも無いし、地球の意思でもありません」

 「……」

 一同の視線が、アンドロメダ級4隻に向けられる。

 船体を支えるガントリーに固定されていた鎖が勢いよく引かれると、観客席の下から4隻のアンドロメダ級が押し出され、スローブを滑っていく。滑走台と電磁レールが触れ合い、火花を生んだ。やがて、アンドロメダ級4隻の全貌が見えてきた。2隻は戦艦型で、残る2隻は空母だ。

 スローブを下りきり滑走台は海面に入ったことで、補助エンジンの噴射が水飛沫を上げさせた。進水を終えたアンドロメダ級4隻はそのまま速度を加速させ、ジャットコースターの如く数キロ先に設えた切り立つカタパルトへ近づくと、一斉にメインエンジン―――波動機関を点火すると共に唸りを上げた。カタパルトを駆け上がり、船体を支えるガントリーが次々と外れると、波動機関の輝きを放ちながら4隻は青空へと舞い上がる。

 やがて全長400mを超えるアンドロメダ級は艦首前方にワープゲートを形成するや、それぞれのワープゲートへ入り、そして消えていった。観衆は万雷の拍手を送り、歓声を上げた。

 こうして、就役式典は終了したのであった。


 ―――ブリリアンス・ギルド駐地球大使館。

 アンドロメダ級4隻の就役式典が終了した後、大使館に戻ったブリリアンス大使である黒髪の女性―――リンガルは執務室を警備する生体アンドロイドに扉に開けさせ、ネクタイの位置を直しながら入室する。入室を確認した生体アンドロイド―――彼女は、扉を閉めた。

 「飲み物の用意を頼む」

 給仕ドロイドにそう言ったリンガルは、扉から見て正面の向かい側にある執務机の椅子へ深く座る。さて、報せるとしようか。向こうも、待っているだろうし。給仕ドロイドから飲み物を受け取ったリンガルは、通信装置の通話ボタンを押した。

 瞬間、端末上に小さなホログラムディスプレイに1人の人物が映し出される。サングラスに隠れたリンガルの赤い瞳が、ホログラムとなって投影されている人物―――ギルド長スヴェートへ向けられた。

 『さて、聞こうか。―――2号』

 2号と呼ばれたリンガルは掛けていたサングラスを取り、机に置いた。

 「では、話そう」

 2号と呼ばれたリンガルの顔は―――スヴェートと瓜二つの顔をしていた。 
 

 
後書き
さてさていかがだったでしょうか。至らないところもあるかと思いますが、温かい目で観ていただけると嬉しいです。ご意見、ご感想お待ちしております。次回もお楽しみに!  
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