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Re:命が軽い魔法の世界でワイらは生きる

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魔法少女育成計画thread people
  【作戦】いきなり遭遇してすみません!【いのちだいじに】

 
前書き
りこ‐てき【利己的】
 読み方:りこてき

 [形動]自分の利益だけを追求しようとするさま。「—な生き方」「—な態度」
                                 出典 [weblio辞書] 

 
◇原作読了済み――三浦 光

 好きな作品の世界に行けたからと言って、それが必ずしも幸福とは限らない。
 好きな作品のキャラに会えるかもという可能性があったとしても、それと自身の命を天秤にかければ、当然のように天秤は命の方へと傾くだろう。
 自分本位な人は、リスクとリターンが釣り合う時にしか動かないし、少しでもリスクの方へ傾いてしまえば決してそれには手を出そうとはしない。
 昔の人は「命あっての物種」だと言った。そして、それは私――三浦光が17年間生きた上での生きる指針となっていた。

 だからこそ、光は焦った。

 楽しくもない高校生活の夏に先生が教鞭を振るう昼過ぎの教室で過ごす最中、光はある声を聴いた。
 まるで舌足らずの子供が喋ったかのような、幼く、透き通った女の子の声だった。
 そしてその声は言った。「魔法少女の力」と「掲示板へと繋がる力」を与えると。
 突然声が聞こえ、その上その声が妄言を吐いた。光は驚いて当然のように辺りを見回した。
 いつもと変わらないうんざりとする先生と同級生たちの顔ぶれ。しかし、光が予想してた困惑の顔色は彼らから見受けられなかった。
 そして、最後は――

 光はそこにいた。
 最後の景色とは打って変わって、そこはとある建物の屋上だった。
 意味が分からなかった。声が聞こえ、気づいたら場所が変わっている。なんて馬鹿げた話だと一蹴するには、あまりにもそれは本物(リアル)過ぎた。
 蒸し暑い湿った夏の匂いが香って、建物下から鳴り響く車のクラクションが耳に(つんざ)く。
 試しに自分の手指を見て、曲げ伸ばししてみた。指は普通に動くし、服装も高校指定の夏服だった。
 光は思わず天を仰いだ。空は先ほどと打って変わって、三日月と数多の星が輝いていた。

 それから光は、またもや己の常識を疑う羽目になった。
 頭の中で響く、見知らぬ者たちの叫び。それは声ではなく、光も知っていて普段使いしている日本の言語を使った文字の集まりだった。
 彼らもどうやら、光と同じ不可解な現象の被害者だった。切羽詰まった――大半はふざけていたり、茶化しあっていたりしていたが――()の言葉は状況に困惑しながらも、どうにか情報を得ようとしていた。
 確かにそれは一見当たり前の行動のように見えたが、光にとってはあまりにも無鉄砲な行動で、同時に渡りに船な行動だった。
 情報は欲しいが、危険な目に会いたくない。だから、その危険は彼らに 勝手に やってもらう。光が動かなくても、雛鳥のようにただここでいるだけで情報が向こうからやってくるのだから、楽なものだった。
 そうして、その情報は、光の下に届けられた。

『魔法少女に変身することができる』

 妄言に妄言を重ねても、これほどインパクトのある馬鹿話はそうそうないだろう。そんな事を真面目腐った顔で言った暁には、キチガイとしてあっという間に精神異常者の仲間入りだ。
 だが、今のこの状況でそれをただと妄言と切り捨てるか。そう考えた結果、答えは否だった。
 掲示板では、ある種の集団パニックと魔法少女の名前などが入り混じってる中、光は掲示板から意識を逸らして、一つ念じてみた。

 まるで体が組み変わったかのような錯覚と同時に、ある情報が頭に混じる。
 身に覚えがないその情報が、不思議と光の中へとすっと入る。まるでそれが当たり前かのように光の中へと存在するそれに、光は数秒ほどの時間を介してから、今度こそ光の心ははち切れんばかりに動揺をした。
 見た情報。聞いたことのあるフレーズ。それは、光が現在愛読している軽く読める小説(ライトノベル)の内容に酷く酷似していた。
 いや、酷似どころの話ではない。それはまるっきり、()の本の世界観を丸ごと写し取ったかのようにそっくりだったのだ。
 心が脳の作り出す考えの渦に沈み込む。光が愛読してた『魔法少女育成計画』の世界観の魔法少女の力。もし仮に、それだけではなく、『世界』そのものを写し取ったのであれば。つまり、この世界は――

「……あまりにも、危険すぎる」

 どうしてこんなことになったのか。いくら何でもあんまりではないだろうか。くそが。なんで私が。弱音と愚痴と呪詛をぶつぶつと吐き出して、それも束の間のうちに終わった。
 ネガティブな気持ちを引きずらない。引きずれない。これも魔法少女の特性だ。こんな状況でなければ重宝しそうな特性ではあるが、悲しいかな、その魔法少女としての情報こそが光に罵詈雑言を吐き出させた原因なのだからちっとも嬉しくなかった。

 とはいえ、光が感じ取った最悪な考えも、あくまで妄想の範疇を超えない。ただの飛躍しすぎた妄想になればいいのだが、一度考え付いた嫌なことは忘れようにも忘れられなかった。そうした最悪な事も見越した上でこれからを生きなければ、いざその妄想が現実になったとしても、事が起きてからでは遅い。
 いのちだいじに、光の第一目的達成のためには、まずは人手が欲しかった。そして、人手ならちょうど光の頭の中で好き勝手に騒いでいた。



 光の考察を、掲示板に書き込む。とはいえ、そっくりそのまま書くわけではない。確証のないことを吹聴して不安を煽る必要はないし、仮に不安が恐怖へと昇格し恐怖の末に何かやらかしたんじゃ目も当てられないからだ。全員が全員そういう馬鹿ではないかもしれないが、何の法則も無しに引っ張られた集団ならばそういう馬鹿はある程度はいるだろう。これも確証のない妄想だが、最悪を想定して動いた方が幾分かはやりやすい。
 そうして掲示板が進み、ある事が判明した。どうやら、「魔法少女育成計画」の原作を知っている転移者は、なんと光ただ一人らしいのだ。まだ誰かが黙っている可能性もあるが、光が先行して注目を浴びたのだからある程度は話しやすいはずだ。もっとも、自分一人だけ安全圏にいたいから情報を渡したくないというのも考えられるが。何はともあれ、掲示板内で最も情報を持っている人物というアドバンテージを得ることができたのは僥倖だった。まさに棚から牡丹餅とはこういうことを言うのだろう。

「あとは、みんなと合流すれば」


















                  「誰だ、お前」






 声が聞こえた。少女特有の高い声だ。そして、その声を聴いて、光は体の底から肝が冷えたような錯覚を覚えた。
 体の向きを変え、声の主を見る。こういう時、咄嗟に構えを取ることができる人なんて一握りしかいない。光は自身の意思とは関係なしに強張った体を動かして、相手を見据えた。
 その姿を、仮に10人が見たとすれば10人全員が振り返るだろう。それほど凄惨な姿をしていた。
 隻腕隻眼の少女。
 紅いマフラーに黒い忍者コスチュームを着こんだ少女。
 目鼻立ちは綺麗に左右対称に揃っていて、まるでアニメの世界から飛び出たのか思わせるような美貌を持った少女。
 つまりは――魔法少女だ。
 彼女の、光に対して呼びかけた問いかけは、酷く冷たい。まるで刃物を直に押し当てられているのかと思わせるほどに、恐ろしかった。
 怖い。怖い。怖い。
 彼女の事は知っている。彼女の事はこちらが一方的に知っていた。

 魔法少女「リップル」

 魔法少女育成計画、通称まほいくシリーズの無印一巻。唯一アニメ化がされた無印から登場し、16人の魔法少女の内14人が亡くなった事件の、生き残り。
 親友を殺され、その復讐として魔法少女を一人殺した、正真正銘、魔法少女をコロシタ魔法少女。
 復讐者。
 暴力のプロ。
 それは余りに恐ろしく、そしてその立ち姿は、魔法少女の名にも恥じぬ程に、よく映えていた。


「――ぁ」

 何か返事をしなければ。
 なのに、どうしてか、体が言うことを聞いてくれない。
 口が出るのは掠れた声ばかり。当然だ。
 今日まで17年間生きた。その人生の中で、ここまでわかりやすい程の敵意を向けられたことがあったか。いや、あるわけなかった。
 だからこそ、体がそんな、精神がそんな異常事態に混乱を生み出したのだ。
 こうして考えることができるのは、光が常日頃から人と関りを持たずに、どんな状況でも脳を働かせていたからだ。
 だが、考えても状況が良くなるわけがない。考えは考えだ。それが直接、現実に浸食するなんて、そんな魔法みたいなことは、あり得るわけがないのだから。

「……」

 忍者の顔は、険しさを残したままだ。自身の敵意――いや、殺気によって光が硬直しているのをコイツは気づいていないのか。
 思わず毒づきたくなるが、そんな空元気でも恐怖を塗り替えるには弱い。怖いものは怖いのだ。




――だれか、■■けて――









「リップル!」

 また、声が聞こえた。忍者越しに見えるビルの屋上。そこにソレが立っていた。
 ソレは走り、助走をつけるようにジャンプをして、そしてそのまま、光と忍者が対峙していビルの屋上へと降り立った。
 プラチナブロンドの髪色。
 まだ蕾の、花を咲かせていないそれで飾られたカチューシャ。
 白を基調とした生徒会長を思わせるような学生服。




くそが




確かに光は■けを呼んだ

この状況を打開できることができる救いの一手を求めた
だからって


人選ミスにもほどがある





――あ■たはお呼びじゃない

                           主■公■はお呼びじゃない――


              ――■法■女■りなんて――








         読心魔法の使い手なんてお呼びじゃねぇんだよ!!













 体が動いた。怖さからではない。使命感とかでもない。ただ、ここで終わりたくないから動いたのだ。

――考えるな。

 反射で体を動かして、その反動で前面へ走り出す。

――走れ。

 目の前には、落下防止の柵が仕切られている。だが、魔法少女にとってはただの鉄の塊だ。

――飛べ。

 前面への力を弱めず、そのまま柵ごと飛び越えるように飛び上がった。

――決して魔法を使わせるな。

 後ろで魔法少女たちが動いた。狙いはもちろん、光だろう。リップルの魔法の効果範囲内からは逃れられないが、それはいい。問題は、スノーホワイトの魔法だ。

              絶対に知られてはいけない。





 この世界は、魔法少女たちの世界だ。けれど、一般にはその正体を露呈してはいけない。それに加え、魔法少女は本来、魔法少女を生み出した異世界『魔法の国』から派遣された正式な試験官による、正式な試験を経てから、正式な魔法少女になれるのだ。

 つまりは、私たちは『魔法の国』の法から逃れ、非正式な方法で魔法少女となったモグリ

――いうなれば







                無法者の犯罪者なのだ。







「ほんっっっとうに――最っ悪!!」


 ビルから落ちる。地面が近づく。人もいない、路地裏へと落ちる。

 そうして光は、追手の魔法少女(主人公)二人から逃げるべく、路地裏の闇へと身を投じた。


 
 

 
後書き
魔法少女は奇跡起こしてなんぼです
そこに新人とかベテランとか関係ありませんよ
だって、彼女も魔法少女じゃないですか

 
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