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金木犀の許嫁

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第二十六話 里帰りをしてその三

「あまりです」
「読まない方がいいですか」
「自殺する直前の人の精神状況を知りたいなら」
 それならというのだ。
「読まれることですが」
「そうですか」
「はい、ですが」
 それでもというのだ。
「楽しく読まれるなら」
「そうしたいなら」
「読まれるべきでないです」
「芥川の末期の作品は」
「ですから」
 それでというのだ。
「あまりです」
「読まないことですね」
「そうです」
「じゃあどの作品を読めば」
「そうですね」
 少し考えてからだ、幸雄は答えた。
「死霊の恋はどうでしょうか」
「死霊の恋ですか」
「はい」
 そうだというのだ。
「そうです」
「その作品はどんな作品でしょうか」
「訳したもので」
「あの人英語の先生でしたね」
「そうでもあってので」
 それでというのだ。
「そちらもです」
「出来たので」
「ですから」 
 それでというのだ。
「そうした作品もありまして」
「それで、ですか」
「吸血鬼の作品ですが」
「面白いんですね」
「はい、その結末ですが」
 それはというと。
「悲しいものですがそれがまた」
「いいんですね」
「私はそう思います」
 こう真昼に答えた。
「その様に」
「そうした作品ですか」
「ですから」
 それでというのだ。
「読まれてもです」
「いいですか」
「芥川は作品を選んで下さい」
 読むそれをというのだ。
「初期や中期の作品は何なく読めて楽しくあります、ですが」
「後期は、ですか」
「自殺していますね」
 芥川龍之介はというのだ。
「そうですね」
「その自殺の影響が出ているんですね」
「先程暗鬱か狂気かと言いましたが」
「そういうのが出ているんですね」
「はい」 
 そうだというのだ。
「ですから」
「読んでもですか」
「恐ろしいものを感じます」
「狂気とかをですね」
「そうなので」
 幸雄は運転しつつ真昼に話した。
「文学的価値はあると思いますが」
「読んで楽しくはないですか」
「はい、人間の狂気を感じずにいられません」
 芥川の後期の作品はというのだ。 
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