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独眼龍の怒り

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第二章

「ですからそこまで怒られなくとも」
「別にいいのでは」
「流行りですから」
「いいのでは」
「一つもいいと思わぬわ!」
 政宗は家臣達のその言葉にさらに怒った。そしてこうも言ったのだった。
「何一つとしてじゃ!」
「ではこうした服は」
「駄目ですか」
「全て禁じる!」
 ありとあらゆることをだというのだ。流行りの身なりは。
「よいか、袴も上着も規則正しく身に着け」
「そうせねばなりませんか」
「何としても」
「無論髷もしっかりと結い」
 実際に己の髷をっ整える仕草をしてみせる。
「一日に何度もなおす。それでこそよいのじゃ」
「そうなのですか」
「何としても」
「左様じゃ。そうしたしかとした身なり、常に清潔にしてこそ」
 政宗は今度は己の好みをこう語りだした。
「見ていて頼もしい。よいか、武士の格好よさというものはじゃ」
「身なりを整えてこそ」
「そうなのですか」
「着くずしなぞ言語道断じゃ」
 またこう言った。
「わかったな。それではじゃ」
 こうして政宗は家中の身なりを強引に決めた。そうして真面目な身なりになった家の者達、特に小姓達を見て言うのだった
「これでよいのじゃ。奇麗じゃのう」
「奇麗ですか」
「うむ、これでよいのじゃ」
 その真面目な身なりの小姓達を左右に侍らせて片倉に言ったのだ。
「整った身なりの目鼻立ちのいい者達に囲まれる。それこそがじゃ」
 よいと言ってだ。彼は小姓達を侍らし美味な酒を楽しむ。生真面目な身なりに髷の目鼻立ちのいい美少年達に囲まれて。
 こうした話があった。そして原罪の仙台ではというと。
 とある中年のおじさんが家でこう言って嘆いていた。
「全くな。最近はな」
「どうしたの?」
「若い娘の服が酷いな」 
 こう言うのだった。自分の奥さんにキッチンでビールを飲みながら。
「全くな」
「もうルーズソックスとかは時代遅れよ」
「そうでなくてもな。もっときちんとした身なりでスカートの丈も長くてしかも制服はセーラー服でな」
「それで髪の毛は?」
「黒のロングヘアかポニーテールに決まってるじゃないか」
 ビールのつまみの落花生もかじる。
「勿論靴下は白」
「お化粧はしないのね」
「そうしたのが一番いいんじゃないか。世の中乱れているな」
「それ水菜に言える?」
 二人の娘にだというのだ。
「今日もバンドに出てるけれど」
「水菜なあ。どうしたものか」
「言っても仕方ないわよ。女の子の身なりなんてね」
「嘆かわしいな。女の子の服は乱れてるよ」
「そういう私もバブルの頃はワンレンボディコンだったじゃない」
「あの時はそれでいいと思ったんだがな」
 今は違うと溜息を吐きながら言う。彼にとっては深い嘆きだった。中年のおじさんにとって清楚はどういったものか、それは昔も今も変わらないということか。
「全く。政宗公の気持ちがわかる」
「つまり真面目な着こなし、清潔、清楚がなのね」
「最高だよ。あれこそが本当の萌なんだよ」
 おじさんも萌えを言う。そのうえで政宗に同意しながらビールを飲む。今では廃れてしまったセーラー服にポニーテール、そして白靴下に真面目な服の小姓達を重ね合わせながら。
 そのうえで飲むが願望でしかないこともわかっていた。自分も政宗ならば、そうも思い寂しささえ感じていた。


独眼龍の怒り   完


                               2012・8・31 
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