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Fate/WizarDragonknight

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再洗脳

 
前書き
刀使ノ巫女のボードゲーム届いた!
けど一緒にやる相手がいねえ! 

 
 イグナイトは限界を迎え、響のシンフォギアは元の黄色と白のガングニールに戻る。

「響、大丈夫か?」
「はあ、はあ……うん……」

 彼女に肩を貸しながら、ビーストは戦況を見渡す。
 ビルの屋上へ突き落とされたパピヨンも、車のボンネットへ吹き飛ばしたフロストノヴァも、もう復帰している。それぞれ蝶と冷気を全身に纏い、臨戦態勢を整えている。

「響……お前、ヘイト管理とかぜってえ考えてねえよな」

 ビーストは響の疲弊具合を見ながら、少しずつ後ずさる。
 響とは逆に、まだビーストには体力が残っている。だが、一度響がこの場を制した以上、フロストノヴァとパピヨンが響へ狙いを定めた場合、ビースト一人で響を守り切れるだろうか。

「いや、無理だろ……」

 ダイスサーベルを構えなおしたビーストは、頭の中で戦略的撤退手段を……氷と蝶を操る強敵二名から離れる手段を考え始める。
 だが。

「やってくれるじゃない、ランサー」

 アウラの声が、一時ビーストの思考を静止させる。
 すでに全ての下僕を失い、圧倒的不利になったアウラ。
 ビルに背中を貼り付けながら、アウラは天秤を向けた。

「あなたっ、もう動けないのね……!」

 全身を震えさせながらも、アウラはその口から笑みを零した。

「あはっ……! あはははっ! まだ倒せもしないのに、全力だなんてとんだおバカさんじゃない!」

 彼女の手には、すでに回収された天秤が握られている。彼女がそれを振る動きを見て、ビーストは事態の危険性を察した。

「ヤバイ、奴の狙いは……っ!」
服従させる魔法(アゼリューゼ)
「っ!」

 ビーストは響へ貸す肩を外し、響の盾になるように両手を広げた。
 だが、いつまでたってもビーストの体の自由は奪われない。
 ビーストは仮面の下で瞑った目を開き、自らの体を見下ろす。

「あれ……? なんともない?」
「あなた……魔力量は私に遠く及ばないのに、私の魔力が利かないの……?」
「どういう……ことだ?」

 ビーストのみならず、アウラもまた目を白黒させている。
 だが。

「……まあいいじゃない。どっちにしろ、目的は果たしているのだから」
「目的……っ!」
「コウスケさんッ!」

 ビーストは、その背後に不気味に動く気配を感じ、その場から飛び退く。
 響の声とともに、彼女のかかと落としが、ビーストがいた足元を砕く。

「響……」
「体が勝手に……ッ!」

 響が訴える。
 今度の洗脳は、響が振り切ることなどできない。あっさりと体の支配権を奪われ、響はビーストたちへ無理矢理牙を向けさせられた。

「今は急ぎだし、首を落とすのは後にした方がよさそうじゃない。……さあ行きなさいランサー」
「またこのパターンかよッ!?」

 響の体は自らの意思とは無関係に、ビーストへ格闘術を放ってくる。
 ビーストは慌てて避け、響の腕を掴みながら叫ぶ。

「おい響っ! お前ほんのこの前もオレに襲ってきたばかりだぞ!」
「操られてるんだよッ!」

 さらに、無駄のない動きを省いた響の肘が、ビーストの腹に炸裂。腹を大きくくの字に曲げたそれは、だんだんとビーストを追い詰めていく。

「……はっ! コイツ、使えねえか!?」

 響の攻撃をいなしながら、ビーストは自らの右肩に付けられているイルカのマントを摘まむ。

「食らえ響!」

 そのマントを振るうと、紫色の魔力が溢れ出し、響を包み込む。
 だが。

「無駄じゃない。それっぽっちの魔力で、私の魔法を打ち消せるはずがないじゃない」

 アウラが吐き捨てる。
 彼女の言葉通り、響の拳はイルカの魔力を突破、そのままビーストの腹に命中した。

「ぐあッ!」
「コウスケさんッ!」

 そのまま地面を跳ねたビーストは、電柱に激突することでようやく止まる。一瞬ぐったりと体から力が抜けるが、電柱を掴みながら、ビーストは響を睨んでいた。

「恐ろしい能力だな……」

 そんな響たちを眺めながら、パピヨンは顎に手を当てる。

「だが、もう他に人形はいないのだろう? なら、本人の守りは薄い」

 パピヨンはそう言って、数体の蝶を放つ。
 ひらひらと羽を動かしながら迫る生きた爆弾たちだが。

「もういらないわ。あんな有象無象共」

 アウラは吐き捨てる。
 すると、ビーストに拘束されかけた響は、すぐさま飛び退き、アウラを守るために蝶たちを蹴散らす。

「う……ッ!」

 響の体力事情を完全に無視した動きに、響自身が悲鳴を上げた。
 倒れ込みそうになった響を、アウラの魔法が操り人形のように無理矢理立たせている。

「このランサー一体で充分じゃない」

 冷たいアウラの言葉とともに、響の体が震えるように動く。
 瞬時にパピヨンの上に回り込んだ響は、彼の頭を背後から掴む。

「何っ!?」
「わわッ! ごめんなさいッ!」

 普段の響ならば決して行わないであろう行動。
 そのまま響の体は、地上のフロストノヴァへパピヨンを叩き付けようとする。

「……!」

 フロストノヴァはアウラを一瞬睨み、両手を翳す。
 冷たく硬い氷が、パピヨンと響を狙う。
 だが。

「やりなさい。ランサー」
「響!」

 ビーストの叫びももう届かない。
 響はまるでボールのようにパピヨンを投げる。
 フロストノヴァの氷の壁を砕きながら、彼の肉体はアウラのすぐ隣に叩き付けられる。

「がはッ!」
「あら。丁度いい追加じゃない」

 重傷を負ったパピヨンへ、アウラが笑みを浮かべた。

「しま……ッ!」
服従させる魔法(アゼリューゼ)

 パピヨンが気付くももう遅い。
 アウラの天秤による魔力は、飛びのいたフロストノヴァは逃したものの、それはパピヨンの体を大きく跳ねさせる。

「この俺が……っ!」
「その大量の爆発物の力、見せてもらおうじゃない」

 アウラが天秤を振るう。
 すると、パピヨンの腕から無数の蝶が放たれる。

「貴様……!」

 パピヨンは恨みのこもった目をアウラへ向けるが、アウラが気にすることはない。
 無数の蝶が群れを成し、ビーストとフロストノヴァへ向かっていく。

「くっ……!」

 舌打ちをしたフロストノヴァは、地面に手を当てる。
 すると、氷山が一気に生成され、蝶たちへの壁となり、その爆発から二人を守る。

「た、助かったぜ!」
「この場を切り抜けるには、他に選択肢はないな」

 フロストノヴァはビーストへ一瞬だけ目線を投げる。すぐに手を振り、防御として繰り出した氷をアウラへとスライドさせる。
 だが。

「ランサー」

 ネクロマンサーの吐き捨てるような命令とともに、響の腕が地面を砕く。
 アスファルトを砕き、その大きな部分が地面より剥がれ出る。フロストノヴァの氷を一身に引き受けたそれは、氷とともに砕けていく。

「あなたにはこれまでさんざん邪魔されてきたけど……その分、しっかり働いてもらうわ」

 アウラのガラスのように何も見ていない目が、じっとフロストノヴァを捉える。

「そうよ。そうじゃない。ここまで質のいい下僕がいるのなら、あんな数の有象無象、もともと必要なかったのよ。これならもう、ヒンメルだろうと参加者だろうと負けるようなことはないじゃない」

 アウラは告げながら、天秤を振る。

「やべえ! フロノヴァ逃げろ!」
服従させる魔法(アゼリューゼ)

 ビーストが叫ぶが間に合わない。
 すでに消耗したフロストノヴァは、抵抗する間もなくアウラの術中にはまってしまう。
 一瞬だけフロストノヴァの口から息が漏れたが、すぐにその

 大きく揺れた秤が、今度はフロストノヴァの自由を奪う。

「……!?」

 フロストノヴァは自らの体を見下ろした。
 彼女の体は、拙い動きを繰り返しながら、隣のビーストへ手を向けている。

「知ってたよ畜生が!」

 ビーストはバク転し、氷の氷弾を回避。その間にも、フロストノヴァはビーストより離れ、アウラの傍に立つ。
 結果、ビーストの前に響、フロストノヴァ、パピヨンの三人が並び立つこととなった。

「三人合わせてその程度の魔力……? こんなのに危機を感じていたなんて、七崩賢の名折れじゃない」

 アウラは得意そうな笑みを浮かべる。
 やがて彼女の目は、最後に残ったビーストを捉える。

「ただの参加者なんて、もう欲しくないわ。ランサー、ゲートキーパー、それに今度参加者になるっていう彼……この三人を従えれば、十分に聖杯戦争も勝てそうじゃない」

 彼女のガラスのように何も見ていない目は、もうビーストを敵とさえ認識していない。
 無造作に天秤を振り、三人の異能者たちへ攻撃の命令を下していく。

「やりなさい。ランサー、ゲートキーパー、そしてあなたも」
「お前ふざけんなッ!」

 ビーストの訴えなど通じるはずもない。

「コウスケさん逃げてッ!」
「実に不本意だ……!」
「くッ……」

 響の拳、フロストノヴァの氷、パピヨンの蝶。
 三つの攻撃を避けながら、ビーストはアウラを睨む。

「クソッ、どうすりゃいい……? 響だけでも助けようにも、もう令呪もラス一しかねえ……これ使ったら一体どうなるんだ?」
「試してみればいいじゃない。もっとも……」

 ビーストが自らの令呪を見下ろしたその一瞬、その前後にフロストノヴァとパピヨンが並び立つ。

「この二人から逃げられるなら」
「くっ……」
「忌々しい……!」

 氷と蝶が、両者より放たれる。

『2 ドルフィン セイバーストライク』

 前後に走るイルカの幻影が、氷と蝶を相殺。
 だが、極めつけに接近戦を挑んでくる響には、直接防戦するしかない。

「何でこの三人、こんなに連携いいんだよ……っ!」
「本当にゴメンッ!」

 響は謝罪しながら拳を放つ。
 放たれた拳が圧縮した空気圧がビーストの背後に停められていた車を粉々に破壊する。
 その破壊力にゾッとしたビーストへ、さらにフロストノヴァの氷の雨が襲い来る。

「クソがっ……!」
『ファルコ ゴー ファ ファ ファ ファルコ』

 ハヤブサのマントを右肩に召喚したビーストは、その裾を掴み、一気に振る。すると発生したオレンジの風が氷の雨を吹き飛ばす。

「ぐっ……!」

 一瞬、フロストノヴァの体がふらつく。
 口から吐血し、体が大きく揺れた。

「フロストノヴァ……! お前、体に負担がかかる能力なのかよ……!」

 ビーストもその能力に戦慄する。
 止めどなく赤い体液が流れ出ていくフロストノヴァ。

「まあ、アウラがそんなこと考慮するわけねえよな……」
「あら。貴女の能力、使い捨てなのね」

 アウラは興味なさそうに吐き捨てた。

「後で首を斬り落とす手間も必要なさそうね」
「グッ……!」

 歯を食いしばるフロストノヴァ。
 だがアウラの命令は、彼女へ容赦ない氷の生成をさせていく。
 さらに、その内部に仕組まれたパピヨンの蝶。
 氷の内部で蝶が爆発し、氷は炸裂断のように飛び散る。すると、細かい氷の雨がビーストの全身に突き刺さっていく。

「ぐあっ……マジかよ……!」

 痛みを堪え切ったビーストは、さらに頭上の巨大な氷の岩塊へ言葉を失った。

「はっ……?」

 その氷を作ったフロストノヴァは、明らかに体に無理をさせている。伸ばす彼女の腕もまともに上がっておらず、その手も震えている。

「ふざけんなあああああああああッ!」

 もう、逃げる体力も残っていない。
 氷の隕石が、今にもビーストを押し潰……

「ジェノサイドブレイザー」

 突如、赤い光線が氷の隕石を即座に蒸発させる。
 ビースト、そしてアウラも。
 響も、フロストノヴァも、パピヨンも一様に呆然とした表情を浮かべていた。

「何が起こったの?」

 アウラの問いに対し。
 ビーストの頭上から、その答えが降って来た。

「繁華街で乱闘とは、いい御身分だな」

 その声を聞いただけで、ビーストは、そして洗脳中の響の表情に緊張が走る。
 ビーストの視界に入る黒い羽根。
 目の前に降りてきたのは。

「そう……あなたが……会いたかったわ」

 すっかり強気になったアウラが目を大きく見開いている、聖杯戦争最強の参加者。

「キャスターのサーヴァント……!」 
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