| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

私 あの人のこと 好きなのかも やっぱり好きなんだよ 昔からー

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

6-3-1

 次の土曜日に、私は電車で一駅乗って、それから10分程歩いたところ。深川翠さんの家を訪ねた。家までは小高い台地の1本道で直ぐにわかったのだけど、フェンスに囲まれた大きなお家。コンクリートみたいな2階建てで壁が白くて、どこかの宗教団体のサティアンみたいな印象だった。周りには、あんまり家も無いのだが、異様に大きく感じる。玄関の門の隣には、車庫だろうゲートが降りていて、車は無かった。FUKAGAWAの表札の下の呼び鈴を押すと、インターホーンから先輩の声が聞こえて、門扉が開いたかと思うと、玄関から先輩の姿が、庭には芝生が広がっていて、フェンスの際には2本の大きな樹が植えられていた。どこからか、フルートの音色が聞こえてくる。そして、先輩と一緒に真っ黒な大きな犬が出てきたけど、私には、尾っぽを振って敵意は見せて無くて歓迎してくれているみたいだった。

「いらっしゃい 直ぐにわかったでしよ?」と、ベビーブルーのシャツカラー、七分袖のワンピース姿で清楚な感じ。

「うん 一本道で・・・大きなお家・・」

「そうね お父さんがね 小さいころから大きい家に住んでたからー」

 玄関を入ると、直ぐに応接間というか大きなリビングが広がっていて、ガラス戸の向こうには、芝生が広がっていて、そして、大きな樹の枝に黒い塊みたいなのが見えた。何だろうと思っていると

「ウグウー ワン」と、いきなり、黒い犬が吠えてきた。

「駄目よ! ゴウ! 私のお友達なんだからー」と、先輩がたしなめていた。

「ごめんなさいね この子 自分が無視されたと思って アピールしてるのよー」

「あっ そうかー 頭 撫でても 大丈夫ですか?」

「ええ 喜ぶわよ この子 こっちに来て 飼い出したんだけど 懐いてくれて」

「私 実家でも秋田犬の雑種で 白いんですけど 犬 飼っていたんです 散歩に連れて行っても、直ぐにへたり込んでしまうような根性無しだったんですけどね」と、その黒い犬の頭を撫でていた。確かに、おとなしくて、眼を細めて、喜んでいるようだった。

 ミルクティーを出してくれて、飲んでいると、玄関から突然、上下黒のスゥエットスーツ姿の男の子が現れて、驚いている私に

「弟の大地(だいち) さっきまで、樹の上でフルート吹いていたの 気付いた?」

「えっ あー なんか黒い塊が・・・ そーだったんですかぁー」

「大ちゃん ご挨拶は? こちら 大学でお友達になった 奥浦真織さん」

「奥浦です よろしく」と、私は立ってお辞儀をしていて、顔を上げたら

「糸?  糸姫様? どうしてぇー・・・」

「・・・???」「はっ?」なんなんだ この人は?

「大ちゃん!」と、先輩はその人の顔の前でパンと叩いて「翠ヨ! わかったぁ?」と、大きな声を出していた。

「あっ あぁー 翠かぁー あっ 翠の友達には珍しく綺麗な人だね 懐かしい感じがした 驚いたよー」と、言いながら、リビングの横にある階段を上って行った。それを、見ていた先輩は

「ごめんなさいね 突然で驚いたでしょ? あの子はね 特異的な子なのよ と言うより ある時を境に突然にね」

「はぁー 特異的?」

「あのね 私達家族が ここに越してきたのは 私が中学3年生になる時だったわ その前は福井の山奥 岐阜との県境に近い所なの ひいおじい様が山の土とかを売って生計を立て出してね 代々 そんな感じで・・・ ある日、大地がね 行方不明になって、村の皆とか警察も町から応援に来て捜索したんだけど、見つからない中、4日後に全身ずぶ濡れで、突然帰ってきたの 裸足だし、腕とか脚も傷だらけだったわ どこに居たんだか、誰が聞いても、何にも答えずでね でも 1週間程経った時 私がお風呂に入って髪の毛を洗っていたら、突然 すっ裸で後ろに立って居るのよ 私 躊躇したんだけど 少し前までは 一緒に入っていたから とりあえず 湯舟に入れって言ったんだけどー ぽつりと (姉ちゃんの背中は糸姫様に似てきれいだ) って・・・ 言い出したのー」

「まっ 待ってください ちょっとぉー 先輩 それって 怖い話なんですか? 本当の話?」

「本当の話ョ お父さんもお母さんも 全部は信じていないけどネ 私も、家族以外に話すのは初めてなのよ」

「そんなのー どうして 私に・・・」

「あのね さっき 大地が・・・糸姫様って・・・わかった?」

「あっ はぁー 突然に・・・」

「そのままなのよ あなたが・・・ 大地が そのことがあって しばらくして 描いていたのよね その糸姫様っていう人の絵 今でも、大地はファイルに挟んで机に貼っているわ そのまんまなの あなたが だからね 私 最初 あなたに出会った時 ドキッってしたのよ どうしてーぇ って」

「そっ そんなのー 偶然でしょ?」と、私は、サーキュラスカートから出ている心なしか震えている膝頭を両方の手で押さえていた。

「・・・ 偶然じゃぁないから あなたに 話しておこうと思ったのよ あなたと 出会ったのも 偶然じゃぁないかもよ 真織ちゃん 福井の方って 知ってる? 関わりある?」

「無いですよー ウチのお父さんの実家は京都の大原だし、母方のおじいさんは琵琶湖の漁師だったし、おばあちゃんの先祖は滋賀と岐阜の県境の山奥だったって言っていたしー」

「ちょっと 待ってよー その 滋賀と岐阜の県境の山奥って福井にも近いのよっ その3つの県境辺りに 夜叉が池ってとこがあるの」

「なんなんですか? その夜叉が池って?」 私が、その言葉を口に出した時、階段の上から、一瞬だけど、さっきの大地君が顔をのぞかせたように思った。私の顔を確認しているみたいだった。 
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧