英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~
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第三章~サルバッド狂騒曲~ 外伝~砂漠の遊興都市~
メンフィル帝国領南カルバード州・遊興都市サルバッド――――
砂漠の中にあるオアシスを中心とした都市であり、中東部の”エルザイム公国”と距離が近い遊興都市サルバッドのある一角である踊り子の姉妹が片方が中東独特の楽器で演奏し、もう片方が演奏と観客達の手拍子と共に踊りを披露していた。
~サルバッド~
踊り子が踊りを終えると観客達は歓声を上げながら拍手をし、その様子を中東系の高貴な衣服を纏った青年が見守り、口元に笑みを浮かべた。
「彼女たち、凄いな…………!リーシャがデビューしたあの公演――――”金の太陽、銀の月”のプレ公演で仕事中であるにも関わらずイリアさんやリーシャに俺とエリィが魅せられた時みたいに魅せられたよ…………!」
「フフ、そういえばあの時は”銀”の私からの”依頼”で一課の人達に隠れて劇場内の警備をしてくれていましたね。それにしても偶々とはいえ、彼女達の踊りを見てわざわざ私に教えてくれたルファディエルさんには改めて感謝しないといけませんね。お陰様でイリアさんから要求されていた”お土産”を叶えることができるかもしれませんし。」
観客達と共に拍手をしているロイドの感想を聞いてかつての出来事を思い返して苦笑したリーシャは口元に笑みを浮かべて踊り子の姉妹を見つめて呟き
「ということはやはり彼女達をアルカンシェルのアーティストとしてのスカウトを?」
「ええ。まあ実際にスカウトできるかどうかはわかりませんが………まずは、彼女達と話をしてみようかと。」
ロイドの疑問にリーシャが答えたその時ロイドのザイファに通信が入り、通信に気づいたロイドはザイファを取り出して通信を開始した。
「はい、こちらバニングス。――――ああ………ああ…………わかった、すぐに行くよ、ルファ姉。―――――そろそろ旧首都からの”応援”が到着する頃だから、今から駅に迎えに行くことになったよ。」
「旧首都からの”応援”というと…………ノーザンブリアの独立のためにメンフィル帝国と”契約”を交わした”北の猟兵”達ですか?」
通信を終えた後に口にしたロイドの今後の行動についてを聞いたリーシャはロイドにあることを確認した。
「ああ。リーシャはスカウトの件もあるだろうから、俺一人でルファ姉と合流して飛行場に行くからリーシャは俺達に気にせず、彼女達にスカウトの件についての話をしてくれて大丈夫だ。」
「そんな…………わざわざ気を遣わなくてもいいですよ。スカウトの件は別に急ぐ話でもありませんし。」
「いや、リーシャはそれでよくても彼女達の事を知った映画界の関係者がリーシャよりも先にスカウトするかもしれないから、スカウトすることを決めたのならすぐにでも話をした方がいいってルファ姉がリーシャに伝えるようにって。」
「そういえばこのサルバッドではもうすぐ”映画祭”が開催予定でその関係で既に映画界のスタッフ達が現地入りしている上、新市街には映画会社もありましたね…………わかりました。でしたらお言葉に甘えさせて頂きますね。」
「ああ、俺達の方は”応援”との顔合わせを特に急いでいる訳ではないからリーシャは俺達の事は気にせず、彼女達との話を優先してくれ。」
「はい。ではまた後で。」
そして踊り子の姉妹に話しかけるために姉妹に近づいていくリーシャと別れたロイドは飛行場に向かった。
~サルバッド駅~
「あっつ”~…………」
「…………暑い…………」
駅から出てきたイセリアとラヴィは初めてその身に感じる砂漠の暑さに参っていた様子だった。
「前回の煌都の件に続いて”応援”の要請が来たから、今度は私達の番でようやく旧首都以外の観光ができると期待したのに…………なんでよりにもよってこのクソ熱い砂漠なのよ~!」
「イセリア、うるさい…………それに応援要請が来た時も、活動場所は砂漠の中にある都市だって前もって知らされていたのに、それでも行くと決めたのはイセリア…………」
声を上げたイセリアにラヴィは鬱陶しそうな表情を浮かべながら指摘した。
「それはそれ、これはこれよ!ハア…………でも、マジでこの暑さは北国出身の私達には参るわね…………」
「あら、それなら昼の時とは比べ物にならないくらい一気に気温が下がる夜を中心に活動してもらおうかしら?」
ラヴィの指摘に対して反論したイセリアが疲れた表情で呟いたその時女性の声が聞こえるとロイドとルファディエルが二人に近づいてきた。
「…………もしかして貴方達が今回の”応援要請”を出してくれた”エースキラー”の人達?」
自分達に近づいてきて対峙した二人に心当たりがあるラヴィは表情を引き締めて二人に確認した。
「ああ。――――――クロスベル中央警察所属のロイド・バニングスだ。今は”エースキラー”の一員として、”A"の捜査を担当している。」
「同じくクロスベル中央警察所属にして”エースキラー”の一員のルファディエルよ。このサルバッドでの活動の間、よろしくね。」
「ラヴィアン・ウィンスレット…………こちらこそよろしく。」
「イセリア・フロストよ。このサルバッドで活動している”エースキラー”は貴方達二人だけなのかしら?」
互いに自己紹介をし合った後あることが気になったイセリアはロイドとルファディエルに尋ねた。
「いいえ、今回は煌都の時と違ってそれなりの数のメンバーが活動しているわ。詳しい話については私達が拠点にしているホテルの部屋でするから、まずは私達に着いてきて。」
「わかった。」
「”ホテル”ってことはもしかして着陸する時に見えたいかにも”高級ホテル”の雰囲気をさらけ出していたあの都市の中で一際目立っているホテルをエースキラー(あなたたち)は拠点にしているの!?」
ルファディエルに自分たちに着いてくるように促されたラヴィが頷いた後あることを察したイセリアは期待を込めたような表情を浮かべてロイドとルファディエルに訊ねた。
「私達が拠点にしているホテルが貴女が推測しているその”高級ホテル”かどうかは知らないけど、少なくても”この都市では最高級のホテルであることは確実”と聞いているわ。」
「ちなみに宿泊費は一番安い部屋でも十数万ミラだそうだよ。」
「いっぱくじゅうすうまんミラ…………」
「間違いなく旧首都の私達が拠点にしているアパートの家賃の数倍以上はするじゃない~!そんなとんでもなくお高い所を拠点にするなんて、さすがは二大国に選ばれた精鋭と言った所かしら~?」
イセリアの疑問にルファディエルは苦笑しながら、ロイドは疲れた表情で答え、二人の答えを聞いたラヴィは宿泊費の高さに呆けた表情で呟き、表情を引きつらせて声を上げたイセリアは意味ありげな笑みを浮かべてロイドとルファディエルに指摘した。
「いや、俺も拠点にするホテルの事を最初に知った時は反対したんだ。でも、俺達と同じようにこのサルバッドで活動している”エースキラー”の人が『オレ様にはプンプン匂ってわかるんだよ。何か起こるとしたらここだっ!ってな♪』って訳のわからない事を言ってこのサルバッドでの最高級ホテル――――――”アルジュメイラホテル”に俺達の宿泊の手続きをしてしまったんだ…………」
「まあその代わり経費で認められる範囲の宿泊費を超える差額分の金額は全額その人物のポケットマネーで負担してもらっているけどね。――――――勿論、貴女達のこの都市での拠点は私達と同じだから、安心していいわよ?」
イセリアの指摘に対してロイドは疲れた表情で、ルファディエルは苦笑しながらそれぞれ答えた。
「マジ!?誰かは知らないけど、私達の分の最高級ホテルの部屋のお金を出してくれた人には感謝しないとね~♪」
「…………どうでもいいから、早くこの都市で拠点にしている場所に連れて行って…………暑すぎる…………」
「ハハ、わかったよ。」
二人の話を聞いたイセリアが嬉しそうな表情を浮かべて声を上げている中ラヴィはその身に感じる暑さから早く逃れたいことを口にし、ラヴィの様子にロイドは苦笑しながら答えてルファディエル達と共に自分達が拠点にしている場所へと向かい始めた。
~映画会社『ベガスフィルム』・会議室~
「――――――いいか、ジュディス・ランスターにニナ・フェンリィ!この二人はマストだ!この際、男どもなんぞ適当でいい!何があっても絶対に確保するんじゃ!」
一方その頃サルバッドに本拠地を置く映画会社――――――『ベガスフィルム』の会議室で脂ぎった中年男がスタッフ達に自分の意見を強く主張した。
「で、ですが監督…………」
「今をときめくトップスター二人を同時に押さえるなんて無茶ですよ~!」
対するスタッフ達は中年男の”無茶”と言っても過言ではない要求に悲鳴を上げていた。
「それを何とかやり遂げるのがプロの仕事というもんじゃろうが!予算だのスケジュールだの細かいことは後から考えればいい!心配せずとも責任はワシが全部持つ!諸君は遠慮なく動いてくれたまえっ!」
「え、遠慮なくとかそういう問題じゃないんですってば~!」
「――――――いやぁ、白熱していらっしゃいますね。」
中年男の指摘にスタッフの一人が疲れた表情で反論したその時青年の声が聞こえた後部屋に中東風の高貴な青年がスーツ姿の護衛の女性と共に入って中年男に近づいた。
「おお、シェリド殿下!よくいらっしゃいましたな!」
「フフ、やはり貴方に頼んで正解でした。此度の映画祭は間違いなく素晴らしいものになってくれるでしょう。映画祭も勿論、例のパレードについても想像以上に盛り上がりそうだ。」
「ムハハハハッ、どちらも心配ご無用っ!必ずやメッセルダム以上に白熱する映画祭にしてみせますとも!大衆は格調だの芸術性なんぞ、一リジュたりとも求めてませんからなぁ!映画で大切なのはエンターテインメント性、何よりもセックス&バイオレンス!!」
「監督監督、そこは『セクシー&スペクタル』なのでは?」
中年男の力強い主張に高貴な青年は苦笑しながら指摘した。
「おっとこりゃ失礼――――――ワッハッハッハッハッ!!」
「ハッハッハッハッ!!」
「…………殿下、ご自重ください。」
そして高貴な青年が豪快に笑い始めた中年男と共に声を上げて笑い始めるとスーツ姿の女性が静かな口調で高貴な青年に指摘した。
「おお、そういえばナージェ嬢にもパレードに参加してもらうのはアリですかな?これだけの逸材、活かさないのも勿体ない!」
「ふむ………それは確かに!どうだろナージェ、君さえよければ――――」
中年男の提案に同意した高貴な青年はスーツ姿の女性に振り向いてある提案をしようとしたが
「殿下――――――お戯れが過ぎると妹君にご報告しますよ………?」
「い、嫌だなぁ~。もちろん冗談だともっ!――――――そうそう、監督。それ以外の”候補”についてですが…………」
ジト目になったスーツ姿の女性の忠告に冷や汗をかいた後苦笑しながら誤魔化し、中年男にあることを伝え始めると会議室にいたチョビ髭の男性が会議室を出た。
「まったく………いつまでも下らん事をグチグチと。売れっ子だから使っているが公太子共々扱いにくい事この上ない。まあいい、折角ここまで来た映画祭だ。これを機に更なるシェア拡大を――――――」
中年男に対する愚痴を口にしていたチョビ髭の男性は気を取り直しかけたその時メール着信音が聞こえ、音に気付いたチョビ髭の男性は自身のザイファを取り出してメール内容を確認した。
「ッ………!?こ、こんな時期にどうして…………」
メール内容を確認したチョビ髭の男性は表情を青褪めさせて呟いた――――――
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