舌の先から吸う
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三章
「こんなのもいるからね」
「鬼婆も吸血鬼」
「そうなるのね」
「もう死んでるから」
安達ケ原の鬼婆というのだ、平安初期に出て来て和歌にもいるのかと尋ねられるものがあるが調伏させられたという。
「安心していいのよね」
「千年以上昔にね」
「とっくにそうなってるからね」
「使ってた包丁やお鍋残ってるけれどね」
「住んでいた場所もね」
「いなくてよかったわ、若しまだいたら」
アスカは真顔で言った。
「福島県に行きたくなかったわ」
「あそこに出たしね」
「何でも最初は人で」
「間違えて娘さん殺しておかしくなって」
「鬼婆になったみたいね」
「今はいなくてよかったわ、兎に角日本も吸血鬼多いわね」
アスカは腕を組んだまま言った、そして友人達をその日の放課後寮の自分の部屋に入れてお茶を楽しんだが。
ここでだ、友人の一人がアスカのベッドの枕元の壁の方を見て言った、あと二つベッドがあるがそれは同じ部屋の二年生と三年生の先輩のものである。
「十字架あるわね」
「理由はわかるでしょ」
アスカは真顔で言った。
「うちの家のならわしでね」
「吸血鬼除けね」
「共産主義だった頃もね」
冷戦期そうだったことも話した。
「やってたし」
「吸血鬼はいるからって」
「神様は否定してもね」
共産主義は無神論であるからだ、ソ連は聖職者の粛清も行っている。
「吸血鬼はいるって言って、だから窓のところにも」
「ああ、お塩あるわね」
「そっちも注意してるのね」
「先輩達もいいって言ってくれて」
それでというのだ。
「十字架とお塩を置いて」
「吸血鬼が来ない様にしてるのね」
「魔除けみたいに」
「そうなの、お母さんポーランド人で」
それでというのだ、見ればアスカの顔立ちはスラブ系で肌もスラブ系の透き通る様に白い肌である。
「代々ね」
「吸血鬼気を付けてるのね」
「そうしてるのね」
「そう、それでお昼もね」
この時間帯もというのだ。
「実は十字架をお守りみたいにね」
「首に下げてるわね、アスカ」
「いつもね」
「そうしてるの、お昼も出るから」
吸血鬼はというのだ。
「というかお昼しか出ない種類もいて」
「お昼もなのね」
「用心してるのね」
「しかもね」
ここでだ、アスカは。
舌を出してだ、右手の人差し指でその先を指差して友人達に話した。
「この先に棘付きの管があって」
「ああ、それで突き刺して」
「そこから血を吸うのね」
「そうした吸血鬼もいるから」
だからだというのだ。
ページ上へ戻る