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帝国兵となってしまった。

作者:連邦士官
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13


 疲れていたのか予定より寝すぎてしまった。荷台から顔を出すと一応の申し訳程度の地図と合わせる。

 あと、西側へ200キロ程度でフランソワだ。

 「なんだよ結構、簡単じゃないか。」
 フランソワに入ってしまいさえすれば、思想や警備がガバガバ国家フランソワは帝国や低地国家への舗装路だ。

 しかし、簡単だよなと思っていたが双眼鏡を覗くとあれは軍の車だ。反乱軍か政府軍か知らないが見つかってはまずいと飛び降りて、線路の脇の森へと入る。セラゴーセの前で降りたが、目指すは取り敢えずバイオハザードのおもしろサングラスおじさんと同じ名前ウェスカーだ。盆地を通り抜けることになるだろう。

 つまり、相手は盆地故に限られた平地を抑えればいい簡単なお仕事でこちらは山登りをしなくてはいけない羽目になりそうだ。ハイキングやソロキャンプぐらいならよく行っていたしブルベや五大都市マラソンだって前世でしていたがこんな泳ぎをなくしたトライアスロンぐらいの行かれた地獄に行かないといけないんだ?というかやっぱり、大陸打通はおかしい。

 どこかで自転車かバイクか車を調達しないとローマ帝国だって馬に乗っていたんだからもはや劣化だろ。中世ヨーロッパへようこそだよ!というか本当に一人だけ世界大戦を味わってる気分になる。4時間は走ったり飛んだりをしていると川沿いにでた。川沿いはやはり道があり、人々は水辺とともに発展するのだなと思いながらも少し良くなった。

 ちょうどそこに馬車が通りかかる。定期便だろう。手を上げて乗せてもらうと前金だと金を渡す。歩いてばっかりいてはバテてしまう。体力の予備タンクは残しておくべきだ。プロとアマチュアの違いはアマチュアは体力をすべて使ってしまうがプロは余力を30%ぐらい残して戦う。これが競馬だと末脚、格闘技だとスパート、軍だと予備軍。体力があったほうが柔軟で多様な選択肢を取れる。最初から最後まで決戦思想はすぐにバテてしまいグダグタの結果になるのだ。

 乗り込むと乗客は老人のみでピッタリと撫でつけた白髪のオールバックとワイシャツに仕立ての良さそうな黒いズボンと麦わら帽子を被っている。

 「あんた。旅行者かい?珍しいねこの時期に旅人とは。夏場なんて誰が来てもつまらんだろうよ、この国。あの政権になってからガスコーにしてもカルターニアにしても、あのガリニアにしてもだ。政権は自治を餌に懐柔するが祭りや民族的なことはやめろとか言う。家畜にして代を重ねて全部をイスパニアにしたいんだろうよ。一体、それをして反発が来たなら何人の人が死ぬか。フランソワの革命を知れば恐ろしいと中央様もわかるはずなんだけどねぇ。」
 老人はそう言うと聖句を唱えて最後に「母なるイスパニア!」というとワインのボトルをラッパ飲みして寝てしまった。

 というか老人をよく見ると黒玉で出来た十字を下げて、割りと質の良いシャツを着ている。これが今の政権に資産没収された聖職者か一部貴族の末路なんだろう。

 あの全部の話を終える前に見せた目、あれは燃えるような情熱を秘めた目だった。ゆえあれば立ち上がるのだろう眼の前の老人も。ならば火種はどこにだってある。国が没収を連打するからこうなるのだ。

 馬車の外を幌の隙間から覗くとまさにきれいな真新しい四角に区画整理された畑の数々。それを見たときにゾッとした。

 日本ですら変形した田畑が多いのにこの四角四角した畑は所有者が変わったのを示す。それが続いているのだ。何人の農民や地主や教会の土地を奪ったらこんなにきれいになるんだろうか?

 まさにここは鬼の哭く国イスパニアなのだろう。そして、ここには世紀末救世主伝説などは存在しない。世紀末内戦か世紀末代理戦争が関の山だろう。やりすぎたのだ。真面目にナタを振りすぎて返り血で歴史書をかけるくらいやってしまった。なのに中途半端に優しくするからこうなる。しかし、これ以上やるのならば、ロマノフスキーの轍を列強は踏まないだろう。しかもこのイスパニア共同体の場所は大西洋から来る旧大陸の橋頭保にして、南方大陸への入り口で、アジアから地中海へ向かう運河への最終拠点であり、世界の要衝のカナリア諸島や地中海にどこでも軍艦を向けれるバレアスなどもある。

 地理的に見たときにイスパニア共同体は旧大陸から山で遮断された南方大陸の出島ではあるのだがそれ故に価値が高い。イスパニア共同体の持つ南方大陸での領土もフランソワなどから見ても美味しい位置にある。ゆえあれば、列強が介入してくる地理的条件は揃っているのだ。眠れる獅子と評されたりもするがいざ殴り合いを始めたら眠ったままに安楽死する豚扱いも珍しくない。

 それに完全な共和国がここで増えるのは帝国、連合王国、イルドアにしても面白くないのだ。それを見た過激派がいつ反乱を起こすかわからないからだ。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶまた未来は過去の延長線上にあると言われているが人はそれだけでなく、簡単に戦いを始める。故に止めなくてはならない。

 俺が早めに伝えに行って、連合王国と帝国が異変に気がついて海上封鎖をすれば内乱どころではなくなり、やめるだろう。仲介者としてフランソワやイルドアも呼べば4カ国の列強による無理矢理の仲裁でイスパニア内部の利権や権益は吹き飛ぶが平和が手に入るだろう。もしかすれば列強はメンツのために投資をするかもしれない。それに復興のための需要で逆にこの閉塞感が漂うイスパニアも意識が変わるかも。

 「全部、希望か。」 
 なぜパンドラの箱に希望が入っていたのかわかる気がした。そして、夜通し歩いた俺は再び寝た。しかし、ものだけは取られないように

 
 「あんちゃん、起きろよ。最終だ。おい。」
 目を覚ますとあの老人が俺を揺すっていた。

 「すみません。悪いですね。ありがとうございます。」
 というと老人はニカっと笑っていいさと返してきた。気持ちがいい老人だ。立ち上がると足が不自由な様で引きずっている。慌てて手を貸すと「これでお互い様かな。」と老人はより笑った。

 「すまないね。政府の取り調べと反政府の奴らの取り調べでこうなったのさ。彼らは同じだよ。水面に映った化け物をお互いに殴り合うのさ。無意味なことにね。」
 それ聞きながら老人が言うままに町の教会に連れて行くと町の名前を確認する。ここはウェスカーだ。かつては要塞都市だっただけはあり、城塞などが多数ある。それ故に前世では同じような地点にあった場所はスペイン内戦時代に激戦区の要塞として戦ったようだ。

 となるとイスパニア内戦が始まればこの老人も巻き込まれるのだろうか?と思ってしまい、嫌な気分になった。外に出てタバコを吸う。紫煙が空に登り龍のように舞う。ドラゴンというより登りゆく龍のようだった。

 覚悟を決めるしかないようだ。なぜ毎回内乱に惑わされるんだ?おかしいよな俺は、いや、これは俺が始めたのか?

 わけがわからないままに走り続けるんだ。お前らの責任だよこれはでもやると決めた以上は背負って進むしかない。一度初めてやってしまったのは俺だから。ならばやるしかない。

 「登竜門か。」
 登竜門は急流を鯉が登ると龍になると言われていたが結局は清流派と濁流派の争いだ。それこそ銀河英雄伝説のロボスとシトレにも似ている。しかし、俺は登った山や坂の上が黒い雲のようにならないという保証はない。

 俺の行先は登竜門なのか?それとも坂の上の雲なのだろうか?だが、それは後世の歴史家が決めることだ。そして、また歩き始めた。ウェスカーから共和国国境まではたったの50キロであり、そこでようやく俺は飛ぶことにした。ここから飛んでしまえばイスパニアの中央は今頃よくわからないことになってるだろうから追っ手は来ないだろう。

 そして、そのまま低空飛行で飛び立ち飛行から1時間。そろそろ国境だと思ったが慌てて、高度を下げる。共和国空軍だ。

 領空侵犯しようとしてる俺をイスパニアの魔道師とでも思ったのだろう。そして何より、奴らに捕まる訳にはいかない。ガバガバイスパニョールならまだしも、彼らは軍人だから冗談ではすまない。越境行為はバレないように当て数十分も飛べばもうカルターニア地方だと思われるここからは人が多いために素早く降下して身を隠し、何気ない顔で民家にノックする。

 それにしても一回もイスパニア軍にバレないのはおかしいと思うのだが。

 「すみません。」
 出てきたのは若い女性と年をかなり刻んだ男性。
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 「なんのようですか?」
 老人が手に猟銃を持っている。田舎に来たから珍しがられているのか?「馬車を出してくれないか。十分にお礼はさせてもらいます。」と言うと難色を示された。

 「今日の朝辺りから若いやつらは、あんたがた軍の臨時訓練だかを発令して、州都のバロスロナへ向かったよ。まるで戦争みたいにこっちだってそろそろ収穫の時期なのに全く政府といえばこんなことばかりだ。俺らの土地を新農民に与えると奪い取って。」
 老人の怒りに火が燃え上がってるが、女性が肩を抑えて席に座らせたワインを注ぐと飲ませて老人は黙りだす。えっ、なんかこの人こわっ。

 「まぁ、ともかくとして現金がもらえるならいいじゃないのおじいちゃん。」
 と無理矢理納得させて、馬車が出ることになった。しかし、なぜイスパニアの国境軍がいないのか俺は分からなかったが大方、反乱軍の中に密告者でもいて、反乱をさせてから鎮圧したほうが全部捕まえられてお得とかイスパニア政府が勘違いしたんだろう。

 ガス抜き代わりに反乱軍を鎮圧ならわかるがもしや、与党の中でどれかが抜け出すために出し抜いた可能性もある。同時に与党の中にも反乱軍の仲間がいる可能性もあるし、もしかしたら反乱軍や与党の中にフランソワと結んでる可能性があるのも忘れてはならなかった。

 なんやかんやで、馬車が動き出すと俺は寝ることにした。バロスロナとやらに兵士が固まっているならばだ。海の近くまで行って飛びたてばいい。一度公海に出てしまえば、内戦中の彼らは追ってこれない。

 そうたかをくくってたのだが。


 気配に目を覚ますと数人でこちらを縛り上げようとしているので全員殴り飛ばす。いきなり寝ていると思った俺が起き上がって殴ってくると思わなかったのだろう。彼らはふきとんだ。

 「なんの真似だ!これは!」
 俺はすぐさま、隠していたジャックナイフを逆手に持つともう片方の手でエルトマンから支給されたモーゼルC96のような拳銃を構える。

 見よう見まねだがCQCとコマンドサンボなどの真似ができる俺がいくら3年から5年兵役に付いてるとはいえ、素人の彼らに負けるわけもなくそのまま逆に縛り上げた。

 「形勢逆転というやつだな。」
 爺さんでもなく、首謀者は彼女なのだろう。若い女に問いかける。

 「中央の犬!これ以上私達は奪われない!」
 帝国人ですけどコイツら勘違いを‥‥あっ、民族主義者か。で、準備してたところに怪しい軍人が来たから俺がまるで軍からの密偵に見えたわけだ。なわけ無いだろ!もうとばっちりが行き過ぎてふぐ料理か?てっちりだわ。犬も歩けば棒に当たるどころかイスパニアを歩けばおもしろ集団に当たるだわ。こいつら、官僚組織もないのに独立なんかしてもクーデターに次ぐクーデターでトランプの大富豪?大貧民?アレと同じになる革命を革命で返す不毛地帯だよ。

 「なにか勘違いしてるところ悪いが中央でもなんでもない。私は単なる旅人だ。まったく、勘違いだから許してやるから馬車は借りてくぞ。」
 縛った彼らをその辺の小屋に入れて、馬車で俺は共和国国境まで走ることにした。もうなんなんだよ。

 「はぁ、疲れた。それにしてもこんなに不満が溜まってるだなんてこの国はもう終わりだな。」
 しみじみ思う。革命が成功しても現左派政権も前右派政権も債権まみれの債権国家には変わりはない。更に、官僚組織は腐敗してるが使い続けなきゃ死ぬ。戦乱で荒廃した土地を嫌がりホワイトカラーの資本家やインテリ層は他国に逃げる。

 独裁以外に道はない。フランコもどきが現れなければ国家離散だ。そうなれば独立派は喜ぶが今まで受けていた恩恵もなくなり、みんな貧乏になりみんなで切り分けるケーキだ。

 ガスコー地域はベイクドチーズケーキが有名だとか新聞に載っていたな。平和だったならぜひ食べてみたかった。

 三日目となり、朝日が上がる頃に俺はやっとバロスロナに着いた。個人的には嫌だったが仕方がない。木を隠すには森で市街には義勇兵や新兵的な軍人が闊歩していた。

 更に海底ケーブルの局を制圧してるのが見て取れた。

 あっ、これは嫌な予感がする。正規兵はあまり居なくて新兵や義勇兵的な民兵隊の集まり、これは確実に恨みを生む。本来死ぬはずじゃない市民であったはずの存在の死は怨嗟が鳴り響くのだ。それに正規兵はいないのを見ると政府側か反乱側に多くの正規兵がついて、カタルーニアの守備を放棄したのだろう。懸念材料だったイスパニア軍はいない。

 逆に言えばこちらはやりやすい。港に向かうと揉めている人々を背に俺は民間航空会社に向かった。そして、エルトマンから工作資金として受け取った白紙の小切手を切り、水上機を買うと燃料も積み込みフライトすると決めた。

 バークマンの促成訓練が役に立つとは世の中はわからないものである。

 が、飛び立ったときに思った。もしや、あのスペイン内戦のグダグタを俺は思ってるが反乱軍が組織として機能していて、ことがより早く行われてるのでは?

 まさか‥‥イスパニア国王が反乱軍に抑えられたのか?分からないがより恐ろしく早い反乱劇なのは確かで、左派政権は風前の灯だろう。だから国際旅団とかおきないんじゃないだろうか?

 「そうであってほしいな。」
 水上機で空を飛び上がると次の着陸地点はイルドアになるなと先に連絡をするために備え付けの打電装置を用意するのだった。 
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