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帝国兵となってしまった。

作者:連邦士官
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7

 街は赤く日差しではなく、紅蓮の炎で朱色に色づく中で舞う煤や灰、この各国の大使館が揃う大使館通りである表には、いろいろな国籍の人間が集まり、それも各大使館の前ではパスポートを掲げた市民でごった返している。まるでインディアンポーカーか取り付け騒動のようだ。

 「俺が先だ!」「よせ、俺は老人なんだぞ!」「女子供は捨て置け!俺を入れろ!」「男なんて皆殺しにして私達だけでも入れて!」
 いろんな怒号が飛び交うがすべてが醜い人間の様子を表し、大声で叫ぶ人間たちは皆、一様に我先にと塀などにしがみついては周りの人間に引っ張られ引きずり下ろされる。蜘蛛の糸のカンダタの集まりのようだ。これが存在Xに祈りを捧げるという人間の姿なのなら、なるほど存在Xとは人間の写し鏡かもしれない。であるが、人は醜い場所があるかもしれないがよく見れば迷子だろう子供を保護している老夫婦も見える。

 醜さも美しさもまた人だとするならばそれを見ずに信仰が増えた減ったで判断する存在Xもまたシカゴ学派なのだろう。

 その感情の渦の中で特に手続きにこだわる連合王国などは、兵士が集まっている自国民にライフルを向けて銃口によるお話し合いで追い払っているが、帝国の大使館は対照的に全権大使が儀礼用の軍服に身を包み、国籍の確認なしに難民を引き入れている。

 そんなことをする帝国大使館は異様だ。役所役所した他の大使館と比べたとしても、この大使館は破格の広さだがそれでも敷地に集まった人々に対しては土地が少なく、その人々に自らスープを振る舞う全権大使の姿は何か滑稽に見えないこともないが立派だ。

 「隊長、行きますよ。」
 眼鏡の神経質そうな若者、憲兵隊のシュトレーゼマンが急かしてくる。本当は行きたくないんだけどなと思いつつ、明らかこちらの所属が誰が見ても帝国兵だとわかるように皆、マントの様に帝国旗をつけて見せびらかすように、それを明らかにして走る。そして、腕章にも双頭の龍が踊る。そして、頭には儀礼用のピッケルハウベが鈍く輝く。

 繰り出した街にあったものは、瓦礫と悲鳴と混沌がキャンバスに落とされて混ぜ合わされた赤黒い狂気のゴッホの油絵のような残骸の成れの果てを走る。そしてまた走る、子供の泣き声を通り越した鳴き声に、宝珠により視界を強化すれば警官隊が市民に殴り飛ばされ、恐怖で震える若い警官が叫ぶように年老いた警官の静止を振り切り引き金を引き発砲して市民たちと死のワルツを踊る。

 そして、頼みのダキア軍はダキア警察と共に土囊と有刺鉄線で作ったバリケードを大公が住むだろう城の前に展開し、有り合わせの古ぼけた大砲‥‥ナポレオン砲だろうか?それらが対空砲座のように鎮座して、威圧をするが熱を帯びた市民らはそれすらを無視して周りを包囲する。

 火炎瓶を市民が投げたのを皮切りに、ダキア軍の小銃などによる水平射撃の釣瓶撃ちが始まり、市民らはどこから持ってきたのか青銅のカルバリンのようなより古ぼけた大砲や暴走させた馬車をダキア軍に放ち、それが織りなす終末のような景色に神父が必死に祈りを捧げるが暴徒に殴り倒され、その高価そうな服に火を放たれる。

 この世に地獄と鉛玉の雨を表したかのような風景の中に、場違いな貴族の紋章が付いた馬車が動き出し、荷台から機関銃が出てきて集まっていた野次馬もろともなぎ倒す。涙の海に溢れる血飛沫、血と涙のカクテルが大地を満たしてそのしずくを離さない。ここは本当にあのダキアなのか?牧歌的で前時代的な人々の集まりのように感じたが目の前の出来事に怒りを感じた。これでは人に品性を求めるのは絶望的なのか?それでも、なお俺は人は希望や未来に向かい歩み続けれるのを知っている。

 踏みにじられた新芽よりも人間はかくも立派で耐え難きをたえ、そして前へと更に前へと前進をし、止まらずに進撃を繰り返す。過ちもあるだろうが人は乗り越えるだろう。でなくては、何が人間で人間ではないのだ?人は暖かさを持った生き物なのだ。その温かさは凍土も慈しみがある大地に変え、人が生まれるべき、そう人間が生まれる大地を作るだろう。それが人間の答えなのだ。

 走りながらも思考は加速する。あのご自慢のコレクリウスは何をしているのかと思ったが、大騒動を見るに学生リーダーには荷が勝ったのだろう。さらに言えばこれは‥‥。

 「シュトレーゼマン、あの旗はルーシーだな。」
 暴徒の中にルーシー国旗を見つけて、すかさず宝珠で映像記録を取る。彼らはルーシー国旗やおそらく労働団体の旗を掲げて商店や銀行を襲っている、商店の主人だろう老夫婦を殴るのを確認したときに、隣のシュトレーゼマンが腰に下げた拳銃を引き抜き暴徒に発砲しようとしていた。

 「アイツら!ふざけるのも!」
 シュトレーゼマンの腕を掴んで、それを止めた。相手は何をするかわからない暴徒だ。それにその仕事はダキア警察や軍の仕事であり、帝国人は何もできない。我々はテロリストではなく軍人なのだ。追い込まれたとき以外は暴力を振るうべきではない。

 「よせ!シュトレーゼマン!こちらから発砲できない!我々は全権大使の命令で動いている。落ち着け!全権大使が命じたのは暴徒の鎮圧ではなく、自国民の救済だ。それにここで撃っても何も変わらない!」
 その言葉にハッとした様な顔をしたシュトレーゼマンは、俺の宝珠を見て、襟元に掴みかかる。そして、鼻息があたり、前髪がつくぐらいに近寄られる。

 「ジシュカ中尉!貴方ならできるでしょう!その力がここにある。あんなのを見過ごせと?それこそ、帝国軍人の恥だ!」
 そう言われてもシュトレーゼマンやそれに同調している衛兵たちは怒りを見せていたが、少しの時間が彼らを冷静にして自分が無茶を言ってるのはわかってるようで、段々と襟をつかむ力がなくなってきた。

 「わかってくれ、シュトレーゼマン。ホーデン、クルスト、シュルツ。あれらがルーシーの国旗を掲げているのも問題だ。こちらがそうであるように嘘か本当かわからないが彼らを下手に扱うと国際問題になる。その上、ルーシーと帝国は戦うべきではない。背後から連合王国や共和国が来るだろう。人の不幸が好きな連中だ。」
 そして、また走り出した。帝国人居住区と揶揄される街角に着いたときには壁一面に書かれた軍国主義は許すななどの落書きがバキの家のごとく書かれ、宝珠を使うと帝国人の一部が抵抗活動をしているようで、猟銃を持ったスナイパーと双眼鏡を持ったスポッターがいろいろなアパートの上に立っていた。

 サイレンの屍人たちのごとく、屋根に立ち彼らは暴徒に発砲しており、時には相手の頭上に火炎瓶やコンクリートブロック、果てはチェストや花瓶を投げ込んでいた。

 しかし、数がいる暴徒は確実に歩みを進め、距離を詰めていた。すかさず、宝珠に魔力を込め、持っていたスキーを履き、飛び上がる。そして、空に爆裂術式を炸裂させてから彼らに呼びかける。

 「ダキア国民の皆様に次ぐ、我々は帝国軍先遣隊である。諸君らが治安または、秩序を乱すというのは看過できない。我々の任務は帝国人の救済と保護である。それ以上の行為は帝国軍と刃を交えることを覚悟の上でやるべきだ。そうではないのならば、退かれたし、今なら不問とする。非戦闘員は避難されたし、繰り返す、非戦闘員は避難されたし。20分後にここを戦闘区画と認識する。」
 避難勧告をだし、帝国人に避難を呼びかけるのだが暴徒がこちらに向かってライフルを撃ち込んでくる。

 「これが答えだ!そうだ帝国人!我々は非戦闘員ではない!専制主義の帝国人風情が何を言う!我々はダキア人だ!外国人は海外に出ていけ!貴様らがいるから我々は虐げられてきた!ふざけるな!」
 そうだそうだという声が上がる。いや、そんなこと言われても知らないよ。そもそもダキアと頻繁に取引してたのは共和国と今はなきルーシーの前身の帝政なんたらだろ。帝国は石油や鉱物資源しか取引していなかったはずだ。あぁ、そうか。ルーシーができて、減った国際取引額が全部帝国や共和国やら連合王国といった海外に買い叩かれてると思ってるのか?

 ても、実際君たちには石油とかぐらいしか価値がない扱いされていたような?

 「繰り返す、我々は帝国軍先遺隊である。邦人保護の為に来ている。帝国人に対する包囲を解けば何も手出しはしない。」
 と言っている中で視界に入ったのは帝国人街の商店に入り込み略奪する暴徒の姿。これはどうしようか?勧告中に勝手に略奪始めた。彼らはそもそも断ると言っている。であるならば軽く、脅すだけでいい。音を炸裂させる術式を撃ち込むことにした。

 謎の士官学校で教えられたことだ。音波により彼らを一時期的に足止めできるだろう。

 「今、略奪は開始された。残念である。」
 展開される術式が光り輝く魔導陣を描くと、暴徒たちはあの爆裂術式が来ると思い、我先にと逃げ回るがその混乱が将棋倒しになり、倒れた人間を踏み潰し次々に混乱は伝わりまた違う地獄を作り出す。見てられない。

 「シュトレーゼマンら各位に告ぐ、ダキアの治安活動を行うぞ。流石にこれは見てられない。けが人の手当などを行う。」
 将棋倒しになった人々やなんやを助けに入る。なんで、帝国軍が治安活動をしてるのだろうか?ダキア人は何をしている?

 その暴徒が起こした将棋倒しの混乱も収まった頃、ダキア人のけが人なども運びながら帝国人400人余りを保護した。

 彼らは襲われないように持っていた帝国国旗を掲げて行進している。見た目では外側に武装した市民がいるため、平服ではあるが帝国軍1個大隊のように見える。更にはそれを見て、何故かついてくる市民が多く、大使館につく頃には国籍はわからないが1000人近くに登っていた。

 「只今、帰還しました!」
 想像していたより多数の人の群れにぎょっとしつつも全権大使は頷いた。

 「帝国人以外は帝国大使館に入るのはまかりならん!しかし、多くの場合はそうであるように政治的な理由による亡命ならその限りではない。書記官。ビザの発給を急ぎ給え。」
 全権大使はそう言うと、大使館の敷地にぎりぎり入るかどうかの彼らを受け入れる準備を始めた。それを見た各国の大使館の前に集まっていた群衆も自ずと入れてくれない自国の大使館を見捨ててこちら側に列を作る。

 ビザの発給により、大使館の敷地は埋もれるほどに人々が黒波を作る。
 
 「なぜここにあなたがいる!」
 全権大使の声に姿を見ると新聞で見たダキア工業省の大臣の姿があった。ヨレヨレで煤けた姿は浮浪者にも見える。

 「それは水をもらえるか?あぁ、すまない。生き返った。もう、ダキアはおしまいだ。大公は軍を城の防備に集めて議会を見限った。議会や政庁に議院宿舎までも制圧された。首相は真っ先に撃たれたよ。私しか逃げ切れなかった。恥ずべき行為だ。怖くても撃ち殺されておけば国が壊れる様や野蛮な国民の本性をついぞ知らずに、幸せに死ねただろう。私は神を恨む。あぁ、神よ残酷なことよ。我が国の最後にも殉じさせてくれないほど私の臆病な本心を突くとは!」
 演劇かと思うほど大げさに嘆く大臣は力なく大使館の柱によりかかると給仕から渡された気付けのウィスキーをボトルごと飲み、むせび泣いていた。

 もうダキアは終わりかと言う雰囲気が支配し、皆黙々とスープをすする様は異様で、誰一人不安を口にはせず、不安を口にしたとしたらそれに取り憑かれるとわかっているようだった。

 すわ唐突に爆音が聞こえる。見るとルーシー大使館の方だ。ルーシー大使館が砲撃により焼けていた。そして、乗り込む群衆と旗を見ると鉄兜団だった。

 「焼けている。なぜなんだ!」
誰かがつぶやくのと同時に秋津洲皇国大使館が流れ弾で吹き飛んだ。そちら側からはダキア大学の旗が見えた。アイツらだ。何をしてるんだ!?

 鉄兜団とダキア大学の学生デモ隊は名物の直進行軍でもしてるのか?それともマッシュルームでサイケデリックな夢を見てあぁやってるとか?

 「よせ、ダキアの諸君ら!それ以上は国際法違反である!それより先は各国領土である。君らは領土侵犯を犯している。到底それは許されない行為だ。今ならまだ間に合う。矛を収めて家に帰るといい。」
 全権大使が暴徒に叫ぶがなるほど。全権大使も俺と同じで大衆心理を理解してないらしい。彼らは合理やなんやは必要ないのだ。

 誰かが決めて動けばそれを行うのが彼らであって主体性はないまず、リーダーもいない集まりに呼びかけてもなんの意味をなさない。ハロウィンのときに騒ぐ若者やクリスマスのときにニューヨークに集まり酒を飲んで吐いて遊ぶような彼らと変わらない。

 誰も上にはいない、自由であるがゆえに不自由で不都合なのだ。感情に支配されているのは彼らなのか全権大使なのかはわからないが不味いことになるぞと思い、自分の部屋に置いてきた例の‥‥ダキアに移動する前に送られてきた試作品を取り行くのを決めた。やるしかない。

 これは俺が始めた物語ならば俺が責任を取らねばならない。誰の責任でもない。誰かのせいでもない俺が、俺こそが悪いんだ。なら、俺が決めてやる。例えその先に地獄しかなくてもコレクリウス。お前を楽にするのも、俺を楽にするのも結局は俺の責任なんだ。

 だからやる、俺はやってやる。それが悪手だとしてもだ。

 そして、歩き出した足は誰にも止めることができないと一人納得した。 
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