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帝国兵となってしまった。

作者:連邦士官
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3

 士官学校は首都の郊外にあり、より古さを感じる佇まい。

 「傾聴!諸君らには望むものは少ない!格別たる国家への忠誠を求む。この士官学校には卒業生はいない。皆、学べば中途退学し前線に行く学校である。意味はわかると思うが辛く厳しく名誉も得られないがそこには皇帝陛下の治世を守る力が得られる。辛く厳しい戦いであるが帝国とは戦い、戦い、戦いの連続であった。我々は当然としてライムやカタツムリを食べないことから想像もできるだろう。では、中退し陛下にその身と健闘を捧げるのが貴官らの責務である!皇帝陛下、帝国の礎となれる我々の栄光ある日々よ永劫なれ!」
 そして、こうやって訓示を聞いているがあの会議とは名ばかりの話し合いからまた数ヶ月が経過した1917年も中の事である。件の士官学校にやってきて、こうやって校長の話を今聞いているのだがなぜだかここは妙な士官学校であり、卒業生はいないらしい。

 初日であり、どんな人がいるのかわからないので周りを見回す。わからないように視線をずらし見えてきたのは、大勢の着崩したような感じがする風変わりな面。

 そこで気がついたがあぁ、なるほどやはりここはきっと不良軍人の行き着く先なんだろうな。そんなことを考えながら奥をちらりと見ると一人だけ異様に卵をいじる生徒がいる。なんてやる気がないんだろう。そもそも卵を何故に持っている?疑問が尽きないが考えるまでもないだろう。じゃないと前線送りにならないし、やる気がない奴らじゃないならばだ。

 こんなにも精神論を長く長く語らないだろう。その点ではあるが一般人の俺には立派な戦いや新しい戦法とか作れないから関係がないよな。早々に成績不振により辞退すればいいからな。戦いの前に戦いは決まる。一斉によーいドンで始まりはしないのだ。少しだけ気が楽になる。

 「今、入学生の筆頭!フリードリヒ・デニーキン・ジシュカ曹長いや准尉!貴官にはこの筆頭としての自覚と役割を持つことを求められる。筆頭として帝国の荒れ狂う冬山や嵐の海に立ち向かうことができるのか!!それを貴官に問いたい!私は貴官の未来を見ている!帝国の未来をいかなるものとする!」
 いきなり何だ?サプライズ乱入かよ昭和のプロレスだけにしろそんなこと!何も聞いてないからそんなことを言われても‥‥周りを見ると俺の発言を待っている。まさかだが適当に何かを言うしかない。どうしたものかと一分程度を黙る。

 そして、息を吸うと覚悟が決まった。なんとかする。

 「この先は地獄であり暗雲でしょう。共和国や連合王国、ダキア公国ならびに協商、彼らとは敵対をしています。イルドアとも微妙だ。彼らは未回収のイルドアと言っている。小官が見るにルーシーなどという東の土台が腐った納屋よりも西側が火種になるのは明らかでしょう。より良い敗北をしなければならないのです。勝ちすぎると‥‥例えば協商を完全制圧するならば連合王国は半包囲される形となる。となれば当然として共和国の共和制革命中毒者を‥‥ギロチン遊びブドウ農家をけしかけるでしょう。そして、共和国には大きな夢がある。その夢は帝国を倒すか一部になることかもしれない。しかし、それは果たされない。合州国に巨大な借金があるからだ。」
 なんかよくわからないがみんなに見られている。あの目は‥‥俺は続けることにした。なぜこんなことに?しかし、辞めるから関係ないだろう。

 「さらば帝国よ!」
 思わず口から本音が出てしまい、周りがぎょっとするのを感じる。脳裏がチリチリとして頭骨からぞわりとする感覚が高周波マッサージ機の電気のように伝う。いや、これは這っているのだ、ヤモリのごとく。

 「貴官なにを?」
 校長が二の句を継ぐより先に勢いで誤魔化さねばならない。短期的になんとかできるように言葉のシャワーを浴びせるのだ。相手の思考を止めれば勝ちだ。歩まない人など単なる葦でしかない。

 「さらば帝国と言いました。合州国が参戦すれば連合王国は兎も角として我々には輸送手段はない。どうやってあの親すら金に変えるマネタイズを正義とする資本主義の巨人を倒せましょうか?神は死んだのである!個人主義が蔓延し、社会が相互作用をなくし、共同体は崩れ自己責任が闊歩する。しかし、彼らは神より紙を信じている。マネーという紙を。その神は我々に鉛玉を届け、本国攻撃能力がない帝国をなぶり倒し、天文学的な数字を我々に突きつけ、レモンの種が悲鳴を上げるほど捻り上げられる。そうならざるとも早期警戒網を作り上げなくてはならない。」
 何の話だよこれ、でも止まれない。止まったら終わりだ。ドミノ世界選手権のようなものだ。ドミノが止まればすべてが崩れる。

 「帝国が欲するのは軍事力ではなく、工作力です。敵の懐に飛び込み、彼らに訴えかける世論工作など。正面戦力などは7割8割の性能の兵器を並べても多くの数を並べたほうが勝ちます!百発百中の一門より、百発一中の百門なのです。数が正義なら仮想敵国の人口と生産力は帝国を凌駕している。初期にどのくらいの仮想敵国を被害無しで落とせるか時間の戦いとなるが、その時間は合州国に力を与える。工業力や生産性の向上もそうだが。我々にはそう、そう安全圏が少ないのです。帝国安全圏と死守防空識別圏の設定が必要で、我々には安眠できる領土的距離的暴力が必要なのです。であるならば生産性が高い武器も工作機械の生産もそれを支える電力エネルギーもすべてが全て必要なのです。必要なのが多すぎる。果たして帝国人はそもそも勤勉なのでしょうか?私は違うと思う。」
 とりあえず話を終わらせる方向に持っていく。終わらせるのだ。このまま長く話し続けてもボロが出るだけだ。

 「荒れ狂う冬山も嵐の海も我々の‥‥帝国魂があれば突き進めるでしょう。それは帝国のあり方そのものであり、進軍はただ闇雲に進むわけではない。単純に前に行くのではなく時には転進といい、後退する決断と覚悟もいる。過去、魔導師は戦場の花形であった。が今現在は‥‥そう、現代においては小官の所属する航空魔導師は少なくとも扱いは塵芥に近い。当然であるがなぜならば、航空機より遅く、戦車よりは弱い。しかし、使い方によるのです。見方を変えれば例えば戦車より早く、航空機より固い。前述の劣勢の環境も同じだと言えます。卵も切り方によっては四角になり、卵も立つ。詰まるところはソコと同じなのです。我々は卵に過ぎないわけですが卵には使い道が色々とあります。例えば殻だけ残しておき、中身を爆弾に置き換えてもただそこにあるのは日常の卵であり、気に留めるものも少ない。我々は様々な料理にも活躍できる卵になるべきだと思います。それは国家百年の計であり、継続される帝国社会における国家だと思われるのです。」
 卵いじってるやつを思い出して卵の話をしてしまったぞ。卵で軌道修正しようとしたが無理だった。卵ってなんだよ。とりあえず国家百年の計とか意味深なことを言っとけばまとまりはいいだろう。

 「卵料理は作り手の技量が一番試されると聞く。生徒が卵なら講師である我々の技量が問われると言いたいのか?流石やつのところのだ!諸君ら、筆頭の言うとおりだ!卵になれ我々教官が料理したくなる卵になれるように諸君らに期待している。この学校には繰り返すが中途退学しかない。雛鳥にはなれない。であるから諸君らは卵になるべきだ!では、筆頭は勝手な発言により校庭を20周だ!以上!」
 お前、ふざけんなよ爺!いきなり何だそれは俺が何したと言うんだ!勝手に発言しろとやってきたのは爺の方だろ!なんで俺が責められるんだよ。だが、校長には嫌われたに違いない。目的は達成できたはずだ。

 これできっと学校を辞めれるな。貯めていた怪文書の論文と共にこの走り終わった除隊道を振り返りながらも退学届を提出すれば最終地点の除隊に近づくだろう。俺ならきっとこんなやつは除隊にする。何故か成績は良くなってしまったが誤差の範囲だろう。いちばん簡単なのは脱走兵だが逮捕される可能性が高い。除隊にしろ不名誉除隊にしてもそれらだと別に逮捕されない。これは完璧なやり方だな。そうこの除隊街道をひた走る中で俺は考えをまとめて決めた。より大胆にだ。


 20周を走り終わる頃には昼も終わりに近付いていた。意外と早く終わった。校庭はすぐに回り終わる。走り続ける限り道は続くが終わったあとに目に入ってきたのは黄昏時の金色の町並み。石畳のどこか無機質な町並みも色付き温かみを持っていた。その温かみがより異国情緒を浮き彫りにしていた。あぁ、なるほど帰れないんだなとより思った。もしかしたら俺の居場所はここなのかもと考えたがかぶりを振り、再び歩き出した。部屋に入ると荷物から怪文書たる論文を取り出した。決意は決まったあとは行動に移すだけだ。賽は投げられてしまったのだ。どう思おうとあとは、やることは一つだ。退学届をしたためて教官室に向かった。

 教官に渡すがなんでも一教官では退学届は受理できないらしく、職員の詰め所に渡しに行ったら判断できないと言われてしまった。

 「ままならないよな。なぁ、太陽。お前は輝いてるよな、どの世界でもきっと。」
 疲れからか夕日につぶやくと俺はセンチメタリズムな感情に引き込まれて飲み込まれそうになる。それを忘れるように俺は校長室へ急いだ。とにかく急ぐ何も怖いものはない。なぜならばまだ戦争は遠く、5年ぐらい時間はある。それの内にやめられればいいだけで、前の問題行動で辞められるはずだ。予備役や不名誉除隊など何らかの形で軍から離れれば即刻、帝国を出ていくより他の道はない。それに資産形成は成功している。柵に纏わりつかれへばりつくなんてできない。

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 しかし、この帝国もこれだけ暮せばこの石畳に少しは愛着が湧いてきたかもしれない。石の上にも三年だったろうかなと自嘲する。そして、校長室の前につくと身だしなみを整えた。せめて最後ぐらいはしっかりして見えるようにしないと。今日は初日だけどなと内心、笑い話だなとか思いながら、ノックをして声をかけてから、おそらくはこの音はマホガニー製だと思われる扉を開いた。

 「なかなか早いじゃないか。筆頭、なんの用かな?」
 校長はカイゼル髭を生やし、香油で撫で付けたパリッとした髪型でモノクルをかけている痩せぎすの長身であるが、椅子に座っていると立ってる時よりも小さく見えることから羨ましいことに足が長いのだろう。現代ならば俳優でもやってそうな御老体だ。手にしてるのは帝国紀と書かれたなめし革の表紙の本だ。

 そして、机の上にはまるで民兵タワーのように積み重ねられた決裁書の束、そして転がる決裁印とインク壺の中で佇む上質な素材に見える羽ペン。机の上にある懐中時計には鷲とドラゴンが刻まれていた。そんな雑多な中を見てしまえば中小企業の神経質な社長に見えないこともない見た目にも思えた。しかし、抑揚をよく付けた声と意外と寛大な仕草とでタバコに火をつけ、モノクルを外してから用件を聞いてきた。

 「失礼いたします。このような若輩者である小官は自主退学を願います。理由はこれらです。小官は一兵卒でありたいのです。」
 満を持して取り出すのは怪文書の数々、これで俺の引退も安泰なはずだ。そして少なくとも予備役送りであろうこれが俺の考えた安全圏なのだ。そうするとヒゲを撫でながら校長はモノクルを再びつけ直し、出された怪文書の資料を捲ってる。この気配感じる、勝ったな。これは俺の、初めての俺の小さな小さなそれでいて重大な勝利だ。

 資料が進むたびに校長は顔をしかめながらも、訝しげに考えるように緩慢な様子でその指は資料の数々を何回も捲る。そう何回もページを捲る。そして、彼は再びモノクルを外し机の上に置くと今度は重々しい口調で言葉を紡いだ。

 「なるほど。一瞥しただけではあるが貴官の主張はよくわかった。しかしだが。この帝国において軍隊は官僚組織故に手続きが一番の重要だ。これらの規則により判断はくだされる。すなわち貴官の主張は3ヶ月後になる。中退の最短がそこに設定されているのだ。この資料は置いときたまえ。精査しなくてはならん。そして君は考えるほうがいいか飛ぶのがいいかどちらか選び給え。」
 校長の問は即決を要求したので答えることにした。

 「飛ぶ方で空はきっと帝国でも極東でも共和国でも例えば連合王国でも変わらないでしょう。小官は‥‥いえ、私は帰る場所に似ている空にいたい。」
 折角だから航空魔導師として、空を飛んだあとに除隊するかと決めた。

 勝ちをもぎ取ったと足が軽くなり、ウキウキとするが浮足立つわけにはいかない。一礼すると退室を告げ、自室に戻ってすぐに寝た。堪らなく布団が柔らかく感じたが実際は3日放置した食パンぐらいの硬さだった。 
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