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英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~

作者:sorano
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第24話

15:05―――――



~東方人街・療法院~



「アーロンさん、大丈夫でしょうか……?」

「……先生のお話だと、命の危険はないとのことです。しばらく安静にしておく必要はありそうですけど……」

「ありがとう、ヴァンさん達。アーロンを連れ帰ってくれて……」

「私も感謝しているわ、本当にありがとう。」

フェリとアニエスがアーロンの受けた傷について話し合っているとアシェンとマルティーナがヴァンにお礼を言った。

「ま、あのザマだがな。」

「ううん、生きて帰ってきてくれただけでも……あのバカのことだから、返り討ちに遭っても最後まで退かなかっただろうし……」

「ええ……相手との力量差を理解した事で、これで少しは冷静になってくれるといいんだけど……」

肩をすくめて答えたヴァンに指摘したアシェンは安堵の表情で答え、マルティーナは静かな表情で呟いた。

「……ったく、危なっかしいヤツとは知ってたがここまでだったとは……」

「うん……いつものアーロンならもう少し冷静に判断できると思ったよ。」

「それは……それだけレイ達が大切だったってことだと思うけど……」

ジャックとハルのアーロンに対する感想にアシェンは複雑そうな表情で推測を口にした。



「……ヤツのことはともかく、これで全面戦争が確定したみたいだな。黒月は勿論、アルマータの幹部どもも本気でやり合うつもりらしい。」

「確かに恐るべき腕前みたいでしたがそれでも黒月に敵うのでしょうか?」

「……そうですね……”エースキラー”の人達がいなければ、配下の人達もあんな風にしたでしょうし……」

「普通に考えれば無理だろう。煌都における黒月の戦力は圧倒的だ。だとすると、不確定要素である”銀”の存在すら折り込み済みで―――その上でなお”勝算”があると連中が見込んでいることになる。」

フェリとアニエスの疑問に答えたヴァンは真剣な表情である推測を口にした。

「何らかの切り(ジョーカー)……さしずめ昨日の”霧”か……?」

「ま、それはわからんが。」

ジャックの指摘にヴァンが肩をすくめて答えるとアニエスとフェリはゲネシスが入っているアニエスのポーチに視線を向けた。



「……いずれにせよ、貴方達をこれ以上は付き合わせられないわね。いざ黒月(ウチ)が動き始めたら徹底的に一切の容赦なく彼らを狩り立てると思う。警察にもギルドにも止められないし、かなりの犠牲が伴うでしょう。」

「………………それは………」

「「………………」」

アシェンの話を聞いたフェリは真剣な表情で答えを濁し、アニエスとマルティーナは目を伏せて黙り込んだ。

「ま、ギエン老はともかくファン大人は町の衆のことは考えてそうだしな。ギルドや警察も最低限は動きだろうしお前らの出る幕じゃなくなるだろう。ここらが潮時なんじゃねえか?」

「ジャック……」

「ハン……まあ裏解決屋としての足場が消えちまったのは確かか。”別件”についてもゴタゴタが片付いてから探る手もありそうだ。無論、俺とフェリだけでだ。」

ジャックのヴァンへの忠告にハルが複雑そうな表情を浮かべている中ヴァンは腕を組んで今後の行動方針を答えた後アニエスに念押しした。。

「……はい。」

「アニエスさん……」

ヴァンの念押しに頷いたアニエスをフェリが心配そうな表情で見つめたその時

「ならその”足場”……俺が用意してやるよ……」

その場に声が聞こえた後ヴァンの足元に東方風の短剣が刺さった。ヴァン達が短剣を投げた人物へと視線を向けると治療を終えたばかりなのか体の数ヵ所に包帯を巻いているアーロンがヴァン達を見つめていた。

「依頼だ、裏解決屋(スプリガン)―――――!」

「アーロン、目を覚ましたの!?」

「アーロン、貴方まさかその体で仇討ちをするつもりなの……!?」

「む、無茶しちゃダメだって……!」

ヴァンに依頼しようとするアーロンを目にしたアシェンは驚き、アーロンの行動を察したマルティーナとハルはアーロンを思い止まらせようとした。



「……黒月もアルマータも腹に一物二物あるみてぇだ……だがオレは認めねえ!あいつらが死んだってのに下らねえ駆け引きなんざっ!だが俺はどこまでも半端モンだ……イキがって一人で突っ込んで挙句の果てに返り討ちに遭って……さっきだってアンタやエレボニアから来た余所者と共闘してりゃあ連中に食い下がれたかもしれねえ……!……あの半グレ共も生かしたまま落とし前付けさせたのもエレボニアから来た余所者だ……!!」

「……あ……」

「アーロンさん……」

アーロンの主張と冷静な分析を聞いたフェリは呆け、アニエスは静かな表情でアーロンを見守っていた。

「アンタ、裏解決屋なんだろ……?あいつらが……オフクロが愛したこの街のモヤを晴らす為にも……頼む――――ヤツらをこの手で追い払うのを手伝ってくれねえか!?」

「アーロン……」

「ったく……やっと素直になりやがって。」

「………………」

必死の表情でヴァンに依頼をしようとするアーロンの様子を目にしたアシェンは安堵の表情を浮かべ、ジャックは苦笑し、マルティーナは静かな笑みを浮かべて見守っていた。

「―――――条件がある。」

するとその時ヴァンが静かな表情で呟いた。

「条件……だと?」

「ああ、殺しは無しだ。あの幹部どもも、完全撤退させるか、黒月に引き渡すだけにしろ。」

「ッ……仇討ちも許さねえってのか!?」

ヴァンが出した条件に唇を噛みしめたアーロンは怒りの表情でヴァンに反論した。



「黒月入りしているなら止めねえよ。手伝いもしないがな。だが、お前は何者でもねぇ。ケツの定まってねえガキの手を染めさせるのは流儀じゃないんでな。」

「ッッ……!」

(ヴァンさん……)

(……やっぱりヴァンさんはヴァンさんですね……)

苦笑しながら答えたヴァンの答えを聞き、自分に対する気遣いにアーロンが唇を噛みしめている中フェリはアイーダの件を思い出し、アニエスはヴァンの不器用な優しさを見守っていた。

「……わかった。どうか頼む―――!!」

するとアーロンは頭を深く下げてヴァンへの依頼を頼んだ。その後アーロンは医者によって大怪我をしている状態でありながらも一時的に動けるよう処置をしてもらっていた。



「……あたしは爸爸(パパ)たちの動きを探ってみる。無駄かもしれないけど爷爷(イェイェ)も。」

「こっちも裏のツテで情報を集めてみるよ。」

「ま、あんま期待すんなよ?」

「ああ、所詮は副業、期待半分にしておくぜ。」

アシェンの申し出の後に答えたハルとジャックの申し出にヴァンは苦笑しながら頷いた。

「アーロン―――無茶するなとは言わないけどちゃんと生きて戻ってきなさいよ!死んだりしたらユエファ小母さんに代わってどやしつけてやるんだから!」

「ハッ―――たりめーだろ!」

アシェンの激励に対してアーロンは不敵な笑みを浮かべて答え

「それと姉貴―――」

「……わかっているわ。私には加勢するなという事でしょう?貴方がヴァンさん達に頭を下げてまでアルマータを煌都から追い出すのは、”ユエファやレイ達だけでなく、私の為でもあるから”でしょう?」

アーロンに声をかけられたマルティーナはアーロンが続きを言う前に小さく溜息を吐いてアーロンが言おうとした続きを口にした。

「ああ……”過去の経緯”から姉貴は戦いはあまり好んでいないから、黒月やギルドからの勧誘を断って戦いとは無縁の職に就いたのに、そんな姉貴を俺の”我”に付き合わせる訳にはいかねぇ。」

「た、確かにアーロンの言う事もわかるけど、今はそんなことを言っている場合!?」

「いや、アーロンの言う事も一理ある。仮に今回の件で”アーロンが頼んだからという理由でマルティーナも加勢した”という話を黒月辺りが知れば、今後何らかの形でアーロンとマルティーナを黒月の勢力争いに利用してもおかしくないからな。……すまんな、ルウ家のお嬢さんの前で言うべき事じゃないんだが。」

「ううん、他の派閥もそうだけどルウ家も爸爸(パパ)はともかく爷爷(イェイェ)だと実際にやりかねてもおかしくないとあたしも思っているから気にしないで。」

アーロンの話を聞いたハルはアーロンに指摘したが、ジャックは冷静な様子で答えた後アシェンに謝罪し、謝罪されたアシェンは謝罪の必要が無い事を口にした後複雑そうな表情を浮かべた。



「それと幸いにも今の煌都には黒月以外で、アルマータの幹部達にも対抗できる戦力もいるから、”一般人”のマルティーナを巻き込むつもりは最初からないんだろう、ヴァン?」

「ああ。幾らアルマータの幹部連中を撃退できる程戦闘能力が高いとは言っても”一般人”を俺達が故意的にアルマータの幹部連中との戦いに加勢させたなんて話、ギルドは絶対に見逃さないだろうし、エレインあたりが聞いたら、後で絶対俺をどやしつけてくる事は目に見えているからな。それに”エースキラー”の連中とも俺達がアルマータに対して何らかの攻勢をかける時の共闘関係になる話も既についている。」

ジャックの確認にヴァンは頷いて答え

「さすがヴァン……でも、それなら確かにマルティーナの加勢も必要ないだろうね。何せあの”氷の乙女(アイスメイデン)”に”蒼の騎士”だものね。」

「”飛燕紅児”の直弟子であるログナー家の女当主も東方三大流派の一つ――――――”泰斗流”の達人クラスの使い手という話だし、”北の猟兵”の連中はともかく、”蒼の騎士”の”相棒”の事も考えたらむしろ戦力過剰だろうな。」

(”蒼の騎士”―――クロウさんの”相棒”……?)

ヴァンの話に目を丸くしたハルは納得した様子で呟き、ジャックが呟いたある言葉が気になったアニエスは不思議そうな表情を浮かべた。

「…………アーロン、一つだけ約束して。決して憎しみや怒りに呑まれず、”ユエファやレイ達に胸を張って報告できるアーロン・ウェイ”として戻ってくることを。」

「?要するにレイ達の仇を目の前にしても、さっきまでの無様な俺になるなっつー事だろ?たりめーだぜ!」

少しの間目を伏せた後目を見開き真剣な表情で答えたマルティーナのある言葉の意味が一瞬わからなかったアーロンだったがすぐにマルティーナの言いたい事を推測し、不敵な笑みを浮かべて心配無用である事を告げた。そしてアシェン達はその場から去った。



「うん、こんな所ですね。」

「ふう……本当なら使いたくはなかったんじゃが。」

アーロンの処置を終えた助手は頷き、東方医は溜息を吐いた。

「おお……」

「さっきまで動くだけでも辛そうだったのに……」

「凄いな……東方医術に伝わる”秘伝の軟膏”だったか。」

元気そうな様子で身体を動かしているアーロンを目にしたフェリとアニエスはそれぞれ目を丸くし、ヴァンは感心した様子で呟いた。

「うむ、龍骨に羅神粉に界霊苔を独自の割合で調合したものじゃ。ある程度までのダメージならば一時的に帳消しにする活力を与える。」

「代わりに反動も物凄いですけどね。多分、半月くらいはベッドで寝たきりになりますよ、アーロン。」

「そんなにかよ……」

「使いたいような……そうでもないような。」

東方医の後に説明した助手の説明によってリスクを知ったヴァンは表情を引き攣らせ、フェリは複雑そうな表情で呟き

「上等だ――――――ここで踏ん張らないで何が”羅州の小覇王”だっつーの。いや……そのイキった名前ももう卒業だ。」

当事者であるアーロンは不敵な笑みを浮かべて答えた後服を着た。



「―――――恩に着るぜ、老先生にシェンリーも。流石は黒月からも一目置かれてる名医サマだ。」

「まったく調子のいい……だがお前は孫みたいなもんじゃしな。」

アーロンの感謝の言葉に溜息を吐いた東方医はヴァン達に視線を向けた。

「アークライド、お前さんと縁ができるとは思わなかったが。どうかこの悪タレが本懐を遂げるのを手伝ってやって欲しい。」

「了解だ―――先生には何度か世話になっちまってるしな。」

「しかし本当に顔が広いなてめぇ。シェンリーも知ってんのか?」

ヴァンの顔の広さに感心したアーロンは助手に視線を向けて訊ねた。

「ええ、前々から一度手合わせをお願いしたいと思っていまして。」

「勘弁してくれよ……アンタ相当やりそうじゃねえか。」

助手の言葉にヴァンは肩をすくめて答え

(どこを見ても使い手ばかり……ご飯も美味しいし素敵な街ですねっ!)

(素敵というのは同意ですけどその基準はちょっと……)

笑顔を浮かべたフェリの感想にアニエスは苦笑しながら指摘した。そしてヴァン達が去ろうとしたその時東方医がヴァンとアーロンを呼び止めた。

「―――――アーロン、それにアークライド。余所者も脅威じゃろうがギエン殿には気を付けるがいい。彼の抱える凶手部隊もじゃが……長きにわたりこの街を治めてきた最古老を決して侮らぬようにな。」

東方医の忠告を受けた二人は療法院を出た。



~東方人街~



「老先生……どうしてギエン爺さんの事を。」

「ま、恐ろしい爺さんだとは会ってみて思ったけどな。あの凶手どもにしても一人一人が達人クラスだろうし。」

「はい……」

「”(イン)”に並ぶ程の黒月の切り札、でしたか。」

東方医の忠告が気になったアーロンに指摘したヴァンはギエンに付き従っている凶手達を思い返し、ヴァンの言葉にフェリは真剣な表情で頷き、アニエスは不安そうな表情で呟いた。

「―――――まあいい、今は身内よりアルマータどもだ。不本意だが下駄を預けた身、まずはてめぇらの方針に従う。それでどう動く―――裏解決屋?」

「前提として、あの倉庫にいた半グレともの数が足りてねえ。幹部3人以外に残りの半グレ共……は倉庫での件を考えると既に幹部共に消されている可能性もあるが、正式な構成員も来ているかもしれん。」

「でしたら、あの倉庫以外にも別の拠点が市内に……?」

「はい、黒月との戦争に向けた最後の準備を整えてそうです。」

アーロンに今後の方針を訪ねられて答えたヴァンの話を聞いたアニエスとフェリはそれぞれ真剣な表情で推測した。

「そいつは俺も同感だ―――だがこうなって来ると限られる。東方人街は論外だし、新市街は黒月もカバーしている。港湾区も……こうなっちまった以上、外しちまっても良さそうだしな。」

「その……隣接する軍港内という可能性は考えられないでしょうか?アルマータが海軍を利用している、最悪の前提ではありますが……」

「なるほど……可能性はゼロでもなさそうです。」

「ハン、お上品な小娘かと思えばエグい線を突くじゃねえか?」

アニエスの推測にフェリとアーロンはそれぞれ感心した様子でアニエスを見つめた。

「目の付け所はいいが、黒月の鼻薬の嗅がせ方次第だな。そのあたりはどんなもんだ?」

一方ヴァンは静かな表情で呟いた後アーロンに確認した。



「ファンのオッサンの配慮で海軍には便宜が図られてるはずだ。現地採用の従業員も多いし、”目”も十分行き届いてんだろ。それと総督府を煌都に設置しなかった代わりにメンフィルの”本国”から”本国”の将軍が海軍のトップとして派遣されている上、”本国”の海軍関係者達もそれなりの数が派遣されていて現地の関係者による反乱や裏切りがないかを監視しているという話も聞いているぜ。」

「なるほど……でしたら一旦除外してもよさそうですね。(それはそれで問題な気もしますが……)」

アーロンの説明を聞いたアニエスは静かな表情で答えた後煌都の海軍の状況に内心は複雑であった。

「――――4時過ぎか。まだ何とか動きようはあるな。アーロン・ウェイ。こうなったら決め手はお前だ。”裏解決屋”の仕事は昨夜見せた。その作法をお前なりに想像しながら夕方まで好きなように回ってみろ。」

「なに……?」

時間を確認した後のヴァンの意外な指示にアーロンは目を丸くした。

「俺のカンだが、連中の拠点を特定するための材料は”ほぼ”揃ってる。だが最後のピースが欠けている―――それを揃えられるのは”お前だけ”だ。この街を愛し、皆と共に生きてきたお前だからこそ気づき匂いや違和感……サポートはしてやる―――何とかそれを嗅ぎ取ってみせろ。」

「……………………ハッ、犬ッコロみたいな真似は俺様の流儀じゃねえが……いいだろう――――――てめぇのお株、きっちり奪ってやろうじゃねえか!」

「へっ、口の減らねえ小僧が。」

「ふふっ……私も夜中までは付き合わせていただきます!」

「それでは活動再開、ですねっ。」

こうしてアーロンを加えて活動を再開したヴァン達は4spgをこなしながら、様々な場所を回っての情報収集をしていた。



~港湾区~



「貴方は……もう動いているのね。結構重傷だったと思うのだけれど。」

ヴァン達が警察と共に現場検証をしているエレインに近づくとヴァン達に気づいたエレインはヴァン達と共にいるアーロンを目にして若干驚いた様子で呟いた。

「利子が高くつく抜け道があったんでな。こんな時に大人しく寝てなんてられっかよ。」

「そっちはどうだ?内部の調査は終わったみたいだが。」

「ええ、一通りね。収穫と言えるようなものはなかったけど。」

「警察に引き渡された半グレの人達は……」

「そちらもダメね。収穫と言えるような大した情報は知らされていなかったそうよ。恐らく黒月に引き渡された半グレ達も同じでしょうね。……けど、そんな”捨て駒”をも消そうとしていたなんて、アルマータの幹部、大した徹底ぷりね……」

アニエスの質問に答えたエレインは真剣な表情で呟いた。

「……そういえばヴァン?せっかく生かして捕らえた半グレ達の半数を黒月に引き渡した件に関しては貴方が”煌都に出張している理由”を考えたら理解はしているけど、せめて一人か二人くらいはギルドにも引き渡してほしかったのだけど?」

「それに関しては俺を責めるのは筋違いなんじゃねえのか?実際にアルマータの幹部達に消されようとした半グレ達を守ったのは”エースキラー”の連中なんだから、アルマータの幹部達から守り切った半グレ達の処遇に関しては”エースキラー”の考えを最優先にするのが”筋”だろうが。」

あることを思い出してジト目のエレインの指摘に対してヴァンは肩をすくめて答えた。

「それはそうだけど、彼らとも知り合い同士である貴方が頼めば彼らも考慮してくれたと思うのだけど?」

「おいおい、それを言ったら一時的に手を組んだ事がある俺よりも長期間、連中と共に活動していた事があるお前の方が親しいんじゃねえのか?」

「それは………」

ヴァンの指摘に対して反論できないエレインは複雑そうな表情で答えを濁し

「それに煌都で活動している”エースキラー”のメンツを考えたら行動方針を決めているのは恐らく”氷の乙女(アイスメイデン)”だろうから、お得意の先読みや冷静な判断でギルドへの配慮は”不要”と判断したんだと思うぜ。」

「そうね……それはそうとヴァン、気づいてると思うけど、数が全然合わないわよ。」

ヴァンの推測に複雑そうな表情で同意したエレインは気を取り直してある事を指摘した。



「だろうな。」

「数、ですか?」

「……半グレの人達の、ですね。」

「ハン、あの場にいたクズどもだけじゃ昨夜の規模の犯行はできねぇはずだからな。」

エレインの指摘にヴァンが頷いている中エレインの指摘の意味がわからないフェリにアニエスとアーロンがそれぞれの推測を答えた。

「!あ………」

「かなり大きな倉庫だ。半グレたちが隠れている可能性は?」

「しらみ潰しに探したから、それはないわ。」

「チッ、やっぱり他に拠点があるってことか。」

ヴァンの質問に答えたエレインの答えを聞いて舌打ちをしたアーロンは真剣な表情を浮かべた。



「ギルドも警察もそう踏んで捜査しているけど、今の所手掛かりはないわね……」

「そっちもか……黒月だけでもあり得ねえくらいだが、ギルドも警察も手掛かりなし―――厄介だな、こりゃ。」

「それともう一つ、アルマータの正規の構成員が見当たらないのも気になる。本気で黒月と戦争する気なら、半グレたちだけでは話にならない。にも拘らず、姿を現したのは幹部とはいえ三人だけなんてね。」

「どこかに潜んでいるとしても、ここまで動きがないのは不気味ですね……」

エレインが気になっている事を知ったアニエスは真剣な表情で呟いた。

「全面戦争なんて嘘っぱちで、正面から黒月と事を構えるつもりはねえってんなら理屈は通るが。」

「かき回すだけかき回して、黒月の気力を削った上で本当の決戦の時期を別に用意する……」

「あり得ない話じゃありませんね。」

「それならそれで、せめて今すぐラングポートに大きな被害が及ぶ可能性がない分マシかもしれないけど……」

「ハッ、それで終わらせてやるかよ。ヤツらはとっくに”踏み越えた”―――ケジメは絶対につけさせるぜ。」

「アーロンさん……」

エレインの後に拳を打ち付けて静かな怒りを纏って答えたアーロンをアニエスは静かな表情で見つめた。

「いずれにしても、まだ調査は必要ね。他の伝手を当たってみる。貴方たちは……手を引かないつもりならせめて無茶だけはしないように。」

一方エレインは目を伏せて考えた後ヴァン達に忠告をしてその場から去って行った。



「しかし、参ったな……こっちも手掛かりなしか。」

「エレインさんでも掴めていないなんて……」

エレインが去った後有力な手掛かりがない事にヴァンは考え込み、アニエスは不安そうな表情を浮かべた。

「あいつは噂通りっつーか、噂以上に優秀な奴だ。、それでも拠点の場所がわからないってことは、あいつや俺のような余所もんには―――そもそも考えすら及ばないような何かが関係してるのかもしれねぇ。」

「ハッ……暴いてやるさ、絶対に。なんせピースを揃えられるのは俺だけ、らしいからな?」

ヴァンに視線を向けられたアーロンは不敵な笑みを浮かべて答えた。

「ハッ、せいぜい期待させてもらうぜ。」

その後情報収集を再開したヴァン達が新市街を歩いているとマリエルがヴァン達に声をかけて駆け寄った。



~新市街~



「ああっ!見つけました……!」

「またお前さんか……」

「貴方達のことを探してたんです!」

「わ、私達を……?」

マリエルが自分達を探していた事にアニエスは目を丸くして聞き返した。

「要件なんて決まっています!昨夜あれだけの事件があったんですから!聞けば貴方達がいち早く現場に駆け付けたそうですね。当時の状況をぜひ詳しく聞かせてください!」

「何なんだこいつは?」

「記者の方だそうです。」

「ハン、小娘が嗅ぎまわってんじゃねえよ。下手に首突っ込まねぇ方が身のためだぜ。」

マリエルの正体をフェリから聞いたアーロンは鼻を鳴らしてマリエルに忠告した。



「こ、小娘ですってえ!?れっきとした21歳ですけど!?」

「ってまさかの年上かよ……」

自分の警告に対して怒りの表情を浮かべて反論したマリエルの言葉を聞いてマリエルの年齢を知ったアーロンは目を丸くした。

「とにかく、私はジャーナリストとして真実を正しく世の中に伝える義務があります!昨日だって結局”紅い流星”のスクープを掴めなかったですし……今回の件こそ、ちゃんと真相を掴まないと!」

「あれは……なんだかすみません。」

マリエルの口からマクシムの事が出るとアニエスは若干申し訳なさそうな様子で謝罪した。

「あと、個人的にも気になるんです。昨夜のあの霧は絶対変ですから。やっぱり幽霊船の仕業なんでしょうか……」

「ちょっと待て、いま何つった?」

考え込みながら呟いたマリエルのある言葉が気になったヴァンは真剣な表情で訊ねた。

「え?あの霧は変だって……」

「いや、その後だ……」

「ですから、幽霊船の仕業だと……」

「ゆ、幽霊船……?どういうことですか?」

マリエルが見たある存在が気になったアニエスは困惑の表情で訊ねた。



「実は、あの霧が出ていた頃に、ぼんやりと海の方に船のような影が見えたんです。港の何人かに聞いてみましたが、誰も知らないみたいで……となると、あれは幽霊船に違いありません!南の海にそんな伝説があるって聞いたことがあります!霧の夜に現れる幽霊船、遭遇した商船の人は一人残らず殺されるって……!」

「ほ、本当ですか!?そんなものがあるなんて!」

マリエルの話を聞いたフェリは驚きの表情で声を上げた。

「間違いありません!まあ、思ったよりは小さな船だったような気もしますが……」

「……どう考えてもただの都市伝説だろ。そもそも誰も生き残ってねえなら誰がその話を伝えたんだ?」

確信を持った様子で語るマリエルにヴァンは呆れた表情で指摘した。

「そ、それは………どこかの凄腕の記者……とか?」

「ですが霧があったのは海というよりは東方人街の街の方ですし……見間違いなのでは?」

「暗い夜の中ですから、そう言われるとそう思えてきたような……」

アニエスの指摘にマリエルは当時の状況を思い返しながらアニエスの指摘が正解であるかのように感じていた。

「ともかくだ、俺達はたまたま現場の近くにいただけで、大した事は知らない。そういうことは警察か遊撃士にでも聞くんだな。」

「むうう……残念ですが仕方ありませんね。では皆さん、また何かスクープのネタがありましたら、ぜひ私に知らせてください!今度こそ、ディンゴさんに見直してもらうチャンスなんだから……!」

ヴァンの答えを聞いて残念があったマリエルはその場から去って行った。



「ヴァンさん、またあんな風に彼女を誤魔化して……」

マリエルが去った後アニエスは困った表情でヴァンに指摘した。

「おいそれと報道できないことばかりだ。それよりマフィアから遠ざけた方が彼女のためだろ。」

「それは……確かに。」

「それより、何か思い当たる所があったようだな。」

「ああ、さっきのあの女の話で、ようやく合点がいったぜ。」

ヴァンに話を振られたアーロンは静かな表情で答えた。

「もしかして、幽霊船の話ですか?」

「そうだ、そもそも煌都にあんな時間に寄港する船なんかねえからな。よく夜遊びであちこち回ってる俺が言うんだから間違いねえ。港の人間も知らないってんなら尚更プンプン臭うぜ。」

フェリの確認に頷いたアーロンは真剣な表情で答えた。

「あの夜、半グレたちは海路でラングポートから脱出したということですか。確かにそれなら、陸路を監視している黒月の目も届きません。」

「いや、脱出はしてねえ、まだいるんだよ、近くに。虎視眈々と煌都を狙ってな。」

「でも、拠点になるような場所は……」

「あるんだよそれが。よそ者じゃあそもそも知る余地もねえ、地図から抹消された場所。年寄りたちが揃って口を閉ざして語りたがらねえ、今では噂で聞くくらいが精々の”禁忌”の地。海を少し隔てた向こうにある廃棄された鉱山町―――”黒龍城塞(ヘイロンジャーイセン)”ってのがな。」

その後、一通りの聞き込みを終えたヴァン達は改めて情報を整理することにした。



~東方人街~



「……どうやら見えてきたみてぇだな?」

「考えてみりゃあ盲点だったぜ。俺達東方人街の人間にとっちゃ、見慣れた風景―――いや……目に映っていても意識から外していた”禁忌”の場所。」

「”黒龍城塞(ヘイロンジャーイセン)”……40年前まで採掘で賑わっていたという場所ですか。大勢の鉱員の方々が住んでいたけど今では誰も住んでいないという……」

ヴァンの確認に対して答えたアーロンの答えを聞いたアニエスは真剣な表情で呟いた。

「ああ……薄気味悪い言い伝えもあってな。鬼やら亡霊やらがいるって、大抵のヤツはガキの頃に親から脅かされモンだ。」

「……その噂をそもそも広めたのが黒月の長老さんたち……現地の警察やギルドも基本無人なのでほぼ立ち入らない場所、ですか。」

アーロンの言葉に続くようにフェリも今までの情報収集で知った情報を口にした。

「まさに”戦争”をやるには打ってつけの場所ってことだな。――――――嗅ぎ当てたじゃねえか、小僧。」

「ハッ……」

「なんだ、よく会うじゃないか。」

ヴァンの感心の言葉にアーロンが鼻を鳴らすと二人の女性を連れたマクシムがヴァン達に声をかけた。



「あっ、”ぜっとわん”の………」

「……本当に良く会うな。アンタも一応有名人だろうが。」

「フッ、一応サングラスをしてるがどうしてもオーラが滲み出るものでね。」

(コイツは……ああ、昨日観に来てた馬鹿か。)

呆れた表情を浮かべたヴァンの指摘に対して髪をかき上げて答えたマクシムを呆れた表情で見ていたアーロンはマクシムの事を思い出した。

「え!?まさかアーロンさん!?」

「きゃあっ!アーロン!」

するとその時マクシムが連れている女性達――――――ホステス達がアーロンに気づくを歓声を上げた。

「ハッ……俺様のファンか何かか?」

「ちょっと君達……僕と一緒なのにそれはないだろう?」

ホステル達の反応にアーロンが気を良くしている一方、マクシムは困った表情でホステス達に指摘した。

「もちろんですよマクシムさ~ん。」

「ウチらもうメロメロなんで~。」

「ま、僕ほどじゃないにしてもなかなかハンサムなのは認めるけどね。ん、なんだが見覚えがあるような……?」

アーロンの顔をよく見たマクシムは何かに気づいたのか首を傾げた。



「ああ、俺もアンタには見覚えがあるぜ。」

(……マクシムさん、気づいてないらしいねぇ。)

(うん、華劇場のオキニが目の前のカレだって……)

マクシムの言葉にアーロンが返すとホステス達はそれぞれ苦笑しながら小声で会話していた。

「まあいい……これからちょっとした冒険でね。昨日は妙な記者の子に付きまとわれたし、夜まで存分に楽しまないとな!」

「あはは……大変でしたね。」

マクシムの話を聞いてマリエルの事を思い出したアニエスは冷や汗をかいて苦笑しながらマクシムに同情の言葉を送った。

「君達も仕事ばかりでご苦労サン。帰ったらディナーでも奢ってあげよう!野郎もおこぼれに預からせてあげるからサ♪目指すは夕暮れの海蝕洞!ボートでも華麗な運転を披露してあげよう!」

「きゃああっ!!」

「マクシムさん、ステキ~っ!!」

「これからボートに乗んのか。微妙に行先が被りそうだが……」

その場から去りながら口にしたマクシムの話を聞いたヴァンは呆れた表情で去って行くマクシム達を見つめていた。



「こちらの目的地よりは手前ですし、たぶん大丈夫では?」

「そうですね……魔獣には気を付けて欲しいですけど。」

「ハッ、ショウ(ガイド)も弁えてんだろ。あんな馬鹿なんざどうだっていい。―――目指すは”黒龍城塞(ヘイロンジャーイセン)”。今日中に何とかケリをつけてやる。改めて手を貸してもらおうか、ヴァン・アークライド!」

「ハッ、いいだろう―――お前らは………」

アーロンの言葉に頷いたヴァンはアニエスとフェリに”黒龍城塞に向かう自分達についてくるな”と言おうとしたが

「当然、ご一緒します。”目当て”もありそうですし。」

「各種装備を調えたら船着き場に向かいましょう!」

「ったく……準備は万全にしとけよ!」

それぞれついてくる気満々の二人の答えに疲れた表情を浮かべた後準備を万全にするように伝えた。



その後クレア達に連絡をしたヴァン達は準備を整えると船着き場に向かい、既に待機していたクレア達と合流した―――――



 
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