隠されていた月と海
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第一章
隠されていた月と海
ニューギニアの北岸の方に伝わる話である。
古来世界には月と海は常になかった、その二つはある老婆の女神が持っていた。
「出すべき時に出すからな」
「月も海もか」
「だからか」
「あんたに任せていればいいか」
「二つは」
「月は夜に出してな」
そうしてというのだ。
「海も皆が必要な時にじゃ」
「出すからか」
「安心していいか」
「そうなんだな」
「そうじゃ」
こう他の神々に言うのだった。
「だから安心するのじゃ」
「そうか?」
ここでだった。
若々しい青年の姿の神が言ってきた、神々きっての勇者でありやんちゃ者であるマオイだ。その彼が言うのだった。
「あんたはもうな」
「何じゃ」
「歳だろ」
このことを言うのだった。
「だからな」
「わしには出来ぬというのか」
「月をいつも夜空に出してな」
そうしてというのだ。
「海を出すのもな」
「必要な時にか」
「出来るのか」
「わしはずっとやってきたぞ」
老婆の女神はマオイに反論した。
「そしてこれからもな」
「そのこれからがわからないからだ」
「お主はそう言うのか」
「そうだ、もうそれこそな」
こう老婆に言うのだった。
「限界だろ、あんたは隠居していい年頃だ」
「神は死なんぞ」
「死ななくても歳だ」
それが問題だというのだ。
「死ななくてもあんたはもう婆さんだ」
「だからか」
「月と海はな」
この二つはというのだ。
「自由にしろ、そうしたら他の神が司るぞ」
「月も海もか」
「そうなるからな」
だからだというのだ。
「もうな」
「譲れというのか」
「そうしろ、いいな」
「誰がするものか」
これが老婆の返事だった、この年老いた女神は頑固だった。それもかなり。
「わしはずっとだ」
「月を海を持ってか」
「必要な時に出す、安心せよ」
「そう言うがな」
見れば動きがかなり悪い、老いは明らかだった。しかもマオイは彼女について周りから聞いていた。
「もの覚えも悪くなっていて忘れることもだ」
「多いか」
「そうなっているだろう」
「なっておらん」
老婆はここでも頑固だった。
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