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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【第一部】新世界ローゼン。アインハルト救出作戦。
【第4章】ザフィーラやヴィクトーリアたちとの会話。
   【第3節】旧総督家たるフランカルディ家について。



 そんなやり取りの後、三人の陸曹たちが一番向こうの席に陣取ったのを確認してから、ツバサは少し声を(ひそ)めて、ヴィクトーリアにこう問いかけました。
「ところで、ヴィクターさん。先程のお話なんですが」
「え? どの話?」
「フェルノッド陸曹の家系についての話ですが……まず、フランカルディ家というのは、そもそもどういう一族なんですか?」
「え? 今は、中世ミッド史の講義で習わないの?(愕然)」
「すみません。私たち、学科は一貫校で二年半やっただけなので、ミッドの歴史も初等科レベルの近現代史しかやってないんですよ」
「それ以外では、ボクら、姉様や兄様から古代ベルカの話を少し聞いてるぐらいで……」
 実は「常識レベルの話」だったと知って、双子はいささか恥ずかしげな口調です。
 ヴィクトーリアは少しだけ考えてから、視線で執事に助けを求め、エドガーはそれを受けて、こう解説を始めました。
【悲報:ヴィクトーリア執務官、「常識レベルの話」を上手く説明できない。(笑)】

「そうですねえ……。まず、古代ベルカの植民地時代には、ミッドチルダも『聖王家直轄領』という扱いだった、という話は御存知ですか?」
「ええ。ミッドの近くに在る世界は軒並みそうだった、と聞いています」
「確か……それぞれ番号順に最初の四つの、管理世界と管理外世界と無人世界、だったっけ?」
「はい。それぞれ番号順に固有名称で言うと……まず、管理世界が、ミッドチルダ、ガウラーデ、ヴァイゼン、ファストラウム。次に、管理外世界が、キルバリス、オルセア、シャグザード、パドローナ。そして、無人世界が、アムネヴィア、カルナージ、バラガンドス、ゲボルニィ。これらが、歴史学の用語で言う『直轄十二世界』です。聖王家の直轄領それ自体は他にも幾つかありましたが、これだけまとまった形で存在していたのは、この十二世界だけだったようですね」

 エドガーはすらすらと、さらにこう語りました。
「もっとも、これは今から1200年以上も前、管理局が創設される遥か以前の話ですから、当然ながら、この時代にはまだ『管理世界と管理外世界の区別』は無く、実際には『有人世界と無人世界の区別』があるだけでした」
 新暦95年は、古代ベルカ歴に換算すると1393年になります。
 すなわち、これらの十二世界が「聖王家直轄領」となったのは、具体的には、古代ベルカ歴で180年代前半のこと。120年を単位として言えば、「第二の時代」の中頃。イクスヴェリアが不老不死の「冥王」となる半世紀ほど前のことです。
【ちなみに、ゲボルニィの滅亡は、古代ベルカ歴が始まる直前の出来事です。】

「そして、当時は〈聖王〉以外の有力な諸王もそれぞれに近隣の諸世界を『事実上の植民地』として支配していましたが、聖王家の直轄領は植民地というよりもむしろ『保護領』に近い代物で、ミッドチルダも差別や搾取などは全く受けていませんでした。それどころか、純然たる援助も多く、経済的にはほとんどベルカからの持ち出しばかりで、聖王家としても完全に赤字経営だったそうです」
「ああ……。それは、確かに『植民地』とはとても呼べませんねえ」
「まあ、実のところ、『アムネヴィアにある〈本局〉の存在を他の諸王の目から隠匿(いんとく)することが本来の目的であって、他の十一世界は元々ただのカモフラージュでしかなかった』という説も有力なんですが……それでも、やはり、八つの有人世界には『植民地総督』のような役職を置くことが、形式の上でも実務の上でも必要でした」

「その『植民地総督』は、最初のうちこそ、どの世界でも何年かの任期で交代していたようですが、次の世代になると、その役職はもうすっかり世襲制となり、選ばれた八つの家系がそれぞれの世界に根を下ろしました。そのようにして、ミッドチルダに土着したベルカ貴族が、フランカルディ家なのです」
「え? それって、つまり……当時のミッドで一番偉い人ってこと?」
「と言うよりも、それは、事実上、『ミッドの統治者』だったのでは?」
「でも、あの時代に『統治者』って言ったら、普通は『王様』のことだよね?」
 双子の口調は驚愕に満ちたものでしたが、それでも、エドガーは淡々とした口調で説明を続けました。
「そうですね。平たく言ってしまえば、当時は『ミッドの王家』も同然の存在だったのでしょう。実際に、『元々はベルカ聖王家の分家だった』などという噂もあります。
 ただ、実際には、フランカルディ家はあくまでも名目上の統治者として君臨していただけで、実質的な支配はほとんど行なっていませんでした。立法も行政も、当時すでに機能していた『ミッド人による、ミッド人のための自治政府』に大半の作業を一任していたのです。それで、自治政府の方も『普段は自力で自治を行ないながら、自分たちの手には負えない状況に陥った時にだけ、フランカルディ家に陳情して、ベルカ聖王家に援助を求める』といった具合だったようですね」

「うわ~。何だか、予想以上に、ミッドがダメダメな世界だ~」
「普段は勝手気ままな一人暮らしをしていながら、困った時にだけ親に金をせびる若者、みたいな感じですか?」
「まあ、選んで悪く言えば、そういうことになるんでしょうけどね。(苦笑)それでも、ミッドは当時すでに豊かな固有の文化を保持しており、直轄領にある八つの有人世界の中では、最も平和で先進的な世界でした。ただ『ベルカ世界に比べれば、まだまだ力の差がありすぎた』というだけのことだったのです。
 そんな訳で、ミッドは今から630年以上も前に、他の保護領や植民地に先駆けてベルカからの独立を果たしました。もちろん、それは『戦って勝ち取った』ということではなく、ただ単に『これ以上の援助は、もう必要ありません。今まで長らくありがとうございました』と頭を下げて認めてもらった、というだけのことなのですが……。
 ともあれ、この『正式な独立』から『古代ベルカの滅亡』を経て『時空管理局の創設』に至るまでの460年あまりが、ミッドの歴史で言うところの『中世』です。独立を起点とする『旧暦』それ自体は540年ほど続いたのですが、管理局創設以降の、最後の75年ほどは『近代初期』、もしくは『近世』という位置づけですね」

「あ~。確か、一貫校ではその辺りから習ったような記憶が……」
「ええ。歴史のテキストは、確か、管理局の前身である〈九世界連合〉についての簡単な説明から始まっていたと思います」
 エドガーはそれに大きくうなずきながらも、さらに解説を続けます。
「しかしながら、ミッドが政治的に独立した後も、フランカルディ家の立場はさほど大きくは変わりませんでした。あまり表舞台には出ないようにしながら、独立政府の活動をそれとなく見守り、助け続けたのです。そのためでしょうか、フランカルディ家がミッド〈第一大陸〉の北側およそ三分の一をそのまま領有し続けたことに関しても、当初は不平を言う人など一人もいませんでした」

「え? でも、北側三分の一って、結構、穀倉地帯とかなんじゃないの?」
「ああ。それは、後に気候が温暖化してからの話です。当時はまだ、ミッド全体が今よりもずっと寒冷な気候だったので、それらの土地はおおむね人の住めない荒れ地でした。ですから、独立政府としても『元総督の家系だから、フランカルディ家には特別に広大な土地の領有を認めていた』と言うよりは、むしろ『手に負えない荒れ地の維持管理を、頭を下げてフランカルディ家にお願いしていた』に近い状況だったようです」
「無人の土地なのに、維持管理が必要だったんですか?」
「ええ。無人の荒れ地を無人のままに放置しておくと、そのうちに犯罪者や不法滞在者などが勝手に住み着いて、次の世代が既得権を主張し始めてしまいますからね。それを避けるためには、そうした土地を定期的に『(くま)なく巡回警邏』することが必要なのですが、当時の独立政府には、まだそれだけの予算も人員も無かったのです」
 エドガーは、カナタの疑問にもツバサの疑問にも、すらすらとそう答えました。
 エドガーの流暢な説明に、双子は感心した表情で何度も小さくうなずき、ヴィクトーリアもまた思わず感嘆の声を上げます。
「あなたって……そういう解説を、本当に『即興で』スラスラと喋れるのね……」
「まあ、これが取り()ですから」
 執事はさわやかに笑って流し、また話を続けました。

「中世の前半には、ミッドチルダの先進性に()かれて、他の七つの有人世界からは移民が(あい)()ぎましたが、大半の人々は寒さを嫌って、ミッド第一大陸のむしろ南側に住みつきました。特に数が多かったのは、ともに『貴族らの圧政』から逃れて来た、キルバリスやオルセアやヴァイゼンからの移民でしたが、彼等が集団で住みついた土地は、彼等の『(もと)いた世界』の名前から、今でもキルバラ地方、エルセア地方、ヴァイゼラム地方などと呼ばれています。
 また、ミッドチルダにおける『中世』という時代は、一言で言ってしまえば、伝統的な貴族特権が少しずつ解体され、『法の(もと)での平等』といった近代的な理念がゆっくりと実現してゆく過程でもあったのですが、その流れを主導したのも、またフランカルディ家でした。
 中世も後半に入ると『ベルカ世界の滅亡』という歴史的な大事件が起きる訳ですが、もしもフランカルディ家のそうした『社会の近代化に向けた行動』が無ければ、ミッドもおそらくは、ベルカの滅亡に伴う社会的な混乱をまともに乗り切ることなどできてはいなかったでしょう」

「その……社会的な混乱というのは、具体的にはどのようなものだったのですか?」
「いろいろありますが、最も基本的なものは『大量の難民が押し寄せて来たこと』それ自体による混乱です。大量の難民が来れば、まずは住む土地や住居の問題が発生し、次いで食料の確保や排泄物の処理や雇用の問題などが発生します。
 また、そうした難民が、先住者とは『文化的な背景』の異なる人々であれば、当然にさまざまな軋轢(あつれき)や衝突も起こります。
 当時、滅亡も寸前の状況だったとは言え、ベルカ世界全体ではまだ『最盛期』の2割ちかく、およそ4億5千万人もの人々が生き残っていました。
 その中には、もちろん、責任を持って『滅びゆく祖国』と運命を共にする王たちや、老齢や貧困などを理由に脱出を諦めてしまう人々もいましたが……ユーノ・スクライア教授の推計によれば、戦乱の終結からわずか50年ほどの間に、総人口のおよそ8割が無事にベルカを脱出し、60個あまりの世界に分かれて移り住んだということです」

「……え? じゃ、全部で……3億6千万人も?!」
「年平均でも、720万人ですか?(絶句)」
「じゃ、1日当たり2万人? それって、一隻の移民船に1000人を詰め込んだんだとしても……『50年もの間、毎日欠かさずに、20隻もの次元航行船がベルカから他の世界へと出航し続けた』って意味だよね?」
「もちろん、個々の移民船は幾度となく往復を繰り返したのだろうとは思いますが……それにしても、相当な数の移民船が必要になりますね」
「いや。でも……同じ船を50年間も動かし続けることなんて、できるはずが無いし……。当時のベルカ世界って、何だかモノすごく荒廃してたような印象があるんだけど、新たに次元航行船をたくさん建造するぐらいの余力はまだまだ残ってたってコト?」
 カナタとツバサは驚愕の表情もあらわに、互いにそんな言葉を交わします。

 そして、エドガーは二人の視線が自分の側へと向き直るのを待って、また説明を続けました。
「いえ。次元航行船の寿命が50年に満たないというのは、あくまでも現代人の感覚です。艦船に限らず、古代ベルカで造られた魔導機器の(たぐい)は、いずれも耐用年数が異常に長いのが特徴で……実際に、『何百年も前に造られたまま、メンテナンスのひとつも無しにずっと放置されていたはずの機械が、そのまま何の問題も無く動いた』という事例は、幾つも報告されています」
「えええええ?!」
「それは! 今となっては、もう全くの『謎技術』ですね!」
「ええ。おそらく、保存魔法の一種だろうとは思うのですが、残念ながら、この点に関する限り、我々の魔導技術はいまだ古代ベルカの足許にすら及んではいません」

 続けて、エドガーは驚くべき事実をさらりと語ります。
「それに、当時の移民船は、どれも『一万人規模の移民』を一度に移送することができたそうです」
「ええ……。それって……ボクらが、今この(ふね)で使ってるようなサイズの船室に10人ぐらいずつ押し込んだとしても、相当に巨大な次元航行船になるよね?」
「いえ。当時の移民船には、移民用の船室などありませんでした。移民用の区画では、壁がすべて『横倒しになったハチの巣』のような構造になっており、そうした六角柱の形をした細長い穴の中に、移民たちは一人ずつ丸太のように詰め込まれていったのです」
「それは……全く身動きが取れないと思うのですが?」
「はい。自前の次元航行船で移民した王侯貴族らは別にして、一般の移民は『ベルカを()つ前に睡眠薬を飲まされ、実際に眠ってしまう前に自分でハチの巣穴に(もぐ)り込み、現地に到着すると叩き起こされ、また自分で巣穴を出て、そのまま下船させられていた』と伝えられています。
 これは、現代の感覚では、いささか非人道的な手法にも見えますが、実際には、『船内での食事や排泄(はいせつ)の問題を回避することができる』という意味で、非常に合理的な手法でした。事実、ゲボルニィやテルマースが滅亡した際にも、よく似た手法が用いられていたと言います」
「食事と排泄か……。確かに、それは大問題だなあ……」

「では、移民船の総数はそれほどの数ではなかった、ということでしょうか?」
「はい。これもまた、ユーノ教授の推計になりますが、『最終的には現地で解体し、貴重な素材やパーツとして再利用されたはずの、当時の移民船に由来する物資の現存量』などから推定して、移民船の総数は『すべてが一万人乗りだった』と仮定して、せいぜい30隻程度だっただろう、とのことです」
「毎日2隻ずつが出航していたと仮定すると、すべての移民船は平均15日周期で往復を繰り返していた、といったところでしょうか?」
「それで、3億6千万人を60個あまりの世界へピストン輸送って……。他の世界までの距離を考えれば、『物理的に不可能な日程』って訳でもないんだろうけど……15日周期の往復を50年間、休まずに続けたってことは……個々の船は、平均で1200回ほど往復したって意味だよネ?」
「現代の船なら、メンテナンス無しでは、確実に途中で壊れていますね」
「いや。同じ作業を50年間、1200回も休みなく繰り返したら……普通は船が壊れるよりも先に、乗組員の体や心の方が壊れるものなんじゃないの?」
「乗組員も途中で世代交代があった、ということでしょうか?」
 カナタとツバサは、当時の状況の「全体的なイメージ」をつかもうとして、可能な限り「具体的な数字」を挙げていったのですが……なかなか上手くはいかないようです。

 カナタとツバサは、そうして互いにしばらく首を(かし)げ合ってから、また新たな疑問をエドガーにぶつけました。
「それに、『60個あまりの世界に分かれて移り住んだ』と言っても、決して『均等割りで600万人ずつ』って訳じゃなかったんだよネ?」
「やはり、ミッドに来た人が一番多かったのでしょうか?」
「そうですね。やはり、『移民先には、〈最後のゆりかごの聖王〉であるオリヴィエ陛下を慕ってミッドを選択する』という人が圧倒的に多く、最も信頼度の高い推計によると、移民全体の実に六分の一ほどがミッドチルダに来たそうです」
「じゃ、全部で6千万人も?!」
「ちなみに、当時のミッドの総人口というのは?」
「多めに見積もっても、せいぜい6億人程度だっただろうと言われています」

 エドガーの説明に、カナタとツバサは思わず絶句しました。
「……住民10人につき移民1人って……」
「それは、当然、社会構造が()たないと思うのですが?」
「そうですね。普通に考えれば、当然そうなのですが、『聖王オリヴィエは〈ゆりかご〉を降りた後も二年ほどの間は生きていた』という話ですから、おそらくは、その間に、聖王教会だけでなく、フランカルディ家にもいろいろと指示を与えていたのでしょう。
 彼女の死後、十年あまりを経て、ベルカ世界での戦乱が完全に終結すると同時に、聖王家の主導によってベルカ世界からの〈大脱出〉が始まった訳ですが……その時には、フランカルディ家はすでに『莫大な数の難民を受け入れるための準備』を整えていました。具体的には、その十年あまりの間にひたすら備蓄し続けていた食料を計画的に配給しつつ、みずから領有する土地の大半を彼等のために耕作地として順番に無償で分け与えていったのです」

「え? でも、そこって、荒れ地だったんじゃ?」
「はい。かつては確かにそうだったのですが、ちょうど聖王オリヴィエが亡くなった頃から、ミッドでは急速な温暖化が始まっていたのです。
 フランカルディ家はそれを見越して、その十年余の間、精力的に荒れ地の開墾作業を進めていました。そのため、耕作地を分配された難民たちは、最初のうちこそ随分と貧しい生活を強いられたようですが、ほんの一年ほどで配給を受けずに自活することができるようになったのだと伝えられています」
「では……そもそも聖王オリヴィエが『臨終の地』にミッドチルダを選んだ理由も、将来的に移民を保護する準備のためだった、ということなのでしょうか?」
「そうですね。当時の正確な資料は何も残されていないので、今となってはもう、すべてが推測でしかありませんが、おそらくはそうなのだろうと思います。
『聖王オリヴィエが、ベルカでの戦乱の平定作業を途中で放り出してミッドに来てしまった理由は謎である』などと言う人も一部にいるようですが……。おそらく、禁忌兵器(フェアレーター)の使用による大地の汚染の進行は、もはや〈ゆりかご〉の力をもってしても止めようが無かったのでしょう。
 あくまでも推測ですが、聖王オリヴィエも『今すぐ、この戦乱を平定したとしても、ベルカ世界の滅亡はもう避けられない』と(さと)って、〈ゆりかご〉の力で、力ずくで戦乱を平定することよりも、より良い移民先を早急に準備することの方を優先させたのではないかと思います」

「え? じゃあ、もしかして……『当時、それだけの実行力と忠誠心を保持してる総督家は、もうミッドのフランカルディ家しか残ってなかった』ってこと?」
 エドガーの流暢な説明を聞いて、カナタがまた、ふとした疑問をぶつけました。
「そうですね。おそらくは、聖王オリヴィエにとって、ミッドチルダは『数ある選択肢の中での、最良の選択肢』と言うよりも、『ほとんど唯一の、マトモな選択肢』だったのでしょう。
当時、ガウラーデでは、総督家の勢力もかなり衰えていたと言いますし、ヴァイゼンとファストラウムに至っては、すでに総督家そのものが断絶してしまっていました」

 エドガーは四つの管理世界に続けて、四つの管理外世界についても説明を加えます。
「一方、キルバリスとオルセアの総督家は、それとは逆にもう忠誠心の方が無くなっていました。ベルカ世界からの移民に関しても『本来の身分には関係なく、全員を二等市民として扱う』と公言していたため、貴族階級や上級市民の人々は皆、それを嫌って他の世界へと移民した訳ですが……結果として言えば、この二つの総督家の判断はむしろ正しいものでした。
 ベルカ貴族の多くは数々の移民先でも、当然のように『貴族としての特権』を要求したため、現地の社会的な混乱は相当なものとなり……実際、シャグザードやパドローナでは充分な準備も無いままに、感情論で大量の移民を受け入れたため、そうした『ベルカ貴族たちの過大な要求』が主な原因となって、やがて中央政府は崩壊し、今なお多くの国家に分裂したまま、散発的な内戦が続いているのです」
「ああ。だから、シャグザードやパドローナは、大昔からミッドとも交流していた歴史がありながら、いまだに管理外世界という扱いなんですね?」
 ツバサの確認するような口調に、エドガーはまた大きくうなずいて見せました。


 
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