イタリア少女の親御さん達
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二章
「お仕事はサラリーマンですか」
「八条船舶のです」
「私もそちらで働いています」
夫婦で中村に答えた。
「この度シチリア支社から日本勤務になりまして」
「引っ越してきました」
「そうですか」
「二人共シチリア生まれですが」
父親が言ってきた、縮れた黒髪に明るい黒い目に彫のある顔と先の割れた顎が如何にもラテン系である。
「サラリーマンです」
「私もOLです」
ブロンドの髪を後ろで束ねた母親も言ってきた、目は青く小柄で顔立ちは整いルクレィツアにそっくりに見えた。
「二人共八条大学を出まして」
「ずっとイタリアで働いていたのですが」
「日本に来ました」
「あの大学ですか、シチリアからですか」
「はい、日本に留学して知り合って」
「同じ会社で働くことになってです」
「そこから距離が縮まって」
「結婚もしました」
こう中村に話した、そして彼にこうも言った。
「シチリアなのでマフィアと思われました?」
「違いますか」
「それは」
「いえ、実際シチリアは何かとマフィアが絡んでますから」
父親が言ってきた。
「そうなっていますから」
「私達の周りでも結構そうしたお話があります」
母親も言ってきた。
「ですが誰もがマフィアではないです」
「当然私達もです」
「真っ当に働いている人の方が多いので」
「そのことはご了承下さい」
「わかりました」
中村は夫婦の言葉に頷いた、そこからの話は普通の家庭訪問のものだった。そしてそれが終わるとだった。
もう中村は二人を警戒しなくなり普通の人達だと理解した、そしてルクレィツアとも普通に接していたが。
彼女の夢にはだ、驚いて聞き返した。
「オペラ歌手になりたいんだ」
「夢なんです、いいですよね」
「イタリアは本場だし」
「私もなりたいんですよ」
「そうなんだ、頑張ってね」
「プリマドンナになります」
ルクレィツアは笑顔で言った、そして中村は結婚し家庭を持って定年を迎えた時に彼女の日本公演の話を聞いて彼女が夢を適えたと理解した、その時にはもうシチリアといえばマフィアという見方は何処にもなかった。
イタリア少女の親御さん達 完
2024・2・19
ページ上へ戻る