ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜
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ALO編ーフェアリィ・ダンス編ー
21.邪神狩り
前書き
第21話投稿!!!
邪神助けたシュウたちに襲いかかる新たなる驚異!!
三面巨人を倒した私たちだったが、シュウくんは疲れ果て寝てしまったため動くことが出来ない。しかも、このままだとシュウくんは強制的にログアウトしてしまう。
でも、疲れ果てて眠っているシュウくんを起こすのもどうも.........
「これからどうしよっか、キリトくん」
「そうだな.........うーん.......」
その場でシュウくんを見ながら考えていると、ひゅるるっと啼く声がする。すると眼の前に長い何かがまっすぐとあたしたちの方に伸びてくる。
「げっ........」
飛び退こうとするキリトくん。無理もない、私たちに伸びてきた長い何かは、さっき苛められていた象水母の邪神の鼻だ。
キリトくんの耳をユイちゃんが手できゅっと引っ張る。
「大丈夫です、パパ。この子、怒ってません」
.........子ぉぉ?と口をぽかんと開ける.......と象邪神の鼻の先端が細く割れ、ぎゅるっとあたしとキリトくん、シュウくんを巻き取り、勢い良く持ち上げた。
「ひええええっ」
情けない声を聞くだすキリトくんと声もだせないあたしを、象邪神は数十メートルの高さまであげ、そのまま背中の上に放り投げる。
お尻から墜落し、ぼよんと弾んで落ちる。象水母の胴体は灰色の短毛がふさふさと生えていて気持ちがいい。象水母は満足するようにもう一度啼いて、何事もなかったかのように移動し始めた。
キリトくんと顔を見合わせて、状況把握をしようと努力するが理解できない。
「そ、そういえば、シュウくんは!?」
慌てて辺りを見渡すがシュウくんの姿が見当たらない。
(まさか!さっき弾んだ拍子に落ちたんじゃ!)
「どうしよう、キリトくん!シュウくんが!?」
「シュウならそこに.......」
キリトくんが私の膝の上を指差す。そこにはぐっすりと寝ているシュウくんが私の膝を枕代りにして寝ている。
「ふぅー、良かった」
ホッとした。
寝ているシュウくんの顔を覗き込む。
(さっきまであんなにカッコよかったのに、今じゃこんなかわいい顔して寝てるなんてね)
寝ているシュウくんの頭をゆっくりと撫でる。その時、我に返る。
慌ててシュウくんの頭を撫でるのをやめ、キリトくんの顔を見ると、キリトくんは少しにやけたような顔をしている。
「あ、あのね.....!こ、これは違うの.....!」
顔がどんどん熱くなっていく。
「な、何が違うんだ......?」
膝の方で声がする。
恐る恐る下を向くとシュウくんが眼をこすりながらこちらを見ている。
「シュウくん!?」
慌てて立ち上がり半歩後ろに下がる。
「イテ、急に立ち上がるなよ。ん、んー」
大きな伸びをし、辺りを見渡す。
「さて!」
シュウくんが何かを閃いたようにこちらを見てくる。
「リーファさん」
「な、なによ」
「あの時、約束したよな。膝枕してくれるって」
少しにやけたような顔でこちらを見てくる。
「あ、あれは.......そ、その〜......」
確かにした。
あの時のあたしはシュウくんに約束をした。
「わ......わかったわよ!すればいいんでしょ!すれば!」
象水母の背中に今一度座り込み、シュウくんも私の近くに座りそのまま膝の上に倒れてくる。
「で、こいつはどこに向かってるんだ?」
普通の顔してシュウくんは私の膝の上で話し出す。
「えーっと......」
マップを開き、位置を確認する。
「えーっと、あたしたち、西か東の端の階段を目指してるんだよね?」
「そうだけど」
「でも、この子真逆に向かってるみたいだよ......。ほら見て」
マップを覗き込む、シュウくんとキリトくん。
「.......なんだろう、あのツララを囲んでるウネウネは.....」
「あたしも写真でしか見たことないけどね......。あれは、世界樹の根っこなの」
「「え.......」」
驚く二人に続けて話す。
「アルヴヘイムの地面に貫いた根っこが、ヨツンヘイムの天井から垂れ下がってるわけ。つまり邪神くんは、ヨツンヘイムの天井じゃなくて真ん中に向かってるのよ」
「世界樹の根っこを登って地上に出るルートでもあるのかな?」
「あたしも聞いたことはないわね。だいいち、ほら見て、根っこの一番下でも天井と地面の中間くらいまでしか来てないでしょう。てことはあそこまで二百メートル以上あるよ、シュウくんはともかく、あたしたちは無理な高さね」
「そうか......」
キリトくんが小さく嘆息してから、にやっと笑った。
「ま、今はこのゾウリムシだかダイオウグソクムシだかに任せるしかないさ。竜宮城で大歓迎されるのか、それとも今日の朝メシにされるのかは知らんけど」
「ちょ、ちょっと待ってよ。なにそのダイオウなんとかって。それを言うならゾウかクラゲか、でしょ」
口を尖らせて言い返すと、膝の上からシュウくんが私の顔を見る。
「知らないのか?別名ジャイアント・アイソポッド.........深海の底にいる、これくらいのダンゴムシみたいな.......」
と両手いっぱいに幅を広げる。
ぶっると体を震わせて言葉を遮る。
「わかった、じゃあ、名前つけよ名前!可愛いやつ!」
頭を巡らせて、可愛らしい名前を探す。するとキリトくんが急に言う。
「じゃ、トンキー」
その名前に聞き覚えがあった。それは小さい頃、家にあった絵本に出て来た象の名前だ。でも、その象は最終的に飢えて死んでいくという絵本だ。
「.......あんまし、縁起のいい名前じゃない気がするけど」
「そ、そうかもな。なんか頭に浮かんできたんだよ」
「へー、キミもあの絵本知ってるんだ。じゃあ、まあ、いいわ。それにしよ!」
ぽんと手を叩いてから、足元の毛を撫でた。
「おーい邪神くん、キミは今からトンキーだからねー」
当然反応はなく、続けてキリトくんの肩に座るユイちゃんが声をかける。
「トンキーさん、はじめまして!よろしくお願いしますね!」
すると今度は、偶然か、頭の両側の耳もしくはエラが動く。
トンキーの背中に乗ってどんどん奥地に進んで行く。その途中、はぐれ邪神と何回か出くわしたが邪神はスルーしていく。
隣でキリトくんがまた船をこぎ出す。そして、まだあたしの膝の上に乗るシュウくんも眼をつむっている。
「.......この二人は.......」
すると急にトンキーが歩くのをやめる。
「どうしたんだろ?」
立ち上がりトンキーの頭近くまで移動し、前方を覗き込む。
「うわぁ........」
思わず声が洩れてしまった。
穴だ。
それも底が見えないほどの深い穴。
「.......落っこちたら、どうなんのかな.......」
「試しに俺が飛んでこようか?」
「わっ!起きてたの!?」
緊張感のない二人の会話に肩に乗っていたユイちゃんが真面目な顔で答える。
「私がアクセスできるマップデータには、底部構造は定義されていません」
「うへぇ、つまり底なしってことか」
「飛ばなくて良かった」
後ろにずり下がり、背中に戻ろうとするとトンキーが、がくん、と動き出す。
(まさか、この穴に放り込まないわよね!)
トンキーは落とすのではなく、足を折りたたみ、巨体を降ろす。そして完全に動きを止める。
私たちは顔を見合わせてから、恐る恐る背中から降りた。
「.............こいつ、何がしたいんだ........」
ふさふさとした毛皮をとんとん叩いてみた。
「おーい、トンキー。あたしたち、どうすればいいのようー」
しかし返事はない。
「もしかして寝てるだけ?あたしたちが徹夜で頑張ってるのに?」
「おい、リーファ。上見てみろよ、凄いぞ」
「え.........?」
言われるがまま上を見上げると、そこにはすごい光景が。世界樹の根っこがなんと真上にあるのだ。
「ほんと、凄い......。あれが全部一つのダンジョンだとしたら、間違いなくALO最大規模ね.......」
二百メートル以上の空間で、たとえ地下飛行可能なインプでも届かない。
「どうやって行くのかな........」
横にいるシュウくんとキリトくんを見ると、シュウくんが上を見て難しそうな顔をしている。
するとキリトくんの肩に乗るユイちゃんが。
「パパ、東から他のプレーヤーが接近中です!一人......、いえ、二十四人!」
大きく息を吸い込む。
二十四人。明らかに、邪神狩りを目的とした連結(レイド)パーティーだ。
この状況で接近してくる目的、つまりは........
唇を噛み、東方向を睨むと、数秒後、さくさくと雪を踏む音が微かに届く。シルフでなければ聞こえないボリュームで、姿は見えない。恐らく隠行魔法で姿を消している。
手をかざし、看破魔法を詠唱しようとした時、十メートルほど先に水の膜を破るように、一人のプレーヤーが出現。
男性だ。
青みがかっるほどの白い肌、同じく薄い水色の髪。水妖精(ウンディーネ)族だ。肩には小型の弓を掛けている。
その堂々とした歩き方に間違いなく彼が手練れのプレーヤーだということを告げている。
「あんたら、その邪神、狩るのか狩らないのか。狩るなら早く攻撃してくれ。狩らないなら離れてくれないか。我々の範囲攻撃に巻き込んでしまう」
その言葉が終わらないうちに、男の背後からパーティーの本隊が追いついてくる。二十数名のプレーヤーが姿を現し、全員が白い肌に青系の髪をなびかせていた。つまり、この邪神狩りパーティーは、全員がウンディーネ族になる。
もしレネゲイドのパーティーなら良かったが、ウンディーネ族だけとなれが私たちを殺すのはむしろ好都合。
(あたしたちを仲間と思ってくれたトンキーを、殺させるわけにはいかないもの)
「.......マナー違反を承知でお願いするわ。この邪神は、あたしたちに譲って」
「下級狩場ならともかく、ヨツンヘイムに来てまでそんな台詞を聞かされるとはね。『この場所は私の』とか『そのモンスターは私の』なんて理屈が通らないことくらい、ここに来られるほどベテランならわかっているだろう」
男の言うことは正しい。
前のサラマンダーの部隊のように戦えるような相手でもない。相手は二十四人、しかも超がつくほどのベテランだ。
この状況にキリトくんとシュウくんがとった行動に驚いた。
シュウくんとキリトくんは深く腰を折り、頭を下げた
「「頼む」」
その声は真剣そのものだった。
「.......カーソルは黄色だけど、この邪神は、俺たちの仲間だ......いや、友達なんだ。こいつは死にそうな目に遭いながらここまで来た。最後まで、したいようにさせてやりたいんだ」
「俺からも頼むよ。こいつの好きにさせてやってくれ」
一秒ばかりの沈黙のあと次の瞬間、ウンディーネの集団は遠慮なく笑い出す。
「おい.....おいおい、あんた、ほんとにプレーヤーだよな?NPCじゃないよな?」
彼は笑いながら弓を下ろす。
「.......悪いけど、俺たちも、このフィールドでだらだら遊んでるわけじゃないんだ。さっき、大きめの邪神に壊滅(ワイプ)させられかけてね。くろうしてリメインライトを全部回収して、やっとパーティーを立て直した所なんだよ。狩れそうな獲物はきっちり狩っておきたい。てことで........十秒数えるから、そいつから離れてくれ。時間が来たら、もうあんたたちは見えないことにするからな。ーーメイジ隊、支援魔法(バフ)開始」
男が手を振ると、部隊の一番後ろに並ぶ魔法使いたちが、次々と詠唱を始める。戦士たちが各種ステータスを増強魔法が包んでいく。
「十.........九.......八..........」
詠唱の中、弓使いのカウントダウンが高らかに響く。
「.........下がろ、シュウくん、キリトくん」
「.........ああ」
(悔しい.......けど何もできない)
キリトくんは俯いたまま小さな声で返すと私とともに並んで遠ざかる。
「..........シュウくん?」
シュウくんはまだ、トンキーの前から動こうとせず、でも武器を抜こうとしない。
「三...........二.........」
カウントダウンが進むが動こうとしない。
「.......一!」
次の瞬間、シュウくんの姿が消え、ウンディーネ部隊の方から絶叫が響く。
「ぐはぁぁぁぁ!!」
刹那!!
シュウくんは、一瞬でウンディーネ部隊に切り込み、ウンディーネの剣士隊の一人を一撃で葬り去る。
「貴様!何のつもりだ!」
シュウくんに一斉に剣士隊の剣が向けられる。臆することなく、確かな言葉でシュウくんは.........
「俺はただ、狩れそうな獲物がいたから狩っただけだ」
「貴様!!攻撃開始!!」
弓使いの男の声に魔法部隊が一斉にトンキー向かい魔法を放つ。そして剣士隊がシュウくんに斬りかかる。
「シュウくん!」
背中に背負う槍を抜き、槍と片手剣で全ての剣を防ぎ、インプの翅で上空に飛び上がる。
「うおぉぉおお!!」
雄叫びを上げ、魔法部隊に突っ込んで行く。
「キリトくん......シュウくんが.......って!」
さっきまで隣にいたはずのキリトくんが消えている。探して見ると案の事情、シュウくん同様、ウンディーネ部隊に攻撃を仕掛けている。
「もうー、キリトくん、シュウくん!」
私もウンディーネ部隊の突っ込む。
(もう、どうにでもなれ!)
手練れのウンディーネは私たちの攻撃を受けながらもトンキーへの攻撃をやめない。
すると、冷たい空気を強烈に震わせるほどに響くその声はトンキーのものだ。
「あ...........」
細い声を洩らしながら、トンキーの死を覚悟したが、黒い血が噴き出すと思っていたが、迸ったのは、途轍もない眩い光だ。
くわぁぁん、という甲高いが響きウンディーネ部隊のを覆っていた支援魔法のオーラや、攻撃魔法のエフェクトが煙となり蒸発。
..........範囲解呪能力(フィールド・ディスペル)!
一部の高レベルモンスターだけが持つ特殊能力。その場にいた全員が一瞬にして凍りついた。
トンキーの胴体が.......硬く分厚い殻が吹き飛ぶ。
光の塊から螺旋状の尖塔が伸び、真っ白い輝きを帯びて、四対八枚の翼が姿を現す。
「........トンキー.........」
トンキーは八枚の大きな羽を羽ばたかせ垂直に舞い上がり、高度十メートルほどで停止したトンキーの羽が、前触れもなく色合いの違う青い輝きに満たされる。
「あっ......やばっ......」
「うん.......やばいな......」
キリトくんが私の体を抱え込み、どすんと雪の上に伏せる。すると、トンキーの全ての足から、恐ろしい太さの雷撃が地上に降り注ぐ。
「撤退、撤退!!」
その声とともにウンディーネ隊は逃げ去って行く。
トンキーはわっさわっさと飛んでくると、私たちの頭のすぐ上に止まった。
「..........で、これから、どうすんの」
「........とりあえず、あいつを起こせばいいんじゃないか?」
キリトくんの指差す方には、ピクピクと足と手を動かしながら雪に埋もれる黒いプレーヤーの姿が。
するとトンキーが、私とキリトくん、雪に埋もれるプレーヤーを長い鼻で再び背中に乗せた。
「まさか........シュウくん!?」
トンキーが背中に載せた黒いプレーヤーは、紛れもなくシュウくんだった。HPはイエローゾーンをこしてレッドゾーンに突入し、しかも麻痺している。つまり、シュウくんはトンキーの雷撃を直撃した.......ということになる。
「し、死ぬかと.......思った」
「逆に生きてるのがスゴイよ」
「シュウならあり得る話だな」
「スゴイ生命力ですね、シュウさん」
トンキーは遥か頭上世界樹の根を目指している。上空から見る広大なヨツンヘイム全土の光景に思わず声が洩れる。
「わぁ..........」
その光景は普通は見ることができない光景。飛行することができない場所を見下ろす光景に言葉を失う。
すると上空にに全長は軽く二百メートルは軽く超える巨大な氷柱があり、その内部はいくつもの層に区切られており.......その一番下の氷柱ーー鋭く尖った突端に、一際強く金色の光を放つものがあることに気づいた。眼を凝らすがよく見えない。無意識のうちに右手を掲げ、スペルを唱える。
掌の先に水の塊が現れ、それを覗き込む。するとキリトくんとシュウくんが顔を寄せてくる。
「何それ?」
「遠見氷晶(アイススコープ)の魔法よ。ほら、あのでっかいツララの先っぽに、何か光ってるでしょ......」
言いながら、二人と頬を近づけながら大きなレンズを覗き込む。
レンズには衝撃の光景が見えてくる。
透き通る黄金の刀身、恐ろしいまでに壮麗な長剣........あの剣は!!?
「せ.......《聖剣エクスキャリバー》だよ、あれ。前にALOの公式サイトで写真だけ見たもん........ユージーン将軍の《魔剣グラム》を超える、立った一つの武器.......今まで所在も解らなかった、最強の剣」
「「さ、最強.......」」
最強の剣を取ることは可能だった。インプのシュウくんがいるから飛んでエクスキャリバーを取ることは出来たが、あたしたちは取らずに世界樹の根もとを目指した。
世界樹の根もとに近い木の階段でトンキーは止まる。私たちはトンキーの背中から降り、階段に移る。
「.......また来るからね、トンキー。それまで元気でね。もう他の邪神に苛められたらだめだよ」
伸ばされた鼻の先端を手でぎゅっと握りしめる。そして手を離し、次にキリト君が鼻を握り、ユイちゃんも鼻を握る。
「またいっぱいにお話しましょうねえ、トンキーさん」
キリトくんが手を離し、最後にシュウくんが鼻を握るではなく、鼻と拳を付き合わせあった。
そして、ものすごい速度で急降下して行く。
(別れは辛いけど、また会えるよね。トンキー!)
目尻に滲みかける涙を拭い、キリトくんとシュウくんと顔を見合わせてにこっと笑う
「さ、行こ!多分、この上がアルンだよ!」
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