英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~
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第8話
~リバーサイド駅・地下鉄整備路~
「この先に手配魔獣というのが……」
「第2区画――――――地下鉄建設後に殆ど放置されてるエリアみたいだな。その分、面倒そうな魔獣もいそうだが。(……?さっきから妙に空気が乱れてやがるが……)アニエス、しゃがめ!」
「!?きゃあっ……!?」
ある程度先に進み、アニエスと共に周囲を見回していたヴァンは何かに気づくとアニエスに指示をした後シャードによる結界を展開し、メイヴィスレインは自身の魔力による結界を展開して頭上からの奇襲を防いだ。すると複数のコウモリ型の魔獣達が下りてきてヴァン達と対峙した。
「コ、コウモリ……!?」
「ターゲットじゃねえが大量に棲みついてるようだ。面倒だな――――――わかってりゃあ準備してきたんだが。……待てよ?メイヴィスレイン、威力は低くてもいいから光の魔術で奴等の目を眩ませられるか?」
「その程度、造作もない事です。」
目の前に現れたコウモリ型の魔獣達にアニエスが驚いている中ヴァンは厄介に感じた後メイヴィスレインに気づくとメイヴィスレインにある確認をし、確認をされたメイヴィスレインが短い魔術の詠唱の動作に入ろうとしたその時
「3人とも、目を閉じていろ。」
突如男の声が3人の背後から聞こえて来た。
「え……?」
「何者……!?」
「ハッ……―――――了解だ!」
男の声にアニエスが呆け、メイヴィスレインが警戒している中男の正体がわかっていたヴァンは答えた後アニエスを胸元へと抱き寄せて目を閉じ、メイヴィスレインも目を閉じた。すると男は持っていたカメラで魔獣達目掛けてフラッシュつきの氏写真を取るとフラッシュの光によって魔獣達の内の数体は地面に落下した。
「……!?っ……!?(カメラのフラッシュ……?)」
突然の出来事に驚いたアニエスだったが光の正体が男が持っているカメラのフラッシュである事に気づいた。
「半分落としたぞ、ヴァン!」
「おうよ――――――行くぞ、バイト助手とそのお目付け役!」
「は、はいっ……!」
「いいでしょう……!」
男の言葉に頷いたヴァンはアニエスとメイヴィスレインに号令をかけ、協力して残りの魔獣達を撃破した。
「ふう、片付いたか。――――――なんだ、大丈夫か?」
「は、はいっ!怪我とかは何も……」
「……問題ありません。」
「フッ……そいつはよかった。」
戦闘が終わるとヴァンは二人に声をかけ、声をかけられたアニエスはヴァンに抱きしめられた時の事を思い出して僅かに頬を赤らめながら答え、アニエスの様子に気づいていたメイヴィスレインがアニエスより僅かに遅れて答えると、男――――――褐色の青年が3人に声をかけた。
「あ……貴方がフラッシュを?……って、ひょっとしてヴァンさんのお知り合いの――――――」
褐色の青年がフラッシュつきで魔獣達を写真に撮って落とした主である事にアニエスは目を丸くした後ある事に気づいた。
「ディンゴ・ブラッドだ。ヴァンとは昔からの馴染みでな。雑誌メルドのルポライターをやっている。」
「”メルド”……えっと、その有名ですよね。」
「クク、風俗情報から政財界のタブー、オカルトまで扱うゴシップ誌だからな。最近じゃ”バズレイダー”も熱いが、流石に老舗の貫禄がありやがる。意外と愛読してたりすんのか、優等生?」
青年―――――ディンゴは軽く自己紹介をし、アニエスがディンゴが務めている雑誌社を知っている様子を見たヴァンはからかいの表情を浮かべてアニエスに指摘した。
「し、してませんっ!その、好きな友達がいて……ちょっとだけ読んだことは……」
「やれやれ、その友達には控えるように言っておくといい。アラミス高等学校一年、アニエス・クローデル嬢。」
ヴァンの指摘に必死に否定した後僅かに恥ずかしそうな表情を浮かべて答えたアニエスの答えを聞いたディンゴは苦笑しながら溜息を吐いた後アニエスに指摘した。
一方初対面のディンゴが自分の事を知っている事に驚いたアニエスはヴァンに視線を向けたが
「別に俺は教えちゃいないぜ?調べりゃすぐにわかんだろ。」
視線を向けられたヴァンは苦笑しながら否定した。
「ベルモッティじゃないが副業で似た事をしていてな。君について調べたのはそれだけだ。安心してくれ。………まあ、流石に”最近アラミスに編入した天使とは別のそちらの天使殿”には俺も驚いたが。」
「は、はい――――――ヴァンさんと親しくされているようですし。先程はありがとうございました。――――――って、”最近アラミスに編入した天使”という事はレジーニアさんの事まで知っているんですか……!?」
ディンゴは説明をした後メイヴィスレインに視線を向けて苦笑し、アニエスはディンゴに感謝の言葉を述べた後ある事に気づくと驚きの表情を浮かべてディンゴを見つめた。
「フッ、彼女については俺じゃなくても既に大概の情報屋は知っている。カルバード両州の名門校に異種族――――――それも”天使”が編入したという情報は有名だからな。」
「あはは………あれ。という事はもしかして、ヴァンさんもレジーニアさんの事を御存じなのですか?」
「ああ。それと”もう一人のメンフィル帝国からの編入生”についてもな。しかし前回のでチャラだったが借りを作っちまったな。そもそも、なんでここに?ジャコモの件でまだネタがあんのか?」
静かな笑みを浮かべて指摘したディンゴの指摘に苦笑したアニエスだったがある事に気づくとヴァンに視線を向けて訊ね、アニエスの疑問に頷いて答えたヴァンは苦笑しながらディンゴを見つめた後ディンゴの目的が気になりディンゴに訊ねた。
「いや……どちらかというとプライベートでな。お前達――――――ここに来る途中、誰かを見かけなかったか?どうやらギルドからの委託で手配魔獣の対処に来たようだが。」
「え………」
「もう耳に入れてんのかよ……――――――って、ちょっと待て。俺達以外にここに入り込んでるヤツがいるのか?」
ディンゴが自分達がギルドからの委託依頼を請けている事を知っている事にアニエスが驚いて呆けている中ヴァンは呆れた表情で呟いた後ある事に気づき、真剣な表情を浮かべて訊ねた。
「多分……それも民間人だ。年齢は二十歳、女性、戦闘経験は全くない。」
「た、大変じゃないですか……!」
「ええ。この辺りの魔物達は雑魚とはいえ、戦闘経験がない者からすれば脅威な存在になるでしょうね。」
「おい――――――まさかと思うが。”タイレル通信”の新米記者じゃねえだろうな?」
ディンゴが捜している人物の特徴を聞いたアニエスが血相を変えている中メイヴィスレインは真剣な表情でアニエスの言葉に同意し、心当たりがあるヴァンはディンゴに確認した。
「警察署の前で会った……」
ヴァンの話を聞いてマリエルを思い浮かべたアニエスは不安そうな表情を浮かべた。
「ああ――――――そのまさかだ。一人で捜そうと思ったがお前が来てくれていて助かった。どうか手を貸してくれないか?」
「はあ……しゃあねえ。さっきの借りもあるしな。つうかひょっとしなくても俺のせいだったりするか?」
「え………」
「……………」
ディンゴに協力を求められたヴァンは溜息を吐いた後ディンゴに確認し、ヴァンの確認内容を聞いたアニエスは呆け、メイヴィスレインは呆れた表情でヴァンを見つめた。
「2割くらいは、だろう。――――――どうも気負いがちな娘で、何故か俺をライバル視していてな。先日も、俺を出し抜こうとして警察に突撃取材を敢行したわけだ。まあ結果は察しの通りだろうが。」
「チッ……流石に後ろめたいな。」
「……えっと、もしかして。ヴァンさんが煙に巻いた結果、取材が失敗に終わってしまって……意地になって、新たな情報がないか改めてこちらを調べにきた――――?」
ディンゴの話を聞いたヴァンが舌打ちをするとアニエスはマリエルが魔獣が徘徊している整備路に入り込んだ理由を推測するとその場にいる3人は頷いた。
「た、大変じゃないですか~……!?」
「全くもってその通りですね。こうして余計な手間が増えたのも、ヴァンの日頃の行いが原因――――――まさしく、”因果応報”ですね。」
「ええい、だから手を貸すって言ってんだろ。――――――手前のエリアは気配がなかった。いるとすればこの先だろう。」
3人が自分の推測に頷くとアニエスはヴァンを見つめて指摘し、メイヴィスレインもアニエスの言葉に頷いた後蔑みの視線でヴァンを見つめて指摘し、二人の指摘に答えたヴァンは振り向いて奥へ続く道を見つめて推測を口にした。
「すまんが、俺の得物はカメラだけだ。戦闘はアテにさせてもらう。手配魔獣とやらのところまで行ってないといいんだが……」
「そ、それを言うなら普通の魔獣も十分に危険だと思いますけど……とにかく急ぎましょう!記者の方を保護しないと!」
そしてディンゴを加えたヴァン達はマリエルを捜しながら先へと進み続けた。
「そういやあの新米記者、お前に随分とご執心みたいだな?で、どんな関係なんだ?」
「ライバル視されていると言いましたが、何か理由があるんでしょうか?」
先に進んでいたヴァンとアニエスはふとディンゴとマリエルの関係が気になり、ディンゴに訊ねた。
「どうと聞かれてもな……ただの同業者としか答えようがない。フッ、しかし君は意外と遠慮なく踏み込んでくるタイプだな。」
「ハッ、すみません……」
ディンゴの指摘に我に返ったアニエスはディンゴに謝罪した。
「いや、いいさ。隠すようなことでもない。マリエルが”タイレル通信”に入った直後の頃……彼女は無謀にも、当時怪しい噂があったとある政治家をしつこく嗅ぎまわっていてな。それを気づかれて、色々と脅されていたそうだ。」
「正義感に燃えるジャーナリストがいつの間にか闇に消える……よく聞く話だがお前もその件に関わっていたのか?」
「ああ……偶然にも俺もあの政治家のネタをいくつか探っていてな。スクープするには物足りなかったから、あえてマリエルに流すことにした。すると彼女は予想通り、それらを公表した。」
「それで、どうなりましたか?」
「結論から言えば、どうもなっていない。言ったように、スクープするには物足りないネタではあったからな。普通ならあの程度のネタをわざわざ記事にしたりはしないんだが。」
「それも未熟な新人故の行動ってわけか。」
「ああ、だが相手の政治家はそう思わなかったようだ。マリエルにもっと大きなネタを握られていると勝手に思い込み――――――『このくらいで互いに手打ちにしよう』という彼女の意思表示だと勘違いした。それ以降、彼女に手を出す事はなかった。」
「まさかディンゴさんはそこまで読んで情報を流して……?」
ディンゴの話を聞いたアニエスは驚きの表情でディンゴに確認した。
「狙っていなかったわけじゃないが、上手く行ったのはたまたまだな。どうも、マリエルは異常なほどの幸運の持ち主らしくてな。厄介事に首を突っ込む性格をしていながら、最終的には大体無事に終わる―――そんな星の下に生まれているらしい。」
「そ、そうなんですか……」
「……なるほど。稀にそのような”人”もいる話は聞いた事がありますが、まさか彼女がその一人だったとは。」
「聞いてるだけでも、随分と手を焼かされてるみたいだな?」
ディンゴが語ったマリエルの事を知ったアニエスは驚き、メイヴィスレインは納得した様子で呟き、ヴァンはからかいの表情でディンゴに指摘した。
「それはともかく、現に危険な場所に足を踏み込んでいる事に違いない。先を急ごう。」
そしてディンゴに先を促された3人は探索を再開し、奥に到着した。
~最奥~
「……ッ!」
「ああ……ッ!?」
「……なんだありゃ。」
「……まあ、私達が到着した時点で”あの程度”ですんでいますから、確かに話通り相当な幸運の持ち主ですね。」
「いやあああっ……!は、離してよおおおおっ!?わ、わたしなんか食べてもおいしくないんだからああっ!
奥に到着して目に見える光景――――――手配魔獣の触手に捕らえられて悲鳴を上げているマリエルを見たディンゴは厳しい表情を浮かべ、アニエスは不安そうな表情で声を上げ、ヴァンは困惑し、メイヴィスレインは静かな表情で呟いた。一方手配魔獣は触手を動かしてマリエルの肌に更に触れながら、マリエルに迫っていた。
「やあっ……ど、どこ触って……!?……やだやだ、こんな所で魔獣に食べられちゃうなんて……女神様……おかーさん、おとーさん。――――――ディンゴさああああんん!!」
そして手配魔獣に迫られたマリエルが悲鳴を上げたその時
「やはり運がいい――――――!はあっ!!――――――ヴァン、頼む!」
ディンゴが手配魔獣を蹴り飛ばしてヴァンに呼びかけ
「おおよ!!手を貸せ、メイヴィスレイン!!」
「いいでしょう!!」
呼びかけられたヴァンはメイヴィスレインにも呼びかけ、メイヴィスレインと共に手配魔獣にそれぞれ一撃を叩き込んで手配魔獣を一旦後ろへと退かせ、その間にディンゴはマリエルを救出して抱き上げた。
「え、え……魔獣がディンゴさんに……?……だったらもう食べられても……」
一方救出されたマリエルは状況に戸惑った後僅かに嬉しそうな表情を浮かべて呟き
「寝ぼけるな、下がるぞ!」
ディンゴはマリエルに注意をした。
「余裕あんじゃねーか。――――――よし、一気に仕留めるぞ!」
「はいっ……!!」
「ええ!!」
二人の様子を苦笑しながら見つめていたヴァンは二人に号令をかけ、手配魔獣との戦闘を開始した。
「そらっ!!」
「続きます!えいっ!やあっ!!」
ヴァンが敵に攻撃を叩き込むとヴァンとSCLMで繋がっていたアニエスが続けて魔導杖による霊力弾を放って追撃し
「裁きを――――――聖槍!!」
メイヴィスレインは下位の神聖魔術による光の槍を放って敵にダメージを与えた。
「……!」
「ぐっ……!?」
「きゃっ……!?」
敵は反撃に頭突きでヴァンとアニエスにダメージを与え
「…………」
「甘い!―――切り刻みなさい!!」
更にメイヴィスレインには触手を伸ばして攻撃したがメイヴィスレインは素早く回避した後反撃に得物を素早く振るってカマイタチと共に衝撃波を放つクラフト―――――疾風地走りを放って敵にダメージを与えた。
「…………」
「そこだぁっ!エリアルバスター!!」
攻撃が回避され、更に強烈な攻撃を受けた敵はメイヴィスレインを脅威の対象と判断してメイヴィスレインに攻撃を集中させようとしたその時、ヴァンが背後から跳躍して撃剣を叩きつけた。
「!?」
「ザイファ駆動―――――セイントアロー!!」
「ザイファ駆動―――――アシッドクラウド!!」
背後からの奇襲を受けた敵は思わず怯み、その隙に互いにSCLMを組んで互いが放つアーツの威力を増加させたアニエスは光の矢を放つアーツを、メイヴィスレインは腐食ガスを発生させるアーツを放って追撃した。
「!?………」
立て続けに攻撃を受けた事に加えて弱点属性である地属性のアーツを受けた敵は”スタン”状態になり
「力天使の力、思い知りなさい!」
無防備な姿の敵の状態を見て好機と判断したメイヴィスレインは槍を振ると同時に自身の周囲に聖なる力の込められた竜巻を纏い
「滅して悔いなさい!葬翼絶聖翔!!」
飛び上がった後、天使の翼で敵の真上を飛翔して敵を竜巻に巻き上げる。そのまま飛翔消して敵の背後を取った直後に槍を構えて更に聖なる風の力を込めて槍を振るった。すると敵に巨大な竜巻が襲い掛かり、大ダメージを与えた。
「―――――!!??」
メイヴィスレインのSクラフトによる大ダメージに耐え切れなくなった敵は咆哮を上げながら消滅した。
「ううっ……な、何とかなりましたね……」
「まあ、及第点ってトコか。こういうデカイ粘液系は女子的にはキツいんじゃねえのか?」
戦闘終了後メイヴィスレインはアニエスの身体に戻り、安堵の溜息を吐いたアニエスを評価したヴァンはからかいの表情で指摘した。
「だ、大丈夫です……!……ちょっと我慢すれば何とか……そ、それより―――」
ヴァンの指摘に対して若干強がった様子で答えたアニエスはディンゴとマリエルに視線を向けた。
「……大丈夫か?足などは挫いていないようだが。」
「は、はい……でもどうしてディンゴさんがこんな所に……ハッ、ひょっとしてわたしが掴んだスクープを横取りしにきたとかっ!?」
「ふう……どうしてそうなる。言っておくがジャコモの件は解決済みだ。犯人も含めてGID預かりとなっている。そちらの編集長も了承している筈だぞ?」
マリエルを心配したディンゴだったが手配魔獣に襲われたにも関わらずいつもの調子のマリエルに呆れた表情で溜息を吐いた後指摘した。
「へ。じゃ、じゃあどうしてわたし、こんな暗くて怖くて恥ずかしい目に……」
ディンゴの指摘にマリエルは呆けた後自分の状態に困惑し
「だ、大丈夫ですか!?」
そこにアニエスがマリエルに近づいて声をかけた。
「あ、貴女は……?あれっ、どこかで見たような――――――きゃああああっ!?な、なによこれえええっ!?み、見ないで!ディンゴさんは見ちゃだめええ!」
アニエスに声をかけられたマリエルは首を傾げたがすぐに手配魔獣の粘液によって服の一部が溶けた事で所々肌を晒している自分の状態に気づくと顔を赤らめて悲鳴を上げた。
「ふう……まったく。」
「ま、あのクラスの魔獣に襲われてその程度で済んだのだから御の字だろ。ありえない強運ってのも納得だぜ。」
マリエルの様子にディンゴが苦笑している中ヴァンは冷静な様子で指摘した。
「そ、その程度って何ですか!?乙女のあられもない恰好を前に―――って貴方はあの時の――――――!?”裏解決屋”とかいう怪しい職業で、あの事件も勝手に解決したっていう……」
「あ~………」
ヴァンの指摘に反論したマリエルだったがヴァンの顔をよく見てヴァンの事を思い出すと怒りの表情でヴァンを睨み、睨まれたヴァンは気まずそうな表情を浮かべてマリエルから視線を逸らした。
「あ、貴方がデタラメを言ったせいで酷い目に遭ったんですからっ!!!警察の人には釘を刺されまくるわ、事件解決を完全に取り逃がすわっ……!」
「いや、それについちゃあ悪かったとしか言いようがねぇが……――――――その恰好で野郎に近寄らない方がいいんじゃねえか?ディンゴ相手だけにしとけよ。」
「!~~~~~っ~~~~~………」
「ヴァンさん……」
立ち上がってヴァンに近づいて文句を言ったマリエルだったがヴァンの指摘に言葉を失くし、恥ずかしそうな表情で身体を震わせ、アニエスはジト目でヴァンを見つめた。
「ふう、ともあれここは事件の現場じゃないってことだ。記者には記者の現場がある。とっとと出て着替えるといい。――――――ヴァン、アニエス嬢も助かった。いずれ借りは返させてもらおう。」
「あ……いえ、どういたしまして。」
「後ろめたいしチャラでいいぜ。そんじゃ、気を付けて帰れよ~」
「ちょ、ちょっとディンゴさん!まだあの人に言いたい事が……お、覚えてなさいよ~っ!裏解決屋、ヴァン・アークライド!!」
そしてマリエルはヴァンへの恨み言を叫びながらディンゴと共にその場から去って行った。
「えっと、ヴァンさん……?」
「ギルドの委託はクリア、新米記者も恰好以外は無事で済んだ。結果オーライだろ、結果オーライ。」
二人を見送ったアニエスは困った表情でヴァンに視線を向けたが、ヴァンは全く気にしていない様子で答えた。
「ふう、なんだか無用な恨みも買ってしまった気がしますけど……でも確かに。あの方が無事でよかったです。――――――これで本日の”試用研修”はお終いですか?」
「ハン、事務所に帰るまでだな。そんじゃ俺達も出るぞ。」
その後二人も整備路を出ると夕方になっていた。
~リバーサイド~
整備路を出るとヴァンはある番号にかけていた。
「?えっと、どちらに?」
「こっちに仕事を押し付けやがった熊野郎に決まってんだろ。」
「ああ………」
ヴァンがどこにかけているのか気になったアニエスだったがヴァンの答えを聞くと納得した表情を浮かべた。するとヴァンがかけた番号――――――ジンがヴァンのザイファの映像に映った。
「おお、アークライドか。無事片づけてくれたようだな。」
「……見透かしてんじゃねえよ。必須に加え、任意もクリアだ。ケリのつけ方は任せてもらったが。」
「ハハ、それで構わんさ。俺達と流儀は違うかもしれんがお前さんの判断なら大丈夫だろう。」
「チッ、何を根拠に……」
遊撃士であるジンが自分を信頼している事に舌打ちをしたヴァンは複雑そうな表情を浮かべた。
「―――――とにかく助かった。報酬も口座に振り込んでおく。”今後も”よろしく頼むぜ、アークライド。」
「っておい、冗談じゃ――――――」
今後も自分にギルドの依頼の委託をする事を口にしたジンにヴァンは反論をしようとしたが
「ああ、エレインは反対方面の横断鉄道に乗っちまってな。ザイファの通信なら届くだろうから何だったら――――――」
「そういう気遣いも要らねんだよ!」
「ハッハッハッ、それじゃあまたな。」
次から次へと話を変えたジンの強引さに反論する暇がなく、ジンの方から通信が切られた。
「な、なんてオッサンだ。気のよさそうな顔しといて……」
「あはは……カルバード両州のギルドの重鎮というのも納得ですね。そういえばリベール王国での事件で活躍したとも聞いたことがあるような。」
ジンについて文句を言うヴァンにアニエスは苦笑しながら見つめて呟いた後ジンの事についてある事を思い出した。
「よく知ってるな。6年くらい前の話らしいが。……そうか、丁度同じくらいだったな。」
「え――――――」
「……………」
ヴァンがふと呟いた言葉が気になったアニエスが呆けた声を出したその時何かが気になったヴァンは誰もいない場所を真剣な表情で見つめた。
「?ヴァンさん?」
「いや、さっきも言ったように事務所に帰るまでが試用研修だ。”幾つか”甘いモンを調達しながらボチボチ旧市街に帰るぞ。」
「えっと……わかりました。ふふっ、そこは外せないんですね。(気のせい、かな?何か含みがあるような……)」
ヴァンの提案に内心気になりながらアニエスは微笑みながら同意した。
その後数カ所を回ってお菓子を調達したヴァンは最後の調達場所である旧市街の花屋を訊ね、花屋がヴァンに渡すお菓子を用意している間にある事が気になっていたアニエスはヴァンに小声で話しかけた
~旧市街~
(あの、ヴァンさん……もしかして……)
(……へえ、まさか気づいたのか?)
(!そ、それじゃあ……)
(嫌な”匂い”はしねぇが一応お前も注意しとけ。)
アニエスが自分の行動を察した事に感心したヴァンはアニエスに忠告した。
「お待たせしました。自信作なので楽しんで下さいね。」
その時商品を用意できた店員がヴァンに商品を渡した。
「あ、ありがとうございます。」
「さて、そんじゃ事務所に戻るか。あまり待たせるのも悪いしな。」
その後ヴァンはアニエスと共にモンマルトまで戻ったが、事務所に向かわずアニエスと共に物陰に向かった。
「………!?」
二人の行動を物陰から見張っていた小柄のフードを被った何者かは急いで二人の後を追ったがヴァンとアニエスが向かった場所には誰もいなかった。
「くっ、どこに……!?」
二人を見失った何者かは慌てて素早い身のこなしで周囲を捜したが二人は見つからなかった。
「いない――――……ど、どうして……?」
「ハッ、大した身のこなしだな。」
何者かが周囲を見回している中感心した様子のヴァンの声が聞こえた後突如ヴァンが何者かの背後に姿を現した!
「ッ!?」
「甘いぜ――――」
ヴァンの登場に何者かが気づいたその時、何者かとの距離を一瞬で詰めたヴァンは何者かの服の首元を掴んで逃げられないようにした。
「ヴァンさん、大丈夫ですか――――――え。」
するとその時物陰に隠れていたアニエスが現れて二人に近づき、ヴァンが捕まえている何者かの正体――――――自分よりも数年年下の子供にしか見えない不審者を目にして呆けた。
「可愛い……」
「……ガキか。」
不審者の容姿にアニエスは思わず見惚れ、ヴァンは不審者が子供である事に冷静に呟いた。
「……民間人に後れを取るなんて……ううん、最初から気づかれて、ここに誘い込まれたんですね……?」
一方不審者の子供は自分が捕まえられた事に驚いた後ヴァン達の行動を分析してヴァンに確認した。
「振りきれなさそうだったからな。今のはシャードによる偽装映像だ。RAMDAとは違う方式だな。」
「そ、そんな機能まで……」
「……すごい……噂通り――――――ううんそれ以上かも。えへへ……よかった。お父さん(アブ)たちの反対を押し切って……」
ヴァンが使ったザイファの機能にアニエスが驚いている中子供は感心した後無邪気な笑顔を浮かべた。
「お父さん(アブ)――――――その呼び方って。」
「大陸中東部の方言か。装束に身のこなしといい、ひょっとしてお前――――――あ……2重の意味で”ひょっとして”だったか。」
子供が口にした独特の言葉に心当たりがあるアニエスは目を丸くし、ヴァンは子供が何者かである事に気づいた後更にある事に気づいた。
「え。」
ヴァンの言葉の意味がわからなかったアニエスは困惑した表情でヴァンに視線を向けた。
「――――参ったな。その歳で”クルガ”の猟兵……しかも小娘とはな。」
「ええっ……!?」
そしてヴァンの呟きによって子供が猟兵の少女である事を知ったアニエスは驚きの表情で声を上げた。
「えと、”クルガ戦士団”副頭目が長女、フェリーダ・アルファイドっていいます。”裏解決屋”アークライド様――――――どうか相談に乗っていただけませんか?」
すると少女――――――フェリはフードを取って自己紹介をした後ヴァンに依頼がある事を告げた――――――
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