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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
 【第10章】カナタとツバサ、帰郷後の一連の流れ。
   【第7節】キャラ設定10: エリオとキャロ。(後編)



 そして、同87年11月、故郷を追われたジョスカーラ姉弟(19歳と15歳)が、貨物船に密航してスプールスにやって来ました。
 しかし、翌12月には、この姉弟はダムグリースからの追手を(のが)れて第四大陸へ逃亡し、そのまま森林部に潜伏してしまいます。
 一方、第二大陸の陸士隊は、「小型質量兵器(銃器)の違法所持」の罪で、ドン・ヴァドラムザの手下たちを逮捕・拘留し、彼等からジョスカーラ姉弟についての情報を聞き出しました。
翌年の3月末には、第四大陸の自然保護隊が潜伏中の姉弟を発見しますが、ヴァラムディとフェルガンは強大な魔力を行使して彼等の手を振り切り、さらに逃亡を続けます。

『あれほどの魔力の持ち主を「力ずくで」確保しようと思ったら、こちらも相当な魔力の持ち主をぶつける以外に手は無いぞ!』

 という訳で、新暦88年の4月には、第五大陸の部隊に所属するエリオ陸曹長とキャロ陸曹長の二人に「白羽の矢」が立ったのでした。
(自然保護隊の「本来の職務」から考えれば当然のことですが、スプールスの自然保護隊には、この二人以上の魔力の持ち主など一人も在籍していなかったのです。)

 ちょうどその時、エリオとキャロは、ミッドで「アインハルトとヴィヴィオの結婚式」に出席して、二次会まで終えて、スプールスへの帰途に()こうとしていたところでした。
 現地からの連絡では『決して一刻一秒を争うほどの状況ではない』とのことでしたが、それでもやはり、ここは急いだ方が良いでしょう。
 二人はまず即時移動でドナリムに飛び、そこからは、ちょうど管理局の次元航行船が出るところだったので、それに便乗させてもらい、スプールスへと向かいました。船長に無理を言って、首都の次元港に降りる前に、第四大陸の自然保護隊本部の上空に少しだけ立ち寄ってもらい、そこから転送で直接に上陸します。

 エリオとキャロは、その場で総部隊長から改めて事件の詳細を聞いた後、第二大陸から出向して来た捜査官たちから「逃亡中の密入国者たち」に関する詳細な情報を受け取りました。
 その際に、『ジョスカーラ姉弟は「ダムグリース語(ダムグリース(なま)りのテルマース語)」しか話せないようだった』と聞いて、二人は念のために「全自動翻訳機の上位機種」を装備した上で、まずは本来の姿に戻ったフリードに乗って、上空から森林部の捜索を始めました。
【管理局の「自然保護隊」では、日常的にミッド語が「共通語」として用いられていますが、エリオとキャロは、もうスプールスでの生活が長いので、当然に「スプールス語(スプールス訛りのテルマース語)」も習得していました。ただ、相手がそれを正しく理解できるかどうかが不安だったのです。】

 そうして、翌5月の初頭に、エリオとキャロ(23歳)は、森林地帯の只中(ただなか)で、ようやく「ジョスカーラ姉弟の潜伏地点」を確認しました。
 しかし、いきなり飛竜の姿を見せても警戒されるだけなので、まずはその潜伏地点の「風上」に二人だけの小さなキャンプ地を築き、フリードを小さな姿に戻してから、必要以上に豪勢な夕食を作ります。その匂いに誘われて、腹を減らした姉弟が足音も無く近づいてくるまで、さほどの時間はかかりませんでした。
 二人は「姉弟の正体」に関しては何も知らない()()りをしながら、珍客を夕食の席へと誘いました。幸い、翻訳機なしでも言葉は充分に通じるようです。
 ほとんど「()()け」のような形になってしまいましたが、二人はこうして、この姉弟と平和的に接触を果たしたのでした。

 その後も、エリオとキャロは慌てずゆっくりと時間をかけて、この姉弟との間にまず「人間的な信頼関係」を築いていきました。
 何日も()ってから、ヴァラムディはようやく「身の上話」を切り出します。
 そして、エリオとキャロは、ドン・ヴァドラムザとの確執など、一連の情報を「確認」すると、辛抱(しんぼう)強く「彼等の側の言い分」をも聴いた上で、ヴァラムディとフェルガンにこのまま「スプールスへの移民」を申請するように勧めました。
『怨みに思う気持ちも解らなくはないが、この上さらに復讐を重ねて、それで君たちの将来が一体どうなると言うのか?』
 あくまでも穏やかな口調で、そう問いただしたのです。
 それでも、ジョスカーラ姉弟の態度は、(かたく)ななものでした。
『ドン・ヴァドラムザに報復したい。どうにかして、あのメイドたちの(かたき)を討ってあげたい』という気持ちが、どうしても(おさ)え切れなかったからです。
 さらには、(エリオとキャロには、まだ秘密にしていましたが)ヴァラムディとフェルガンには『南方州への進攻作戦の際には、必ずや()せ参じる』という、あの老当主との「個人的な」約束があったからです。

 エリオとキャロも小さい頃には随分と荒れていた時期があるので、この姉弟の気持ちも解らなくはありませんでした。
『人間は所詮、環境と教育の産物だ。報復を当然のことだと考える文化の中で育てば、誰でも当然に、この姉弟のようになるだろう』
 そう思うと、二人には、なかなか「上手な説得の言葉」が見つかりませんでした。

 しかし、翌6月には、彼等の許に「良い知らせ」と「悪い知らせ」が同時にもたらされました。
 まず、吉報は『ダムグリースの南方州で政変があり、そこで、ドン・ヴァドラムザとその一族は「かつての〈南の王〉の一族」に仕えていた家臣たちの反乱によって皆殺しにされた。また、それを受けて、〈中央政府〉も当面は「力ずくでの統合」を()(びか)えることにした』という情報です。
 一方、凶報は『東方州では、内通者を見つけて処分して以来、ずっと体調を悪くしていた老当主がついに病没した。また、それに(ともな)って、「この秋に予定されていた南方州への進攻作戦」も中止されることになった』という情報でした。
 ジョスカーラ姉弟にとっては、良くも悪しくも「人生の目標」が丸ごと失われてしまったような形です。

 数日後、自分たちが「密航」した例の貨物船の船長の証言から、それらの情報が(まぎ)れもない事実であることを確認すると、ヴァラムディとフェルガンは、すっかり「生きる気力」を()くしてしまいました。
 もう何をどうすれば良いのか解らない。もう何もする気が起きない。そんな困惑と虚脱感に襲われてしまったのです。

 そんなヴァラムディとフェルガンの様子を見て、エリオとキャロは『やはり、この姉弟は、もうダムグリースには帰さない方が良い。最終的にはどの世界で暮らすことになるにしても、今はまだ言葉の問題があるので、当面はここスプールスで保護するべきだろう』と判断しました。
 しかし、移民の「受け入れ条件」は世界ごとに異なっており、実のところ、ミッドチルダのように「ほとんど全員を無条件で」受け入れている世界ばかりではありません。
 また、新規移民の受け入れ条件に関して「特別の法律や制度」が無い世界では、管理局の『管理世界は基本的に、あからさまな「犯罪者」を移民として受け入れてはならない』という一般原則がそのままに適用されます。
 そして、もちろん、スプールスにそんな「特別の法律や制度」はありませんでした。
(と言うよりも、わざわざスプールスを選んで移民して来る「もの好き」など、歴史上、ほとんどいませんでした。)
 ですから、スプールスにも当然、その一般原則が適用されることになります。

 そこで問題となるのは、『ヴァラムディとフェルガンは過去に、ダムグリースで実際に人を殺している』という事実でした。
「東の王の島」で起きた一件は、まだしも「正当防衛」として処理することが可能ですが、故郷の島で母方の叔父とその妻を焼き殺した件は、単なる「報復」以外の何物でもありません。

 新暦88年6月末、エリオとキャロはやむなく、フェイトに相談して知恵を貸してもらうことにしました。二人が(時差を考え)頃合いを見計らってキャンプ地から通信してみると、幸いにも、フェイトは休暇中で、ミッドの自宅で昼食後に、なのはと一緒にくつろいでいるところでした。
 二人が相談すると、さすがは「ベテランの執務官」です。フェイトはすぐに「過去の判例」まで引用して、『管理外世界からの移民は、たとえ元の世界で「管理世界の基準では有罪となる行為」を働いていたとしても、それが「元の世界の法律において無罪」であるならば、その件に関して、管理世界で罪に問われることは無い』ということを、すらすらと二人に説明してくれました。
 つまり、あの報復が「ダムグリースの法律において無罪」である以上、その一件に関する限り、ジョスカーラ姉弟がスプールスで犯罪者として扱われる心配は無い、ということです。

 それならば、残る罪は「密入国と逃亡と森林破壊」だけですから、素直に出頭すれば、それほどキツい処分にはならないはずです。しかも、それは「敵対者に追われて仕方なくやったこと」なのですから、情状酌量の余地も充分にあります。判決は、「半年か、最大でも一年程度の、保護観察処分」といったところでしょう。
 エリオとキャロがそういった事柄を丁寧に説明すると、ヴァラムディとフェルガンも、ようやく二人の説得に応じて、まずはその大陸にある「自然保護隊の本部」へと出頭しました。駐在法務官の(かり)判決も、全く予想どおりのものです。
 それから、四人は海を渡って首都ペトカムロに赴き、7月には「スプールス中央政府」に対して正式にヴァラムディとフェルガンの移民を申請しました。
 その受理に際しては、中央法院の側から改めて正式な判決が(くだ)ります。それは、『一年間の保護観察処分。ただし、所定の罰金を支払うならば期間を半年に短縮する』というものでした。
 どうやら、当局も決して財政に余裕がある訳ではないらしく、ほとんど「ぼったくり」のような金額設定でしたが、エリオは(実は、大金持ちなので)あっさりとそれを支払い、キャロとともに保護責任者となって、ヴァラムディとフェルガンを引き取りました。
(法的後見人の役は、成り行きでフェイトが二人分まとめて引き受けます。)

 移民申請が無事に受理されると、エリオとキャロは、この二人を連れて一旦は第五大陸に戻りました。
 一方、ドン・ヴァドラムザの手下たちは、当然ながら先月のうちに本国へ強制送還となっていました。主人(あるじ)がすでに(たお)されている以上、今さらダムグリースの南方州に帰ったところで、彼等にはもう「居場所」など無いのでしょうが、それは管理局の関与するところではありません。
 こうして、ジョスカーラ姉弟は、取りあえず「臨時の」職員として形式的に採用され、自然保護隊のキャンプ地で雑用などをこなしながら、五年後の再移民を視野に入れて「ミッド語」を習得し始めたのでした。
(二人は「宿なし」の逃亡生活が長かったため、まともな家屋(かおく)の無いキャンプ地での生活にも、特に不満は(おぼ)えませんでした。)

【なお、「キャラ設定8」でも述べたとおり、テルマース語には二重子音が豊富に存在する一方、母音は短母音の「ア、イ、ウ、エ、オ」と長母音の「アー、イー、ウー」の、合わせて8音しかありません。また、日本語と同様に、L音とR音の区別も無いので、ヴァラムディとフェルガンも、発音の上では、もっぱら「二重母音の発音」や「LとRの区別」といった(あた)りで苦労をしたようです。】

 さて、ヴァラムディは身長が180センチを超す大柄な女性で、190センチを軽く超えるエリオの隣に並んでも、あまり違和感がありませんでした。
 一方、フェルガンは160センチほどしかない小柄な男性でしたが、キャロも150センチほどしかないので、並んで立つと、意外なほど「お似合い」です。
 エリオとキャロは、この二人からミッド語の練習がてら「今後の人生」についていろいろと相談を受けているうちに、互いにとても親密な間柄になって行きました。

 そして、翌89年の1月に、ジョスカーラ姉弟の保護観察処分が終了すると、やがて、ヴァラムディとフェルガンは人生の重大な決断を(くだ)し、3月の末には、ついにそれぞれ花束を(かか)えて、エリオとキャロにプロポーズしました。
 その表情と口調と態度から、二人の「本気」がひしひしと伝わって来ます。
 それぞれに求婚者とよく話し合ってから、エリオもキャロもそれを受け入れ、4月の初めには、エリオはヴァラムディと、キャロはフェルガンと、それぞれに婚約しました。
 なお、「ダムグリースの貴族階級の慣習」に従って、正式な結婚は、婚約の成立から丸一年後のこととなります。

 しかし、ヴァラムディはやがて、エリオに『できれば結婚後も、弟夫婦と同居を続けたい』などと言い出しました。『親が生きていた頃のように「大きな屋敷」で、家族全員で仲良く暮らす』というのが、彼女の(両親を殺されて以来の)長年の夢だったのです。
 キャロもまた、フェルガンから同様の要望を聞いていましたが……少なくとも、この大陸では、人間の都合でそんな大きな家屋を建てることは「法律で」許可されていません。
 この頃から、エリオは本格的に「別の世界への移住」を考え始めたのでした。


 また、それはそれとして、同89年の7月中旬には、カルナージでルーテシア(24歳)とファビア(23歳)が揃って女児を出産しました。
 ジークリンデの秘密出産からちょうど2年後の出来事でしたが、ルーテシアとファビアも、ジークリンデと同様に「子供の、もう一方の親」については、誰にも何も語らず、出産したこと自体もごく限られた人たちにしか伝えませんでした。
 エリオとキャロの許にも、『まだ当分は「内緒の話」ということにしておいてほしいんだけど』という「前置き」つきで、二人から出産報告のメールが送られて来ます。

 そこで、エリオとキャロは後日、二人でカルナージへ飛びました。ルーテシアから事前に連絡を受けて、バムスタールが車で次元港まで迎えに来てくれていたので、彼の車で送ってもらうことにします。
 そして、二人は「メガーヌ(タウン)」の発展ぶりを横目に見ながら、(まち)からは離れた「秘密の別荘」へと赴いて、その東棟に住むルーテシアとファビアに「お祝いの品」などを手渡しました。
 そこで、エリオとキャロはルーテシアの知恵を借りようと、彼女にいろいろ相談したのですが、結局のところ、『そういう事情(こと)なら、あなたたちは結婚してから、来春には四人でカルナージに引っ越して来るのがベストだろう』という話になります。
「あなたたちが四人で住める家は、こちらで春までに用意しておくから」
 ルーテシアにそう言ってもらえて、エリオとキャロはようやく安心しました。
(ちなみに、メガーヌ(タウン)の公用語は、首都ベルーラと同様、ミッド語です。)

 なお、この89年の5月から8月にかけて、その別荘の西棟には、ヴィクトーリアとエドガーとコニィの三人が、人知れず「長期滞在」していました。
【当初、ヴィクトーリアは『自分たちは一昨年の3月にも、メガーヌ(タウン)に来ていたのに、どうして今の今まで「ここにいる」と知らせてくれなかったのか?』と、だいぶ腹を立てた口調でジークリンデに詰め寄ったりもしたのですが、ジークリンデから「エレミアの一族の秘密」について聞かされると、不承不承ではありますが、いろいろと納得したのでした。】

 ルーテシアとファビアも、彼等に(主に、コニィに)出産を手伝ってもらっていたようですが、ジークリンデも彼等に「2歳になる娘ヴァルトラウテ」の世話を手伝ってもらえて、大助かりだったようです。
 エリオとキャロは、そうした西棟の五人とも会っていろいろと話をしてから、スプールスに帰りました。
【なお、9月の末には、はやてが大量の出産祝いを持ち込み、ルーテシアとファビアとジークリンデにも改めてブラウロニアのことを紹介したりしました。】

 さて、その頃には、スプールスの自然保護隊の人手不足も、もう完全に解消されていました。
 その上、エリオとキャロ(24歳)が小児(こども)だった頃にお世話になった人たちは、みなすでに別の世界の自然保護隊に異動しており、この第五大陸の部隊には、もう「十年来の古い知り合い」など一人も残ってはいません。
 二人は心置きなく、部隊長に「カルナージ離島警邏隊への転属願」を提出しました。すでに、上の(ほう)(とお)して(具体的には「八神はやて提督」を通して)話はついています。
(ヴァラムディとフェルガンも、管理局から「臨時の」採用を()かれ、改めて「嘱託魔導師」という身分になりました。)

 こうして、新暦90年の4月、ちょうどカナタとツバサが一貫校に入学した頃に、エリオとキャロ(25歳)は、自然保護隊の同僚たちに別離(わかれ)を告げて、ヴァラムディやフェルガンとともに、まずは第二大陸にある首都ペトカムロに向かいました。そこには、今やスプールスでも数少ない存在となってしまった「テルマース式の教会」があるからです。
 その教会で、エリオは三歳(みっつ)年下のヴァラムディ・ジョスカーラ(22歳)と、キャロは七歳(ななつ)年下のフェルガン・ジョスカーラ(18歳)と、合同で結婚式を()げました。
しかし、ヴァラムディとフェルガンの「人見知り」がまだあまり(なお)ってはいなかったため、参列者も特に無く、披露宴も特に行なわず、六課メンバーなどに対しても『ただ、(あと)からメールで報告しただけ』という形になってしまいます。
 また、エリオもキャロも自分の「本来の苗字」には特に思い入れなど無かったので、戸籍の上では、この二人の方が配偶者の戸籍に入り、「エリオ・モンディアル・ジョスカーラ」と「キャロ・ル・ルシエ・ジョスカーラ」になりました。
(二人は、これ以降、もっぱら「新しい方の苗字」だけを名乗るようになります。)

 ジョスカーラ姉弟がスプールスに「正式に」移民してからは、まだ1年と10か月しか経っていませんでしたが、二人とも、この結婚によって自動的に市民権を獲得し、「再移民制限」の問題も解消されました。
 そこで、四人は早速、カルナージに移民し、「本籍地」もそちらへ移すことにします。
 四人は次元航行船に乗って、スプールスを(あと)にし、ドナリムとミッドで船を乗り換えて、まずは〈本局〉へ(おもむ)きました。
 カルナージにはまだ「政治的に独立した政府」が存在している訳ではなく、行政的には「本局に所属する世界」という扱いになっているので、カルナージの「移民管理局」そのものは、当然、首都ベルーラにあるのですが、同じ「移民や本籍地変更の手続き」は〈本局〉の当該部署からでも可能なのです。

 ヴァラムディとフェルガンは〈本局〉内部の光景に、『本当に、これが全部、人工物なのか』と驚きの色を隠せずにいましたが、あまり「田舎者、丸出し」という態度を取る訳にもいきません。元々、「人の多さ」に不慣れなせいもあって、〈本局〉の中ではヴァラムディとフェルガンは終始、無口になってしまいました。

 そして、エリオとキャロは、ヴァラムディやフェルガンとともに、当該部署で自分たち四人の「移民および本籍地変更の手続き」を無事に終えると、〈本局〉から「チャーター便」を使って、直接にアルピーノ島に上陸しました。
 実のところ、『一旦、ベルーラに上陸してから、惑星カルナージの上を移動して、はるばるアルピーノ島まで行く』よりも、こうした方が、はるかに「移動の手間」がかからずに済むのです。
【なお、アルピーノ島には、今はまだ「ホテル・アルピーノ」以外には、まともな宿泊施設が存在していない状況なので、一般の観光客になど大勢(おおぜい)()られても、かえって困ります。
 そのため、今でもアルピーノ島に直通の「定期便」は、ベルーラからも、〈本局〉からも、他のどの世界からも、「わざと」就航させていないのです。】

 例によって、またバムスタールが車で迎えに来てくれていました。「中央通り」を一直線に北上して、まずはホテル・アルピーノに向かいます。
 この時点では、(タウン)の人口もまだ4(けた)でしたが、マラガン村(漁村)やドルニス村(農村)からも、結構な数の人々が自分たちの産物を売りに来ており、それなりに活気のある状況となっていました。
 ヴァラムディとフェルガンは、〈本局〉では「あまりの人の多さ」に何やら(ちぢ)こまってしまっていましたが、これぐらいの人口規模だと、雰囲気も「生まれ故郷の街」にやや近いものがあり、気分的にはかなり落ち着くようです。
【なお、翌91年からは、ようやくアルピーノ島の側でも「移民の手続き」ができるようになりました。当の移民たちにとっては、手続きが随分と簡単になった形です。
 その効果もあったのでしょう。次の年(新暦92年)には、島の人口もついに「一万」の大台に乗ったのでした。】

 エリオとキャロは、ヴァラムディとフェルガンにまずメガーヌとガリューたちを紹介し、改めてバムスタールのことも紹介した上で、一服してから、また車で東の森の奥へと向かいました。
 森と泉に囲まれた絶好の土地の、ルーテシアの「秘密の別荘」のお隣には、すでに約束どおり、なかなか豪勢な「お屋敷」が建てられています。
 四人はそこで、ルーテシアとファビアの出迎えを受けました。
 お互いに紹介を終えると、ルーテシアは「ジョスカーラ家の四人」に『こちらは、あなたたちのために建てた家なのだから、あなたたちが自由に使って構わない』と言って、その「お屋敷」の鍵をジョスカーラ姉弟に手渡します。
 ヴァラムディとフェルガンは、両親を惨殺されて以来の「長年の夢」が(かな)ったため、エリオとキャロが予想した以上に大喜びで、ルーテシアに対しても「まるで臣下のように」その場にひざまずいて最大級の感謝を(ささ)げました。

【さて、エリオは86年の7月には、すでに「モンディアル家の遺産」を相続していたので、その気になれば、その豪勢な屋敷を即金で買い取ることも簡単にできたのですが……ルーテシアにしてみれば、その「土地」の所有権までは動かすことができないので、「屋敷」の所有権だけをエリオに移しても、最悪の想定として、彼女が早死にした場合に、エリオと管理局の間で「権利関係」がかえって面倒なコトになってしまいます。
 そこで、ルーテシアはエリオを説得し、『その土地と屋敷を「ただ同然」の額で四人に貸す』という形式にしました。
 もちろん、それは、『エリオの財産は、何かの時のために温存しておいた方が良い』という判断でもあった訳ですが……その際に、詳しい説明など一切しなかったため、ヴァラムディはその後も長らく、自分の夫が実は「大金持ち」であることに全く気がつかずにいたのでした。】

 結局のところ、ヴァラムディとフェルガンは、ルーテシアのことを「事実上の、この島の王」として認識してしまいました。
(そもそも、ダムグリースの常識では、「島の名前」をそのまま苗字として使って良いのは、領主の一族だけであり、なおかつ、アルピーノ島の面積は、実際にダムグリースの「東の王の島」よりも少し広いぐらいなのですから、二人がそのように認識してしまったのも無理はありません。)
 二人は同様に、メガーヌとファビアのことは「王の家族」として、バムスタールとガリューたちのことは「その臣下」として、また、ジークリンデやエリオとキャロのことは「その食客」として認識しました。
(自分たち自身も、やはり「食客」という認識です。)
 ヴァラムディとフェルガンのルーテシアに対する気持ちは「感謝」を通り越して、もうほとんど「忠誠心」のような代物でしたが、この二人はほんの二年半前まで「かなり中世的な社会」で生きて来たのですから、それもまた仕方が無いことだったのかも知れません。

 この転居に伴い、エリオとキャロの所属も「本局直轄・カルナージ地上本部」の「離島警邏隊・無人地帯警邏分隊」に変更となりました。
 無人地帯警邏とは、平たく言えば、『週に一度、二人でフリードに乗って、海岸沿いにぐるりとアルピーノ島を一周し、不審者が上陸などしていないかどうかを確認する』というだけの「簡単なお仕事」です。(笑)

【ただし、アルピーノ島の全周「およそ600キロメートル」を半日で飛ぶと、フリード自身は全く平気なのですが、背中に乗っている人間の方が『身が()たない』ので、実際には、『途中の何か所かに簡単なキャンプ地を設営して、自然保護隊のような仕事もこなしながら三日ほどかけて島を巡る』という勤務形態を取ります。】

 こうして、「二組のジョスカーラ夫妻」はとても幸せな新婚生活を送り始めました。
【なお、フェルガン(18歳)は、意外にも「いささか特殊な性癖」の持ち主だったために、キャロ(25歳)はその新婚生活において、実にしばしば「少しばかり奇妙なプレイ」に付き合わされてしまうことになるのですが……エロ描写は、この作品の主旨ではないので、省略します!(笑)】


 そして、それから丸一年後の91年4月、ルーテシア(26歳)とファビア(25歳)は少し長めの産休を終えると、新たに管理局員となったジークリンデ(28歳)とともに「秘密の職務」に()きました。
 同年の3月に「准将」となった八神提督(35歳)の要請で、ルーテシアは正式に「独立捜査官」の役職に就き、ファビアとジークリンデも正式にその補佐官となったのです。

【なお、この場合の「独立」は、『管理局内の「通常の指揮系統」には属していない』という意味での「独立」であり、「独立捜査官」という役職は、大半の場合、『特定の将軍の直属の部下』となります。
「背景設定3」でも述べたとおり、管理局には伝統的に「将軍特権」というものがあり、「将軍」の地位に()きさえすれば、ほぼ自動的に数百人規模の「直属の部下」を持つことが法的に可能となるのです。】

 ジークリンデは、これが管理局員として初めての仕事になりますが、ルーテシアとファビアは、『離島警邏隊から「八神准将直属・特別遊撃隊」に転属した』という形になります。
 これに伴い、今まで5年間、離島警邏隊で副隊長を務めて来たザムガ・ダルド三等陸尉(46歳)が正式に同部隊の部隊長となりました。
【とは言っても、今までも、ルーテシアは「アルピーノ島での仕事」を彼に丸投げにすることが多かったので、「実態」としては、さしたる変化はありません。
 ただ、『ザムガが一昨年、ようやく一般キャリア試験に合格して三尉に昇進していたのを幸い、彼に「名実ともに」部隊長になってもらった』というだけのことです。】

 それと同時に、ルーテシアには八神提督から秘密裡に、本来は「提督直属の特務艦」である小型艦〈グラーネ〉を、独自の判断で自由に運用する権限が与えられました。
 艦長のブラウロニア・エレクテイオン三佐を始めとする少数精鋭の乗組員はみな、提督の忠実な部下たちです。提督が准将に昇進した時点で、彼等は「准将直属・特務艦部隊」という位置づけになっていましたが、彼等はルーテシアを八神准将の「懐刀(ふところがたな)」と認め、(管理局の階級としては、当然にブラウロニアの方が上だったのですが)必要に応じて「ルーテシア二尉」の指示にも忠実に従うことにしました。

 また、同91年の4月にヴァラムディ(23歳)が出産した後、キャロ(26歳)は、復職したルーテシアやファビアと入れ替わるようにして産休に入り、その半年後(10月)には「年下ながらも、義理の姉(夫の実の姉)」であるヴァラムディの後を追うようにして出産しました。
 そして、それからまた半年後(翌92年の4月)には、キャロは、息子と家のことを夫と義理の姉に任せて復職しました。
(この復職に先立って、92年の3月には、また久々に「合同訓練」が(もよお)されるのですが、その様子はまた「第二部」で描写します。)
【なお、91年生まれの「ファルノ・モンディアル・ジョスカーラ」と「トニオ・ル・ルシエ・ジョスカーラ」はその後、実の兄弟のように育ち、さらには「お隣の豪邸の三人娘」である「四歳(よっつ)年上のヴァルトラウテ・エレミア」や「二歳(ふたつ)年上のクレオ・ディガルヴィ・アルピーノ、および、レグナ・クロゼルグ・アルピーノ」とも、まるで姉弟のように仲よく育ってゆくことになります。】

 そして、同92年の4月には、首都ベルーラの郊外に、これまたルーテシアが設計した「大規模演習場」が完成し、ミッドの陸士隊も「もはやミッドの地上ではやりづらくなった大規模な合同訓練」のために、入れ替わり立ち替わり、慰安旅行も兼ねてこの地を訪れるようになりました。

【結果として、ホテル・アルピーノに隣接する訓練場の方は、もうほとんど「特別な人たち」専用の場所となってしまいました。アルピーノ島は、首都クラナガンとは7時間もの時差がある土地なので、正直なところ、普通のミッド人にとっては、なかなか気軽には利用することのできない土地だったのです。】

 なお、エリオとキャロの通常の任務は、先に述べたとおりなのですが、時には八神提督からの要請に基づいて、二人は首都ベルーラに赴き、ミッド陸士隊の「合同訓練」に現地局員として「オブザーバー参加」をしたり、また必要に応じて、二人で(秘密裡に出向して)ルーテシアたち三人に協力したりもしています。
(その時は、もうほとんど『五人そろって、チーム・カルナージ!』といった感じです。)


 そして、93年の5月になると、この五人はフリードに乗ってアルピーノ島の北東部の無人地帯へと(おもむ)き、ルーテシアはそこで密かに白天王を召喚して、自分の仲間(四人と一頭)を真竜に紹介したりもしました。
 また、同年の夏から秋にかけて、チーム・カルナージは〈ヌミコス事件〉にも少しばかり関与したりもしました。

 さらに、翌94年の11月になると、またホテル・アルピーノの方で「合同訓練」があり、カナタとツバサも初めてこれに参加しました。
【先にも述べたとおり、この件に関しては、また「第一部 序章」で述べます。】

 そして、新暦95年の3月の下旬、エリオとキャロは、また久しぶりにルーテシアから協力を求められ、特務艦〈グラーネ〉に乗り込むこととなったのでした。
【以下、ルーテシアたちの物語は「第二部」へと続きます。】



 
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