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イベリス

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第百三十一話 吹っ切れてその三

「また新しい恋愛を見付けてもいいしな」
「それはちょっと」
 咲はどうにもという顔で答えた。
「考えられないです」
「今はそうだよな」
「はい、当分の間は」
「恋愛はいいか」
「そう考えています」
「ならそれでいいさ、嬢ちゃんの思う様にな」
 その様にというのだ。
「やればいいさ」
「そうですか」
「青春をな」
 マスターは微笑んでこの言葉を出した。
「満喫すればいいさ」
「青春ですか」
「ああ、青春ってのは恋愛だけじゃなくてな」
「色々ありますね」
「それこそ秋みたいにな」
 今の季節の様にというのだ。
「色々あるからな」
「その人それぞれの青春がありますね」
「ああ、遊んでも勉強しても青春で」
 それでというのだ。
「部活でもアルバイトでもな」
「青春ですね」
「趣味でもな、ただな」
「ただ?」
「充実した青春を送らないとな」
「充実ですか」
「暗い辛い青春なんてな」  
 それはというのだ。
「いいものじゃなだろ」
「そうですね」
 咲もそれはないと答えた。
「やっぱり充実していて」
「明るく楽しくてな」
 マスターはさらに話した。
「後で振り返ってよかったってな」
「思えるものでないとですね」
「さもないと辛いだろ」
 マスターは苦い顔で話した。
「苦労ばかりしてきた楽しい思いなんてないとかな」
「そうした青春はですね」
「出来るだけな」
「過ごさないことですね」
「嬢ちゃんもな」
「そうした青春じゃないです」
 咲はきっぱりと否定した。
「私も」
「そうなんだな」
「はい、全く」
「だったらいいさ、このままな」
「充実して楽しいですね」
「振り返ってよかったって思える様なな」
 そうしたというのだ。
「いい青春を送ってくれよ」
「そうします」
 咲も頷いて応えた。
「絶対に」
「ああ、それでな」
「それで?」
「今日は紅茶飲んでるな」 
 見ればミルクティーを飲んでいる。
「それも白砂糖を入れてな」
「うんと甘くしました」
「それを飲んでるな」
「そんな気分で」
「いいだろ、紅茶も」
 この喫茶店ではコーヒーを飲むことが多い咲に笑って話した。 
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