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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【プロローグ】新暦65年から94年までの出来事。
 【第2章】StrikerSの補完、および、後日譚。
  【第1節】JS事件と機動六課にまつわる裏話。(前編)

 
前書き

 まず、先に「第1章 第6節」の「新暦68年4月」の項目で予告したとおり、(以下は、あくまでも極めて個人的な意見ですが)「StrikerSの主な問題点」の残り二つについて述べます。

 4.『ミッドチルダが具体的にどういう世界なのか』という基本的なトコロを全部スッ飛ばして話を進めてしまったため、視聴者にとっては「物語の背景を理解するために必要な情報」が不足しており、結果として「全体の状況」を俯瞰(ふかん)することが非常に困難だったこと。
 さらには、本来ならば「事件の黒幕」として(えが)かれるべき「三脳髄」が、いきなり登場したかと思ったら、また唐突にドゥーエによって処分されてしまったため、『彼等が一体「何を意図して」スカリエッティたちを使役していたのか?』という「そもそものところ」がよく解らないままに物語が終わってしまったこと。

 しかも、主人公たちは全員、作品の中では、こうした黒幕(三脳髄)の「存在」にすら気がついてはいません。
(アニメの方でも何かしら「最高評議会」に関する言及はあったような気もするのですが……取りあえず、この作品では『主人公たちはみな「最高評議会」のことを、今ではもう現実に機能はしていない「歴史上の存在」と認識していた』という設定で行きます。)

 そんな訳で、(三脳髄の具体的な計画に関しては、また「第二部」や「アネクドーツ」の方でも描写するとして)まず、この章では〈三元老〉の動向を始めとする「本局の側の状況」を加筆することで物語の補完としました。
(また、〈アルカンシェル〉に関しては、物語の都合上、独自の設定を付加しました。こちらも、よろしく御了承ください。)

【字数制限に微妙に引っかかってしまったので、後半は本文の枠内に続きます。(汗)】

 

 

(以下の十数行は、前書きの続きです。)

5.また、(本当に個人的な意見で恐縮ですが)無印とA’sを観て「熱烈なファン」となった者にとって、「リリカルなのはシリーズ」の「本質」とは、あくまでも「理不尽な運命によって不幸な境遇に陥っている少女が、救済される物語」なのだと思います。
 さらに言えば、『その「理不尽な運命」を体現したキャラクターが、最後に物語の舞台から退場することによって、その「救済」が悲劇的に演出される』というスタイルの物語です。
 だからこそ、プレシアは逮捕されずに、虚数空間へと消えて行ったのであり、アインスも(彼女もまた、本質的には「被害者」であったにもかかわらず)最後はああして消えて行ったのです。
 そうした観点から見ると、StrikerSは、残念ながら「やや中途半端な内容」になってしまったと言わざるを得ません。
 まず、「救済すべき対象」の数が多すぎます。そして、「退場すべきキャラクター」が正しく退場していません。
 それこそが、StrikerSという作品の「最大の問題点」だったのではないでしょうか。

 要するに、私の個人的な感想としては、StrikerSはまだ「きちんと完結」していないのです。
(まあ、『だからこそ、続編の着想を得ることができた』とも言えるのですが。)
 そんな訳で、あらかじめ明言しておきますが、「第二部」は、内容的には「StrikerSの続編」となります。乞う、ご期待!(←笑)】

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 さて、「ジェイル・スカリエッティ」は、そもそも「人間」ではありません。
「管理局の闇」そのものである〈三脳髄〉は、「本物の天才」であった稀有(けう)の人材を失った後、その人物に代わるほどの「優秀な手駒」が全く見つからなかったため、ついには自分たちの手で「人工の天才」を造り出すことにしたのです。
 そうして、新暦42年になってようやく造り出された人造生命体〈アンリミテッド・デザイア〉こそが、ジェイル・スカリエッティの正体でした。
 彼は〈三脳髄〉の思惑どおりに天才的な技術者に育ち、〈三脳髄〉も彼に期待して、記憶転写クローンや戦闘機人の作製、さらには、〈ゆりかご〉の諸性能の解明などといった困難な課題を次々と彼に課していきます。
 ただし、記憶転写クローンの作製に関しては、かなり早い段階で予算が打ち切られ、別の計画に専念するように指示を受けたために、スカリエッティは〈プロジェクトF〉の完成をプレシア・テスタロッサたち三人の手に(ゆだ)ねることにしました。
 とは言え、もちろん、スカリエッティがプレシアたちのすることに『全く手を出さなかった』という訳ではなかったのですが。(←重要)

〈三脳髄〉は、前々から「控えの人材」として何人かの優秀な技術者たちに目を付けていました。プレシアは元々、そのうちの一人だったのです。
 スカリエッティも、実は〈三脳髄〉からの情報提供によって初めてプレシアたちの存在を知り、新暦53年になって『手を貸してほしい』と呼びかけたのでした。

 また、スカリエッティは元々、権力闘争のような世俗的な問題には全く関心を持っていなかったのですが、それでも、生まれて20年もすると、さすがに疑問を感じるようになりました。
『自分は何故、自分よりも劣っている者たちに従わなければならないのだろうか』と。
 そこで、スカリエッティは「お気に入り」のドゥーエが聖王教会への潜入任務から無事に戻って来ると、今度は、彼女を管理局のミッド地上本部に潜入させました。……というのは、表向きの話(三脳髄にも普通に報告する話)で、実は、そちらの任務は「ただの片手間」でした。
 スカリエッティがドゥーエに与えた「本当の任務」は、〈三脳髄〉の所在を突き止め、そのメンテナンス・スタッフに成り代わり、暗殺の機会を(うかが)うことだったのです。
〈三脳髄〉の側から見れば、それはまさに『飼い犬に手を嚙まれる』という状況だったのですが、スカリエッティにしてみれば、それは反逆でも何でもなく、ただ単に『より優秀な者が、より上に立つべきだ』という「当然の真理」を実行に移しただけのことでした。


 また、カリム・グラシアは、わずか4歳の時に新暦51年の「一連のテロ事件」で祖父母と父母と兄と姉と弟を一度に失い、それからは、父の従兄(いとこ)に当たる騎士バルベリオ(当時、36歳)に引き取られて、そのまま基本的にはベルカ自治領内の「騎士団本部直営地」の中だけで、大切に育てられました。
 選んで悪く言うならば、カリムは「俗世からは隔絶された環境で純粋培養された、世間知らずのお嬢様」なのです。
彼女にとっては「同年代で親しい間柄の人物」も、長らくシャッハ・ヌエラぐらいしかいませんでした。
【なお、ヌエラ家は、古代ベルカでは「某王国の公爵家」にまで(さかのぼ)ることができるという名門であり、現代ミッドのベルカ自治領でも『代々、聖王教会の高名な司祭や騎士を輩出(はいしゅつ)して来た』という相当な名家です。
 しかし、当時のヌエラ本家の当主は「その方面の才能を持った子供」にはなかなか恵まれませんでした。新暦52年になって、ようやく末娘のシャッハ(5歳)が、その兄たちや姉たちよりも格段に高い魔力資質の持ち主だと解ると、高名な騎士バルベリオが「5歳になる娘の友人役」を探していると知って、彼は迷わず自分の末娘を騎士バルベリオに差し出したのです。】

 養父バルベリオが、その魔力資質を見込んで「孤児ヴェロッサ」を引き取って来たのは、カリムが10歳になった夏のことでした。それ以来、シャッハは、カリムの友人、ヴェロッサの教育係、さらには二人の護衛という「一人三役」を黙々とこなしてゆくことになります。
【カリム・グラシアの年齢については、公式には特に設定が無いようですが、義理の弟であるヴェロッサがクロノの旧友であるところから考えて、この作品では、『クロノとヴェロッサは同い年で、カリムとシャッハは彼等よりも四歳(よっつ)年上である』という設定にしてみました。】

 そして、新暦63年。カリムが16歳の年に、彼女の運命は一気に急転しました。
 まず、春には、養父バルベリオが前任者の急逝により、他の有力騎士たちからの推挙を受けて、48歳の若さで「騎士団総長」に就任します。
 そして、カリム自身も、夏には唐突に古代ベルカ式魔法の希少技能(レアスキル)「プロフェーティン・シュリフテン」を発現させました。
 さらには、その後を追うかのように、ヴェロッサもわずか12歳にして希少技能(レアスキル)を発現させます。
 バルベリオは、子供たちの希少技能(レアスキル)を一般には秘密にするとともに、その秋には急ぎ、シスター・シャッハを正式に「修道騎士」に叙任(じょにん)し、彼女には今まで以上に二人の護衛を頼むことになりました。

 なお、「プロフェーティン・シュリフテン」は、月の魔力(ちから)を利用した特殊な魔法です。
【より正確に言うと、利用するのは「月から逆流して来る魔力素」なのですが、その件に関しては、詳しくは「背景設定5」を御参照ください。】

 惑星ベルカには月が一個(ひとつ)しかありませんでしたが、その代わり、その月の魔力(ちから)は相当に強いものでした。そのため、こうした〈月の魔法〉も「古代の」ベルカ世界では満月の夜に、ほぼ毎月のように使うことができたのです。
 しかし、惑星ミッドチルダには月が二個(ふたつ)あり、しかも、どちらも「古代の」ベルカの月ほど大量の魔力素は保有していません。そのため、ミッドでは、この種類の魔法は「二つの月の魔力(ちから)が上手く重なった時」にしか使えないのです。
(具体的には、「おおよそ年に一回」といったところでしょうか。)

 当初は、カリム自身もこの希少技能(レアスキル)に一方的に振り回されていたのですが、新暦66年には、ようやくそれを意識的に使えるようになり、その技能によって、その秋には19歳で正式に「騎士」に叙任されました。
 また、カリムは翌67年の9月に(両脚が完治したばかりの)はやてと初めて会って話をしましたが、その席で、義弟ヴェロッサからは「親しい友人」として名前をよく聞いていた人物が、同時に、はやてにとっても「頼りになる兄貴分」であることを知ると、自分もその人物「クロノ・ハラオウン」に会ってみたくなりました。
 彼もまた、51年の「一連のテロ事件」の被害者であると知ると、なおさら親近感が()きます。
 そういった経緯で、カリムは後に(ヴェロッサやはやてを通じて)クロノに『いつでも構わないから、訪ねて来てほしい』と伝えました。
 その結果、その半年後(翌68年の3月)に、カリム(21歳)はクロノ(17歳)の来訪を受けていろいろと話し込み、すっかり意気投合したのでした。


 さて、クロノには元々、68年の3月にはミッド地上と〈本局〉とをそれぞれに訪れるべき理由がありました。
 ミッド地上を訪れるのは、大叔母マリッサ(リゼルの母親)の「28回忌・祀り上げ」に出席するためであり、〈本局〉を訪れるのは、新たに「艦長・三等海佐」の辞令を受け取るためです。
 しかしながら、両者の日程には何日もの開きがありました。仕事の方は、すでに「溜まった有給休暇」をまとめて消化するための「年度末の、長期の調整休暇」に入っているので、その数日の間は「するべきこと」が特にありません。
 そんな日程の都合もあって、クロノはカリムからの「お誘い」を受け、ベルカ自治領の聖王教会本部を(たず)ねたのでした。
 クロノにとっては、『アースラが艦長(前任者)の退任を機に〈本局〉のドックで改修を受けている間に、祀り上げの席で「特別休暇を取って、南方の辺境領域から一時的に戻って来たニドルス提督」や「昨年の6月に結婚して、今年の10月には出産予定であるリゼル艦長」や「地球在住の母リンディ」たちと久しぶりに会って話をしてから、後日、聖王教会を訪れてカリムともあれこれ話し合い、その後は〈本局〉に戻って辞令を受け取り、そのまま「改修を終えたアースラ」に新任の艦長として乗り込み、まずは「お(さだ)まりの」巡回任務に就いた』という流れになります。

 また、同68年の翌4月に、はやてが特別捜査官として、管理外世界に流出してしまった「危険なロストロギア」を(ひそ)かに回収するため、〈外75パルゼルマ〉の王立魔法学院・女子中等科への潜入任務に就いた際には、〈アースラ〉は潜入部隊(はやて、なのは、フェイト)の母艦として、惑星パルゼルマの周回軌道上に数日間、ステルスモードで待機し、はやてたち三人が無事にロストロギアを回収して帰艦すると、そのまま彼女たちをそのロストロギアとともに〈本局〉へと移送しました。
【そこで、はやてたち三人が、相手の正体にも気づかぬままに〈三元老〉と「お茶会」をして来たことや、翌69年の10月に、ニドルス提督らが殉職してしまったことは、「第1章 第6節」にも書いたとおりです。】


 一方、なのはやフェイトにとっても、70年代に入ってからは、幾つもの「新たな出逢い」がありました。結果としては、そうして出逢った人々の多くが〈機動六課〉に結集してゆくことになります。
 まず、新暦71年3月、〈第162無人世界〉における「レリック回収任務」の際に、なのはたちは初めてグリフィス・ロウランやシャリオ・フィニーノ(通称、シャーリー)と出逢いました。
 続けて、その直後に、なのはたちはミッド地上における「臨海第八空港の火災事件」で、ギンガやスバルとも出逢いました。
 さらに、フェイトは70年の6月にはエリオ(5歳相当)を、72年の2月にはキャロ(7歳)を、それぞれに保護しています。
 そして、エリオもキャロも、保護されてからほんの二年たらずで(取りあえず、日常の会話に不自由しない程度には)ミッドチルダ標準語を習得したのでした。

【さて、StrikerSのコミックス第1巻には、『新暦72年の春、スバルとティアナが陸士訓練校に入学した頃に、エリオがその訓練校を見学しに来ていた』という描写があるのですが、この作品では『エリオはその時点で、もう普通にミッド語を喋っていた』という設定で行きます。
 なお、同じ場面で、学長のファーン・コラード三佐は、フェイトに対して「7年前のあなたたち(以下、略)」と語っていますが、新暦65年の段階では、なのはもフェイトもまだミッドに来てはいなかったはずなので、この作品では『なのはとフェイトが実際に訓練校に通っていたのは、新暦66年の春から夏にかけての三か月だった。(つまり、コミックスの「7年前」は「6年前」の誤植である。)』という設定で行きます。】

 また、新暦72年の3月に、なのはたち三人はいよいよ地球の中学を卒業してミッドに転居して来た訳ですが、それと同じ頃に、クロノは早くも「提督」の地位に就き、引き続き〈アースラ〉を御座艦(ござぶね)としました。
 そして、同年6月、カリムの「プロフェーティン・シュリフテン」で、初めて「管理局システムの崩壊」を暗示しているかのような不吉な詩文が現れます。
 この時点では、その詩文にもまだ幾つかの重要な単語が欠落しており、解釈以前の問題として、詩文の意味それ自体がまだ不明瞭だったのですが、それでも、最悪の事態に対しては、可能な限り備えておくに越したことは無いでしょう。
 とは言うものの、カラバス連合との「三年戦争」が終結して以来、「基本的には平和な時代」がすでに半世紀も続いていたため、今の管理局では、出来の悪い行政機関のような「(たて)割り」が相当に進行してしまっていました。
 しかし、どう考えても、「そうした『縄張り意識や指揮系統』という垣根を越えて(あえて言うならば、執務官のように)自由に動ける実動部隊」が無ければ、「管理局システム全体の危機」には正しく対処することなどできそうにありません。
 そこで、クロノは、この頃から局内で少しずつ根回しを進めていったのでした。


 そして、翌73年には、やはり昨年と同様の詩文が「より明瞭な形」で現れました。
これによって、カリムたちは、一昨年に初めて見た〈レリック〉も「管理局システムの崩壊」と大いに関連があることを知ります。
 カリムたちは、いよいよ状況が切迫して来たことを(さと)り、秘密裡に管理局内部への働きかけを強めました。
 後日、クロノたちとも協議した結果、表向きの話としては『レリック対策と「独立性の高い少数精鋭部隊の運用実験」を目的として、臨時の特務部隊を設立する』という方向性で話を進めることになります。
(この年の8月には父方祖母ルシアの「30回忌、祀り上げ」があったので、クロノは再びミッド地上を訪れ、そのまま聖王教会本部や〈本局〉にも顔を出していました。)

 しかし、管理局〈上層部〉の反応は、今ひとつ鈍いものでした。彼等には「レリックの脅威」がそれほど差し迫ったものであるとは思えなかったのです。
 それでも、〈上層部〉の将軍たちは合議の末、『まだ正式に認めた訳ではないが、その新部隊を設立する目的が、新たなロストロギア「レリック」に対する対策であると言うのなら、その部隊は最初から「古代遺物管理部」に所属するのが妥当である』との見解に到り、それをクロノ提督にも通達しました。
(なお、この73年8月の段階で、カリムは管理局で「少将待遇」となりました。)

 あくまでも『臨時の部隊の運用実験である』という建前(たてまえ)なので、クロノはその名目に合致する人材を事前に用意しておくため、最近になって〈アースラ〉に配属されて来た若手の乗組員たちに『いろいろと資格を取得してから、また戻って来てほしい』と語って有志を募り、何名かの新人たちを「長期研修」に出します。
 その中には、当時14歳のルキノ・リリエも含まれていました。後に、彼女はフェイトから推薦される形で機動六課に抜擢(ばってき)されることになります。
(一方、この頃には、シグナム二尉も小部隊を指揮する立場となっており、その部隊からは、後にヴァイスやアルトが機動六課に抜擢されました。)


 そして、新暦74年の6月には、三度(みたび)同様の詩文が現れました。
 カリムからの報告を受けて、クロノはいよいよ特務部隊の新設を急ぎ、最早(もはや)なりふり構わずに母リンディやレティ提督の力まで借りることにします。

 そういう次第で、同年の7月には、リンディはまた久しぶりに〈本局〉を訪れました。レティとともに手筈(てはず)どおり、はやてを連れて、三元老との「お茶会」に(のぞ)みます。
 そうして、機動六課の設立に関しては、無事に「非公式の支持」を取り付けることができたのですが……困ったことに、三元老の言葉には、ところどころ痴呆(ボケ)の兆候が現れ始めていました。

 ミゼット「(はやてに対して)あなたは、確か、何年か前に『とある管理外世界から来た美少女戦士トリオ』として紹介されていた人よね?」
 ラルゴ「それを言うなら、美少女魔導師トリオぢゃろう。(呆れ顔)」
 ミゼット「……私、今、そう言ったわよね?(呆れ顔)」
ラルゴ「()うとらんわ!」
 ミゼット「(はやてに向かって)ごめんなさいね。この人、何だか最近、耳が遠くなっちゃったみたいで」
 はやて(ええ……。)

 また、別の場面では、こんなやり取りもありました。

 ラルゴ「大体、お前は頭が固すぎるんぢゃ」
 レオーネ「お(ぬし)の頭は柔らかすぎて、毛根まで抜けてしまったようだがな。(笑)」
 ラルゴ「髪の話はするなぁ!(怒)」
 はやて(ええ……。なんか、6年前に初めて()うた時とは、だいぶ印象が(ちゃ)うんやけど……この人たち、ホンマに大丈夫なんやろか?)


 ここで、三度(みたび)、三脳髄の描写をします。
「何やら、最近、『闇の書事件の生き残り』がちょこまかと動き回っておるようだな」
「別に構わぬだろう。所詮は、我々の傀儡(かいらい)とも知らずに三元老に(すが)りつく程度の連中だ」
「脳にチップが埋め込んであるから、あの三人が得た視覚情報と聴覚情報は、すべて我々に筒抜けだと言うのに。(笑)」
「それはそうと、彼奴(あやつ)ら、少しボケ始めておるのではないか?」
「三人とも、生身の肉体のままでもう90代なのだ。多少の老化は仕方あるまいよ」
「完全にボケてしまう前に、そろそろ処分してしまおうか。(嘲笑)」
「まあ、それはいつでもできることさ。(笑)」

 三脳髄はそう言って、三元老の耄碌(もうろく)ぶりを嘲笑しました。
 しかし、実際には、彼等自身もすでに「いろいろな意味で」劣化が進んでおり、現実には、ほとんど『目くそ、鼻くそを(わら)う』といった状況だったのです。
 彼等がそれを全く自覚できていないのは、あるいは、ドゥーエの巧みな誘導によるものだったのでしょうか。
 彼女は、もう一年ほど前から、メンテナンス・スタッフに成り代わって、この「秘密の場所」への定期的な潜入を続けていたのでした。

「ところで、あの者たちは『レリック対策』などとほざいておるようだが、あのまま放置しておいても、大丈夫なのか?」
「我々が裏で糸を引いておるのだ。まともな対策などできるものか。(笑)」
「それに、スカリエッティも『来年には戦闘機人の12タイプがすべて出揃うから、少し本格的に実戦経験を積ませたい』などと言っておった。放置しておけば、その実戦の相手役ぐらいにはなるのではないか?」
「なるほど、それは、相手役をわざわざ用意してやる手間が(はぶ)けるというものだな」

「そう言えば、来年には『起動キー』も完成するようなことを言っていなかったか?」
「ああ。レリックの有効性もすでに、あの『小さな召喚士』によって確認されているからな。もはや、〈ゆりかご〉の起動そのものには何の不安も無い」
「では、早ければ、来年にでも?」
「いや。この施設を丸ごと収容できるだけのスペースも()けておかねばならないし、できれば、もう少し内部を修復しておきたい。現状では、三年後を予定している」
「あと三年か。待ち遠しいな」
「我々なら、まだ三年でも五年でも待てるさ。大切なのは、我々が〈ゆりかご〉でベルカへ行き、我々の手で〈門〉と〈神域〉にアクセスすることだ」
「そうすれば、〈道〉が開けるのだな。(興奮気味)」
「ああ。それでこそ、人間(ひと)の姿を捨てて、これまで生き続けた甲斐(かい)があったというものさ」
「では、そろそろ我々の『新たな肉体(からだ)』も造らせ始めないとな」

 こうして、三脳髄は最後の一年あまり、「決して(かな)うことのない夢」を見続けたのでした。


 実のところ、人間という存在は「脳髄と脊髄だけの姿」になったからと言って、それで不老不死になれる訳ではありません。
 これほどの手段を(こう)じてもなお、「人間の寿命」というものは180歳か、最長でも190歳程度なのです。
 つまり、もしドゥーエが何もしなかったとしても、三脳髄はあと数年か、せいぜい十数年程度で(少なくとも、旧来の体としては)寿命を迎えていたことでしょう。
 三脳髄は必ずしもそうした自分たちの寿命を正しく把握していた訳ではありませんでしたが……このタイミングで自分たちの「新たな肉体(からだ)」を造らせ始めたこと自体は、実に良い判断でした。
 そして、スカリエッティは機が(じゅく)すまで、もうしばらくの間、「従順な飼い犬」の演技を続けたのでした。


 
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