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イチイの実

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第一章

                イチイの実
 この時愛と戦の女神イシュタルは怒っていた、自ら戦場で戦っていたので武装したままでその手には刀もある。
 その彼女にだ、仕える従神達が言ってきた。
「降伏を申し出ていますが」
「どうされますか」
「それで」
「許しますが」
 整っていて色香も漂う外見である、そこには淫靡さもある。
 だがそこに今は獅子の様な猛々しさも見せてだ、女神は彼等に答えた。
「貢物次第です」
「それ次第ですか」
「それによって許されますか」
「そうされますか」
「あの者は私よりも姉上の方が美しいと言ったのです」
 冥府の女神エレキシュガルの方がというのだ。
「その言葉は許せません」
「だからこそ戦を仕掛け」
「多くの者を奪いましたね」
「滅ぼすつもりで戦われて」
「私を怒らせたらどうなるか」
 実際に言葉には怒気がある。
「思い知らせる為にそうしましたが」
「そして懲りられたそうで」
「それで、です」
「あの方も謝罪され」
「降られるとのことです」
「それはわかりました、しかし私は今も怒っています」 
 だからだとだ、イシュタルは刀を持ったまま言うのだった。
「ですから」
「貢物次第ですか」
「それによって許されますか」
「そうされますか」
「そうします」
 こう言ってだ、イシュタルは戦を仕掛けた男神に貢物を贈らせた、貢物は程なくして彼女の前に差し出されたが。
 その貢物を見てだ、女神の周りは怪訝な顔になった。
「果物ですか」
「果物の実ですか」
「これが貢物ですか」
「ふむ」
 イシュタルは用意させた椅子に傲然と座ってその果物達を見て言った。
「これを食してですね」
「そう言われています」
「見たことのない実ですが」
「イチイという木の実だそうです」
 その実を持って来た従神若い男の彼は答えた。 
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