ハドラーちゃんの強くてニューゲーム
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第6話
カール王国のフローラ王女の許に1通の手紙が届いた。
差出人はアバンであった。
「どうやら、この前私を襲った少女の名が解ったそうです」
「あの時の……魔王が姫様を拉致しようとした時の事ですか」
フローラが力強く首を縦に振ると、手紙の続きを呼んだ。
「その少女の名は『ハドラー』。魔族でありながら複数のモンスターの特徴を兼ね備えた異々なる存在。恐らく竜の騎士をも超える存在に成長するだろうと目される才多き少女……だっそうです」
それを聞いた側近達が頭を抱えた。
「その様な化け物が何故地上を……」
「自分の才を見せびらかす心算か!?」
だが、その手紙には悪いニュースばかりではない。
「ですが、新たなる仲間を得て魔王軍の幹部を2度も退けた様です」
「おお。それは勇ましい」
「後は……」
側近達は固唾を飲んで次の台詞を待ったが、
「私宛にお肌の艶が良くなる果実や野菜の種類が沢山書いてありますね」
側近達はいっせぇのでズッコケた。
「んな情報、今は要らんわ」
「変わらんのぉ」
一方のフローラ王女は、ズッコケた側近達ほどの笑いは無かった。
(換わらない彼の文面が嬉しいけど……そのハドラーと言う響きから不穏な妖気を感じるわ)
フローラ王女がさっきまで腰掛けていた玉座から離れて窓の外を不安そうに眺める。
(アバン……貴方と仲間達に武運があります様に!)
その後、用事を済ませたマトリフと共にサババを後にしたアバン達であったが……
「ん?」
マトリフが懐から出した瓶を視てロカが驚いた。
「炎の色が変わって強くなってるぞ!?」
不死鳥のかがり火。
ほぼ永久に燃え続け、邪悪な気を感じ取ると色が変化する神秘の炎で、これを頼りに魔王軍のアジトを探し当てようと言う魂胆だったのだが、
(まさか!?)
その直後、アバン達の後ろの方で大きな爆発音が響いた。
「サババが……襲われている?」
「しかも……って!?待てって!その先にいるのは恐らく!」
マトリフの制止も聴かずにサババに戻って行くアバン達。
そして、サババの中央部に着いたアバン達が見た者は……
「ふうぅ……危ない危ない。危うく大事な大事な一戦に大遅刻するところであったわ」
「……その声!貴様っ……!」
サババのど真ん中にいたのは、なんとハドラーちゃんであった。
「魔王……ハドラー!」
アバン達にとって本当に大事な一戦であるサババの再戦に間に合った事で安堵したハドラーちゃんは、さっきまでの不安そうな顔とは打って変わって余裕満載の笑みを浮かべた。
「あのキギロをあそこまでコテンパンにするとは……少々気が早いが……味見したくなった」
アバンが身構える中、レイラの背中が急に冷たくなった。
「とは言え……俺とお前が戦うにはフィールドが狭過ぎるな……平らにしておくか」
ハドラーちゃんは自らの左手の骨を硬質化させて鎖状に構成する。
「地獄の鎖」
ハドラーちゃんが振り回す鎖が周囲の建物を次々と破壊していく。
「貴様ぁー!」
いつものひょうきんな冷静さを失い駆け出すアバン。
「レイラ!町の人達の避難を!」
「はい!」
対して、ハドラーちゃんは直ぐに地獄の鎖をしまうと、右手から覇者の剣を生やしてアバンに斬撃に応戦する。
そんなハドラーちゃんの善戦ぷりに驚き恐れるレイラ。
「ッ……!」
(あれが魔王!魔王の力!)
慌ててアバン達の後を追ったロカとマトリフは、ガンガディアに足止めを食わされていた。
「ハドラー様が急に『アバンはサババにいる』って言い出すから何かと思えば……すまんね。買い物の邪魔をしたかな?まあ、こちらにとっては『良い所で会った』としか言えないが」
「……って訳かい?町の外側から破壊し始め、魔王の為に勇者の退路を断つ……それがオメーの役目か?」
クスッと笑うガンガディア。
「流石に察しが良いな」
一方のマトリフは苦笑い。
「……やっぱりな。お目当てはアバンだ!」
そして、苦虫を噛み潰した様な顔をするロカ。
サババが緊張感満載になっていく中、地底魔城では……
「落ち着け、キギロ殿。そんな歩行もままならない状態でサババに往ってどうするんです?もし、ハドラー様の言う通りに勇者アバンがいたら、どう対応する御心算で?」
「落ち着いていられる訳無いでしょお!バルトスさん!貴方みたいに地底魔城の護りを任されている訳でもないんだ!」
「いや、だからって―――」
「ボクみたいな奴から戦場の手柄を盗ったら、何も残らないんですよ!それに、勇者アバンの頸を斬るのはボクの役目だぁー!早く伸びろぉー!」
まだ戦える状態でもないのに文字通り這ってでもサババに向かおうとするキギロに困惑するバルトス。
が、1匹のモンスターを発見した途端、キギロはあっさり目的地を変えた。
「あ。キメラ、1匹借りて良い?」
ハドラーちゃんが「大事な一戦」と位置付けるサババの再戦が続く中、アバンは自分の軽率な行動を恥じた。
(何という事だ!私達が訪れたせいで、サババが戦場に!)
アバンが剣を逆手に持った途端、レイラもハドラーちゃんもあの技が出るのを察した。
(出る!)
(出た!アバンストラッシュ!)
「私の、ここまでの成果が正しいか否か、魔王ハドラー!今ここで試させてもらう!」
対するハドラーちゃんは極大爆裂呪文の準備をしていた。
「構わんぞ。その為に来た!」
「勝負!」
アバンが渾身の力を籠めてアバンストラッシュを放つ。
「アバン……ストラッシュ!」
「極大爆裂呪文!」
アバンストラッシュと極大爆裂呪文がぶつかり合い、大規模な爆発が起こった。
「……どっちが勝ったの?」
徐々に薄くなる爆煙を静かに見守るアバンとレイラ。
「ふっ」
だが、アバンの期待は見事に撃ち砕かれた。
「どうした?カール城での初対戦の方がまだ痛かったぞ」
(そんな!アバンストラッシュが……効かない!?)
一方のアバンは、放った瞬間に嫌な予感がしていた。
(……そうだ。何かが心の中に引っ掛かってた。やはりアバンストラッシュはまだ!)
そして、アバンの心中を察したかの様に口を開くハドラーちゃん。
「つまり。何かが足りないと言う確信があったって訳だ?」
「!?」
レイラがとっさに影女の時の姿となってハドラーちゃんに襲い掛かるが、覇者の剣で簡単に防がれてしまった。
「速度は超一級品だが、重さが足りんな。そんな事では、ロカの様な俺の腕を斬り落とすは……出来んぞ?」
「……アバン様……同時に攻撃を……」
「ええ……!」
「さぁ、どちらから来る?それとも2人で戦うのか?」
一方、トロルとギガントを次々と叩きのめすロカとマトリフを視て溜息を吐くガンガディア。
「工夫が無い戦い方だな。これだから巨人族は馬鹿にされる」
呪文はおろか闘気術すら使用しない力任せな技では、確かに極めやすいが技数は少なくなりがちになる。
故に、ガンガディアは自らを鍛え直して来たのだ。
「……私がやろう……」
真打登場とばかりに前に出るガンガディアに反し、マトリフはロカとの共闘を避けた。
「ロカ!お前はアバンと合流しろ!」
「!?こいつ相手に1人で大丈夫なのかよ?」
「俺よりアバンとレイラの心配をしろ!」
強情に共闘を避けるマトリフを見てなすべき事を悟ったロカは、立ち塞がるトロルに飛び蹴りを見舞いながらアバンの許へと向かった。
「そっちは頼んだぜ!」
それをあえて追わないガンガディア。
「……まあ、良いだろう。君さえアバンと分断出来れば、私は満足だ」
「俺を買い被ったって、何も出ねぇよ」
ガンガディアがふとマトリフに質問をする。
「さて、前回の戦いを踏まえて、デカブツのトロルは君とどう戦うと思うかね?」
マトリフが苦笑しながら答えた。
「強力な呪文を放たれない様、魔力を高める隙を与えず、常に接近して戦うだろうな。ちょっとでも小突ければ、そっちの勝ちだ」
それを聞いてクスッと笑うガンガディア。
「安心した……私の結論と同じだ」
飛翔呪文でガンガディアとの距離を広げようとしたが、生憎、ガンガディアも飛翔呪文を使用した。
(あーもう!これだから頭の良い奴は面倒なんだよ!)
サババの再戦が続く中、1周目は侵略未遂者止まりで終わった男が無数のドラキーと多数のこうもり男を使って、大魔王バーンが魔界に建てた別荘の1つを探し当てた……までは良かったが、
「生憎、バーン様は重大な用件の最中故、今は面会叶わぬ。故に、この部屋でしばし待て」
応対したミストバーンの言葉に怒りを露にしかけたが、もう直ぐ手に入る膨大過ぎる利用価値を有する後ろ盾と地上を支配する権利を感情的な理由で失う訳にはいかないと、現在進行形で大量に湧き続けている怒りを完全に忘れようと努力する。
(生の感情丸出しで戦うなど……その様な知性無き戦いは私ではない!そうだ!私は大魔王バーンを後ろ盾として地上を完全に支配するのだ!)
そんな男の様子を視ていたミストバーンは、心の中でぼやいた。
(動かぬか……自らを参謀タイプの謀略家と見下して自分の手足を動かさないか。それでいて、揺ぎ無き絶対の自信を兼ね備えるか……バーン様を急かすまでもないな)
そう思いつつ、ミストバーンはバーンを呼びに行った。
で、
「見てわからぬか?余は大事な一戦の観戦で忙しいのだ」
ミストバーンの予想通りであった。
(やはりこうなったか)
バーンが観ていたのは……サババの再戦。
これについておちゃらけた(様に見える)事を言うキルバーン。
「観ているだけで良いのかなぁ?勝った方が我々の敵になるだけだと思うけど?」
だが、バーンは動じない。
「それはどうかな?この勝負、アバンの負けで終わって欲しいと思っておるのは、余だけではない筈だが」
何かを見抜かれた気がしたキルバーンが困惑する。
「それは……ハドラーよりアバンの方が……厄介と言う訳ですな?」
「……それだけだと良いがな」
その後も、バーンとキルバーンはくだらない感想合戦を繰り返しながらサババの再戦を観戦し、ミストバーンがそれを見守る。バーンを膨大過ぎる利用価値を有する後ろ盾として利用しようとする男の事など忘れてしまったかの様に……
そしてそれは、バーンの脳内におけるハドラーちゃんと侵略未遂者止まりで終わる危険性が高い男の差であった。
後書き
本作もいよいよ『サババの再戦編』です。
恐らく、(マトリフの本来の目的から考えて)サババでハドラーと再戦しなかったら、「キューダに行こう」とは言わなかった……かも知れません。少なくとも、キューダ行きがかなり後回しになる可能性は大きいかと思います。
だからこそ、本作でもハドラーちゃんは、破邪の洞窟の単独探索の前にサババでアバンと再戦した次第です。
大魔王バーンを倒す為に利用しているとは言え、ハドラーちゃんがアバンを厳しく育てる師匠の様な感じになってきましたね……
ページ上へ戻る