魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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AXZ編
第173話:守護騎士の怒り
サンジェルマン達が纏うファウストローブを前に、決戦機能であるイグナイトモジュールを封じられたシンフォギアの改良に駆られた了子達は、ひょんな事から以前響が融合症例であった頃に生み出された物質である愚者の石を活用する事を思い付いた。
だがその石があるのは、魔法少女事変で水没してしまった深淵の竜宮の中。回収の必要に駆られたS.O.N.G.は日本政府の支援の元、簡易的な海上施設を用意し潜水艇を用いた回収作業を行う事となった。
「……の筈なのに、何で俺船外活動してる訳?」
奏達が乗った小型の潜水艇を横に見る形で、ウォータードラゴンのウィザードに変身した颯人がそうぼやいた。今彼が居るのは強烈な水圧が掛る深海。本来であれば潜水艇の外に出る事など出来ない筈なのだが、水の属性を持つウォータードラゴンであれば難なく耐えられた。
だが耐えられる事と実際に行動する事は話が別。すぐそばを不気味な深海魚が通り過ぎるこの暗い深海は、正直居心地がいい場所ではない。やはり人間は、大気に包まれて太陽光降り注ぐ地上に居るべき生物だと言う事をまざまざと実感させられた。
『そう文句言うなって。しょうがないだろ? 潜水艇のロボットアームじゃ、細かい作業が難しいんだから』
颯人が船外活動をしているのにはちゃんと理由がある。深淵の竜宮跡地から愚者の石を回収するのは、文字通り泥の中から一粒の砂金を探し出すに等しい行為。その為海上の施設では、現在潜水艇が引っ張って来たホースで吸い上げた堆積物の中から目的の物を探し出す作業が行われていた。
大雑把になら潜水艇のホースでも問題ない。だが細かい操作となると、この手の作業の素人に等しい奏達ではもどかしい物があった。
「こんなもん、UFOキャッチャーみたいなもんだろうが。別に俺が外で作業する必要無くないか?」
『勝手が違うのよ、勝手が。それに見辛いし動かし辛いし』
最初颯人は海上で作業員達に交じって愚者の石の探索をしていたのだが、崩壊した深淵の竜宮の残骸の所為で思ったように作業が進まないと奏から助けを求められこうして水中作業を行っていたのだ。
口では文句を言う颯人だったが、実際海中で作業をし始めて彼女達の言いたい事もよく分かった。海底の泥を吸い上げるパイプを突っ込みたいところに、潜水艇のアームが届かなかったり潜水艇そのものが近付けない様な場面が多々あったのだ。颯人はそう言うところに、会場から伸ばした大型のパイプを突っ込み泥を吸い上げるのを手伝っていた。
「よ~し、良いぞ。吸ってくれ」
『了解』
颯人からの合図に、翼がスイッチを入れるとパイプが泥を吸い上げていく。時々、迂闊に近付いて来た深海魚なんかが一緒に吸い上げられていくのはご愛敬と言う奴だ。今頃海上では、泥と一緒に吸い上げられていった不気味な見た目の深海魚に響達が悲鳴を上げている事だろう。
この作業を行っている最中、マリアはある事が不安だった。それはパヴァリア光明結社が、彼らの動きを察知して妨害しに来ないかと言う事。
『大丈夫かしら……』
『何がだ?』
『不安にならないの? もし今、パヴァリアの幹部が襲撃してきたら?』
『マリアの不安も分からなくはないが、今回は大丈夫じゃないか? 前回と違って、今回は敵に情報が流れる可能性は低い訳だし』
キャロルの一件では、エルフナインが意図せずキャロル側に情報を流すスパイの役割を負わされていた。が、今回に関してはあちらからやって来た人員は誰も居ない。そもそもあの方法が通用したのは、エルフナインがキャロルから作り出されたホムンクルスだからであって、今回は敵に情報が流れる要素が存在しない。
勿論絶対ではなく、パヴァリア側にこちらの情報を盗み見る何らかの手段があれば話は別であろうが。
「ま、仮に上で何かあったとしても、今回出てくるのはサンジェルマンさん以外の2人だけだろうし? それなら上に居る連中だけで追い払うくらいはできるだろ」
その海上では、響とクリス、切歌に調、そしてガルドに透の6人が他の作業員に交じって検知器を手に響から生み出された愚者の石の捜索を行っていた。
パイプで海底から吸い上げた泥を畑の畝の様に並べ、検知器を近付けて目的の物を探す。その地道な作業に、クリスは早くも音を上げた。
「こんなんで本当に見つかるんだろうな?」
「あっ! 見て見て、クリスちゃん!」
「見つけたのかッ!」
変な音を立てるばかりで何の反応も示さない検知器に、クリスが口をへの字に曲げていると隣で同じ作業をしていた響が声を上げる。その声に期待を込めてクリスが振り向くと、そこには泥の中から深海魚を引っ張り上げている響の姿があった。
「うわぁ、凄い変な魚」
「んなもんどうだっていいんだよッ!」
こっちもこっちで飽きてきたのか、それとも単純に好奇心が勝ったのか普段は滅多にお目に掛かれない深海魚に目を光らせる響にクリスが額に青筋を立てて怒鳴りつける。彼女の怒声に響だけでなく後ろの切歌と調も思わず首を縮めた。
「ご、ゴメンなさ~い」
「ったくもう、とお……あっち見習ってお前も真面目にだな……」
一瞬”透”と口走りそうになって、言葉を詰まらせてから言い直してガルド達の方を指差す。が、そちらを見ていないクリスは気付かなかった。
「あ、あの~、クリス先輩?」
「んだよ?」
「あれ見て欲しいデス」
「あれ?」
切歌と調に促されてクリスがそちらを見ると、そこでは響同様ガルドが泥の中から深海魚を引っ張り出して吟味する様に眺めていた。
「こいつ確か食えるんじゃなかったか……? どう思う、トオル?」
話を振られて透が困ったような顔で乾いた笑いを浮かべる。その光景にクリスの堪忍袋の緒が切れた。
「真面目にやれっつってんだろうがッ!!」
「ア痛ッ!?」
思わず持っていた検知器をぶん投げてガルドの頭に当ててしまった。クリスはそのまま泥の畝を飛び越えガルドに詰め寄った。怒れるクリスを一瞬宥めに入ろうとした透だったが、クリスが彼を無視してガルドに詰め寄ってしまった為上げかけて掴むものが無くなった手を所在なさげにゆっくり下ろす。
「何をあのバカと同じ事やってんだよッ! いい歳して魚なんかに夢中になってんなッ!」
「そうは言うがな、クリス? 日本の諺で『千里の道も三年』と言うだろ? こういうのは焦らずゆっくり余裕を持って……」
「それを言うなら『千里の道も一歩から』だッ! 『石の上にも三年』と混ぜてんじゃねえッ!」
「……ホント?」
またしても諺を間違えて覚えているらしきガルドの姿に、切歌達が思わず苦笑を浮かべた。因みに響は自分同様深海魚に興味をそそられ、且つ諺を間違えると言うポカをやらかしたガルドにちょっぴり親近感を抱いていた。
その時、突如作業員達の悲鳴が辺りに響き渡った。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
「「「「「「ッ!?」」」」」」
何事かとそちらを見れば、そこには無数のアルカノイズが出現し作業員達に襲い掛かっているのが見えた。
この事態は即座に本部の弦十郎の知る所となった。
「アルカノイズの反応検知ッ!」
「反応座標、絞り込みますッ! 敵は……ッ!? 我々のほぼ真上ですッ!」
「まさか……!」
「こちらの動きに合わせてッ!」
あまりにもタイミングが良すぎる攻撃。これを彼らは、何らかの手段で敵がこちらの動きを察知しそれを妨害しに来たのではと判断した。
しかし…………
「Zeios igalima raizen tron」
切歌達装者はシンフォギア、ガルド達魔法使いも変身してアルカノイズに対処する。この場には無力な作業員達が何人も居る為、ガルド達はアルカノイズを適度に始末しつつ作業員達の対比を促した。
「こっちです!」
「急げッ!」
「大丈夫デス、落ち着いて避難を――」
彼らがアルカノイズを倒してくれたおかげで、作業員達への脅威が減った。その隙にと響達が避難誘導をしていると、アルカノイズの集団の中からファウストローブを纏ったカリオストロが飛び出し攻撃を仕掛けてきた。
「大丈夫なんて気軽に言ってくれるじゃない? このお気楽系女子ッ!」
「誰がお気楽デスとッ!」
カリオストロの発言にカチンときた切歌が言い返していると、空中のカリオストロに向けてガルドが砲撃を放った。自力で飛んでいるならともかく、跳躍しているだけであれば彼にとっていい的だった。
「迂闊だったな!」
「うわっ、ちょっ!? またアンタッ!」
「まぁ、言い得て妙ではあるのは認めるが」
「酷いデスッ!」
何気にカリオストロの発言に同意したガルドに切歌がショックを受けていると、その隙を狙ってかカリオストロが5条の青い光線を放った。光線は施設の地面に命中する直前で曲がり切歌とガルドに襲い掛かる。それを咄嗟に回避した2人だったが、ガルドは自分が避けた光線が向かう先を見て愕然とした。
そこには今逃げている最中だった作業員達の背中があったからだ。
「しま――」
マズイと思った時にはもう遅く、光線は彼らの背を貫きその命を奪い……はしなかった。
何故ならガルド達が避けた光線が作業員達に襲い掛かるかに思われた直後、光線の前に透が飛び出し彼らを守ったからだ。だが流石にタイミングが悪すぎたからか、4つまではカリヴァイオリンで弾く事が出来たが最後の一つは間に合わず已む無くその身を盾にして防いでいたが。
「!?」
「トオルッ!?」
「透先輩ッ!?」
「チッ、当てが外れたわ。ま、いっか♪ 面倒な魔法使いの1人を押さえられたんだし。これ、誰の所為かしらね?」
一発でもカリオストロの一撃は強烈な威力を持っていた。事実透はそのダメージから、蹲り立つ事が出来ないでいる。ただでさえ彼は防御力を犠牲に速度を得ているので、その威力はガルド達が受けるよりも大きかった。
「ッ!」
「あ、待て切歌ッ! 挑発に乗るなッ!」
自分達が迂闊に回避したせいで透が傷付いた。言外にそう言われて冷静さを失った切歌が突撃していくのを引き留めようとしたガルドだったが、彼の声は届かず切歌はカリオストロに向け無策で突っ込み、そして彼女の反撃を受けて大きく吹き飛ばされてしまった。
「あぁっ?!」
「切歌、くっ!?」
吹き飛ばされてきた切歌を受け止めようとしたガルドだったが、彼女を吹き飛ばす威力の方が高かったのかそのまま一緒に吹き飛ばされてしまった。
その光景を視界の端で捉えた調が思わず足を止めてしまう。直後、動きを止めた調をこちらはプレラーティのけん玉の珠が襲った。
「切ちゃんッ! ガル、きゃっ!?」
「調ちゃんッ!」
巨大な玉に殴り飛ばされた調を響が助け起こす。
一方クリスはと言うと、彼女は倒れた透に駆け寄ろうとする体勢で固まっていた。
「と、透……」
またしても透は他者を優先して自分を傷付けた。何故そうまでして自分を蔑ろに出来るのかが理解できず、クリスは足に重りが付いたようにその場を動けずにいた。
それはこの場ではあまりにも大きすぎる隙であり、動かないクリスにプレラーティがけん玉をハンマーに変形させて襲い掛かった。
「動かないとはあまりにも迂闊なワケダッ! ダインスレイフを抜剣出来ないだけでもちょろすぎるのに、これでは討ってくれと言わんばかりなワケダッ!」
「ガッ!?」
プレラーティの巨大ハンマーで殴り飛ばされるクリス。その先では、魔力を込めた拳を握り締めて待ち構えるカリオストロが居た。
「ここで、ぶち壊されちゃいなさいッ!」
「あ゛っ?!」
プレラーティとカリオストロ、2人の攻撃を立て続けに受けたクリスは透の傍まで吹き飛ばされ、そしてその場で意識を失いシンフォギアが解除されてしまった。
「クリスちゃんッ!?」
「マズイ、トオルッ! クリスを連れて下がれッ!」
今のクリスは無防備だ。ギアが解除された上に気を失った状態では、この場に残すのはあまりにも危険。ガルドが負傷した透共々下がらせようと彼に退避を促したのだが、肝心の彼は倒れたクリスに震える手を伸ばしたまま微動だにしない。
それを好機と見たのか、カリオストロがクリス共々透を始末しようと近付いていった。
「これで、終わりッ!」
「クリスちゃんッ!?」
「「先輩ッ!?」」
「くっ!」
響達が手を伸ばす中、ガルドが間に合えと指輪を着け替え魔法を発動しようとした。
だがそれよりも早く、カリオストロの手が2人に向け振り下ろされ…………淡く光る半透明の鎧の手により受け止められた。
「えっ!?」
「あれは……!」
カリオストロの拳を受け止めた者の正体は、透ではなく彼から浮き出るように飛び出した首の無い鎧の半身だった。まさかの展開にカリオストロは驚きのあまり今度は彼女が動きを止め、切歌と調はその光景に見覚えがあった。
「あれって、確か……!」
「うん。前に深淵の竜宮でもあった」
ハンスが変身したビーストがクリスにトドメを刺そうとした時、それを守った透から彼のファントムであるデュラハンが飛び出した時の事を2人は思い出していた。
状況的にはあの時の再現に等しいものであったが、しかし調達の目にはその光景は以前のそれと何かが違って見えていた。
「チッ、薄気味悪いわねッ!」
2人の感じた違和感など知る由もなく、カリオストロは拳を掴む手を振り払って再度攻撃を仕掛ける。だがそれを、今度は透自身の手が受け止めた。二度も自分の拳が受け止められ、目に見えて苛立つカリオストロ。
「この、離しなさいよッ!」
力尽くで透の手を振り払おうとしたカリオストロだったが、次の瞬間彼女の視界は180度回転した。
「え?」
これは一体何が起きたのかと彼女が理解する間もなく、今度は猛烈な勢いで地面が近付き全身を施設に叩き付けられた。
「がっ!?」
「カリオストロッ!」
カリオストロ本人は何が起きたのか理解できていないだろうが、傍から見ていた者達には何がどうなったのかが良く見えていた。何てことは無い、透が片腕だけでカリオストロを腕ごと振り上げてそのまま地面に叩き付けたのだ。
しかし彼の行動はそれでは終わらない。彼はそのままカリオストロの手を掴んだ状態で、腕を何度も上下に振るい彼女を何度も地面に叩き付けたのである。カリオストロが棍棒の様に施設に叩き付けられる度に、その場に出来たクレーターが大きくなっていく。
「あぐっ!? ぐはっ!? が、かはっ!?」
「あ、あれって……透君……だよね?」
「そう、見えるデスけど……」
「もしかして……怒ってる?」
客観的に見て、今の彼は怒っている様に響達には見えていた。普段の透の戦い方からはあまりにも掛け離れた乱暴な攻撃。クリスを傷付けられて怒ったとしか思えなかった。
「怒っているのは怒っているんだろうが……あれはファントムがトオルの体を動かしてるんじゃ……ともあれこれはチャンスか。3人共、連中はどうやら飽く迄シンフォギアの破壊と俺達魔法使いの排除が目的らしい。このままアイツらと派手にやり合って追い払うぞ」
ガルドは先程のプレラーティとカリオストロの発言から、2人が愚者の石の回収の妨害に来たのではなくシンフォギアその物の破壊と魔法使いの排除が目的である事を見抜いた。であるならばその勘違いを逆に利用させてもらう。このままここで何をしているのかを悟らせずに、あの2人を迎撃して追い払うのだ。
4人が頷き合って行動を開始する頃、透により痛めつけられているカリオストロを助けるべくプレラーティが動いた。
「その手を離すワケダッ!」
魔力の糸で繋がれた鉄球を透に叩き付けるプレラーティ。その攻撃に気付いた彼は、カリオストロから手を離すとファントムの腕で飛んできた鉄球を殴り飛ばした。
透がプレラーティの攻撃を防ぐと、それと入れ違う様にガルドと響が彼の援護につく。
「トオル、大丈夫か?」
「透君、クリスちゃんを連れて早く離れてッ!」
クリスはまだ気を失っている。このままでは彼女が巻き込まれてしまうと、響が透に退避を促した。
すると彼は、突如糸が切れた人形の様にその場に倒れて変身が解けてしまった。
「あっ!? ちょ、おいっ! ん~、仕方がない。ヒビキ、ここを頼む。俺は2人を下がらせる」
「はい!」
ガルドは透とクリスの2人を抱えて安全な場所へと退避していく。その間響には1人でカリオストロの相手をしてもらわなくてはならない。その事に彼は不安を感じないでもなかったが、幸いなことに彼女は透に散々ボコボコにされたからか動きが大分鈍っている。これならそう心配する事も無いだろう。
「けほっ、くっ。今度の相手はお気楽娘その2の黄色信号ちゃんか」
「き、黄色信号ッ!?」
信号扱いされて思わず目を剥く響だったが、直ぐに気を取り直してカリオストロとの戦いに突入した。
一方プレラーティはと言うと、こちらは調と切歌の2人からの攻撃に晒されていた。他の装者達に比べて頭一つ分くらいは実力の劣る2人。しかし彼女達の持ち味は、2人で力を合わせた時のユニゾンによる爆発力にあった。
「「はぁぁぁぁッ!!」」
「くっ!?」
ただでさえ決戦機能を封じられて、纏っている装備のスペックでは劣っている。その上実力も装者の中では下から数えた方が早い2人だったが、歌と心を合わせた結果急上昇したフォニックゲインはイグナイトを起動した時にも匹敵した。嘗てキャロルの配下のミカを倒した時の様に、力を合わせた2人は遥か格上の相手であるプレラーティを逆に圧倒するほどにまでなっていた。
「ぐっ!? くっ……うだつの上がらない詐欺師紛いだった私達に、完全な肉体と真の英知、そして理想を授けてくれたのはサンジェルマンなワケダッ!」
追い詰められたプレラーティは、しかし彼女自身の戦う理由を胸に己を奮起させる。調達には勿論負けられない理由はあるが、それは彼女も同様であったのだ。
「だからッ! 彼女の為に負けられないワケダッ!」
「プレラーティッ!?」
「おぉぉっ!」
「あっ!?」
相方が追い詰められているのに気付いたカリオストロが、自身も傷付いているにも拘らず援護に向かおうとする。だがそれは響により妨害され、振り払おうにも先程透に痛めつけられたせいで動きの鈍った体ではそれも難しかった。
仲間からの援護が望めない事を察したプレラーティは、己1人の力で切歌と調の2人を下すつもりで腹の底から声を出して吠えた。
「楽しい事気持ちいい事だけでは、理想には辿り着けないワケダッ!」
そのプレラーティの叫びに対し、否と答えるかのように切歌と調は自分達のアームドギアを合体させた。鎌とヨーヨーが合体し、巨大な刃が飛び出した車輪の様な見た目の武器となる。
【禁合β式・Zあ破刃惨無uうNN】
2人で手を繋ぎ合い、バーニアを噴かせて突撃する。それに対しプレラーティは、最大威力の乗った鉄球で迎え撃つ。
「理想の為にッ!」
ぶつかり合う鉄球と刃の付いた車輪。火花と衝撃を撒き散らしながら拮抗する両者の攻撃は、次第に切歌と調の攻撃がプレラーティの鉄球を押し返していった。
「な、に……!?」
――私の隣に、切ちゃんがいれば……――
――アタシの隣に、調がいれば……――
――絶対に負けない(デス)ッ!――
「「はぁぁぁぁぁぁぁッ!」」
決戦機能も用いていないただのシンフォギアに自分の攻撃が負けるとは思っていなかったプレラーティは思わず目を見開く。その瞬間、彼女の鉄球は白旗を上げ真っ二つに切り裂かれた。切歌と調の攻撃はそれだけでは収まらず、鉄球を切り裂いた衝撃でプレラーティを海へと叩き落した。
「うわぁぁぁぁっ!?」
海へ落ちると同時に、大きな光の柱を伸ばし爆音を響かせる。その光景にカリオストロはこれ以上は自分達の方が不利と悟り、プレラーティを回収して後退する事を選んだ。
「ここまでにしてあげるわ!」
「あ、待って……!」
逃げていくカリオストロに手を伸ばす響だったが、彼女の言葉は聞き入れてもらえず彼女はそのまま海に落ちたプレラーティを連れて去っていってしまった。
襲撃を退けられた事に、本部では慎次が安堵し拳を握った。
「やりましたね!」
「あぁ……今日のところはな」
喜ぶ慎次だったが、弦十郎は今回は色々と幸運が重なった部分に助けられたと言う印象が強かった。最後の切歌と調の戦いこそ彼女達自身の力だが、それ以前の透とクリスの窮地は一歩間違えば2人の命が失われてもおかしくない状況であった。そう考えると楽観は出来ない。
これは一刻も早くシンフォギアの強化、そして並びに装者自身のレベルアップも必要だと弦十郎は1人考える。その為に何が出来るか?
――ギアは了子君達に任せるとして。装者達の方は……――
「ッ!?!?」
「ん? 奏?」
「どうかしたの?」
「あ、いや……何か寒気がした気がして……」
弦十郎が1人今後の事を考えている時、海中の潜水艇で奏が身を震わせるのだが彼女自身その理由に気付く事は無かった。
***
プレラーティが敗北し、カリオストロ共々逃げ帰った事等知る由も無いアダムは、プールの水面に浮かんだティキが投影する星図の下でデッキチェアに深く腰掛け、ドリンクを片手に背後に控えたサンジェルマンに機嫌良さそうに確認を取る。
「順調にいっているようだね。祭壇設置の儀式は」
「はい。ですが、中枢制御の大祭壇設置に必要な生体エネルギーが不足しています」
肝心なところで結果を出し切れていない事に、サンジェルマンは頭が痛くなる思いだった。長い時間を掛けて生体エネルギーをかき集めてきたと言うのに、この上まだ足りないと言うのだ。彼女らは確かに理想の為にその手を血で汚してきたが、しかし目的の為とは言え無差別極まりない虐殺が出来るかと言われればそれは話が別だった。贄とするのは、彼女らがそれが妥当と判断した場合に限る。例えば根っからの悪人とか、彼女達に敵対する者達であるとか。
流石のサンジェルマンも、ただ普通に暮らしているだけの民衆を問答無用で虐殺するような真似はしない。そこまでやってしまえばそれは最早ヒトデナシ以外の何者でもなくなってしまう。
そう、普段彼女らが影で罵っているアダムの様に。
そのアダムの口から出たのは、今し方述べた正にヒトデナシな内容であった。
「じゃあ……生贄を使えばいいんじゃないかな?」
「――ッ!?」
自分が一瞬考え、そして振り払った方法をさも当然の様に口にする。その事にサンジェルマンが息を呑んでいると、彼は更にとんでもない事を口にした。
「……君が気に掛けている、あの魔法使いを」
「なっ!?」
「十分に足りる筈さ、祭壇設置の不足分だってね。何せあれ程の力、内に秘めたエネルギーの総量も馬鹿に出来ない。その上目障りな魔法使いも始末できる。一石二鳥だろ?」
「局長……あなたは……!?」
アダムは、サンジェルマンが颯人の事を気に掛けている事を知ってて彼を生贄にしろと言っているのだ。それは効率を求めての発言であると同時に、彼女に対する踏み絵でもあった。
「選択してもらおうか、君の正義を」
後書き
と言う訳で第173話でした。
原作では海中作業をするのはマリアと翼、響の3人でしたが、本作ではマリアと翼はそのままに奏と響を入れ替えて更に颯人まで加えての行動となりました。多分水属性のウォータードラゴンなら深海の水圧にも耐えてくれるだろうけど、暗くて冷たい深海で作業させられる颯人はなかなかに可哀想ですね。
戦闘では原作と違い透との間に溝が出来たりして不安定なクリスが、プレラーティ達の攻撃でノックアウト。その直後、今までにない位透が乱暴な戦い方でカリオストロをボコボコにすると言うちょっとオリジナルな展開に。本当はここで透が1人大暴れしてプレラーティもボコボコにして下がらせようかと思っていたのですが、やっぱり原作キャラの見せ場をあんまり奪い過ぎるのも良くないと思ったので彼には途中でダウンしてもらいました。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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