木の葉詰め合わせ
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本編番外編
入れ替わりシリーズ
入れ替わりの話・完
前書き
あまり長引かせると収集が付かなくなりそうなので、ここら辺で終わらせる事にしました。
子供達が慌ただしく部屋から立ち去った後、それまで魘され続けていた山中殿がようやく悪夢より帰還した。
「――っは! 自分は一体何を……?」
「あ、目が覚めましたか、山中殿。マダラの奴、思いっきりぶん殴っていた様ですけど、気分はどうですか?」
「い、いえ……。お構いなく――って、ええ!?」
はくはくと口を開閉させ、音が聞こえる様な勢いで顔を蒼白にした山中殿。
そりゃそうだ、天下のうちはマダラ(ただし中身は私)に蒸しタオルを渡されるだなんて、天地がひっくり返ったって想像出来まい。
「マダ、マダ、マダラ殿ぉ!? い、い、いったいこれは、その」
「あ、落ち着いて下さい。オレは確かに外見こそうちはマダラですけど、中身は千手柱間です」
「柱間様!」
「おい! ウスラトンカチ、貴様!!」
さくさくとネタばらしを行った私に対して、ミトとマダラから非難を帯びた声が上がる。
なおも言い連ねようとした二人を軽く手を翳す事で制して、私は言葉を続けた。
「混乱されてもしょうがないとは思いますが、落ち着いて聞いて下さい。原因は未だ持って不明ですが、どうやらオレ達は中身だけが入れ替わってしまったんです」
「……………俄には信じ難い話です。ですがマダラ殿がそのような突拍子のない話を言い出す様な御仁ではない事は、付き合いの浅い自分でも存じております」
やけに慎重な物言いですけど、それって言い出しっぺが私だったら信じなかったって事? 釈然としない気持ちのまま内心で首を傾げた。
「信用の差だな。普段の振る舞いをもう少し考えて行ったらどうだ?」
「うるさい」
「え? ええ!?」
ミトなら絶対にしない表情でせせら笑うマダラ(ただし~)を軽く睨めば、混乱した様に山中殿が視線を回す。訳が分からないよ、と言わんばかりの彼の肩に手を置いて、正気に戻したのは我が最愛の妹たるミト(けれども外見は私)であった。
「落ち着いて下さいませ、山中の頭領殿。生憎貴方だけでなく、私共も混乱しておりますの」
「は、柱間殿が、お、お、女言葉で!」
そこまで驚かんでもいいじゃないか。
まあ、私の普段の行いからして驚天動地ものであるのは確かだが。
「おい、うずまきの女。貴様がどのような言葉遣いを使おうが知った事じゃないが、そいつの姿でするのは止めておけ。ますますおかしな噂が席巻する事になるぞ」
「……あなたこそ、私の姿でそのようなはしたない仕草を取らないて頂けます? 先程から思っておりましたが、それ、私の体ですのよ?」
――正直に言いましょう。二人の後ろに雷雲轟く竜虎の姿が見えまして、超怖い。
私でさえびびったんだから、山中殿の動揺は言わずもがなである。
「し、信じます! どうやらお三方の間でおかしな事が起こっているのは疑いない様です!!」
「あ、はい。信じていただけた様で何よりです」
普段の私達なら絶対にあり得ない、千手柱間とうずまきミトの今にも殺し合いにも発展しそうな殺気の飛ばし合いに、山中殿が泡食った勢いで私(されど外見はマダラ)にしがみつく。
薄い縹色の瞳には兎に角この訳の分からない状態からの解放を求めていた。安心して下さい、私も同じです。
「あー、はいはい。お互いに言いたい事は分かるから、そこらへんで一時休戦。ミト、悪いけど山中殿にお茶でも差し上げてくれないかな?」
「…………柱間様が、そう仰るなら仕方ありませんね」
ふぅ、と高貴な雰囲気漂う溜め息を一つ零したミト。いやー、中身が違うと外見もまた違って見えるなぁ。
慣れ親しんだ色気の欠片も無い私の体だが、曲り形にも女性の端くれであるだけあって、立派な貴婦人に見えるから驚きだ――私の妹、超凄い。
「――――女性にしか、見えませんね……」
「ああ、まあ、中身があの子だからね」
感心した様な物言いの山中殿に苦い表情を浮かべて返す。
その内私の性別も公開した方が良いのかなぁ……? けど何か色々と面倒そうだし、このままでもいいんじゃないだろうか。
「――って、不機嫌そうだな。どうしたマダラ?」
「別に、何でも無い」
喧嘩相手のミトが立ち去った後を気難しそうな顔で睨んでいる同盟者殿に声をかけてみれば、如何にも不機嫌ですと言わんばかりの声音で返される。何でもないって言う表情じゃないくせに、全く。
「マダラ、ちょっと……」
山中殿から少し離れて、マダラへと手招きすれば素直に歩み寄って来る。
そう言えばいつもは目線が殆ど同じ位置にあるのに、今は下にあるということに初めて気付いた。
「……何か言いたそうだけど、そんなに信じられないか?」
「この、ウスラトンカチ」
ギロリ、と灰鼠色の双眸が私を射抜く。相変わらず、眼力凄いな。
「……貴様の弟ならば兎も角、何故山中の当主などにこの事を明かした? 今の状態がどんなに危ういものなのか、分かっていない貴様ではあるまい」
「まあ、理由は色々あるけど……。そんなに心配するな、山中殿は信頼に値する人物だよ」
「他家と組まねばやっていけない弱小一族だぞ? この情報を手に自分達が今後有利に動く様に他里に働きかけるともしれないのに? 相変わらずの楽観主義者だな」
「お前は本当に悲観主義者だねぇ……」
油断無く横椅子の上で悄然と肩を落としている山中殿へと向ける眼差しの厳しさに、物悲しさを覚える。
同盟を結んで、木の葉の仲間として遇される様になっていてもこの同盟者の内心に巣くっている同盟のメンバーへの不信はかなり根深い。それは有る意味では仕方の無い事なのかもしれない――私同様、若いうちに頭領として抜擢されて以来ずっと一族を守るために苦心してきたのだ。それをいきなり仲間です、と言ったって心から信じられる訳が無い。
「お前の心配も最もだけど、大丈夫だよ」
席を外していたミトが御盆に新茶を注いだ湯のみを載せて、戻って来る。
するすると優美な衣擦れの音を立てて歩く妹の仮の姿に微笑みかければ、可憐な笑みで返された。
ああ。私の妹は世界一!
「――山中殿はそのようなお人ではないよ。彼は信頼に値する、立派な御仁だ」
「……貴様は人を見る目があるのか無いのか分からん。オレが貴様の立場であったら……オレの様な者など連合に引き入れはせんぞ」
独り言の様に呟かれた声に反応して、隣のマダラを見れば顔を俯けている。
まあマダラの言う通り、うちはに同盟を持ちかけるのは確かにリスクのある賭けだったけど、こうして敵ではなく味方としてこの同盟者殿と会話できるようになっただけでも、頑張った甲斐があったもんだ――そんな風に思いはしたけど、それ以上口を開く事は止めておく。
そのかわり、と言っては何だが今は眼下にある形の良い旋毛を労いを込めて撫でれば――肩が大袈裟なまでに震えた。
野生の獣の様な反応だなとか思いつつも、そう言えばこいつはこうやって頭を撫でてくれる人とかいたのかなぁと脳裏の片隅で考える。幼少の頃の記憶に存在する弟君曰く、出会った頃には既に一族の大人も無視できないだけの実力を兼ね備えていたらしいし、普段の一族の者達に対する振る舞いからして彼らはあくまでマダラにとっての庇護対象ではあっても、弱音を吐く相手には成り得なかったんじゃないだろうか。
最もイズナ君が生きていてくれたら、まだ何か変わっていたかもしれないが……。
「――――おい」
よくよく考えてみれば普段の傍若無人振りに惑わされそうになるが、こいつも私より年下なんだよな。確か、扉間と同じ位だって前に誰かが言っていた気がしなくもないし。
……そっかぁ、弟の扉間と同じ位だったんだな、こいつ。あの子もあの子でなかなか大事な責任を負ってはいるけど、頭領の仕事と言うか責任は、その比じゃないものなぁ……。その内過労で倒れたりするかもしれないから心配だ。
大丈夫かなぁ、体調管理とか疎かにしているイメージが何かあるし、凄い気になる。
「――……おい、聞いているのか」
「はっ!! すまん、何も聞いてなかった!」
頭を撫でていた手をぱっと外して謝罪すれば、大袈裟なまでに溜め息を吐かれた。
にしても何でしょう、この呆れ返った表情は。釈然としない表情のまま背後の二人を振り返ってみれば、山中殿が湯のみをひっくり返した所だった。
何してるんだろう、あの人。
「は、柱間殿! 原因が分かりました、これですよ、これ!」
「原因って、この入れ替わりのですか……!? それで?」
「この、お茶です! 一体どこでコレを手に入れたのか、詳しく聞かせていただいても構いませんか!?」
興奮した様子の山中殿を一通り落ち着かせてから聞き出しました所、私達が意識を失う前に口にしたお茶は山中一族に伝わる秘術・心転身の術を習得する際に使用する秘伝の香と同じ材料で作られた物で、精神がふわふわしてしまう効果がある……らしい。(仮にも秘伝忍術の元がこんなにも容易く真似されていいのだろうかとか思ったが、そこら辺に突っ込む事は止めておく)
一人の状態で飲む分には構わないのだが、私達が同じ空間で揃ってお茶(ついでに同材料のお香を焚いていたことがトドメになったとのこと)を飲んだことで、精神が入れ替わってしまったらしい――いつから此処は二次元世界に成ったんだ。
危惧していた敵対勢力の陰謀とかじゃなくて良かったけど、なんと言うか、余りにも締まらない理由にマダラが向こうで頭を抱えていた
「…………一生の不覚だ」
「そ、そんなに落ち込むなよ、マダラ。口にした量からして効果は明日の朝には消えるらしいし!」
「黙れ! そもそも誰のせいだと……! このウスラトンカチがぁ~~っ!!」
「や、止めて! 脳みそがシェイクされる! 気持ち悪い、吐きそう――うっぷ!」
そうやってミト姿のマダラに胸ぐらを掴まれ揺さぶらされている私(だが外見はマダラ)の姿を目撃した弟達がまた別の誤解をしてしまうのだが、それはまた別の話。
この後私達は互いに互いの役所を無事にやり遂げ、辛くも難関を乗り越える事に成功したのだが、その際に起こした「らしからぬ」行動は、元の体に戻った私達を暫くの間苛む事になったりするのが――――それもまた、別の話である。
後書き
書きたかった場面
・笑顔で応対するうちはマダラに会談に来た人々が戦慄する
・女性の体に歯噛みする頭領→後の“か弱い”女発言へ
・なんだかとても女らしい姉の姿に、物陰で涙を流す二代目火影とか
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