リュカ伝の外伝
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マリオネット・マリー
前書き
今回のエピソードは
前話でリュカさんがラインハットに行く直前の出来事です。
(グランバニア城:娯楽室)
ピエッサSIDE
「もう、ちょっと! 何なのアイツら! 信じらんない!」
今日もどうせ練習に来ないモノだと思い、アイリと卒業式制作の打ち合わせと称したお喋りをしていると、珍しくマリーちゃんが入って来た。何か怒っている。
「お久しぶりマリーちゃん。如何したのかしら?」
「『お久しぶり』って何よ、嫌味? ってかこの女は誰よ!?」
マリーちゃんは初めて対面するアイリに驚く……と言うよりも、何故だか警戒心を向けている。
「『お久しぶり』って言ってしまう程、マリーちゃんが練習に来ないから、私は私で色々練習したいし、学校行事の打ち合わせもするから友人を招いていたのよ。紹介するわね、こちらは私の友達の“アイリーン・アウラー”よ。同級生なの」
「初めまして、宜しくお願いしますわね」
「勝手に部外者を城内に入れてるの!?」
「勝手じゃ無いわよ。ちゃんと陛下からは許可を貰ってるもの。マリーちゃんがあまりにも練習に来ないから、報告が出来なかっただけ」
最近付き合ってる男の所為で嫌味が出やすくなっている。
「もういいわよ! イヤな言い方しないでよ! そんな事よりも、先刻中央公園付近に出来た新しいお洋服のお店に行ったら、公園内で勝手に私の曲を演奏して金貰ってる奴らが居たのよ! 如何言う事よ!?」
「ストリートミュージシャンね。彼等の行為は商売では無いという事で、公園内で演奏を披露し、それに対して聞いた側はお金の支払いをする自由があるのよ。払わなくても良いのだから、何ら問題は発生してないのよ」
流石社長と一緒に、その状況を作った女である。平然と言い切ったわ。
「問題だらけじゃねーか! アイツらが演奏してたのは私が作詞作曲した曲なんだ! 何勝手に演奏して金稼いでんだよ!? 私に使用料を払えよ!」
酷い言い様だ。
「何言ってんの? そんな法律は無いでしょ。 彼等は自由に音楽活動をして良いのよ。斯く言う私もナイトバーでバイトしてて、そこでピアノの弾き語りをしてるんだけど、貴女達マリピエの曲を披露させてもらってるわ。大人気だから結構良いお金になってるわ」
「お前もかー! お前はブルータスか!」
何だ……
ブルータスの意味がよく分からない。
「如何なってんだこの国は!? 著作権法も無いのか!?」
憤慨するマリーちゃんの言葉に、私とアイリは動揺する。
怒っているマリーちゃんは私達には気付いて無いが。
数ヶ月前のある日……
MGとMBの練習を始めて数時間が経過。
休憩という事で楽器の開発者としてその場に居合わせたリューナちゃんと、その彼氏のラッセル君と共にコーヒータイムに入った。
そこで陛下から『そのうちにマリーが世の中で自分の曲が勝手に使用されている事に怒ると思う。もしその場に居合わせてたら、なんとか煽って激怒させてよ。そのうちにアイツの口から“著作権”とか“印税”とかって言葉が出てくるから、そうしたら一先ず成功ね。居合わせた君等は、僕かウルフの下に直談判させる様に導いてよ。ちょっと煽れば大丈夫だから、自分の意思で向かう様に仕向けてね』と言われてたのだ。
まさか本当にマリーちゃんが“著作権”と言ってくるとは……
私もアイリも慌てて平静を装い、努めて冷静に会話を続ける。
「そんな事言っても著作権法? ……なんて聞いた事無いし、私達が何か言っても如何にもならないわよ」
「ふん、馬鹿ねピエッサちゃんは!」
確かに賢くは無いが、馬鹿と言われるのは腹が立つ。
「私達のスポンサーが如何な人物か思い出してよ。宰相閣下よ、宰相閣下! 無いのなら法を作らせれば良いのよ」
忘れてなんかいないわ。思い出したくないだけよ。
「ほ~っほっほっほっ! パンが無いのならケーキを食べればいい、法が無いのなら法を作ればいい! 簡単な事なのよ。さぁ善は急げと言いますし、早速権力者の下に行きますわよ二人とも!」
何で私達まで行かなきゃならないのよ!?
でも事前に陛下から『ウルフにお強請りに行く事を思い付くも、直ぐに僕にまで話が広がる事くらいまでは予測できるから、日和って君等を巻き込もうと連れて行くと予想される。渋々付いて行ってあげてね』と言われていた。
「何で私が行かなきゃならないのよ!? 宰相閣下になんか会いたくないのに……」
「アンタ私の曲を盗んで金儲けしてんでしょ! 生きた証拠品としてウルフの説得に協力しなさいよ!」
本当にこの二人は今日が初対面よね? 何でこんなに喧嘩できるの?
「アイリ……こうなると手が付けられないから、兎も角行ってあげましょ」
「なによ。ただの我が儘なガキじゃない」
「う、うるせー……黙って付いてこい」
おかしいなぁ……アイリにはマリーちゃんがお姫様だという事は知られているんだけどなぁ。
何で気にしないのかしら?
(グランバニア城:宰相執務室)
マリーちゃんに先導されて宰相閣下の机の前までやって来た。
部屋に入ってきた時点で私達の事は気付いていただろうが、気にもせずに手元のファイルを見詰めている。
まぁ仕事は出来る男だからなぁ……
「ねぇねぇウルフぅ~……ちょっと聞いてよぉ~」
目上(私からしたら年下だけど)の者が仕事中であれば、相手の反応を待ってから会話を始めるべきなのだろうけど、マリーちゃんには関係ない。
「何だよ、俺は忙しいんだよ」
そう言いながらも手にしてたファイルを机に置いて視線は我々に向けてくれる。
だが気になったのはファイルの中身……開かれたまま上を向いて置かれたので、中身が丸見えだ……そしてそこには、
「うわっ……何この女? ってか女? 凄ーブス」
失礼極まりないマリーちゃんの反応だが、正直反論も出来そうに無い。
兎も角ノーコメントを維持しよう。
「失礼な事を言うな! この女性は今度ラインハットの子爵家とお見合いをするんだよ。相手の男とそのご家族に見せる為、一番良い絵(写真)を選んだんだ」
「はぁ~……リアルな絵ね。ウルフが描いたのよね?」
「そんなところだよ」
多分コレはMSVで撮影した物だろう。
閣下はまだマリーちゃんに言いたくない様で、写真に関しては言葉を濁している。
「で、何の用だよ?」
閣下は写真と一緒にファイルを閉じ、傍らに重ねてある書類の束の上に置く。
「あ、そうそう……実はね、」
・
・
・
「……だから何とかしてよ!」
マリーちゃんはアイリの事を矢玉にして現状に苦言を呈してる。
そう言えば聞こえは良いが、我が儘を言ってるに過ぎない。
「なるほどね……お前が作った曲で他人が金儲けをするのが気に入らないか」
「他人が金儲けをすることが気に入らないんじゃなくて、私にも儲けを回せって事よ!」
もうちょっと言葉を選びましょうよ。
「分かり易くて良いね」
「でしょぉ♥」
もうちょっと言葉を選んで下さい。
「確かに最初に曲とかを作った人のことを保護しないとなぁ」
「でしょでしょぉ♥」
マリーちゃんは自分の思い通りに進んで喜びが隠せない。
「ピエッサさんも以前に盗作された事があったもんね。他人事じゃぁないよね?」
「へー、ピエちゃんも盗まれたことあるんだぁ? 災難ねぇ」
コメントし辛いわ。
隣のアイリは凄い形相で閣下を睨んでいる。
「でも俺には如何する事も……音楽関連はリュカさんに相談しないとなぁ」
「ちょっとちょっとウルフ君。君は宰相閣下でしょ! 直ぐ王様に頼るのは良くないと思うなぁ……取り敢えず法律を作ってみちゃえば良いじゃん♥」
陛下に話を持って行くと小言を言われると思っているのか、この場で法律を作らせようと足掻く。
「まぁそう言うなよ。丁度リュカさんに用があることだし、今から一緒に相談しに行こうぜ!」
だが陛下に相談することは既定路線である為、マリーちゃんの足掻きを無視して事を進める。
閣下は先程置いた写真入りのファイルを右手に取り、左手をマリーちゃんの右手と繋ぎ陛下の執務室へと歩き出した。
「え、ちょ……わ、私は……私は遠慮したいなぁ! ウルフが説明しといてよぉ!」
「フォローはしてやるから、お前が直接説明しろ。発案者なんだから、それくらいやれ」
閣下に任せれば全部問題無いと考えてたマリーちゃんの気持ちとは裏腹に、強制的にお父上の下に連行される。
私もアイリも、コレが予定通りであると知っているから、黙って二人に付いていく。
(グランバニア城:国王執務室)
(コンコン)
「どーぞー」
「失礼します」
両手の塞がっている閣下の代わりに、アイリが陛下の執務室の扉をノックする。
中からは何時もの優しい陛下の声が聞こえた。
「お、丁度出かけようと思ってたんだよ、良いタイミング……って、美女を3人も侍らせて如何したの?」
「美女3人? ああ……外面だけ美女2人と内外面共に美女1人ね」
振り分けが気になる。
「やだぁ~ウルフ。外面だけなんて言ったら、二人に失礼よぉ♥」
「何で他人事なの?」
如何やらマリーちゃんは外面だけグループの一員だ。
「あのすいません……漫才をしに来たんなら僕は忙しいから今度にしてくんない」
「失礼……ちゃんと用件はありますよ。先ずはコレを」
マリーちゃんが逃げ出さない様に手を握りつつ、もう片方の手で持っていたファイルを陛下に差し出す。
「……この娘か」
何やら話は通っていたらしく、先程見てしまった“奇抜”な容姿の女性の写真を受け取り確認する陛下……ラインハットの貴族とお見合いと言っていたけど。
「レクルトの話だと、狙ってた若い部下に彼女が出来たらしくて、最近城下の酒場にて残業代返上で酔拳の鍛錬に明け暮れてるそうです。被害も無視出来なくなってきたので、救世主の登場が待ち焦がれております」
「分かった。早速この後、僕の大親友に生け贄を恵んで貰える様に懇願してくるよ。別件で用事もあるし。聞かせたい新曲もあるし」
何か聞き覚えがある話ね……レッ君が言ってた先輩かな?
「俺からの用件は以上です……後はマリーが“頼み事”があると言うことなので連れてきました」
「なぁに? 美女の頼みなら出来る限りは聞き入れたいけど……内容による」
多分陛下も何事かは解っているのだろう。頭ごなしに拒否はしない。
「え~っとぉ……あのぉ~……実はぁ~……」
ピエッサSIDE END
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