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仮面ライダーAP

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夜戦編 蒼き女豹と仮面の狙撃手 第5話


 真凛が特殊救命部隊(ハイパーレスキュー)との通信を始めてから、しばらくの時が流れた頃。シャドーフォートレス島の「裏手」に位置する、山林の斜面では――ホークアイザーと新世代ライダー達の戦いが、決着の瞬間を迎えようとしていた。

「ぐおぉおおっ……!」

 ホークアイザーの目前にまで接近していたタキオンは最悪のタイミングで超加速(クロックアップ)状態を解除されたことにより、真っ向から狙撃銃で撃ち抜かれてしまった。彼の身体は脇腹を撃たれて体勢を崩したまま、地面を削るように転倒して行く。

「……ふっ」

 苦悶の声を上げて地を転がるタキオンの姿を見届けたホークアイザーは、勝利を確信したようにすっくと茂みから立ち上がり、茂みから己の姿を露わにする。そんな彼を睨み上げるタキオンは、悔しげに地を這っていた。

「惜しかったな、仮面ライダータキオン。如何にお前の加速能力が優れていようと……制限時間内に距離を詰め切ることが出来なければ、俺の狙撃の方が疾い……ということだ」
「……ぐっ、あっ……! ……勝ちを確信した途端にノコノコと出て来るとは、随分な自己顕示欲だな。狙撃兵失格だ……!」
「ふん、減らず口を叩ける元気は残っていたようだな。急所への命中だけは辛うじて回避したようだが……今度こそ、とどめを刺してやろう」

 再びコッキングレバーをガチャンと引き、薬莢を排したホークアイザーは悠々と次弾を装填する。そしてタキオンとの一騎打ちという「賭け」に勝利した己の強運を祝うように――彼の頭部に狙いを定め、引き金を引こうとしていた。

『待ちたまえ、ホークアイザー少佐! そんな連中より、君には殺すべき相手が居るだろう!』
「……その声は斉藤か。俺の邪魔をするな」

 するとその時、ホークアイザーのマスク内に通信が飛んで来る。その聞き覚えのある声は、このシャドーフォートレス島をノバシェードの思想で染め上げた元凶――斉藤空幻のものだった。タキオンへのとどめに水を差す彼の叫びに、ホークアイザーは仮面の下で眉を顰める。

『真凛・S・スチュワートが私の罠を突破して、島の中枢に向かっている! 直ちにあの雌豚を追い、始末するべきだ! 君の力なら簡単だろう!?』
「……まだこの男にとどめを刺していない。それに他のライダー共も残っている。逃げる敵ならばともかく、俺を潰す気でいる連中に背を向けるほど愚かになった覚えはないぞ」
『ええい、その外骨格のための資金を提供してやったのは一体誰だと思っている!? つべこべ抜かしてないで私の命令通りに動け!』

 スパルタン計画の復活や、そのための資金提供など、この島の兵士達にとっては大恩ある存在。そんな斉藤空幻だが、言葉巧みに他者を利用する彼の人格は、ホークアイザーが最も忌み嫌うものであった。斉藤の傲慢さと狡猾さは、出会った当初からホークアイザーには見抜かれていたのである。
 その斉藤からの指図を当然のように拒むホークアイザーだが、当の斉藤は聞く耳を持たない。真凛に軽々と罠を突破されたことでプライドを傷付けられたのか、彼は冷静さを欠いて声を荒げていた。捜査官でもなくなった流浪の女探偵1人に出し抜かれた屈辱は、かなりのモノであったらしい。

「……ならばアイアンザック中将にそう伝えるんだな。確かにお前には少なくない借りがあるが、あくまで出資者(パトロン)であって上官ではない。直接指図される謂れはない」
『出来ればやっている! 彼とは現在、通信が繋がらんのだ……! 何が起きているのかは分からんが、とにかくさっさとあの女を消せ! そのスーツに幾ら出してやったと思っているんだ!?』
「……」

 通信越しに喚き散らす斉藤の声に、ホークアイザーはこめかみに青筋を立てる。言いたい放題に言わせつつも、決して従う姿勢を見せないホークアイザーは、再びタキオンに狙撃銃の狙いを定めようとしていた。ライダー達との決着を優先している彼にとって、上官でもない一科学者の戯言など、ノイズでしかないのである。

「いちいちお前に言われずとも、こいつらを始末したらすぐに追う。それと……」
『なんだ!?』
「……一度くらい、口より先に手を動かせ……!」

 やがて、静かな怒気を込めた呟きと共に。ホークアイザーは斉藤との通信を一方的に切断し、無益な会話を終わらせてしまう。無様に喚いて他人の行動に口を挟む前に、己に出来るベストを尽くせ。そんなホークアイザーの憤怒が、短い一言に顕れていた。そしてタキオンの頭部目掛けて、ホークアイザーは今後こそとどめの1発を撃ち放とうと、引き金に指を掛ける。

「させるかぁあぁッ!」
「……なにッ!?」

 だが、その直前。ホークアイザーの眼前を遮るように、エネルギー弾の嵐が襲い掛かって来た。タキオンの後に続くように直進して来ていたターボが、ホークアイザーの近くにまで接近していたのだ。
 ライダー達にとっての「切り札」なのだと思っていたタキオンは、ターボを突入させるための「囮」だったのである。

(仮面ライダーターボだと……!? 奴め、あれほど動じていたのに……G-verⅥの救助より俺の排除を優先するとはッ!)

 唯一、自分の予測から外れた動きを見せたターボの登場に、ホークアイザーは意表を突かれ瞠目する。そんな彼目掛けて真っ直ぐに突撃しながら、ターボはシャフトブレイカーのエネルギー弾を連射していた。

(……だが、詰めが甘いな。確かにかなり近付かれてしまったようだが……まだ奴との距離は約300mもある! タキオンの窮地に焦るあまり、俺を牽制しようとエネルギー銃を撃ち始めたのだろうが……その銃の有効射程距離では、正確に俺に命中させることは不可能ッ! これだけの距離があれば、俺の狙撃は十分に間に合うッ!)

 それでもホークアイザーは平静を保ち、巧みな身のこなしでエネルギー弾をかわしながら、再び狙撃銃を構え直して行く。ターボはエネルギー切れを起こしたシャフトブレイカーを投げ捨て、全力疾走で突っ込んでいた。

「……おおぉおぉおッ!」
「なに……!? 馬鹿な、あの機能は……!」

 狙われていると分かっていても構わず突撃して行くターボは足裏のエンジンを全開にして、必殺技「ストライクターボ」を発動させて行く。本来ならその状態での回し蹴りで相手を仕留める技なのだが――まだホークアイザーとの間には、かなりの距離がある。

 こんな遠距離で必殺技を発動させても、届くはずがない。仮にホークアイザーの狙撃をかわして、ストライクターボが命中する距離まで近付けたとしても、その頃にはすでにエネルギーが切れているだろう。

(……ふっ、愚かな。勝負を急ぐあまり、勇み足で必殺技を発動させたのだろうが……この距離ではお前のキックなど届くはずがないだろう!)

 そんな彼の無謀としか言いようがない行動に対し、ホークアイザーは仮面の下で余裕の笑みを浮かべ、悠然とした佇まいでスコープを覗き込んでいる。彼の眼にはターボの行動が、悪足掻きにしか映らなかった。

(さぁ、眉間を撃ち抜いて一瞬で楽に――!?)

 その慢心が、命取りとなった。スコープを覗いた先に居たターボは、ホークアイザーの予測を遥かに上回る速さで接近していたのである。タキオンのような加速能力など無いはずだというのに、ターボはそれまでとは比べ物にならない速度でホークアイザーに急接近していたのだ。

(なッ……!? 馬鹿な、ターボにそんな能力は無いはずだッ! 一体これはッ……!?)

 予想だにしなかったターボの速度に、ついにホークアイザーの平静が崩れる。焦燥を露わにしながらもスコープを覗き続け、ターボの動きと状態を観察していた彼は、即座に速さの理由に気付く。

(な、何ィィィッ……!? 奴は己の必殺技(ストライクターボ)で「敵」ではなく……「地面」を蹴っているッ! 本来、敵に直接ぶつけるための衝撃を……「攻撃」ではなく、「移動」に使っているのかッ!?)

 ターボはストライクターボのエネルギーを宿した両脚で、地面を蹴って全力疾走していたのだ。敵に当たれば一撃必殺となる威力の蹴りを移動に応用すれば、生み出される速度は従来の比ではない。

「……ふん、あの阿呆が」

 タキオンの加速能力にも肉薄するほどの速度を得たターボは、人型の弾丸と化して風を切っていた。その勇姿を目の当たりにしたタキオンは、脇腹を抑えながらも仮面の下で不敵な微笑を溢している。全て、「作戦通り」だと言わんばかりに。

 この使用方法は、フィロキセラ怪人のような近接戦闘タイプの相手と戦う場合、これ以上ない「悪手」となる。相手の間合いに飛び込んだ時点でストライクターボの効果時間が切れるのだから、せっかくの火力が無駄になってしまうのだ。

 しかし、基本性能においては旧型の外骨格に過ぎず、新世代ライダー達には遠く及ばないスナイパースパルタンに対しては、唯一無二の有効打となる。接近戦に秀でていたフィロキセラ怪人とは逆で――近付くことさえ出来れば、どうとでも「料理」出来る相手なのだから。

(ええいッ、もう急所でなくても良いッ! タキオンのように、身体のどこかにさえ当たれば良いッ! とにかく早く、早く1発をッ……!)

 焦燥のあまり、「狙う」という狙撃手としての本懐すら見失ったホークアイザーが、とにかく引き金を引こうとする。

「うぉおおおおおおーッ!」

 だが、その指先よりも僅かに疾く。ついに彼の眼前に辿り着いたターボが、雄叫びと共に鉄拳を振るう。唸りを上げて振り抜かれたその一撃が、青い鉄仮面に炸裂した。

「ぐが、ぁッ……!」

 必殺技と呼べる威力ではない、ただのパンチ。他の怪人相手ならば軽いフックにしかならない、力任せな打撃。だがスナイパースパルタンの貧弱な装甲に対しては、その程度の攻撃でも形勢を覆す「決定打」となる。

「うぉおるらららららららぁあぁあーッ!」

 ストライクターボの加速を得た真紅の剛拳は、スナイパースパルタンの仮面を一瞬で粉砕していた。それだけには留まらず、ターボは仲間達の想いと怒りを込めた鉄拳の乱舞を繰り出して行く。

「ぐわあぁあぁあぁあーッ!」

 頭部を除く全身に拳打の嵐が打ち込まれ――やがて勢いよく吹き飛ばされたホークアイザーの身体が、無数の木々を打ち倒して行くのだった。

「が、がはっ……!」

 木々を薙ぎ倒しながら徐々に減速して行く彼の身体は、岩壁に叩き付けられようやく完全に停止する。一瞬にして満身創痍となったホークアイザーの身体が、ずるりと地面に滑り落ちて行く。誰の目にも明らかな、完膚なきまでの「ノックアウト」だった。

(……こんな、こんな馬鹿なッ……! 奴はG-verⅥが撃たれた時、誰よりも激しく取り乱していたはずだ……! あの狼狽は、俺の意表を突くための芝居だったのか……!?)

 仮面を破壊され、怜悧な美貌を露わにされたホークアイザーはわなわなと身体を震わせ、己の双眸で自身を打ち倒した男を射抜く。彼が露わにしている驚愕の表情は、「信じられない」という剥き出しの感情をありのままに際立たせていた。

(いや……俺の眼に狂いは無い。奴は間違いなくあの時、冷静さを欠いていた。奴は……この僅かな時間の中で、俺の予測を超えるほどにまで「成長」していたのだッ……!)

 岩壁に背を預けたまま身動きが取れなくなっていた彼は、ターボの勝利と成長を認めざるを得ないという現実を、己の身体で思い知らされていた。自分は紛れもなく、雑魚と侮っていたこの男に敗れたのだと。

「……ふふっ。見事、と言うより他ない、なッ……!」

 全てを見透かしたつもりになっていた自分こそが、最も重要なことを。最も警戒せねばならなかった相手を、見落としていた。

 そんな結果に自嘲し、ホークアイザーは独り寂しげな微笑を浮かべる。その様子を神妙に見つめるターボは、仲間達と共に掴んだ勝利を噛み締めるように、真紅の拳をギュッと握り締めていた。
 
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