Fate/WizarDragonknight
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希望
ドラゴンと化したアマダムは、その四枚の翼を大きく広げた。
竜巻のように荒れ狂う魔力の風が、大地と空間を切り裂いていく。
「うわっ!?」
大きく吹き飛ばされるハルト達へ、さらにアマダムは吠える。
「うわっ! 熱つつつ!」
ハルトを支える真司は、燃える炎に煽られながら悲鳴を上げる。
「真司! 前!」
ハルトは慌てて叫ぶ。
黒い風を生身の二人に放つアマダム。
だが、その前に金色の影が立ちはだかり、黒い風を一気に浴びる。
「ぐあっ!」
「コウスケ!?」
吹き飛ぶビーストは、地面を転がりながら変身が解除される。
額から血を流しながらも、彼はすぐに立ち上がった。
「痛ってえ……おいハルト、大丈夫か?」
「いや、俺よりもお前の方が大丈夫かよ!?」
ハルトは突っ込みながらアマダムを見上げる。
「まさか、奴にこんな隠し種があったとはな」
一方、士はライドブッカーを発砲しながら呟いた。
一瞬アマダムは動きを怯ませるものの、すぐに士へ翼からの風の刃で攻撃している。
「くっ!」
士を集中的に狙った攻撃には、さすがに彼も抵抗できない。
即座に手にしたディケイドライバーへ、カードを差し込んだ。
『アタックライド バリア』
発生したマゼンタのバリアが、士への直接命中を避ける。
だが、近くに命中し、バリアごと吹き飛ばす衝撃を防ぐことは出来ず、岩肌に激突した士はライドブッカーを取りこぼした。
邪魔者を片付けたアマダムが、無防備な参加者たちへ光線を放とうとしているが。
「だとしてもッ!」
「勇者は根性!」
ハルトたちの脇を通り過ぎ、二人のサーヴァントがアマダムへ駆けていく。
「響ちゃん! 友奈ちゃん!」
見知った二人は、そのままアマダムの胴体へ飛びついていく。
人並外れた怪力が強みでもある二人に押されるものの、アマダムは地面に足を付けることで二人の推進力を無力化した。
「我流・撃槍烈破ッ!」
「勇者パンチ!」
黄色と桃色の拳となり、押し返す一撃が突撃となっていく。
響と友奈。拳を武器としている二人は、ハルトの前に着地。それぞれ拳を突き出しながらアマダムを見上げる。
「あれ、何なのッ!? ノイズ……?」
「もしかして、新しいバーテックス!?」
響と友奈はそれぞれ叫ぶ。
両者が知り得ることのない怪物は、大きな咆哮で二人の動きを封じる。
「ぐっ……ッ! だとしても……ッ!」
「勇者は……根性!」
咆哮による圧に逆らいながら、響と友奈は共に飛び上がる。互いに空中で足を合わせ、左右にジャンプ。それぞれ岩肌を足場に、別方向から一気にアマダムに肉薄。
「だりゃああああああああああッ!」
「うおりゃあああああああああっ!」
左右からの拳。
だが、数歩後ずさりするだけで、アマダムは強い腕で響と友奈を薙ぎ払った。
あまりにも強い力で地面に投げ落とされ、二人は生身になってしまった。
「先にお前たちから始末してやる!」
「友奈ちゃん!」
「響!」
響と友奈を圧し潰そうとするアマダムに対し、可奈美とコウスケがそれぞれ動く。
可奈美は肩を貸し、コウスケはカメレオンの魔法で伸ばした舌を響に巻き付け、引き寄せる。
二人が安全圏に離脱した直後に、その場に大きなアマダムの手形が刻まれる。
「友奈ちゃん、響ちゃん! 二人とも大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ真司さん」
「よかった、可奈美ちゃんハルトさんと合流できたんだねッ!」
友奈と響。
二人とも、あの場で自分の正体を目撃している。
ハルトは一瞬だけ二人から顔を背けるが、それぞれ直立した二人は、ハルトに駆け寄った。
「ハルトさん、大丈夫だよッ! ハルトさんの正体がファントムでも、わたしは手を伸ばしたいッ!」
「うん! でも、ちゃんとわたしたちにも教えて欲しかったよ! 困ったら相談!」
二人はぐいっとハルトへ顔を近づけた。
ハルトは二人を一度押しのけ、落ち着かせる。
「二人とも、ありがとね。あと、ゴメン。黙ってて」
「へいきへっちゃらッ! これからだよッ!」
「改めてよろしくね! ハルトさん!」
響と友奈は、それぞれ笑顔を見せた。
先のアマダムの戦闘以外でも、体のあちこちに泥や汚れが付着している。きっと彼女たちも可奈美たちと同様、一晩中山を駆け回り、ハルトを探していくれていたのだろう。
「でも、まずはアイツをやっつけなくちゃね」
友奈はドラゴンとなったアマダムを見上げながら断言した。
アマダムは、口から黒い光線を吐きながら、周囲を破壊していく。
「ウィザード……ウィザード……ォォ!」
呪うような声のアマダム。
そんな邪竜へ、友奈は指さした。
「ねえ、あれってもしかして……アマダム?」
「ええッ!? あんなドラゴンみたいな姿になっちゃうのッ!?」
目の前のアマダムは、だんだんと吐く炎の量を増やしていく。
もともと何もない荒野だったその場所は、やがて黒い炎が占める割合が大きくなっていく。
やがてアマダムは、両手を地面に押し付け、口を大きく開く。隕石のように次々と地面に叩きつけられる熱弾から巻き起こる炎は、ハルトたちへ高温の大気を押し付けた。
「ぐっ……!」
倒れ込むハルト。
その頭上には、すでに チャージを完了したアマダムの顔があった。
「まずい……!」
ハルトは赤い眼で、アマダムを見上げる。
そして、吐き出されようとする光線___は、突如ハルトたちの頭上から発射された青い光線によって消失した。
「ぬおっ!?」
バランスを崩したアマダムは、数歩後ずさる。
「何だ!?」
アマダムの行動を防いだ青い銃撃。
それは、近くの崖の上から行われたものだった。
「海東……!」
士が呟く。
仮面ライダーディエンド、海東大樹。
崖の上でにやりと笑みを浮かべたままの彼は、手にしたディエンドライバーを回転させる。
「やあ、士。どうやらお疲れのようだね?」
「何しに来た?」
「そうイライラしないでくれたまえ。折角君の力になってあげようとしたんだから」
「ディエンド……! 裏切るのか、キサマ!」
巨体のアマダムも、崖の上のディエンドを睨みながら叫んだ。
だが海東は悪びれる様子もなく、鼻を鳴らした。
「裏切る? 嫌だな。僕はあくまで、僕のために動いていただけだよ。ただ……」
海東は目を細めながらアマダムを睨む。
「汚されてしまった大聖杯ほど厄介なものはない。この世界のお宝は、諦めるしかなさそうだね」
海東はそう言いながら、アマダムの翼へ発砲。
大きく揺らいだアマダムは、言葉にならない叫び声を上げていた。
「だけど、君は少し面倒だと判断させてもらうよ。始末しようかな」
「……」
士が苦虫を潰したような顔で顔をしかめる。
だが、何もなかったかのように、海東は肩を窄めた。
「だから、そう怒らないでくれたまえ。折角、他の参加者を連れてきたんだから」
「他の参加者?」
「がああああああああああっ!」
今度は、アマダムは速射性の高い光線を吐いた。
変身や魔法の隙などないその攻撃は、ハルトたちの前に割り込んできた六つの機械、その間に発生した見えない盾に防がれた。
「これは……!」
「松菜さん!」
その声に、ハルトは安心感を覚えた。
ワープのように、目の前に青い閃光とともに出現した、蒼井えりか。
彼女はハルトに駆け寄り、アマダムと対峙する。
「えりかちゃん!?」
「海東さんから事情は大体聞きました! このままでは、見滝原が危ないって! 蒼井、力になります!」
胸元に拳を固め、力むえりか。
そして、海東が連れてきた助っ人は彼女だけではない。
海東の隣に次々と並び立つ参加者たち。
「悪いわね。まどかを危険に晒す要素を排除するためなら、私はどんな手でも使うわ」
「今回は協力してあげる。マスターの命令でもあるし……」
「フン……ムーの力以外に、オレが負けるはずがない」
「アブラミー様だ! オレ様は強い!」
「ほむらちゃん! リゲル! ソロ……! それに……!」
彼女たちに並ぶ、ローブの男。
以前邪神イリスと戦った時、一瞬だけ力を貸してくれたサーヴァントだということは、ハルトもよく覚えている。
「あの人は、ムーの……!」
唯一、来てくれた者の中で面識がない、アブラミーと名乗った人物。
それは、可奈美が知っているようだった。
「何人来ようが、参加者共など敵ではない! そして……」
アマダムは、その凶悪な眼をハルトに向ける。
「所詮、悪は悪! 怪物に、変わることなどできん! 松菜ハルト……貴様も所詮ファントムでしかない!」
「違う」
その時。
ピシャリと、士が言い放つ。
その瞬間、彼の言葉以外の、全ての音が止まった。
「ある男が言っていた。自分が、最後の希望だと……」
彼はそのまま、ハルトの前に立つ。
「だがそいつは、特別な存在ではない。ただの人間が、ただの事件に巻き込まれ、超常の力を手にした」
誰のことだろう。
そう、ハルトが考えている間にも、士の言葉は続く。
「ここにも、同じように自らを奮い立たせ、他の誰かのために戦う男がいる。奴とは真逆に、怪物という特別な存在でありながら、普通の人間を装い、人間のために戦う男が」
士の語気は、とても強い。
聞くだけで、あたかも彼に圧倒されるようだった。
「お前にこの男を止めることはできない。アイツと同じく、誰かのために必死で戦う、誰かのために自らの苦しみに仮面を付けて笑顔を見せるコイツにはな! そうやって、誰かの笑顔を守ることを……」
士は、少しだけハルトへ振り向く。
「希望って、言うんだ」
「希望……」
その言葉は、ハルトの正体とは真逆の言葉。
だが同時に、ハルトの本質でもあるように思えた。
「黙れ……っ!」
アマダムは、吠える。
あれだけ大きな姿になったのに、怒鳴る彼の姿には、どことなく人間態の姿さえも浮かび上がって見えた。
「おのれディケイド! お前は一体、何なんだ!?」
その言葉を受けて、士はにやりと笑みを浮かべた。
ディケイドが描かれたカードを取り出し、堂々と返す。
それは、何十何百何千、彼が訪れた全ての世界で、悪へ向けて放った言葉だった。
「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ! 変身!」
士がカードをディケイドライバーに装填するのと同じく、ハルトもまた指輪の装飾を下ろす。それが次々に広まり、その場にいる全員がその力を発動させた。
「変身!」
「変身!」
「変~身!」
「写シ!」
「Balwisyall nescell gungnir tron」
「行くよ、牛鬼!」
「……行くわよ」
「イグニッション!」
「どうか、安寧な記憶を」
「電波変換!」
聖杯戦争の参加者たちは、同時にそれぞれの変身が開始される。
ウィザードの巨大な魔法陣が発生。それは、参加者たち全員を覆いつくしていく。
それが、全体の変身を促すように通過した時。
その場は、ウィザード フレイムドラゴンを中心に。
多くの参加者たちが並んでいた。
「行くよ……皆!」
ウィザードとともに。
全ての参加者は、アマダムへ駆けだしていった。
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