これが創り物の世界でも、僕らは久遠を願うのです
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「…今は、何をされてるんですか?」
「わっ」
後ろからハクネさんに声をかけられる。"ページ"を眺めてぼーっとしてしまっていたため、彼女が後ろにいることにまったく気付かなかった。
驚いて声をあげてしまう。
「ごめん、気付かなかった。ごめんね」
「あ、いや、すみませんこちらこそ…急に話しかけちゃって」
…微妙な空気だ。心の中で謝罪をする。
「忙しかったですか?」
「そんなことないよ」
「よかった」
そんなに気を遣わなくていいのに、と思ったが、彼女のその他人へ対する優しさは作者がページに書き込んだ"設定"に過ぎない。言ったところで意味はないだろう。
…なんて。
ああ、素直に言葉に出せればいいのに。捻くれた考えにはもううんざりなのに。
「何をしてるか聞いてくれてたよね。でもまあ、普段と変わらないかな」
先程まで見ていたページに視線を戻す。
ページ。それはさまざまな創作世界やキャラクターたちを管理している魔法の紙、らしい。
一応、こんな僕だが管理者として最高位の権限をもらっている。作者の"代理"であり、世界を作ったり消したりする、最終判断をすることができる。
僕も、そういうキャラクターなのだ。
「そのページは…フィルウさんが昔いた世界の…?」
「そうだよ。研究室の…」
僕はもともとある世界のキャラクターとして創られたところを、前の"代理"によって2代目代理に任命された。
その昔いた世界で、僕は酷く後悔し、今でもそれを引きずっている。
罪を償いたくて。だから毎日、毎日、あの世界のページを眺めているが。
「…焼けてしまってるんですね」
「そうなんだよね…」
代理になってすぐにこのページを探した。
もう一度あの世界を作り直して、やり直したい。それが僕の唯一の願いだ。
でも、叶わない。あるページが焦げていて、文字を読むことができない。読むことができないから、ここから世界を創り出すこともできない。
記憶を頼りに、新しくページを作り直したこともあるが、うまくいかなかった。「どこかが違う」という感覚が拭えない、なんとも気味が悪い世界にしかならない。
僕は、必ずあの世界を作り直さなければいけない。そうしないと、僕は、自分が許せない。
代理は自分の存在を消すことはできないから。
償わない限りあの罪は永遠と僕に付き纏う。
「…きっと、どうにかなりますよ!」
「あはは、ありがとう、ハクネさん」
こんな僕のことでも必死に励まそうとしてくれるハクネさんが、少しおもしろく思えてしまって、僕は笑った。
こんな僕に気を遣う必要なんて、本当にないのに。
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