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シュレディンガーの鼠

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第三章

「残念だったな」
「いや、妖怪が実在することがわかった」
 教授は鉄鼠に落ち着いた声で応えた。
「だからこれはこれでだ」
「よかったんだな」
「私だけでなく多くの学生諸君もそのことを見た」
 妖怪の実在、それをというのだ。
「だからだよ」
「無駄じゃなかったんだな」
「そうだよ」
「そうか、しかしあまり実験でな」
 鉄鼠はこうも言った。
「鼠、他の命もな」
「使うことはだね」
「俺としては賛成出来ねえな」
「確かに。命の重さは変わらない」
 教授もそれはと応えた。
「どんな生きものもな」
「そこは考えて欲しいな、人間には」
「そうだな、そのことも考える機会を得た」 
 妖怪に言われてだ。
「では今後そうした実験に鼠等は使わない様にしようか」
「そこは宜しくな」
「思えばそれでも出来る実験も多いな」
「どうせなら今はクローン技術もあるしな」
 鉄鼠はこうも言った。
「死刑囚なり使えばいいだろ」
「確かに。死刑囚は恐ろしい罪を犯した連中だ」
「それで死刑になるんだしな」
「どうせ死刑にするならな」
「実験に使えばいいだろ」
 妖怪も言った。
「他人の人権を害した奴の人権なんているか」
「いらないな」
 教授も同じ考えだった。
「確かに」
「だからどうしても実験するならな」
「死刑囚やそのクローンを使えばいいな」
「死刑になる奴実験で殺して何が悪いんだ」
 妖怪は言い切った。
「そうだろ」
「そうだな、そのことを考える機会も得たと思えば」
「いい実験だったか」
「実にな」  
 教授は鉄鼠に笑顔で応えた。
「全ては君のお陰だ」
「お役に立てて何よりだぜ、じゃあ俺はこれでお暇するぜ」
「それではな」
 こうしたやり取りもしてだった。
 鉄鼠は煙の様に姿を消した、その後教授は学生達と彼が残した言葉についてシュレディンガーの実験の話ではなく妖怪と彼が残した言葉について話した。
 そしてこのことを世に伝え妖怪の実在の証拠と実験についての考えを残した。これは思わぬ奇貨だと後世でも言われ特に動物実験と死刑についての考え方に大きな影響を及ぼした。


シュレディンガーの鼠   完


                     2023・3・15 
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