蕾の少女
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第五章
「そうだったかしら」
「ああ、そうだけれどな」
「お話を聞いただけでわかったのね」
「ああ、奇麗な黒髪でだな」
「爽やかな顔立ちよ」
「それで背は高いな」
このこともだ、夫は話した。
「そうだな」
「ええ、一六〇あるわ」
「間違いない、もうな」
確信を以ての言葉だった。
「中紙さんの家の子だ」
「そうなのね」
「ああ、しっかりした真面目な子だし」
「青空が一緒にいてもなのね」
「好きでもな」
彼のことをというのだ。
「別にな」
「問題ないのね」
「ああ」
夫は妻に微笑んで答えた。
「そうだ、しかしな」
「しかし?」
「今更言うが」
それでもという口調での言葉だった。
「青空もそうした年頃か」
「本当に今更ね」
妻は夫のその言葉に少し苦笑いになって言葉を返した。
「だからもうね」
「それはか」
「そうよ、私がもうね」
「前から言ってたことだな」
「そうよ、あの娘もね」
「そうした年頃になったんだな」
「そうよ」
まさにというのだ。
「そうなったのよ」
「そうだな、そしてこれからもだな」
「成長していってね」
「大人になっていくな」
「そうよ、それで私達はね」
「親としてだな」
「青空を見守っていきましょう」
夫に純粋な笑顔で話した。
「そうしていきましょう」
「そうしていこうな」
笑顔で応えた、だが。
次の日だ、二人は娘の言葉に思わず笑った。
「成長してもな」
「まだ子供ね」
「このことは変わらないな」
「そうよね」
「あれっ、私今度オムライスお願いって言っただけよ」
それでとだ、娘は笑った両親にきょとんとして応えた。
「それだけよ」
「いや、それがな」
「子供の頃からなのよ」
「青空がオムライスを好きなのは」
「そのことはね」
「それで今言ったんだ」
「変わらないわってね」
二人で娘に話した。
「じゃあな」
「一緒にオムライス食べましょう」
「ええ、それじゃあね」
両親が何故笑い子供の頃からと言ったかだ、青空はわからなかった。
だがそれがどうしてか彼女は結婚して子供がこの時の自分と同じ位の年齢になった時にわかった。そして彼女も笑顔になった。
蕾の少女 完
2022・10・13
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