FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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忘れていたじゃ済まされない
前書き
最近日本ハムファイターズから目が離せないです。別にファンって訳ではないのですが、この独特の野球感が気になっていつも見てしまう。
ここまできたらAクラスに入ってほしいと思いながら見ています。
崩れ落ちるアルタ・フェイス。それまで一切のダメージを受けることもなかったそれを破壊した俺たちの肉体へのダメージも大きく、一時的に成長していた俺とウェンディの身体も元の大きさへと戻る。
「やったか!!」
「でも・・・まだこの場の魔力が高い!!」
手の本体であるアルタ・フェイスは破壊された。しかし、いまだにこの場のエーテルナノ濃度は高いままになっている。
「どうなっている!?元凶のようなものを破壊したというのに・・・」
「ぬおーっ!!こうなったら溢れてる魔力俺が喰ってやる!!」
「ダメよ!!」
まだアルタ・フェイスの機能が停止していないのか、それとも正常な濃度に戻るまでまだ時間がかかるのかはわからない。その状況にナツさんが彼ならやりかねないことを言い放つが、ルーシィさんが止める。
「やれることはやりました・・・あとは・・・」
疲労の色が色濃く見えるウェンディ。それは俺たちも同じだが、彼女の手を掴み立ち上がる。
「脱出だー!!」
「って言っても地下だぞここー!!」
「そんなこと言ってる場合じゃないですぅ!!」
「ハッピー置いてくるんじゃなかった!!」
仮にセシリーたちを全員連れてきていても俺たちは六人いるため全員は運び出せない。後ろでアルタ・フェイスと共にこの空洞部分もどんどん崩れており、少しでも足を緩めたら潰されかねない。
「大丈夫!!バルゴが地上まで道を繋げてくれる!!」
いつの間にいなくなっていたのかわからないけど、バルゴがすでに動いていたらしく道が出来上がっている。俺たちはその道を一心不乱に駆け抜けた。
「着きました、姫」
先頭を進んでいたバルゴが飛び出すように地上へと上がる。心拍が上がり、呼吸が乱れている俺たちも彼女の作ってくれた穴から抜け出し、安堵の息を漏らした。
「でも、なんで魔力が限界を超えてるってわかったの?」
「誰かの声が聞こえた気がしたの」
「誰かって・・・誰?」
「う~ん・・・」
彼女の感じから、知り合いなのは間違いないんだろうけどそれが誰なのかまでは思い出せないみたい。ただ、その危機的状況を脱したにも関わらず、少女の表情は曇っていた。
「どうしたの?ウェンディ」
「シリル・・・私・・・」
涙目でこちらを見上げてくるウェンディ。上目使いになっている彼女のそれは破壊力抜群だったが、次に発せられた言葉でそれはすぐに吹き飛んだ。
「大きくなっても大きくならないのかな?」
「・・・はい?」
胸元を抑えながらそんなことを呟く少女。意味がわからなかった俺はキョトンとするしかなかった。
第三者side
「よくやったね、ナツ」
無事に世界を救った炎の竜の姿を見届けた青年は、安堵し胸を撫で下ろす。そんな彼の後ろに、青年よりも小さな背丈の少女が歩み寄ってきていた。
「無事に解決できたみたいで、よかったです」
「うん。君のおかげだね」
「いいえ、皆さんの絆の力があったからです」
そう言った少女の表情は喜んでいるような、寂しそうにしているような不思議なものだった。そんな彼女の表情を見た青年は、彼女の身体を強く抱き締める。
「大丈夫、ナツたちならきっと何とかしてくれるよ」
「そう・・・ですね」
その様子を遠目から見ていた少年は邪魔にならないようにと、音を立てずにその場を後にする。その表情は彼らを見ていた時の優しげなものとは異なり、怖さを感じさせるものだった。
「準備は整ってきているが、間に合うか」
心の中にある一つの不安。それに対し何もできない自身に少年は苛立ちを募らせていた。
シリルside
「つー訳で、そろそろ帰るわ」
それから戻ってきた俺たちは村の人たちに大歓迎されながら大いに宴を楽しんだ。
しかもあのアルタ・フェイスがエレンティアの魔力が膨らみ続けていた原因らしく、それが破壊されたことで魔力が原因で世界が壊れることは今後はないだろうということらしく、その安心感からか今まで魔力を消して回ってた巫女さんたちはいつも以上に騒いでいたらしい。
それとセレーネの部下だった三人の女霊術士はエレンティアの人たちだったらしく、この世界の方によって裁かれるらしい。
連れ去られる際にヨウコは悔しそうにしていたけど、グレイさんと戦った氷の霊術士はこれからの自身の受ける罰を想像してなぜか頬を赤くし、ルーシィさんと戦った大柄の女性は清々しい態度で彼女に再戦を頼み、断られていた。
「えーっ!!ずっとここにいてくれてもいいのに~!!」
「くっつくな婆さん!!」
「そうも言ってられん、この世界はもう大丈夫だろう」
その宴で大騒ぎしていたけど、俺たちはファリスさんの魔法により急にこちらの世界に連れてこられた身。しかもあの時はギルドのみんなも一緒にいたため、あまり長居をするわけには行かないと思った次第だ。
「・・・」
「ハッピー様、寂しくなりますぅ」
「でへへ・・・また会いに来るよぉ」
ムスッ
「怒らないの~」
トウカが恋心を抱いているハッピーとの別れを惜しんでいると、シャルルがそれに嫉妬しているらしくセシリーが宥めている。あまり見ない光景に俺もウェンディもニヤニヤしながら見ていたが、トウカはそんな彼女の方に向き直った。
「シャルルさんとセシリーさんも」
「「!!」」
「ハッピー様をよろしくお願いします」
「任せて~、シャルルがなんとかするから~」
「はぁ!?なんで私なのよ!!」
トウカに手を握られたセシリーはそれを華麗にスルーしてシャルルに全責任を押し付けている。急に話を振られた彼女は気恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
「ファリスさん?」
「どうしたんですか?」
そんな中、一人顔を俯かせたままこちらと目を合わせない人がいる。それは俺たちをここに連れてきたファリスさんなんだけど、気になったウェンディと俺は顔を覗き込みながら声をかける。
「私・・・皆様にどれだけの迷惑をかけたのか・・・」
どうやら白魔導士として妖精の尻尾のみんなを操ったことや今回の出来事のことを思い出し責任を感じている様子。ただ、それを俺たちは責めることはできない。
「この世界を救うためだったんでしょ?」
「セレーネにそそのかされていたんだ、気にするな」
「でも・・・私・・・」
なおも責任を感じ落ち込んでいたファリスさん。そんな彼女を見て、ナツさんが笑顔である提案をする。
「じゃあ一発殴らせろ、それでチャラだ」
「ダメよ!!」
「なんてこと言うんですか!?」
笑顔で悪魔のような発言をする彼にどん引いてしまう。いや、悪魔は悪魔なんだけどなんでそこまでの笑顔でそんな畜生的な提案ができるんだ?
「あんた加減知らないんだから本気で殴るつもりでしょ!?女の子でも!!」
「そうだけど」
何当たり前のこと言ってるんだといった表情のナツさん。ただ、ファリスさんはそれを聞いて深々と頭を下げる。
「お願いします!!気が済むまで殴ってもらって構いません!!私・・・この罪をどうすれば償えるかわからないんです!!」
涙ながらに彼の提案を受け入れるファリスさん。そして了承を得た彼は肩をグルグル回しながら歩み寄る。あくまで笑顔で。
「よーし!!じゃあ覚悟は決まったな」
「ちょっと!!」
「おい・・・ナツ・・・」
「待ってください!!」
「ナツさん!!やめてください!!」
彼の行動にざわつき始める周囲。ただ、エルザさんもそれを承知したらしく、俺たちが邪魔をしないように前に立つ。
「歯ぁくいしばれやぁ!!」
その怒声で覚悟を決めたファリスさんは目を閉じ全身を硬直させる。その身体は恐怖からなのか、震えていた。
「お前は俺の仲間を操って・・・仲間同士で戦わせた!!」
「はい・・・」
「そいつはなぁ・・・」
振り上げられた拳。しかしそれは、俺たちの予想とは異なるものだった。
「最高に燃えたぞ!!」
彼女の額にまるでグータッチのように当てられた拳。それを見た俺たちは彼の行動の意図を理解し、安堵の息を漏らした。
「いやー、久々にみんなとマジで戦えて楽しかったなぁ!!何ならもう一回やってくれよ!!バトル・オブ・フェアリーテイル第三回だ!!」
彼の上機嫌な姿にファリスさんは困惑していたが、その目に徐々に涙が溜まっていく。
「殴るんじゃねーのかよ?」
「殴っただろ?ガツンと!!「ありがとう」って心にな!!」
満面の笑みでそう言い放った彼を見て、ファリスさんは笑いながら泣いていた。
「なんで感謝されてるの?私・・・意味がわからない・・・です」
「それがナツなのよ」
高笑いしているナツさんと彼らしい行動に呆れながらも釣られて笑う俺たち。そして俺たちはエレンティアでの戦いを終え、アースランドへと帰るのだった。
トウカの水の翼によってアースランドのギルティナ大陸・ドラミールの町へと帰ってきた俺たち。そこでは以前どんちゃん騒ぎをしていた酒場でマスターたちが迎え入れてくれた。
「よくぞ戻ってきた」
「お帰りなさい」
思っていたよりも反応が薄いことに違和感を抱いたが、どうやらロキさんが俺たちのことを事前に伝えてくれていたからそこまで大事にはならなかったらしい。あの人の自由に出てこれる能力って便利だよね。
「ただいまー!!」
「みんな久しぶりー!!」
「グレイ様ー!!」
俺たちが戻ってくると真っ先に駆け寄ってきたのはジュビアさん。彼女はヨダレを撒き散らしながらグレイさんはと飛び付き、熱い包容を交わしている。
「ルーちゃんおかえりー!!」
「レビィちゃん!!身体の調子どう?」
「全然平気だよ」
急に普段とは違う大陸に連れてこられたものの、身体自体には影響もないようで元気そうなレビィさん。そんな彼女にナツさんがダル絡みしていると、ガジルさんから注意されていた。ただ、ガジルさんは戦おうとは思っていないようで軽くあしらわれていたが、ナツさんがあまりにも子供のようなイタズラを仕掛けたために怒りを抑えられず殴り合いに発展している。
「ハッピー、シャルル、セシリー。トウカはどうしたのだ?」
「エレンティアに残ったわ」
「残念だよねぇ」
「くねくねしないの~」
リリーがトウカのことを気にかけているのが妙に気になったが、どうやら滅竜魔導士でありながら相棒のエクシードがいないラクサスさんの相棒にしたいと考えていたらしい。ただ、それも彼自身に拒否されていたし、後ろでフリードさんがなんとも言えない提案をしていたためスルーすることにする。
「そういえばエドラスにも行ったんだろ?」
「エドラスのみんな、元気だった?」
どうやらエドラスに一度行ったことも聞いていたらしくカナさんとリサーナさんからそんな問いが飛んでくる。特にリサーナさんは俺たちよりもエドラスでの生活が長かったわけだし彼らのその後は気になることだろう。
「全員に会ったわけじゃないですけど、元気そうでした」
「子供も生まれたりしてましたよ」
「「「「「子供!?」」」」」
俺たちは7年間の空白があるせいでそれほどに時間が経っていたようには思っていなかったけど、あちらの世界であれだけの変化があったことを考えると時の流れを感じてしまう。
「魔力がないなりにみんな知恵を絞って生きてる感じで・・・」
彼らのことを思い出したウェンディは嬉しそうな笑みを浮かべている。魔法が使えなくなっても、世界が違くても妖精の尻尾の団結力は揺るがないのだと思わされたのもあるだろう。
を王子は・・・ミストガンは?」
「立派な王になっていたわよ」
「みんなに慕われてたよ~」
エドラス出身のリリーは特に親しかったミストガンさんのことを聞き出し懐かしそうにしている。そんな彼に同僚だったエドラスのエルザさんのことをハッピーが面白おかしく伝えていて衝撃を受けていた。しかもそれが真実だからまたなんとも言えない気持ちになるんだよなぁ・・・
それから思い出話に花を咲かせていた俺たちだったが話が落ち着いてきたのを見計らい出発に向けて動き出す。
「もう出発するのか」
「いやー、だってこかギルドみてーだし」
「長居すれば別れが惜しまれる」
「だね、この酒場すっかりホームみたい」
大陸を越えて来ているはずなのにまるでギルドにいるような錯覚に襲われるほどに溶け込んでいる。ただ、さすがにミラさんたちと焦り始めているようで、そろそろ帰ろうかと検討していたらしい。もう少し観光するとか言ってたけど。
「グレイ様~!!行かないでください~!!」
「そうもいかねーんだ、大事な仕事なんだからよぉ」
「ジュビア、シリルに変装して付いていきます」
「それはさすがにバレるだろ」
号泣しているジュビアさんがなんだかとんでもないことを言っていた気がするけど俺は耳を抑えて聞こえなかったことにする。そんな俺とウェンディのところに、別れのためかジェットさんとドロイさんが歩み寄ってくる。
「シリル、ウェンディ。ちょっと見ない間に大きくなったよな」
「成長期ってやつかな?」
「いやぁ・・・そんなに変わってないんですよねぇ」
「あ・・・でも少しの間だけは・・・」
社交辞令なんだろうけど、何度も言われていることだからそろそろ気にしてしまう気持ちもあり嬉しさ半分悲しさ半分といったところ。彼らの足元からセシリーとシャルルに催促され、名残惜しいけど俺たちはドラミールの町から旅立つことにした。
「そーゆー訳だから、みんなまたな!!」
「今度はギルドで会おーね!!」
「頑張れよ~!!」
「気を付けてなー!!」
「早く帰ってこいよー!!」
「バイバーイ!!」
「・・・と、旅立ったものの・・・」
「アテ・・・ないですよね」
意気揚々と旅立ったものの、よく考えたら俺たちはこれから先のことを何も考えていなかった。そのことに気付いた時には、もう町も見えなくなっていて引き返すこともできないけど。
「五神竜はあと三頭ですけど・・・」
「セレーネも行方不明、他の竜の場所もわからん」
「どーすんだよ!!」
水神竜さんの時は事前情報があり、アルドロンはその彼から居場所を教えてもらい、セレーネはファリスさんのおかげで遭遇することができた。ただ、ここからは本当に手がかりなし・・・この大陸のどこかにいるという情報だけで探すのは現実的ではない。
「私に考えがある」
手詰まりかと思っていたところ、大荷物を軽々と引っ張っている緋色の剣士には何か案があったようだ。
「一度、エレフセリアのところに戻ってみないか、これまでの報告と手がかりを得るために」
彼女のナイスな提案に俺たちは即座に賛同する。そうと決まれば善は急げと、俺たちはすぐさまエレフセリアのいる魔陣の竜へと向かった。
空から降り注ぐエーテルナノ。雪にしか見えないそれを懐かしく思いながら俺たちはギルドの中へと入っていく。
「相変わらずエーテルナノ濃度が高いわね」
「雪みたいですね」
「エレンティアでは降ってなかったんだけどね」
ここよりもエーテルナノ濃度が高かったエレンティアでもこのような光景は見られなかった。それだけここは神秘的な場所なのかとも考えることができる。
「そういやあのじーさん、普段は何してんだろーな」
「うむ。案外だらしない生活をしていたりしてな」
そんなことを話しながら奥へと進んでいく俺たち。すると、壁際で何やら壁画と向き合っているエレフセリアさんの姿を見つける。
「よ、久しぶり!!」
「ん?」
まるで友達に再会したようなテンションで声をかけるナツさん。だが、その声に彼は反応しない。そのことにハッピーが違和感を感じている。
「おーい。エレフセリアさん」
「どうした?じーさん」
「具合でも悪いの?」
聞こえていないのかはたまたわざとなのかわからずに近づく俺たち。彼の真後ろまで来たところで、彼が見ている壁画が何なのか気が付いた。
「見よ。これは五神竜を型取った石碑。水神竜メルクフォビア、木神竜アルドロンは封じられた」
「知っていたのか?」
「この石碑が知らせてくれたんですか・・・」
それはエルミナの町で水神竜さんが見せてくれた石碑と同じもの。そこに描かれている五頭のドラゴンのうち、二頭は色がなくなっており、それが力を封じられたドラゴンなのだとすぐに理解できた。
「この100年で初めて五神竜を打ち破るものたちが現れた。それも二頭も」
「だから言ったでしょ?オイラたちに任せとけって」
「言ったかしら?」
「調子いいよね~」
エレフセリアさんの言葉にどや顔のハッピーだけど、お前は言うほど何もしてないからな?と無言の圧をかけておく。
「実際にはメルクフォビアはいい人?だったし」
「アルドロンもギルドの総力で勝てたようなものだ」
「いかなる理由があろうと、二頭を封じた実績は評価に値する。君たちに任せてよかった」
ようやくこちらを振り向いた老人は満面の笑みを俺たちに見せる。そんな彼に向かって俺は駆け出すと・・・
「最初から知ってたなら教えておけやぁ!!」
「ほがっ!?」
顔面目掛けて飛び蹴りを放った。
「ちょっと!?シリル!?」
「何してるんだ!?」
突然の俺の行動に困惑しているウェンディとエルザさん。だけど、この人たちは大事なことを忘れてる。
「この人、石碑があるのに五神竜の情報水神竜さんの分しか教えてくれなかったじゃないですか!!」
「あ!!」
「言われてみれば・・・」
俺たちが五神竜がどんなドラゴンなのか知ったのは水神竜さんが教えてくれたから。もし彼がアルドロンみたいな悪い奴だったら、あそこで手詰まりになっていたかもしれない。
「ま!!待て!!ワシは忘れていただけで・・・」
「ふざけんなぁ!!」
「こんな大事な依頼の情報を忘れるんじゃねぇ!!」
俺のもっともな言い分に気が付いたグレイさんとナツさんも尻餅を付いている彼に蹴りを食らわす。そのまましばらくの間、俺たち三人による粛清が行われたが、見かねたエルザさんに止められ、ひとまず今後の話を詳しくすることになったのだった。
「なるほど。では、セレーネもあと一歩のとこまで追い込んだというのか・・・」
「いーや!!追い込んだのはあの侍だ!!」
謝罪の意味を込めて目の前に並べられた豪華な料理。それを頬張りながら俺たちはエレンティアで起こったことをエレフセリアさんに話していた。
「悔しいがあの侍・・・とてつもなく強かった」
「侍?」
「ディアボロスっつーギルドの奴らしい」
「スザクか・・・」
「知っているんですか!?」
わずかなヒントでその名前までこぎ着けたエレフセリアさん。どうやらディアボロスはこのギルティナ大陸一の魔導士ギルドらしい。そんなに有名なギルドだったのか。
「闇ギルドなのに?」
「いいや、ディアボロスはれっきとした正規ギルドじゃよ。確かにマスターゲオルグの素行の悪さはよく耳にするが、法に触れるような仕事はしていないはず」
あの人たちの素行から闇ギルドだと勘違いしていたけど、ちゃんとしたギルドだったのか。ただ、そうなると一つの疑問が生じる。
「でも変ね。あいつらは竜を狩るのが仕事みたいな奴らでしょ?ギルティナ・竜を狩るギルド。この100年クエストを遂行するために存在するようなギルドじゃない」
「確かに!!100年クエスト、ディアボロスには依頼しなかったんですか?」
「依頼は・・・した。数年前あのゲオルグに」
シャルルとウェンディの問いに答えるエレフセリアさんだったが、何やら歯切れが悪い。その理由はあのギルドと関係があるらしい。
「だが・・・その時はまだディアボロスは存在しなかった」
「どういうことだ?」
「ディアボロスは100年クエストをきっかけに作られたギルドなんじゃ」
なんでもディアボロスのマスターゲオルグはこの大陸で生き残っていたドラゴンを殺しては喰らってその力を得ていたらしい。そしてそれによりドラゴンイーターと呼ばれるようになった彼の元に多くの魔導士たちが集まり、ディアボロスが誕生したらしい。
「だからあいつらは五神竜のことを知ってたのか」
「でも・・・それってこの100年クエスト"誰にも口外してはならない"に反してない?」
「その通り。ゆえに依頼は破棄、その権利は別のギルドへと渡っていた」
「ならば奴らが五神竜を狙うのは立派な違法ではないか?」
エルザさんの言う通り、正式な依頼を受けていないのにそれに関与することは禁じられていたはず・・・そのことはエレフセリアさんも承知しているらしいけど・・・
「うむ。そこな悩ましいところでな。現在正式な権利は君たちにある。だが・・・いらいぬしとしては依頼が達成できるなら誰でもよいというのが本音じゃ。君たちには申し訳ないが、五神竜を封じるためならば、ワシはディアボロスをこの先も放っておくという判断をした」
その言葉にはさすがに納得できずに声を荒げる。だが、一番怒りそうなエルザさんだけは冷静に俺たちを宥めている。
「落ち着け、依頼主の気持ちになれば理解を示すべきだ」
「エルザさん」
「そうなんですけど・・・」
それでもやっぱり納得できない自分もいる。そう思っていると、突然彼女の表情が一変した。
「災厄級の竜を封じる、目的が同じなのは仕方なし。だが、我がギルドと敵対するつもりなら話は別だ。私は仲間の身を脅かすものには容赦しない!!」
冷静かと思われていたエルザさんだったが、自分は一番怒っていたらしい。それに乗じてナツさんと珍しくルーシィさんもヒートアップしていたことでエレフセリアさんが"ギルド間抗争禁止条約"のことを持ち出してきたが、それならディアボロスへの制裁をするべきだと反論する。それを受けた彼は先ほどボコボコにされたことを思い出したのか、小さくなって俯いている。
「おっと、もうこんな時間か。そろそろヒカゲが戻ってくる頃じゃ」
「ヒカゲ?」
俺たちの言い分を理解してくれたエレフセリアさんは暗い顔をしていたが、壁にかけられた時計の音を聞くとすぐに話題を切り替えてくる。
「老人の一人暮らしは何かと大変でのぅ、ワシの身の回りの世話をしてくれている者じゃ」
「この辺り、何もないですもんね」
老人じゃなくても生活に苦労しそうなこの地。そのヒカゲって人は今は遠くの町まで買い出しに行っているようで、この時間には戻ってくるとのことで紹介してくれるらしい。
「てーへんだてーへんだぁ!!」
どんな人なのかと待ち構えていると、突然翼を必要以上に羽ばたかせたカラスが建物内へと侵入してくる。
「おおヒカゲよ、ちょうどお主の噂をしとったところじゃ」
「え!?この人?が!?」
「カラス!?」
「しゃべってるー!!」
人じゃなくてカラスだったことが衝撃だったが、そのヒカゲは俺たちの真上を飛び回りながらなおもてーへんだと叫び続けている。
「エレフセリア様!!てーへんでがすよ!!大迷宮に侵入者でがす!!」
それを聞いた瞬間、エレフセリアさんの顔から冷や汗が大量に流れ落ちる。その様子がおかしいことに気が付いた俺たちは、問い詰めることにした。
「大丈夫ですか?エレフセリアさん」
「大迷宮!?」
「なんだそりゃ」
俺たちが彼に問いかけるとそれでヒカゲは人がいることに気が付いたらしく自己紹介とエレフセリアさんとの出会いのことを話し始めるけど、今は誰もそのことが頭に入っていかない。
「ヒカゲ!!今は昔話はよい!!一体何者が大迷宮に!?」
「ディアボロスでがす。それも黒滅竜騎団を引き連れて・・・ほぼ全力でがす!!」
「黒滅竜騎団?」
聞いたことがない名前に首をかしげる。だが、それにヒカゲが答えるよりも先にエルザさんはエレフセリアさんに大声で問いかけていた。
「大迷宮とは何なのだ!?なぜそこにディアボロスが・・・」
彼女の声が聞こえているのかいないのかはわからない。ただ、顔色がますます悪くなるエレフセリアさんは小声でブツブツと何かを呟いている。
「マズイ・・・マズイぞ・・・」
「てーへんだてーへんだ!!」
「あそこには・・・六頭目の五神竜が眠っている・・・」
後書き
いかがだったでしょうか。
エレンティア終わってすぐさま大迷宮かと考えると結構ハードですよね?このストーリー。アニメだとオリジナルストーリーとかでしばらく休息させてくれそうな気もするけど、ここで入れられるストーリーなんて私は思い付かないのでやりません。
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