恋姫~如水伝~
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二話
前書き
すごい、短いです。
すいません
如水が華琳の下に仕官し、半月余りが経った。基本は文官を務め、余暇を見ては、軍の鍛錬に当たった。当初は慣れない漢文、しかも自身の知る文体と多少異なる事。そして、一介の役所では竹簡を使う為に最初は戸惑ったが文字を華琳や秋蘭に教えられ、十日目には秋蘭を含む華琳以外全ての文官より優秀な存在となっていた。
執務室
「華琳、薪炭の仕入れについて、意見があるのだが」
「なに、申してみて」
「うむ、月に城内にある庭園の枯れ枝や草花を捨てずに薪の代わりにすれば、月の消費分の三割ほどになるのだが」
「そこまで考えて計算ができているなら。今までの毎月の薪炭の費用をあなたに直接渡すからそれであなたの好きにやってみなさい、浮いた分はあなた手元に預けて置くから好きに使って」
「…いいのか。この方法だと手元にはかなりの額が入ってしまうが」
「かまわないわ。あなたならそれも有効に活用しそうだから」
「費用がいくら安くなるのは聞かなくてもいいんだな」
「上手く使わなければあなたの取り分が減るだけのことだしね」
「了解した」
小なりとも城主として生きてきた如水は経理にも明るく、華琳の指示を受けるだけの秋蘭達と違い。自分で案件を提示し周囲に不満を持たせずに解決案を持ってくる点でも以下の文官らの無いところであり、如水の有能さを示していた
そして武官としては兵の鍛錬で自ら剣を振るう事は一切しなかったが。十人単位での戦闘指揮。百人単位での戦術指揮や部下の兵卒に対する気遣いや思いやりは端々に行き届いており、曹操軍の将では夏候惇と夏候淵の二人に並ぶ有能さを発揮していた。
「調子はどう如水」
如水が兵の鍛錬を終え城に引き上げ自分に与えられた部屋に帰ろうとすると華琳が声を掛けてきた
「ああ、最初こそ文化や風習に戸惑ったが今ではうまくやっていると思う」
「兵達からも受け入れられている様で安心したわ」
「最初は剣をまともに使えないことに春蘭に呆れられたがな」
「あの子らしいはね」
と華琳は笑い次の話題に入った
「その手に持っているのは?」
「今回の鍛錬の記録を付けた物だが今回の鍛錬の問題を挙げて今後の課題を考えようと思ってね」
「見せてもらって構わない?」
「君の軍隊の事だ遠慮されても困る、参考になるかわからないが」
そういって如水は記録した紙を手渡し華琳が目を通した
「さすがね、よく纏めているわ」
「褒められると恐縮してしまうな。恥ずかしい話だか君たちの様に実際に兵士たちの模範となる事ができないのでこのようにして兵士たちの事知るようにしている」
「そう謙遜しなくてもいいわ、私でも気が付かなかった事が書いてあったわ、上手く改善するように考えておいて」
「理解している、これを纏めて改善策を考えるつもりだ。そうなればまた目を通してもらいたいのだが」
「ええ、でも悪いけど明日までに頼むわ、こういう事は早いうちに解決したいから」
といって華琳は去って行った。
華琳~私室
夜に華琳は腹心の二人を呼び如水についての意見を陳べさせた
「如水の事改めてどう思うかしら、春蘭申してみて」
「はい、最初は剣一つ使わない事に呆れましたが、兵の統率には目を見張る物があります。そして華琳様や我ら二人にはとても及びませんが部下達の信望は厚いと見ております」
「そう、秋蘭はどう思う?」
「姉者の言うように武官としても見事ですが、文官としても優れているており、もはや私では如水の仕事についていくのが精一杯の有様で」
非の打ち所の無い逸材だと言わんばかりの二人の評価を聞き華琳も内心共感した。あれほどの人間をよく拾い上げたと我ながら関心していた、しかも如水の才幹はそれだけでは無いだろう。
まず如水の典雅さ、そしてその知性は恐らく兵学そして政事さらには天下国家の大事を語らせても超一流であろう。更には、それをけして表に出さずにいる見事な処世術。どれを見てもまるで人を補佐する為に生きている様な存在だった。
「世は荒れ始めている、朝廷の腐敗に賊の跋扈いずれ天下は乱れる。そうなればこの私が天下に名を上げるにはまたとない好機。そしてその風雲に乗じて天下を掴む。それには如水の力がいるというまさに天意なのかもね」
華琳が二人に聞こえないほどの小声で呟き、そして二人に改まって向き合い
「いずれにせよ、私はまだ力を付ける必要があるわ。これからも二人とも頼むわよ」
「「はっ」」
その翌日
華琳の執務室に如水が入って来た
「昨日の言っていた案件を持ってきたが時間は構わないか?」
「いいわ、見せてみて」
如水の持ってきた書類に目を通して
「これでいいわ、明日の鍛錬からこの方法を取り組むように他の者にも伝えておくわ」
「考えた甲斐があったよ、ではこれで私は失礼しよう」
「…待って」
部屋を去ろうとする如水を華琳は呼び止めた
「少し聞きたい事があるわ。…いいかしら?」
真剣な華琳の顔を見て如水も改まった
「何かな?」
「いきなりだけど。あなた私が天下を取りたいと言ったらどう思う」
「…そうだな、私は出来うる限りの事でその大事を助けて君の天下を描いて行きたいと答えるが」
「あなた正気?」
「質問に関しての答えなら、問いかけた君も正気とは思えないが」
「そうだけど…二つほど聞いていい?なぜ会って間もない私の為にそこまでするのそれとあなたは自分が天下を取るのに興味が無いの」
「そう言われれば真面目に答えるが。君ならそれを目指しておかしくないと思ったからだ、そして私も大きな事をするのが好きだからだ。それと私が天下欲しいかと言われれば…」
少し間を置き言葉を選ぶように
「私には自分の天下が似合わないと思っただけだ」
と言ってのけた
「あなた変わり者だと言われない?」
「よく言われたよおかげで友人と言えた人は二人しか居なかったぐらいだ」
そう言って笑った如水に華琳はからかうように
「なら、私が三人目になってあげようかしら」
と軽やかな声でそう言った
「それはとてもありがたいが、私には荷が重過ぎるので辞退させてもらおう」
「なぜかしら」
華琳は答えが解っていながら問いかけた
「君の様な人には恐らく真の友と言える者は今の世で生きていたら殺しあってしまうだろうからな。ちょうど劉邦と項羽の様に」
そういって如水は部屋を去って行った
一人になった華琳は去り際の言葉を思い出し
「あの男にそこまで買われているとわね。いいわ見せてあげましょうこの曹孟徳の覇業を」
と言って笑った。
後書き
最後の華琳と如水の会話は史実での毛利元就の言葉をもじっています
ちなみに友とは竹中と小早川の事です
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