Fate/WizarDragonknight
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お宝
「邪魔するよ」
海東は、軽い足取りでその場所に足を踏み入れた。
廃墟となっている教会。見滝原の外れにあるその場所こそが、海東の目的地だった。
『おい。何者だ?』
ステップする海東の脳に、直接声が響いた。
だが海東は驚くことなく、足を止めた。
「へえ、この声は……確かに聖杯が置かれているのは間違いなさそうだね」
『何者だって聞いてんだよ』
姿が見えないが、声だけは継続している。
海東はディエンドライバーを回転させながら取り出した。
そして、教会の中心部。割れている部分が多いステンドグラスへその銃口を向けた。
「まずは君から、その姿を見せたまえ。僕の自己紹介は、その後だ」
『……ケッ!』
舌打ちをするような反応とともに、その姿は現れた。
『……オラ、見せてやったぜ』
「へえ、コエムシか」
ディエンドライバーを下ろすことなく、海東はその名前を言い当てる。
巨大な頭と、それに見合わない小さな胴体。夢の国のマスコットにも似た頭部のシルエットの特徴は、海東も理解していた。
「なら、ココペリはいるのかい?」
『……何でココペリの事を知っていやがる? テメエと会った記憶はねえんだが?』
「ふん。まあそんなことはどうでもいい。士が言っていたこの世界のお宝を、早く僕に渡したまえ」
『お宝だァ?』
「そう。この世界のお宝……聖杯をね」
にやりと笑みを浮かべた海東は、そのままディエンドライバーを連射。
教会の座席を破壊していくディエンドライバーの銃弾。避けていくコエムシは舌打ちをした。
『聖杯が欲しけりゃ聖杯戦争に参加しやがれクソ野郎』
「そんな面倒なことはしたくないね。いいから早く渡したまえ」
『ムカつくぜ……行け! 俺様の処刑人!』
コエムシが叫ぶと、銀色のオーロラが現れる。
海東にとってもよく知るその能力。他の世界を繋げるその能力に、海東は舌を巻いた。
「へえ、その力、どこで手に入れたんだい?」
『教えてやる義理はねえ!』
コエムシが叫ぶと同時に、オーロラからは、金色の剣士が現れた。
赤い、ボロボロのマントを背中に付けた、赤く禍々しい頭部が特徴のそれ。黒のアンダースーツに、銀のアーマーを取り付けた彼は、手にした同じく金色の大剣を掲げる。
「どうやらあなたを倒せば、私は神に近づけるようだ……倒させてもらいましょうか?」
「仮面ライダーソロモンか」
海東は鼻を鳴らし、ディエンドライバーを回転させながら取り出す。
カードをそのスロットに差し込み、ディエンドライバーを天高く掲げた。
「変身!」
『カメンライド ディエンド』
無数の虚像が重なり、ディエンドの姿となる海東。
「ほう……お前も仮面ライダーか……」
ソロモンは首をひねりながら肩で笑う。
ディエンドはディエンドライバーの銃身を手で叩いた後、動き出す。
高速移動により、ソロモンの背後に回り込み、ディエンドライバーの銃身で殴りかかるが、ソロモンはその全てを受け流し、その大剣で応戦する。
だが。
「まあまあ待て。ソロモン」
その声に、ディエンドとソロモンは動きを止める。
電気さえ灯ることのないその教会で、コツコツと足音が聞こえてきた。
やがてステンドグラスから差し込む月明りに、その人物の姿が浮き彫りになっていく。
それは、怪しげなローブの男性。目深に被ったフードを外し、無精ひげを生やした中年がその顔を見せた。
「君は……確か……」
『何のつもりだ? アマダム……』
コエムシは苛立たし気に首を震わせる。
アマダム。
その名を聞いて、ディエンドはピンときた。
かつて、士が訪れたとある魔法石の中の世界。そこで、怪人たちを支配していたという存在が。
「確か、アマダムという名前だったね……」
「ディエンド……ディケイドの仲間の仮面ライダーか」
「仲間?」
ディエンドは、その銃口をアマダムへ向ける。
「止してくれたまえ。彼との仲はそんないいものじゃない」
「五月蠅いですね……」
だが、水を差されたソロモンは穏やかに終われない。
顔を左右に揺らしながら、ソロモンはその大剣をアマダムに向ける。
「私の……邪魔をするな!」
叫び出したソロモンは、大剣をアマダムへ振り上げる。だが。
「処刑人ごときが、ルーラーに逆らうな!」
アマダムはそう叫んで、ソロモンに手を伸ばす。
すると、新たな銀のオーロラが発生。ソロモンの前に立ちふさがる。
「な、何!?」
「引っ込め」
ソロモンが吐き捨てると同時に、オーロラがソロモンを包み込む。
アマダムへの罵詈雑言を飛ばすソロモンだったが、オーロラが通過すると、その声が全く聞こえなくなり、オーロラの存在とともにソロモンの姿もまた消滅していった。
数秒だけソロモンがいなくなった空間を見つめ、ディエンドはアマダムを見つめ直した。
「……君は、僕の邪魔をしないのかな?」
「フン? どうかな?」
アマダムは笑みを浮かべたままディエンドを睨む。
ディエンドは数秒アマダムの笑みを睨み返し、やがてディエンドライバーを向けた。
同時に、アマダムも手をディエンドに向ける。発砲されたディエンドライバーの銃弾は、アマダムの手のところでその動きを止め、空中で静止した。
「随分といきなりな奴よのう」
「生憎、僕は気が長くなくてね。コエムシでないなら君でも構わない。早く聖杯を渡したまえ」
「おやおや……少しのゆとりくらい、持ってもいいものじゃけんのう?」
そのままアマダムは、腕を振る。
すると、念動力に支えられた銃弾は、そのまま教会の座席に炸裂。一部の座席は、それで粉々に砕けていった。
ディエンドはそれに対してリアクションすることもなく、ディエンドライバーを撫でる。
「早く聖杯が欲しいんだ。どちらでもいい。早く出したまえ」
その言葉に、アマダムは眉を吊り上げる。「そうじゃの……」と考え込むような仕草に、コエムシが声を荒げた。
『おいアマダム! テメエ何勝手に話進めていやがる!? いいわけねえだろ!』
「悪いのう、コエムシ。余は、お主らに協力する義理はないのでな?」
『ルーラーとして召喚してんだぞ……!?』
「我のマスターはあくまで聖杯そのものであってお前ではない……失せろ」
アマダムはそう言って、ディエンドへ向けていた手をコエムシに当てる。
『ぐおッ!? な、何だ……!?」
すると、その手からまたしても念力が発生。風のように煽られ、コエムシの身体が吹き飛んで行った。
「ほう……」
「さて、ディエンド。私はルーラーのサーヴァント。他の参加者より、この聖杯戦争においては、聖杯に近い位置にいる」
アマダムはそう言いながら、ディエンドに歩み寄っていく。
「もし、お前が私に協力するというのならば、聖杯を貴様にくれてやることも考えなくはない」
「遠まわしな言い方だね。素直に僕に渡すと言いたまえ」
ディエンドは、またディエンドライバーをアマダムの手に押し当てる。
「無論、簡単に渡すわけにはいかん。私の要求は……分かるか?」
「参加者の始末かい? 楽勝だね」
ディエンドはそう言いながら、ディエンドライバーを叩く。
すると。
ガチャン、と音を立てて教会の扉が開く。
「海東!」
現れたのは、門矢士。
見慣れたスーツ姿に、ディエンドは内心躍らせた。
「やあ、士」
「ディケイド………!」
現れた乱入者に、アマダムは苦々しい顔を浮かべた。
ディエンドを、そしてアマダムを認識した士は、一気に顔を強張らせる。
「お前は……!」
「久しぶりだのうディケイド。お前たちにやられた恨み、忘れずにおけるか……」
憎々しい表情で士を睨む。
すると、士は手慣れた手つきでディケイドライバーを取り出し、腰に装着する。両手でディケイドライバーを開き、そのカードを取り出す。
「変身!」
『カメンライド ディケイド』
即座に変身したディケイドは、ライドブッカーでアマダムに斬りかかる。
だが、その足は、地面に被弾する弾丸によって止められる。
ディエンドが、ディケイドを妨害していたのだ。
「海東! アマダムに何を吹き込まれた!?」
「さあ?」
答えないディエンドへ、アマダムは語りかける。
「ディエンド。条件は二つ」
指を二本立てるアマダム。彼に振り向きながら、ディエンドはその答えを顎で促した。
「一つ。ディケイドを倒せ。そして二つ。ウィザードを倒せ。だ」
「いいだろう」
「海東!」
声をより尖らせるディケイド。
だが、ディエンドはそれを聞かない。その銃口は、これまで苦楽を共にしてきたディケイドに向けられていた。
「というわけだ。悪く思わないでくれたまえ。士」
発砲されるディエンドライバー。
ソードモードにしたライドブッカーでディエンドの攻撃を防いだディケイドは、大きく肩を落とす。
そして、しばらく無言でディエンドを見つめた後、ディケイドライバーで斬りかかっていった。
「嬉しいね、士。また君は、僕だけを見てくれている」
『アタックライド スラッシュ』
ディケイドはディエンドの軽口に答えることなく、カードをディケイドライバーに装填した。
ライドブッカーの刃が平行に増え、その威力を増す。一気にディエンドの体を切り裂いたそれは、一撃だけでは収まらない。起き上がりかけのディエンドを蹴り飛ばし、ディケイドのクレストマークが描かれたカードを取り出す。
「面倒だ。少し黙っていろ」
『ファイナルアタックライド』
容赦なくカードを差し込んだディケイド。
ディケイドはディエンドを___そしてその奥、祭壇に立つアマダムを睨んだ。
『ディ ディ ディ ディケイド』
ディケイドライバーを閉じ、その力を容赦なく発揮させた。
発生する、十枚のカード型のエネルギー。
だが。
「甘いよ士」
『ファイナルアタックライド ディ ディ ディ ディエンド』
いつの間に、カードをディエンドライバーに装填していたのだろうか。
ディエンドライバーを振るだけで、それはディケイドよりも一足先にその機能を発動した。
ディケイドがディメンションキックを発動し、十枚のカードのエネルギーが並び始めたころには、すでにディエンドのカード型のエネルギーがすでに道を完成させていた。
そして発射される、ディメンションシュート。
まだ数枚しか通過していないディケイドの攻撃を打ち砕くのに十分な威力のそれは、ディケイドのキックをディケイドごと破壊し、その姿を士に引き戻してしまう。
「さあ? まずは一つ。ディケイドを倒して見せたよ?」
「フン……」
アマダムは鼻を鳴らし、士に近づく。
そのまま士の襟を掴み上げた。
「ぐっ……」
「哀れよのう、ディケイド……あの時このわしをコケにしおって」
「フン……前に会った時にはそんな喋り方じゃなかっただろ? 自分のキャラくらい、安定させろよ」
「減らず口を……」
それ以上、士の発言を封じるように、アマダムの拳が士の腹に炸裂する。
吐血した士は、がっくりとその意識を失っていた。
「それじゃ、次はウィザードだね」
ディエンドの変身を解除した海東は、じっと士の後ろ姿を見つめていた。
「倒しはしたが……そこまで傷つけないでくれたまえ」
海東の言葉に、アマダムは不快そうに鼻を鳴らす。
「お前の知ったことか。それともやはり、仲間が痛むのは見て辛いかい?」
「そんな理由じゃないさ。ただ……」
海東は静かに、気を失った士へその指を銃のように刺した。
「彼の最期を飾るのは、この僕だ。それだけは、くれぐれも忘れないでくれたまえ」
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