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外典 【BORUTO】 その2

最近、日向の家で十五班のメンバーがよく集まっていた。

その理由が班員の一人である雀乃なみだが班長であるハナビの師事のもと水遁の修行を始めたからだ。

「水遁・水乱波(みずらっぱ)」

ピューと口から水を吐き出すなみだ。

今も日向の家で大木に向って水遁の修行をしている。

「ほら、なみだ。まだまだ続ける。だんだん威力が弱まってるわよ」

「ふぁい。水遁・水乱波」

なみだはハナビの叱咤に涙を流しながら印を組み上げ口から水を吐き出し続ける。

元々なみだは精神的に弱くすぐに泣き術に頼っているのだが、今の涙のそれは本当に泣いている。

「大丈夫かな、なみだのやつ」

と心配そうな声を上げたのは伊豆野ワサビだ。

「大丈夫だと思うよ。なみだ、一度は諦めそうになったけど、忍者になったじゃない」

心配していないと言ったのは同じく班員の篝スミレだった。

「そうだけどさー、スミレ。やっぱ心配」

「頑張ってるね」

と縁側に腰を掛けているのはこの家の子であるモンテ。その手には麦茶を持っていた。

「はい、少し休憩にするわ。水分補給も重要よ」

とモンテが持って来た麦茶を見たハナビが言った。

「水分補給はあと…で…うう…口が痛い」

疲れたとなみだが庭にある池の置石に腰を掛けた。

「本当、大丈夫かな…なみだの奴、なんかブツブツと独り言言ってないか?」

「そ、そうね。少し一人にしてあげましょうか」

「ワサビもスミレも薄情だね」

「そ、そんな事ないよ?」「そ、そうだぜ。な」

ワサビの言葉にコクコクとスミレが首を振る。

「まぁでも泣きもしないで頑張ってると思うわよ」

とハナビ。

「いや、泣いてるけど」

「モンテちゃーん?言葉の綾、よ」

「ひぃっ!」

蛇に睨まれた蛙の様に縮こまるモンテ。

「あー、本当に大丈夫か?なんかイマジナリーフレンドとか作ってねーかな、なみだのやつ」

「うん、うん、そうなのよ。分かってくれるんだ。うん?そうだね、泣き術は高周波攻撃に近いかな?うん、うん…」

「本当だ、あれはもうダメかもしれない」

末期症状だと独り言をつぶやいているなみだを見て可哀そうなものを見る目を向けるモンテ。

「うん、それも楽しそうだね。カメさん」

「……うん?」

カメなんて家の池に居たかしら?

ザパーと池の中から現れる二メートルほどの巨大な何か。

それはごつごつとしていて尻尾のような物が三本生えていた。

「あ」「あ…」「あちゃぁ~」「え、何々っ!?」

モンテ、ワサビ、ハナビ、スミレの順で声が漏れた。

「ふぇ…」

池に背中を向けていたなみだが振り返る。

いつもは泣き出すなみだだが、驚きすぎて泣く事も忘れたようだ。

その三つの尻尾を持った巨大な亀のような獣は掌位の勾玉へと姿を変えなみだの中へと吸い込まれて消えた。

「え、え…亀さんは…?」

「な、なみだ大丈夫だったっ!?」

駆け寄るスミレとゆっくりと悟ったかのように歩くモンテ達。

「えっと何が何だか…」

戸惑うなみだ。

「ええっと、家の池には三尾の尾獣が居たんだけど」

「ええ!?尾獣っ!?」

「尾獣って七代目様の九尾みたいな?なみだ人柱力になっちゃったって事?」

「じんちゅーりき?」

優等生のスミレは理解が早いがなみだは戸惑っているだけでまだ事態を飲み込んでいない。

「なみだ、あなた三尾に気に入られたみたいね」

ハナビがやれやれとため息を吐いて言った。

「ど、どうしよーっ!」

「はわわ、大丈夫なんですか?」

「人柱力になったくらいで死にはしないわよ。それにほら、人柱力はここに二人も居るじゃない」

安心するように、とハナビが言う、。

「え?」「まさか…」

ワサビとモンテの臀部辺りから尻尾が生えて来た。

ワサビは炎に揺らぐような尻尾が生え、モンテには毛で覆われてはいるが恐竜のような尻尾だ。

「ちょっと諸事情があって日向家では二尾から七尾までの尾獣の面倒を見ててね、相性の良さそうな子供とお見合いして気に入ればその子と一緒に外に出ても良いと言う事になっているの」

日向家には強力な結界が張ってあるとハナビが言う。

「それであたしは二尾に、モンテは四尾に気に入られたって訳」

ニカと笑いながらワサビが言う。その表情にはどこも不幸そうな感じはない。

人柱力のイメージが和らいだのはやはりナルトの功績が大きい。まぁワサビもモンテも身内以外には内緒にしているのだが。

「チョウチョウは七尾の人柱力だね」

ここに居ない同期であるチョウチョウもとモンテが暴露する。

「えええ」「はわわ」

「だ、大丈夫なんでしょうか、なみだ」

スミレが心配そうにハナビに質問した。

「大丈夫よ。彼自身が選んだんだもの。だから嫌わないであげて」

「だ、大丈夫です。嫌いになんてなりません。ただ、ちょっと混乱して」

となみだ。

「なら大丈夫ね。まだみんな子供みたいなものだから一緒に成長しなさい」

「は、はい…よろしくね…えっと…いそぶ?うん、よろしく、磯撫くん」

「口に出すと独り言を言っているみたいだぞ。念じれば互いで会話が出来るはず」

「そう言う事は早く行ってっ!恥ずかしいよぉ」

モンテの注意を聞いてワサビが恥ずかしさにしゃがみ込んだ。

「それと、なみだはしばらく家に泊まり込みで修行ね」

「え…?」

ハナビの言葉になみだが顔色を失った。

「水遁もそうだけど尾獣の制御の仕方も勉強しないと。家に帰っている暇は無いわよ」

「ひぇぇえ」

なみだ涙目である。

「た、助けて、ワサビちゃん、スミレちゃん」

「むり、がんばれ」「はわわ…が、頑張ってねなみだ」

「この裏切者~」

「ちょと、うちは鬼の住処じゃないわよ」

「鬼の方が優しいし~」

「なみだ、そんな事を言うと」

「ナ~ミ~ダ~?」

「へぐっ…」

ハナビに睨まれ涙も止まったらしい。変なしゃっくりが出たようだ。

なみだが水遁と泣き術の威力が大幅に向上したころ、スミレは忍者を止め化学忍具班に移動する事になった。

どうやら前々から決めていた事らしいのだが、なみだの成長で踏ん切りがついたようだった。


「どうしたの二人とも」

サラダがいつもの日課と日向家で修行をしていると、どこか怒ったような様子のワサビと困ったようななみだに気を取られた。

「なんでもねーよ」

フンとそっぽを向くワサビ。

「なみだ?」

ワサビに問うのを諦めたサラダはなみだに問う掛けた。

「えっと、その…わたし達の班に新しく入ったメンバーなんだけど…」

どうやら抜けたスミレの代わりに入ったのは鉄の国からの留学生で鉄(くろがね)ツバキと言う侍少女らしいのだが、その少女は忍者に良い印象を持っていないばかりか、上から目線でけなしてくるらしい。

「それは…仲良くは出来ないかな…」

サラダも真顔だ。

「だよな、わかってんじゃんサラダ」

「もう、二人ともやめてよっ」

なみだはどうやら仲良くやって行きたいようで、どうして良いか分からずにオロオロしていた。

「たのもーーーーっ」

そんな話をしていると玄関の方から大声で呼ぶ声が聞こえる。

パタパタと廊下を走る音がして、しばらくするとモンテが小柄の少女を連れて現れた。

「あーーーっ!」

「え、何?」

大声をだすワサビに戸惑うサラダ。

「あら、お二人とも」

「ツバキちゃん」

なみだの言葉を聞くに彼女が件の留学生のようだった。

侍と言う事だが、やはり腰に刀を帯刀している。

「何しに来たんだ」

ワサビが詰め寄る。

「別にあなた達に用事が有った訳ではありません」

とツンとすまし顔のツバキ。

「てめぇ。じゃあ何しに来た」

「あなたにお伝えする事でもありません」

「こんのぉっ!」

一触即発の雰囲気を醸し出すワサビとツバキ。

「もう、止めてよ二人ともっ!」

今まで我慢して来たぶんなみだの感情が爆発。それに伴いボコボコと赤いチャクラがなみだから噴き出し衣を形成する。

「や、やばっ!」

「落ち着いて、なみだ」

ワサビとモンテがなみだに駆け寄り落ち着かせると紅いチャクラはなりを潜めた。

「何が…」「っ…」

サラダとツバキはなみだに気圧されて身構えていた。

「喧嘩しない?」

「それは約束できねーな」

「ふぇ…」

「わかった、分かったから。チャクラ漏らすなよっ」

まだ人柱力になったばかりのなみだは感情のコントロールを誤ると自然と三尾のチャクラが漏れてしまう。

そうなれば辺りは大惨事なのでワサビが折れる形で宥めた。

どうにか落ち着きを取り戻したなみだにようやくサラダとツバキの警戒が溶ける。

「何があったのモンテ。なみだどうしちゃったの」

「……もう少ししたらね」

サラダの問いにまだ時期尚早と答えないモンテ。

「はぁ…わかったわ。…で、結局彼女は何しに来たわけ」

とここでツバキじゃ無く案内をして来たモンテに来訪の理由を問うた。

「道場破りだって」

「はい…?」


今の日向家には隠れ里には珍しい事に剣術道場を所有していた。

剣術道場とは言っているが、その門下生は殆ど居ないただの剣術練習場と言った感じだ。

ツバキがその道場の真ん中で正座をして待つ。

壁際にはモンテを始め先ほどメンバーが全て正座をしてツバキの対戦相手である誰かを待っていた。

遅れて扉を開けて入って来たのはアオだった。

「遅れたかな」

「六代目様?」

疑問の声がサラダから漏れる。

六代目火影と言えば木遁を始めありとあらゆる忍術を扱う忍術のスペシャリストとして有名で、そのイメージは剣術とはかけ離れていると言って良い。

「それで、要件は?」

正座をしていたツバキが立ち上がり礼をして要件を告げる。

「一勝負お願いしたく存じます」

「本当に道場破りだったっ!?」

なみだが驚きの声を上げた。

「侍である君が忍者でる俺に?」

「はい」

その視線は真剣だ。

過去、侍から忍者へと鞍替えした者は多く、侍は時代遅れとまで言われる始末。ゆえにツバキは忍の里にある剣術道場全てを否定したい気持ちでいっぱいなのだ。

「…木刀?それとも真剣?」

「あなたが怪我をしても良いと言うのであれば真剣でお願いします」

「ツバキのやつっ……止めろツバキっ!」

ワサビが叫ぶ。

「六代目様が心配なのも分かるけど、ワサビが止める事じゃ…」

「ちげーよサラダ、あたしはツバキを止めたんだっ!」

「え?」

ツバキの熱意にアオは壁に掛けてあった真剣を二本持ち出して腰に差した。

「まぁでもこれくらいはね」

ボンと煙を立てるとアオの姿が変化の術で若返る。

「ちっちゃい」

「かわいい…」

「サラダ、なみだしっかりして。あれわたしの父様だから」

「「はっ!」」

ツバキの身長は低く、元のままでは振り下ろす戦いしか出来なくなるとアオが相手に会わせて縮んだのだ。

「バカにして…」

ツバキが名刀クロサワを抜く。それに合わせてアオも刀を一本抜いた。

「小太刀…?」

ツバキから見てもその刃渡りは短い。

開始の合図は無いが、互いの臨戦態勢にまずツバキが動いた。

「はっ」

様子見の一撃はアオに軽々と受け止められ金属のぶつかる甲高い音が道場に響く。

わたしはとんだ思い違いを…

ツバキほどの実力者になれば一刀当てるだけで相手の実力が分かる。

まぁ本来は当てる前に察知できなければ戦場では生き残れないのだが、それには相手が悪すぎた。

普段の気配が巧妙に隠されていてそこらの一般人と言われても頷いてしまいそうだったからだ。

くっ……

キィンキィンと剣戟の音が響く。

「すごい、すごーい」

はしゃぐなみだ。

「六代目様と互角…」

「サラダの写輪眼は節穴ね」

「だな」

モンテの言葉にワサビも頷く。

「父様が本気なら打ち合う前に倒しているわ」

「え?」

流れる様に体を動かしているように見えるアオだが、その動作は本気からは圧倒的なまでに遅い。

「それにほら」

そう言ってワサビがアオの腰を指す。

「二本目?」

「本来、父様は二刀流だよ」

アオは御神流小太刀二刀の使い手だ。

それが小太刀一本とはどれだけ手加減している事か。

「えいっ…はぁっ!」

刀が空を切る音が聞こえる。

ツバキの攻撃は焦りからか精彩を欠いて来た。

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

ついには膝を着き肩で息をしているツバキ。

「参りました…」

ツバキが悔しそうに呟く。

「六代目様って強かったんだね」

となみだ。

「あたしも六代目様が本気で戦った所見た事ねーからな」

とは小さい頃から日向家に来ているワサビの談。

「わたしはこの間初めてみたわ」

とモンテが言う。

大筒木モモシキを倒したのがアオだと言う事は周知の事実だった。

「ど、どうだった?」

「一言で言うと」

ごくり

モンテを囲んだサラダ、ワサビ、なみだの唾を飲む音が聞こえた。

「チートよチート。あれは強さの次元が違うわ」

たはー、とモンテ。

次元と言ったモンテだが、正確には方向性(ベクトル)が違うと思ったのだが、サラダたちには伝わらないだろう。

モンテは過去、途轍もない理不尽な力を持つ存在を数多く見て来た。

苦戦する事も多々あった。

星を、銀河を、宇宙すら破壊できるような存在にすら会った事が有る。

その様な存在に比べれば確かにアオは矮小だ。

地球一つ破壊しつくす事も出来ないだろう。

だが、戦えば最後の瞬間に立っているのはアオだろう。

拳を振り上げる相手に拳で返す訳ではなく、勝てる手段で確実に相手を倒す。

でも流石に全王さまは………うーむ……自信ないなぁ。父様なら勝っちゃうかも?

どんな強敵でも必ず勝つ手段を見つけ、どれだけ低確率でも成し遂げる者こそをカンピオーネと言うのだから。


ツバキはクロサワを納刀し居住まいを正し、クロサワを自身の右に鍔を足元の方に向けて正座をする。

これは刀を自身が一番扱い辛い所に置く事で相手に敵意が無い事を示す為だ。

この状況ではツバキはどうやっても一息で刀を抜いて斬り付けることは出来ない。

「数々の非礼をお詫びします」

と言って深々と頭を下げるツバキ。

「そしてどうか、弟子にしてください」

「「「「「はい?」」」」」

道場に居たツバキ以外の全員から同じ言葉が漏れた。

その後のツバキの行動力には目を見張るものが有り、いつの間にか日向家に居候している始末。

家の中の事にも良く気づき、お手伝いさんのプライドを傷つけない範囲で手伝っているものだから彼女達からの評判も良い。

「真の侵略者は侵略した事にすら気づかせないものよ…」

とはモンテの談だ。

そして日向家に居る時間が増えれば剣術だけでなく、当然ハナビからの修行も受ける事になり同じ地獄を味わう仲間として十五班の仲も深まって行った。

日向家、いや六代目火影式での修行の順番は、他の先生方とは違いいささか特殊だ。

先ず初めに影分身の術を教え込まされる。

「く…このわたしが忍術などと」

「こら、口答えしないっ」

ハナビの叱咤でツバキが押し黙る。

覚えたならそれからの修行は全て影分身をしながら行う。

経験値の還元はとても有用で、もしかしたらボルトが頭が良いのも要領が良いのも影分身のおかげなのかもしれない。

「そう言えば、モンテって影分身使えないわよね」

「ぐ、サラダ…ひとが気にしている事を」

「ご、ごめん。でもだったら尚更不思議で」

サラダの目にもモンテの格闘技術の高さは異常に写っていた。

「まぁ努力しましたから…ええ…死ぬ気で……」

何度か本当に死んだ事もあるとモンテが心の中で呟く。

人生何度目かでなければ影分身を使えない自分に嘆いていたかもしれない。

「そう言えば、ボルトが使っていた化学忍具なら影分身も使えるかな」

と考えて。

「ダメね」

フルフルと首を振る。

「どうして?」

「自分のチャクラじゃ無いからあの影分身は側だけ似せた偽物で、大幅なスペックダウンしてるし白眼や写輪眼では見切れてしまうもの」

経験値の還元も無いしね。とモンテが続ける。

例えるなら好き勝手動くNPCの別パーティで主人公たちに何の経験値も入らない。

「まぁ、例え使えたとしてもわたしとは相性が悪いわ」

身体的強度に依存する体術使いのモンテ。それとチャクラを圧縮して放つかめはめ波とチャクラを分散しては意味がない。

チャクラコントロールの修行で十分な成果が出ると今度は食義の修行に入る。

これをマスター出来ればチャクラ量は大幅に上がる。

家のエンゲル係数を犠牲にはするが…

秋道家のエンゲル係数はチョウチョウの事もあり留まる事を知らない。

「く…何で咲かないのよ」

それはアオが用意した感謝の念で咲く花だ。

サラダの修行はようやくこの段階まで来ていた。

「そりゃ感謝の念が足りないからよ」

ほら、とモンテが持った花は簡単に開花する。

「しゃーんなぉがぁっ!」

手に持った花に気合を込めるサラダ。

「感謝って言葉しってる?」

今まで順調だったサラダもこの修行には躓いている。

「まだまだ先は長いよ。食義を覚えたからってその先に猿武、さらには仙人モードの修行もね」

モンテの究極は身勝手の極意だが、アオとの修行で咄嗟に出てしまったそれを物の数日で会得した事にモンテは当時とても腹がっ立ったものだ。

だが、思い出してほしい。

アオの経験値はそこらの人間の何千倍とある事に。

身勝手の極意よりもかめはめ波や界王拳にテンションが上がっていたのは何故だろう?

なんて事をぼんやりと思うモンテ。

「仙人モードって七代目様の?相応のチャクラ量と肉体的な強度が無ければ会得は不可能だって聞いたよ」

とサラダ。

「その為の修行じゃんか。ダイジョブ…母様もママもその辺の調整は上手だから…死ぬ一歩手前で上手に鍛えてくれる…はずよ」

「全然大丈夫に聞こえないんだけど…」

ちょっと待って、とサラダ。

「じゃあもしかしてモンテって仙人化できるの?」

「当然じゃん」

スッと自然エネルギーを取り込むと紅い隈取がモンテの目の周りを覆う。

「いろいろ驚きつかれたわ…もしかしてチョウチョウやワサビも?」

「いや、あの二人は出来ないよ」

「なんで?」

「必要ないからかな」

「どういう意味?」

完璧なる人柱力である彼女達は尾獣チャクラとリンクし、好きに使える。

尾獣チャクラがそもそも自然エネルギーの塊で、練るチャクラはそもそも仙術チャクラに近い。

そのモードのチャクラを更に自然エネルギーを混ぜる事は出来ないのである。

そこから自身のチャクラを切り離し自力で仙術チャクラを練り上げれるモンテの方が異常なのだ。


最近、ボルトも真剣に修行に励んでいるようだ。

先日の任務で何か思う事が有ったらしい。

それで、今ある手札の強化にと螺旋丸を強化できないかと考えたボルト。

「だー…だめだ…」

ボルトは手に出していた螺旋丸を霧散させると修行場で地面に寝転がる。

「どうしても大きくならねー」

ボルトの螺旋丸はナルトが使うそれの十分の一の大きさもない。

「チャクラ量の問題ね。ボルトも一緒にハナビ先生の修行を受けよう」

とサラダ。

ボルトのチャクラ量は父親のそれを受け継がなかったようで平均よりも少ない。

幼少の木ノ葉丸ですらいっぱしの、それも影分身をして無理やり作るような螺旋丸ですら通常の大きさだった事を思えば涙が出てくる。

「そんな時間が掛かる事はしてる暇ねーってばさ」

うん、根っからの小手先人間な所は変わらず。

「そう言えばモンテの気円斬も螺旋丸に似た技だろう。ちょっと見せてくれってばさ」

「良いけど」

キュイーンとモンテの掌に現れる気円斬。

「すげぇ」

気円斬とは圧縮したチャクラを一方向に高速回転させている技だ。

その切れ味は鋭く鋼鉄すら切り裂く。

「けど、ボルトにとって何の解決にもならないわね」

とサラダが眼鏡をクィと上げた。

「どうしてだってばさ」

「結局それも螺旋丸と一緒って事。ボルトじゃ小さい気円斬になるだけね」

「あー…結局振出しに戻るって事かよ」

ゴロンと寝転がるボルト。

「まぁボルトはわたしと違って遁術が出来るんだから属性変化を加えてみたら?今のままよりは威力が上がるかもよ」

「父ちゃんの風遁螺旋丸みてーなやつか…」

再び突破口が見えたボルトはやる気をみなぎらせた。

「あ、ごめんボルト。時間切れだ。あたしも修行に行かないと」

「う、って事はわたしもじゃん」

「付き合いわりーなっ!」

「ボルト…そんな事はハナビ先生のお説教を受けてから言いなさい」

ズゴゴゴゴとサラダが凄む。

「い、行ってらっしゃいだってばさ…こっちはシカダイ達にでも頼む事にするよ」


「凄い」

「どーだってばさ。発想の転換だってばさ」

数日たってボルトに呼び出されたモンテとサラダが見た物は大きくするのではなく逆に極限まで圧縮し螺旋丸だった。

その威力は直径二メートルほどの大岩を粉々に粉砕するほどの威力を秘めている。

「つっ…」

「ボルトッ」

「なんでも無いってばさ」

咄嗟に右腕を隠すボルト。

「隠しても無駄無駄」

サラダがボルトの右腕を捻り上げた。

「だーーっ…いてーじゃんかよっ!」

「相当ダメージがあるみたいだね。溜め時間も長いし多様は出来ないと思うよ」

とモンテ。

「けどよ、これくらいしなきゃ。父ちゃんに見てもらいてーんだ」

聞けば数日後にボルトとナルトの忍組手の披露がアカデミーで有るらしい。

「情けねー姿はもう見せられねーからな」

とキリとした表情を浮かべるボルトはどこか大人びていた。


モンテは今アカデミーにある闘技場の観客席に座りこれから始まるボルトとナルトの試合を観戦して居た。

観客席にはアカデミー生を始め、他の下忍などの現役忍者も多数居るようだ。

「ん、あれは…?見間違いかな」

一瞬ナルトの右手にウェブシューターのような物が見えた様な?

気になったモンテは白眼でナルトの右腕を透視する。

「これは……」


ボルトとナルトの試合が始まった。

ボルトは成長した自分を見てもらおうと、手裏剣術、体術、遁術を使い果敢に攻める。

流石に相手は火影の名を継ぐもの。ボルトは簡単にあしらわれているが…

得意の風遁、雷遁、それと水の無い場所にも関わらず高威力の水遁まで使いこなすボルトのその成長は中忍試験の時とは比じゃ無いくらいだ。

だと言うのに…

水遁と雷遁のコンボ忍術。

これをくらえばナルトと言えどただじゃすまないだろうと言う攻撃。

避けるべきその攻撃に突き出した右手。

そしてナルトが中央のボタンを押す。

すると掌のスイッチへと吸い込まれるようにしてボルトの忍術が消えてしまった。

「ち…そう言う事かよ」

ボルトの表情が歪む。

ボルトは中忍試験の時に化学忍具と言う使用禁止忍具を使い失格となった。

確かに今回の忍組手に化学忍具の使用を禁止する項目は無かっただろう。

だが。そうだが、である。

そう言った過去のあるボルトに、それを諫めたナルトがボルトに対して化学忍具を使う事がどういう事かもう少し考えられなかったのだろうか。

「強くなったじゃねぇか、ボルト。よくやったな」

そう言って手を伸ばすナルト。ボルトは何とも言えない表情を浮かべている。

褒められて嬉しい?

いいや、否である。あれは諦めだ。

ニカと笑っている表情が憎らしい。

わたしが憧れたNARUTOはそう言う大人じゃないっ!

「よくやったなじゃ、ねぇっ!」

ドンと叩き付けられるモンテの踵落としにナルトは頭から地面にめり込んでいる。

人柱力じゃ無ければ死んでいたかもしれないほどの一撃だ。

「も、モンテ…?」

踏みつけられた頭を必死に上げるナルト。

「あ?それでもてめぇはボルトの親か」

静まり返る会場。

モンテの殺気に火影の護衛すらこの場に立ち入る事が出来ずにいた。

「ああ、くそっ!結界班っ!」

シカマルはそれでも何とかしようと急いで闘技場に結界を張った。

「良くもまぁボルトの前でそんな物を使えたな、あ?」

ナルトを足蹴にしながらモンテが言った。

そんな物とは化学忍具の事だ。

「やめろモンテ、こんな事をすれば…子供の遊びじゃねぇんだぞ」

「子供の遊びじゃ無ければなお悪いわっ」

「く…」

ボコリと溢れる九尾のチャクラ。

「ふん」

「がっ!」

点穴を踏み抜き、九尾のチャクラを抑え上を向いていた首につま先を引っかけ顎を蹴り上げると、そのまま空中に浮いた体に廻し蹴りを叩き付けた。

ズザザーと煙を上げて地面を転がるナルト。

「必死になっている子供に、自分に憧れている子供に、楽しみにしていた子供にこの仕打ち。……謝って」

「も、モンテ…」

「謝りなさい。今のあなたは父親としても、火影としても失格だわ」

ボルトを見ればいつの間にか結界外へと避難させられていた。

「くそ、話をききやしない…これは一度落ち着かせねーと」

モンテにとって今のナルトは自分の非を認めない大人に写っている。

「うまく手加減出来ねぇかもしれねぇぞ」

一瞬でナルトの目元が黄色に染まる。九尾のチャクラを封じ込められた為だ。

「仙術ですか。…でもそう言う言葉は強い方が言うものだよっ」

気合を入れたモンテの髪の毛が紫色に染まって逆立つ。

モンテはサイヤ人では無くなって超サイヤ人に変身する事は出来ない。

しかし我儘の極意はサイヤ人の変身形態ではない。

生まれ変わったモンテの気の質は前世と変わらなかった。

そして我儘の極意とは一種の極致。技術だった。


ドンとモンテが空気を置き去りにした。

「がっ!はやいっ…!」

モンテは怒りの感情を闘争心へと変換してナルトを殴りつけただけだ。

結界が張ってあるとは言え、この広さの闘技場では大規模忍術は使えない。

自然と闘いは徒手空手となるのだが…

「がっ……ぐ……かはっ……」

モンテにナルトが徒手空手で敵うはずがない。

いつもモンテはサンドバッグにされているイメージだが、それは相手がおかしいだけだ。

その頭のおかしな次元に居る相手にモンテは食らいついていたのだ。

そんな相手に比べれば目の前のナルトなどどれほどのものか。

「くっ…」

ボボボボボンと現れる100を超すナルトの影分身。

「死なないでくださいね」

キィーーーンと掌で回転する気円斬。

その気円斬を投擲するではなくチャクラを込めて巨大化し形態変化。

武道場の結界ギリギリ前で伸ばした。

ポポポンと消えるナルトの影分身。

避ける事ができた影分身もナルトは解除した。何故か。

それはこの気円斬がモンテの影分身など使うなと言うメッセージだったからだ。

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

本体のナルトの目の前で巨大化するのを止めた気円斬に冷汗を流す。

「わたしが好きだったNARUTOは泥臭くも相手の心が分かる少年でした。それが今のあなたは何ですか」

ポツリとモンテが言う。

「全力で挑んできた息子に反則技で相手をするなんて…それも化学忍具で中忍試験を失格になったボルトに対して」

がっかりだとモンテ。

「きっと化学忍具の性能テストと言う事であったのでしょう。でもそれは今、あの試合、ボルトが本当に自分の実力をあなたにぶつける事が出来る試合でするべき事でしたか?そんな事、他の機会があったでしょう?さらに言えばあなたがやらなければいけない事でも無かったはずだ」

さらに続ける。

「あなたはきっと火影になって人の心が分からなくなったんですね。…そんな人は火影になるべきじゃない。わたしが好きだったNARUTOは火影を目指したあなたで火影になったあなたはみてられない」

自分はルールを無視をした少年時代。大人になって今度は自分がルールを順守させる立場になった。

だが、モンテはそう言う事を超越した主人公でいて欲しかったのだ。

相手の事を思いやる心のある優しい火影に。

しかし今のナルトは自分の家族すら思いやる心を忘れている。

ナルトは里の皆が家族だと言う。

博愛は良いだろう。しかしそれは愛を知らない者の事を言う。

薄愛と変わらない。

愛を知ってこそ、その余力で他者を慮れる。

ナルトにもそんな存在でいて欲しかった。

「子供の理屈だっ!」

「子供の理屈も分からない大人になんてなるんじゃないっ!」

再度ぶつかり合うナルトとモンテ。

が、やはり徒手空手はモンテに優位だった。

「く………しまったっ!」

距離を取ったナルトが目の前の強敵に手加減を忘れて風遁螺旋手裏剣を投擲し、その後で正気に戻ったらしい。

「この程度。どうかしましたか?」

投擲された螺旋手裏剣を掴むモンテ。

その腕は切れもせず、また拡散するはずの螺旋手裏剣は膨張する事も無く…

握りしめるモンテ。

「破壊」

螺旋手裏剣は跡形もなく消失した。

ナルトから殺気が漏れ始めた。

「………こっからは手加減出来ねぇぞ、モンテっ!」

突かれた点穴を強引に開いて九尾のチャクラを纏うナルト。

「結局、それ(九尾)があなたを人じゃなくさせるんですね」

他者を超越していると言う驕り。他者との隔絶。

どんなに人との繋がりを学ぼうと、究極の所ではナルトは孤独だった。

ナルトの愛は庇護と言うエゴだ。

「モンテーーーっ!」

圧倒的なチャクラ量で殴りかかって来るナルト。

しかしモンテの容赦のないカウンター。

「他人の痛みを知れパーンチっ!」

「ぐぅ…」

ドンと打ち出されるモンテの拳に吹き飛ばされて宙を舞ったナルトは地面を転がって気絶した。

しかし変化はそれだけでは無かった。

ナルトの中から朱色の大きな狐が分離したのだ。

「これはっ!」

九尾の狐はドンと結界に当たって直立する。

「おすわりっ!」

「きゅーん」

圧倒的な殺気を込めたモンテの声に九尾の狐は尻尾を丸めた。

それを確認して我儘の極意を解くと髪の色が元に戻る。

「ナルトっ!?」

駆け寄るシカマル。

「何をした、モンテ」

と現状を把握しようとシカマルがモンテに問い詰めた。

モンテがした攻撃はスピリットの強制分離だ。

「見てわかりませんか?九尾を火影から剥がしたんですよ」

「な、馬鹿な…そんな事をすればナルトが死んでしまうっ」

「大丈夫です。綺麗に剥がしましたから、死にはしないはずです」

剥がれにくい粘着シールを細心の力加減で綺麗に剥がす様に、とモンテ。

シカマルが確認すれば確かに意識は無いが、呼吸はしっかりしている。

「モンテ、お前…」

「良かったじゃ無いですか。火影様はわたし達と違って強制だったでしょう?」

「ぐ……九尾をどうするつもりだ」

「しばらくは日向で預かります」

「ナルトが納得するかな」

「え、知りませんよ」

「知らないって…お前なぁ…」

「しばらく離れてみるのも良い経験になるのでは?火影さまは九尾のせいもあって対人関係が歪です。今の火影は他者より少し強い程度ですからね。…仙人モードを使わなければ」

「俺にはその仙人モードをも圧倒するお前の方がこえぇよ」

「そんなわたしも父様には敵いませんし…はぁ」

「だが、確かにそうかもな。ナルトには同じくらいの力を持った仲間が居なかったから」

とシカマルが寂しそうに笑った。

サスケがナルトとライバル視されているが、尾獣の力を持っていないサスケは究極のところナルトには敵わない。

漫画の最終決戦はサスケが一尾から八尾の尾獣の力を得ていたからこそ互角だっただけだ。

それは孤独だろう。

父様には母様達が、わたしにはチョウチョウ達が居る。

それはナルトと大きく違う所だ。

「しかし、この騒動をどうするつもりだ?」

シカマルが半壊している会場を見て呟いた。

「………どうしましょう?」



……

………

後日、火影室の執務イスにはアオの姿があった。

モンテも先日の事件の始末書を書いていた。

「まさか一年ちょっとでまたここに戻って来る事になるとは…」

はぁとため息を吐くアオ。

なぜこんな事になったかと言えば、ナルトが自身を見つめ直し、力不足から火影を退いたからだ。

そんな混乱のなかで新しい火影を選ぶより前任者に任せてしまおうと言うのが大名たちの決定だったようだ。

ナルトはと言えば今は火影の補佐をしつつ定時で上がる様になり家では良いお父さんをしているらしい。

ボルトとの仲も修復されたようで何よりである。

今日も既に帰宅していた。

「まったく…お前には呆れる」

「まぁ父様の娘ですから」

とモンテ。

「俺に平穏は無いのか…はぁ」

「平穏…わたしにも縁遠い言葉ですね…はぁ」

二人がため息を吐く。似た者親子だった。

「しかも厄介そうな案件が残っている」

「なんですか?」

「殻と言う組織のようだが…」



……

………

飛行船墜落の原因の調査に出かけさせた木ノ葉丸が積載物と思われる人物を連れて里に戻った。

カワキと言う名の少年らしい。

「ランク付けは済んであるから」

と話すモンテ。

うん、何が有った?

「襲って来たからぶん殴ってやったわ」

別任務に送り出したモンテ達7班は木ノ葉丸と合流して戻って来た。

「あ、そう…」

我が娘ながら脳まで筋肉で出来ているのではないかと心配してしまう。

「どんなヤツだ?」

「えっと、全身化学忍具のアームズみたいなヤツだった」

今アオはモンテと一緒に木ノ葉の里の隔離医療施設へと向かっている。

そこにカワキが収容されているからだ。

「それより問題は楔(カーマ)ね」

「楔(カーマ)?」

「そう、楔。カワキの左手にあったの、父様の同じようなものが」

とモンテ。

「それは…」

まじかー。

「それとボルトにも」

「はい?」

「ボルトの右手にも有ったの、その楔…」

うわー…

「ボルトの方はまず大丈夫だろう」

「え、そうなの?」

「ああ」

モモシキを魂ごと殺したのはアオだ。

「問題はカワキってやつだが…まぁ会ってみる他ないな」

そうこうしている間に病室へと到着。

「アオ先生」

病室の入り口で警護に当たっていたのはナルトだった。

「ナルト、少年は」

「今は大分落ち着いてるってばよ」

それに頷くとアオが入室。

だがアオが入室した瞬間、険しくなるカワキの表情。

「お前…楔(カーマ)を…」

さらに殺気が膨れ上がる。

カワキの右手が変形し、硬化。巨大な拳を作るとアオへと襲い掛かった。

それを止めたのは仙人化したナルトだ。

巨大な拳を易々と受け止めている。

「そこまでだ、カワキ」

「くそ、…あんたがそう言うなら」

と言ってベッドへと腰かけるカワキ。その態度は不良そのもの。

「厄介な体だね…うーん、殺しちゃうか」

自然と出たアオの言葉に誰も反応が出来ず。

さらになんて事も無いと言う感じで短刀を持ち出しカワキを二か所斬り付けた。

「え…?」

「だ、大丈夫か、カワキっ!」

心配そうな声をだすナルト。

「…何をした…?」

カワキが不思議がるのも無理はない。

抜かれた短刀。しかし血が噴き出る事はなかった。

「答えろよっ!!………!?」

再び手を硬化させようとしたカワキ。しかしその手が変化する事は無かった。

驚いて両手を目の前にあげるカワキだが、その手に楔も無くなっていた。

「直死の魔眼……やっぱチートじゃん」

と理解したのはアオを除けばモンテだけだった。

「お前の化学忍具と楔を殺した。もう二度と使える事は無いな」

アオが飄々と答える。

「そん…な…あれだけイヤだったのに…こんな…こんな事が…」

その衝撃はカワキの精神で受け止めきれずに気絶。

「カワキッ」

ナルトがその体を抱き留め横たえた。

「さて、その少年をどうするかだが…」

「問題がねーならうちで預からせてくれねーか、アオ先生」

とナルトが言う。

「しばらく監視もつけなければならないが」

「その監視も俺がやるってばよ」

ナルトの実力は九尾が居なくなってもこの里で十指に入る。

「ナルトなら安心か」

「全然安心じゃなーい」

とモンテ。

「子育て失敗してるし」

「う…そこは反省しているってばよ…」

痛い所を突かれた、とナルト。

「だが、モンテが言っていたように、他人の痛みを分かる人間でいてぇ、だから」

「だってさ」

「まぁ、父様が決めた事だから」

とモンテが引き下がった。

その後、カワキの口から殻についての話を聞いて、解散。

どうやら殻とはジゲンと言う人間が中心になって活動している組織で、インナーと呼ばれるメンバーが中心になって何かの目的を成そうとしているらしいのだが、カワキ自身は余り知らないようだ。

カワキは親に売られて以降どこにいるかも分からない場所で楔を埋め込まれ、体を改造され、戦闘訓練を続けさせられる日々を送っていたと言う。

結局殻について分かった事は少なく、結局相手のアクション待ちだ。

これは面倒な事になったとアオが肩を落とした。




うずまき家に居候する事になったカワキはナルトの監視の中、ボルトの修行に付き合う形で郊外へ。

楔を失ってはいるが先達であるカワキがボルトに楔の使い方を教えるためだ。

化学忍具事件以来、そう言った力には否定的なボルトだったが、力が無ければ対抗できないような敵の存在に躊躇いながらも修行を受け入れたようだ。

「ボルト、どんな感じ?」

丁度暇だったモンテがボルトの修行に付き合っている。

「余りうまく行ってねぇ」

「以前は使えてただろ」

とカワキ。

「あの時は必死で…訳もわからず」

楔が発動できずに気を落とすボルト。

「でも楔の事ならうちに来なよ」

「モンテん家?どうしてだってばさ」

「え?だって父様も母様達も楔を使いこなしてるし」

「は?」

「あれ、ボルト知らなかった?」

「そう言えば額に同じマークが付いてるなとは思ってたけど、綱手のばーちゃんやサラダの母ちゃんにも有ったし」

サクラと綱手の額は百豪の印で、楔とは異なるのだが、見た目が酷似していた。

ボルトがそう考えるのは無理もない事。

と、その時。

モンテが嫌な気を感じる。

「嫌な感じがする」

「今感知班から連絡が入った。一直線にここに誰かが向かっているらしい」

とナルトが言う。



殻の事もあり、チャクラ感知システムを改修した木ノ葉の里。

その感知システムに触れた何者かは上空を一直線に進んできている。

そしてモンテ達の前に着地する。

「で、デルタ…」

カワキの呟きにどうやら殻のメンバーらしい。

「なんて事なの!?カワキ、楔はどうしちゃったのっ!?」

開口一番慌てふためくデルタ。

「オメーには関係ないだろっ」

左手を後ろに隠して虚飾を張るカワキ。

「テメーが殻か」

「知ってるわ、あんたは火影でしょ」

「火影?」

何のことだとカワキ。

「もと、な…」

とバツの悪い態度のナルト。

「もと?まぁいいわ。行くわよカワキ。さっさと連れ帰ってもう一度楔を刻まないと…あなたの体はあなたの物じゃない、器なの」

「く…」

「あんまカワキを物扱いすんなよ。今は俺の家族で、守るべき絆だ」

「あんた」

「父ちゃん…」

カワキとボルトが感動していた。

「どうしても邪魔をするってんならまずあんたをぶっ殺して連れて帰るだけよ」

「下がってろ三人とも」

「やめろ、そいつはヤベーんだ」

「家族の一人くらい守れないで何が大人だ。火影なんて語れる訳もねぇ」

そうして始まったナルトとデルタの戦い。

ナルトは九尾を失っても歴戦の雄である。

モンテには負けてしまった訳だが、仙人化と螺旋丸は使えるし、影分身の数も多い。

だが、相手は全身化学忍具とでも言っても過言では無い存在で、四肢は変形して伸縮硬化し、切っても再生する。

挙句の果てはその眼に仕込まれた瞳術は相手の技を吸収し、保管。任意に撃ち出せる。

この効果でナルトの螺旋丸も楽々吸収されてしまった。

「うわぁ…スゲーチート」

とはモンテの言葉だ。

「かはっ…」

対してはモンテに九尾を抜かれていて回復力を失っているナルトは変形したデルタの足に腹部を貫かれた攻撃に激痛が走った。

「これで終わりね」

キュイーンとデルタの眼前に何かが発光する。

「避けろっ!」

カワキの絶叫。

「くっ…!」

カワキの声で不穏を感じたナルトは地面に縫い留められている体をよじり火事場のバカ力でデルタの足を掴んで体制を崩す。

バシュとデルタの視線から発射される光線。

「しゃがめ、お前らっ!」

「おわっ!?」「おっとっ!」

その光線はモンテ達の頭上を通過し、背後にあった巨石や巨木を消滅させた。

そう文字通り、消滅だ。

「あの攻撃は一度でも当たったらおしまいなんだっ」

カワキが叫ぶ。

「く、くそ…」

距離を取ったナルトは劣勢にくぐもった声をだした。

「だが、そう何発も出せる攻撃じゃねーだろ」

「そうね。でも一発当たればお終い。そしてあなたは私を倒す手段がない。ゆっくりやるわ。あなたを殺してカワキを連れ帰る。それで任務完了」

とデルタが言う。

「そうだっオーバーヒートだってばさ、父ちゃんっ!」

ボルトが叫ぶ。

「ああ、分かってる。だが…」

破壊光線の使用限界、もしくはチャクラ吸引の限界。そのどちらも九尾のチャクラを失ったナルトでは満たす事が出来ない。

「しかたない…」

とため息を吐くモンテ。

「選手交代」

「モンテ?」

「どうかっこつけようが今のナルトさんでは勝てませんよ」

「それはやってみなければ分からねーってばよっ!」

「じゃあやってみたから分かったでしょ」

「く…」

小娘に論破されたナルトが下がる。

おとなしく下がったのはモンテの実力が今のナルトより上だと分かっているからだ。

そして二人掛かりで掛からないのはモンテの武術にナルトが併せられないから。

「小娘の相手なんて舐められたものね」

「出来ればわたしも面倒事は御免なんだけど…」

しかし状況がそうも言ってられない。

このままじゃ援軍が駆けつける前に全滅だ。


ドンとモンテの体から凄まじい熱量が発せられる。

変化は如実に表れ、モンテの髪の毛を銀に染めた。

「前の時も思ったが、チャクラが全然感じらんねー」

とナルト。

「だけど、今のモンテは前の時と全然違うってばさ」

ボルトもモンテの変化に驚いていた。

「髪の色が変わったくらいでっ!」

デルタが仕掛ける。

次の瞬間、モンテの体が消えた。

いや、正確には眼でも追えない程速いだけだ。

「がっ…」

「……」

モンテの拳がデルタ腹部に打ち付けられる。

「このっ!」

目の前にナルトから吸収していた大玉螺旋丸を現してモンテを攻撃。

「………」

無造作にモンテはその大玉螺旋丸を掴むと反対に押し込む。

放出と吸収は一度には出来ないのかデルタは首をひねって回避。

しかし回避した所にはすでにモンテの拳が迫る。

「くっ…」

ドンと吹き飛ばされるデルタ。土埃を上げてようやく止まった。

「つ…つえー」

とボルト。

「強いってもんじゃねぇ…なんなんだあいつは…攻撃しているはずなのに、殺気ってものがねぇ」

カワキが獣の感覚で感じ取る。

「ああ…戦闘中だと言うのにモンテの心は凪いでいる…」

とナルト。

「この…くそがっ!」

撃ち出されるデルタの破壊光線。

「………」

その光線をモンテは最小の動きで回避。

「ちょこまかとっ!」

連射される破壊光線。

「…………」

次の瞬間、デルタが破壊光線を発射するよりも速くデルタの背後に移動したモンテの肘うちはデルタの頭部を捉え、彼女の視線が自身の下腹部へと向けられ、そのまま発射。

「きゃああああああああっ」

自分の攻撃で自身の半身を消し飛ばしたデルタ。

この攻撃にはさすがのデルタの再生能力も及ばない様だ。

「殺すっ!」

上半身だけになっても生きているデルタは鬼の形相でモンテに顔を向けた。

発射される破壊光線。

「………」

しかしやはりモンテには当たらない。

「すました顔をしてんじゃねーわよっ!」

モンテがかわした先に地面に潜らせて伸ばしていたデルタの右腕。それを刃に変形させてモンテを襲う。

「………」

ドン

踏み抜いたモンテの右足は地面を砕き、デルタの右手を粉砕した。

「ぎゃぁあああ」

踏み抜いた地面にあおられて宙を舞うデルタ。

「かーめー…」

腰を引いたモンテの掌にはチャクラが圧縮されている。

「はーめー…」

「ばかっチャクラは吸収されてしまうんだぞっ!」

「波ーーーーーーーーっ!」

「バカな子」

にやりと笑ったデルタ。

「へ…?」

デルタが吸い取れる量を軽く超えて勝手に強化されたチャクラで放たれるかめはめ波は一瞬の均衡も許さずデルタをその細胞の一つまで消し飛ばした。

終わってみればモンテの完全勝利だった。

「…………ふぅ」

髪の色が元に戻る。

「あー…疲れた…」

始終優勢だったモンテだが、やはり消耗したようで地面に倒れ込む。

「やっぱり身勝手の極意が一番消耗が激しい…」

片膝を着いて何とか堪えるモンテ。デルタを圧倒したにしてはモンテの息が上がっていた。

「化け物か…あいつは」

「いやぁ…否定出来る所は少ねぇが…まぁモンテの父ちゃんよりはマシだ」

「あんな化け物よりも上がいるってのか…木ノ葉の里ってのは」

ナルトの言葉にショックを受けた様子のカワキ。

「ちくしょう…モンテのやつまだこんな力を隠していたってばさ」

ボルトも自分の右手を握りしめ無力さに嘆いていた。


火影室で書類仕事をしているアオの元に、任務に出ていたサスケが入って来た。

「面倒な事になった」

「どうした」

と問い変えずアオ。

「十尾だ」

「………はい?」

落下した飛行船に入っていたデータ、その中に時空間忍術の座標が記されていた。

その場所は輪廻眼クラスの時空間忍術でようやく移動できる場所で、その調査にサスケが出ていたのだが…

「まさか十尾の幼体とはな」

罠を覚悟で乗り込んだサスケが見た物は、奇妙な石碑と封印されている十尾の幼体だった。

「もう一度行こうと思ったがどうやら座標を変えられたらしい。だが、目印は置いて来た。あんたなら飛べるだろう」

とサスケが言う。

「ジゲンってやつも見たが、あいつはヤバイ。放って置いたら厄介だな」

「面倒だなぁ…」

しかし厄ネタは速めに処理するのが鉄則。時間が経てば好転する何て事はけして無い。

「悪いが、イズミとハナビを呼んでくれ。緊急事態だ」

背後に向っていったアオの言葉に暗部が音も無く駆けていく。

報告が終わったサスケはやる事が有ると退出。

入れ替わる様にイズミとハナビがやって来た。

「暗部を寄こすなんて、何が有ったの?」

アオくんらしくないわねとハナビ。

「緊急事態だ。どうやら十尾がまだいるらしい」

「はい?」「十尾ってあの十尾?」

驚きの声を上げるイズミとハナビ。

装備を確認して十尾の居る座標へと移動するアオ達。

「うわぁ…本当に十尾だ」

「それにここって…」

「大筒木の技術だろうな」

ため息を吐くアオ。

囚われている十尾はこちらを見つけると威嚇し始めた。

「だが、好都合だ。こういう時は溜め技の一撃必殺と相場が決まっている」

ボス戦の前までに必殺技ゲージを溜めておき、取り合えず初撃で大ダメージを与えるのはゲームの基本だ。

アオは初撃必殺技派だった。

「アオ…」「アオくん」

「負ける訳にはいかないのだから、卑怯だとかそう言う言葉は無しだ」

「まぁそれはそうね」「やっと手に入れた平穏を壊されてはたまったものじゃないものね」

直死の魔眼、輪廻写輪眼、転生眼が十尾を見下ろしていた。

「行くぞ」


アオ達が十尾と戦っている時、入れ違いで木ノ葉の里に襲撃を仕掛けて来た殻のリーダーであるジゲン。

どうやらカワキに用が有ったらしく、ナルトの屋敷を奇襲したジゲンは、ナルトに阻まれてナルトを連れて時空間移動で消えたらしい。

モンテはたまたま街で出会ったサラダが過敏に挿す花を届けると言う彼女に連れていかれる形でうずまき家を来訪。

そこに異変を感じて出先から戻って気たボルトも加わってカワキ襲撃事件を知った。

「つまりナルトさんはどこか別の次元へと連れていかれた、と」

「ああ…」

意気消沈のカワキはそう呟くのが精いっぱいのようだ。

「うーん…」

そう言ったモンテは額に右手の人差し指と中指を立てて添える。

確かにこの星にナルトさんのチャクラは感じない。

モンテは感知を銀河へと広げる。

いない…これはもう別の次元かな。

まだここにはジゲンの空間転移の痕跡が残っていた。

そこからナルトのチャクラを辿るモンテ。

「……いた」

「居たってどこにっ!」

カワキが怒声を上げる。

「だいぶ遠い所だねぇ…ちょっと行って来る」

「ま、まてっ!」

瞬間移動するモンテの肩を取るカワキ。

「待てってばさっ!」「ボルトも急にどうしたのっ!」

そのカワキを制止しようとしたボルトとそのボルトを止めようとするサラダ。

一瞬、彼らの体がモンテと繋がっていた。

その瞬間モンテが瞬間移動。


「どこだ、ここはっ!」

荒野のような礫地。

「移動した?」

「時空間移動?モンテ…」

「まったく、なんで付いて来たかなぁ…」

呆れるモンテ。

しかし連れて来られたカワキ達はすぐに異変を発見した。

「珍しい客人だな。ここは時空間転位じゃ無ければ来れないはずだが」

「ボロ…てめぇ」

カワキがボロと言って初老の巨漢の男は、大きな蓋の閉まったお椀を守る様に立っていた。

「モンテ、七代目様は…」

とサラダ。

「あれからナルトさんのチャクラを感じる」

「なっ…父ちゃんっ!」

「封印術か…」

ナルトに対しての沸点の低いカワキとカワキをほっとけないボルトはすぐにボロと交戦。

「ちょっと二人ともっ!」

サラダに二人を止められるはずなく。

二人はボロの溶遁と圧倒的な回復力の前に倒れる。

「モンテ、二人を回収して撤退するよっ!」

「本当、ついてこないで欲しかった…」

サラダがボルトを、モンテがカワキを担ぎ岩陰に隠れる。

「二人とも意識が…」

「ボロが印を組んで出していた黒い霧、多分あれは毒霧だよ」

正確にはウィルスなのだが、それを判別できる人物がここには居なかった。

「このままじゃ二人とも…」

「解毒出来なきゃ死ぬね」

「くっ…」

だが解毒手段が無い。

里に帰ったとしても新種の毒、または病原体の処置は難しい。

「仕方ないなぁ…」

とモンテが意を決した。

「モンテ?」

ハナビとアオの子供であるモンテはその素養も半分ずづ遺伝していた。

『やるのか?』

とモンテの中の四尾が言った。

『頭がパンクする前に封印よろしく』

『しゃーねえな』

モンテが素早く印を組み右目の前で構える。

「解っ!」

閉じていたモンテの両目が開かれるとその両目はそれぞれ違う輝きを放っていた。

左目の輝きは転生眼の輝きがやどっている。

そして右目には…

モンテはアオに貰った特別製のクナイを持ち出すと、ボルトとカワキをその右目で視る。

「ぐぅ……」

「モンテ…その眼はっ……大丈夫なの!?」

「ちょっとダイジョブじゃない…けど…見えた…」

ボルトとカワキをそのクナイで刺す。

瀉血(しゃけつ)と言う医療がある。緊急時に血をわざと抜く事で改善を求める方法だ。

サラダはそれを毒を抜く行為と思った事だろう。

しかし血が出ないと言うのにボルトとカワキの容態は安定した。

「あああああああっ!!」

「ちょっとモンテっ!な、なにがっ!?」

「あああああっ!!!」

モンテの手が右目を潰そうと伸びる。

『封』

右手が眼球を潰そうとした瞬間。すぐさま四尾がモンテの両目を封印する。

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…直死の魔眼はキツイ…」

モンテは直死の魔眼の効果でウィルスを殺したのだ。

しかし使い慣れていないモンテは死の点を視る程に酷使すれば発狂してしまう。

それでは危ないので普段は封印しているのだ。

「白眼にそんな力が有ったなんて」

とサラダ。

「いや…どうなんだろう…ね?転生眼ならまだ分かるんだけど」

モンテが地面に膝を着きながら答えた。

数分で容体が回復したカワキとボルト。

わたしがどんなに苦労したかっ!危うく死にそうになったのにっ!

再びナルト救出に意気込む二人が恨めしい。

「無策で突っ込んでもまたあの黒い霧にやられるだけよ」

とサラダが止める。

「再生能力が厄介ね」

もうマジで勘弁願いたい。セルとかブウとかそう言う再生能力持ちの敵は…

とは言え、そう言う敵もどうにかして来たモンテ。

なんなら最後はアレの出番かな…

最強封印術。魔封波である。

「どうするんだってばさ」

「アイツの体は全身化学忍具のような物だ。そして開発者のアマドにも人間である以上限界がある」

カワキが内情を語った。

「どう言う事?」

「奴の体のどこかに心臓くらいの大きさのコアがある。それを破壊すれば流石に死ぬはずだ」

ふむ。

「なるほど。不死身で余裕ぶってるけど、実は天敵がここに居るって訳だ」

「モンテ?」

と首を傾げるサラダ。

「わたしの眼は?」

「そうか白眼っ!」

「弱点が分かれば途端にザコに見えて来たわ」

「どう言う事だ?」

と分からないのは木ノ葉の里に疎いカワキくらいだった。

「ただ、どうにかして相手の動きを止めないと」

「どうしてだってばさ」

「どうしても遠距離攻撃になるからね」

とモンテ。

「そこはわたし達に任せて。トドメはモンテに任せて良いわね?」

「もちろん」

サラダを先頭にボロへと向かうカワキとボルト。

「さて、それじゃあ…」

小山の上に立ち額に人差し指と中指を当てチャクラを貯めるモンテ。

この技はチャクラを溜めれば溜める程、速度と貫通力が高まる。

ゆっくりと時間を掛けてチャクラをチャージ。

サラダたちは持ち前の遁術で遠距離攻撃を仕掛けている。

「今よっ!モンテっ!」「任せたってばさ」「ここで決めろっ!」

ボロが三人の攻撃で防御に止まった一瞬。

遠距離からでもモンテの白眼はボロのコアをその眼に写していた。

そして…

「魔貫光殺砲っ!」

「な、なにっ!?」

突き出した指から高速のビームが発射され、発射と着弾はほんのひとコンマ。ボロの体にあるコアを破壊し、その余波でボロの体を粉々に焼き尽くす。

「ちょっと溜め過ぎたかな」

完全なオーバーキルだった。

「こえー…」「なんて威力だ…」

「うん、モンテを怒らせるのだけはやめましょう」

サラダの言葉にコクリとボルトとカワキが頷いた。

その後、封印されたナルトごと元のリビングへと瞬間移動で戻り、封印解除は後でイズミが行いこの事件は解決した。


数日後。

殻のインナーであるアマドを名乗る初老の男性が木ノ葉の里に亡命を求めて来訪してきた。

火影の執務室へと通されたアマドだが…

「テロリストとは交渉しない」

すぱっとアオが言ってのけた。

「おいおい六代目火影、良いのか?それじゃぁシカダイくんが死んでしまうぞ」

来訪直後にアマドは奈良シカダイの首に爆弾をセットしたと言う。

「火影様っ…」

必死の形相のシカマル。

「やめろシカマル。シカダイじゃ無ければお前ならどうした」

とはアオが火影に再任した為に戻されたシカクさんだ。

「く…だが親父…」

悔しそうなシカマル。しかし内心、シカダイじゃ無ければアオと同じことを言ったと言う自覚がある分複雑だ。

「火影様、シカダイくんを連れてきました」

と言って入室して来たのは気絶しているシカダイを担いだ暗部統括のサイだ。

「ご苦労様…さて」

とアオが椅子から立ち上がると一瞬彼の瞳が輝いて。

早業で抜かれた短刀はシカダイの首に着けられた爆弾を切断する。

首輪のようにはめられたそれは爆発せず、まるで役目を終えたように床に落ちる。

「なっ…」

驚いたのはアマド。

シカマルとシカクは安堵の声を上げている。

「この展開は予想してなかった…七代目が罷免された事をもう少し重く見るべきだったか…」

一気にアマドの状況が劣勢に陥った。

手に入れた手札(ジョーカー)をいとも簡単に切り捨てられたからだ。

「イビキを呼んでくれ。後は彼に任せよう」

森のイビキ。拷問・尋問のスペシャリストだ。

「待ってくれ…今が大筒木イッシキを倒す絶好のチャンスなんだ」

この情報なら六代目火影の気が引けるかもしれないと必死のアマド。

「で?どうせ情報は後で手に入る。さよならだ」

取り付く島もない。

「まて、待ってくれっ!お願いだ…俺の話を…」

その時ずり落ちたアマドがかけていたメガネから小型のプロジェクターが搭載されていたのか、突如として映像が壁に映し出された。

「これは……」

映像はジゲンに離反したインナーの誰かが攻撃を仕掛け、ジゲンを大筒木イッシキに転生させてしまっていた。

その映像と拷問で得たアマドの情報からジゲンとは大筒木イッシキと言う大筒木一族の器で完全な器であるカワキを欲している。

しかしアマドの仲間が離反し、カワキで転生するはずの所に急きょジゲンで転生したらしい。

ジゲンは器としては軟弱で、彼の命はもって二日。

その間に木ノ葉の里を襲撃し、カワキに再び楔を刻むだろうとの事。

「大筒木イッシキ…」

大筒木が関わっているのならば、それはアオが本気になる場面だ。

「どうする、火影様。大筒木はすぐにでも襲って来るだろうよ」

とシカクが言う。

寿命があと二日しかないのならそれは一分一秒も無駄に出来ないだろう。

「イッシキの器が本当にカワキだけなら最悪二日間カワキを隠し通せば良い。だが…」

「アマドが知らない予備があるかもな」

「な、親父」

焦るシカマル。相手は大筒木だ。それくらい衝撃的だった。

「可能性が無い訳じゃ無い。だからイッシキは俺が相手をする。俺なら不死すら殺せる」

「火影様っ!」

「シカマル。それが一番確実だ。最悪俺が死んだとしてもナルトが居る。里の事は大丈夫だ」

火の意思が途絶える事は無い。

「くそ…それしか手がねぇのか…」

「相手の能力が分かっているぶんまだ楽な方だ」

イッシキの強さは身体能力もさるものながらその瞳力に依存するところが大きい。

左目には白眼を有し、右目には少名碑古那(スクナヒコナ)と大黒天を有している。

少名碑古那(スクナヒコナ)は物体を小さくしてどこかの空間に保管し、大黒天はその時間の止まったどこかの空間から元のサイズで取り出す事が可能なのだと言う。

先日ナルト達がジゲンと戦った際は黒い棒のような物をナルト達に気が付かずに元の大きさで取り出して突き刺し、巨大なキューブのような鉱物で押しつぶしたと言う。

モモシキの時のように必中の権能で潰したいが、そのような能力なら当てる事は出来ないだろう。

慌ただしく準備を進めていると火影室にやって来る二人の人物。

「イズミ、ハナビ」

どうした、とアオ。

しかし大筒木イッシキの事を承知している二人は意を決したように言葉を発する。

「今回は当然、わたし達も行くわよ。ね、ハナビ」

「ええ、もちろん。相手はあの大筒木なんですから」

とハナビも頷く。

「かっこよく一人で行くと言えれば良いんだがな…」

「大丈夫。そんな事言わなくてもアオくんはカッコいいわよ」

ハナビがウィンク。

「一人で行って帰ってこない方が辛いわ」

イズミはそう言って目を伏せた。

「ありがとう。二人とも」

カワキは白眼でも見透せない地下の特別空間へと幽閉し、里の人達は一時避難をさせ大筒木イッシキを迎え撃つ。



「来たか」

チャクラ感知班がイッシキの襲来を感知。すぐさまアオ達が迎え撃つ。

当然のように空を飛ぶイッシキに太刀打ちできる忍者はアオ達だけだ。

舞空術で空を飛び、イッシキを正面から出迎えた。

すでに楔を発動させ、六道仙術も使っている。

「正直帰ってくれると助かるんだけど」

「六代目火影、大筒木に連なるもの。そして大筒木の使命を忘れた者よ。邪魔をするな、カワキを出せ」

とイッシキが言う。

「出す訳無いなこのはた迷惑ヤロー。お前は今日ここで死ね」

イッシキの表情が歪む。

「そこまでとは…いくら大筒木の末裔とは言え許せん。お前たちは今ここで殺してやろう」

グンとイッシキの瞳が光る。

「アオっ!」

ハナビが来ると叫ぶ。

「もう写(と)ったっ!」

日像鏡(ひがたのかがみ)でイッシキの少名碑古那(スクナヒコナ)と大黒天は写し取っている。

上空に現れた杭の形をした巨石、しかしそれをアオは少名碑古那で縮小して無効化。

「貴様っ!我が瞳術をっ!」

「隙だらけよっ!」

「この猿がっ!」

ハナビとイズミが同時にイッシキを攻めるが攻めきれない。

「くっ…」「強い…」

イッシキの実力はカグヤの何倍も強かった。戦闘の実力で言えばモモシキすら遥かに超えているだろう。

それは綿々と受け継ぐ大筒木の経験値のなせる業だった。

親が子へと自分の全てを委ね進化の糧となる大筒木の一族。

そして少名碑古那の前には下手な忍術など無効と体術で攻めるしかないイズミとハナビ。

その体術もハナビの上を行っている。

巨大なキューブが雨あられと降り注ぐ。

イッシキが大黒天で出したそのキューブをアオが少名碑古那で縮小し無効化。

さらに戦闘にアオが加われば天秤は僅かに傾いて行く。

連綿と受け継いできた経験がイッシキに有るのなら、アオには自身で成し得た経験がある。

「くそ、くそ、くそっ!」

「しまっ…」「きゃっ」

「イズミッ!ハナビッ!」

突如として現れた黒い棒がイズミとハナビを貫いた。

イッシキに容赦が無かったためか刺さった黒い棒はどこも致命傷を免れない。

「ふはは、このイッシキに逆らうからだ」

「油断だわ」「ええ、本当に」

突如イッシキの背後に現れたイズミとハナビが強烈な一撃をイッシキに見舞う。

「なにぃっ!ごはぁ…」

理解が及ばないイッシキ。

シン・イザナギは自分に都合の良い結果を選び取る幻術。

しかしアオは少名碑古那を使っていてシン・イザナギは使えないはず。

ならばどうしたか。

アオの輪廻眼の能力である伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)。正確には日像鏡(ひがたのかがみ)は他者の瞳術をウツシ取り、日矛鏡(ひぼこのかがみ)は他者に瞳術を回数制限でウガツ。この二つを合わせて伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)と言う。

その日矛鏡(ひぼこのかがみ)の能力でイズミの輪廻眼にシン・イザナギを穿っていたのだ。

なぜそんな事をしたのかと言えば、アオ自身が必殺である直死の魔眼を使う為だ。

直死の魔眼は強力だが、使用時は他の瞳術が使えない。

つまり、どうしても勝たなければならない相手に使うシン・イザナギと直死の魔眼をアオ一人では併用できないのだ。

その欠点を補うのが日矛鏡(ひぼこのかがみ)だ。

この能力で今イズミがシン・イザナギを使っている。

勿論欠点もあり、自身の瞳術が使えなくなっているが、そんな事よりもシン・イザナギは強力だった。

この状況になればもうイッシキに勝つ見込みは殆ど無い。

幾ら致命傷を与えようが現実を書き換えられ、相手の攻撃、特にアオの攻撃は一撃一撃が必殺だった。

「くそがっ…」

時空間移動で逃げようとするイッシキ。

「逃がさないよっ」

アオは瞳術を直死の魔眼に切り変えそのゲートを殺す。

「何っ!?」

余ほどショックだったのかイッシキに大きな隙が出来た。

「今っ!」「分かってるっ!」

ハナビとイズミの左右からの柔拳による攻撃がイッシキを挟む。

逃げ場のない威力はイッシキの体を駆け、内臓を破壊。

「ごはっ…」

くぐもった声をだすイッシキに容赦のないアオの攻撃が追随する。

「終わりだ」

「その眼は…直死の…」

寿命が尽きかけているイッシキの体に見える死の線は他者よりも多く、死の点すらはっきりと見えている。

その点を正確に突くアオの攻撃。

イッシキが自身の体を見下ろす。

突き刺したアオの刀。それだけなら恐らく回復できるだろう攻撃だったが、死の点を突かれていてはもうイッシキは消滅を免れない。

自分の死を受け入れたイッシキの表情は無そのものだった。

「カグヤを殺し、モモシキを殺し、オレまでも殺すか…」

イッシキの体は今にも塵となっていく。

「モモシキに倣ってオレも呪いを残す事にしよう」

どう言った原理か、死を免れないはずのイッシキからその右目が抜き出され浮遊してアオの手に収まった。

「その瞳が必ず争いをもたらすだろう…」

サァと塵となって消えるイッシキ。

「勝った?」

イズミが辺りを警戒しながら言う。

「その眼は…」

ハナビが心配そうにアオの手に収まった眼を見つめた。

「これも壊さない方が良いのだろうな…はぁ」

その眼を巻物に封印するとイッシキの戦闘は終了。

「もう大筒木は終わりにして欲しいね」

「それはどうだろうね…」

「アオくんは騒動からは逃げられない運命にあるからね」

「二人とも、そこはもう少し慰めてくれても良いんじゃないか?」

「ま、良いじゃない。次もきっと大丈夫よ」

とイズミ。

「そうね。わたし達が一緒に居れば、きっとね」

そうハナビも微笑んだ。




「ほう、乗り切ったか」

とチャクラ体で生と死の狭間に居た六道仙人が呟いた。

「でも、これからですよ。兄者」

寄り添っているのはハムラだ。

「幻術が現実を書き換え、これからは進むべき道は誰にも分からぬ」

「ですが、きっと大丈夫でしょう。あの者らならどんな困難にも打ち勝てる。そうわたしは信じる事にします」

「ワシも切り開いた未来は明るい物と信じる事としよう」

そう言って六道仙人と大筒木ハムラは姿を消した。




アオの瞳術

白眼

写輪眼

万華鏡写輪眼

志那都比古(しなつひこ)

・風を自在に操る

建御雷(たけみかづち)

・電気を自在に操る

桜守姫(おうすき)

・最高の観察眼

八意(やごころ)

・知識の簒奪

思兼(おもいかね)

・思考の誘導

輪廻眼

伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)

・日像鏡(ひがたのかがみ)

相手の瞳術をウツシ取る


・日矛鏡(ひぼこのかがみ)

自分の瞳術を他者にウガツ


輪廻写輪眼

シン・イザナギ

・デメリットと制限時間が無くなったイザナギ

シン・イザナミ

・デメリットの無くなったイザナミ

直死の魔眼

・死の線、または点が見える


奪った瞳術

別天神(ことあまつかみ)

・最強の幻術

天照(あまてらす)

・黒炎を操る

月読(つくよみ)

・高位幻術

加具土命(かぐつち)

・炎を形態変化させる

天鈿女(あめのうずめ)

・宮比神(ミヤビノカミ)

封印術 自身の瞳に封印する場合最大3つ

・大宮売神(オオミヤノメノカミ)

解術

神威(かむい)

・自分自身、または物を神威空間へと転送する

輪墓(りんぼ)・辺獄(へんごく)

・平行世界に自身の分身を召喚する

天手力(あめのてじから)

・自分と視認先を入れ替える

天之御中(あめのみなか)

・幾つかの空間へ瞬時に転位する

高御産巣日神(たかみむすびのかみ)

・チャクラ由来の術を吸収、増幅して撃ちだす

少名碑古那(すくなひこな)

・物体を縮小して時間の止まったどこかへと保管する

大黒天(だいこくてん)

・保管されたものを元の大きさで取り出す

転生眼

モモシキの金の輪廻眼の能力

ウラシキの輪廻眼の能力


うちはイズミの瞳術

白眼

写輪眼

万華鏡写輪眼

天鈿女(あめのうずめ)

輪廻眼

名称不明

輪廻写輪眼

名称不明


ハナビの瞳術

白眼

転生眼 
 

 
後書き
今回はキリの良い所まで。
続きは…何年後かに?BORUTOが終わってればですかね。
今回もアオのチート具合が加速しました。一応魔法や魔導は使えなくしているのですが…
モンテにつきましてはセルフクロスになっております。暇なら『転生したらビーデルの妹だった件』も見てやってください。
忍術主体に戦うアオと忍術の使えないモンテと言う対比な感じで書いたつもりです。

稚拙な作品ですが、楽しんでもらえたのなら幸いです。 
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