機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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第82話:急転直下
俺はレジアス・ゲイズ中将が拘束されたという話を聞いて、
驚愕のあまりしばらく思考停止に陥っていた。
「おーい、ゲオルグくん。帰っておいで―」
目の前で手を振りながらはやてがそう言っているのが耳に届き、
俺はようやく自失状態から覚醒する。
「ゲイズ中将が拘束されたって・・・なんで!?」
「ちょっと話はさかのぼるんやけど、2か月くらい前やったかな。
シンクレアくんがどうしても気になるからって、最高評議会を探った時に
ちょくちょく来てた女がおったやろ?アレを特務隊の人らに探らせてたんよ。
で、地上本部の襲撃事件のときに戦闘機人のデータが一杯とれたから
女をサーチしてみたら反応パターンが戦闘機人のと酷似してたんやて。
で、シンクレアくんの命令で、特務隊が最高評議会を張ってたら、
ゆりかご浮上の直前にのこのこと女が現れたから即拘束。
同時に、最高評議会のお歴々への聴取によってゲイズ中将とスカリエッティの
関係について証言が取れたから、査察部がゲイズ中将を拘束しに
向かったんやけどな、ちょうどゼスト・グランガイツが中将の部屋
に乗り込んで来てて、ひと悶着あった末に無事拘束っちゅうわけよ」
「はぁ・・・そんなことがあったのか・・・」
俺は、絵に描いたような劇的な逮捕劇に唖然としてしまった。
が、ひとつの疑問が心に浮かぶ。
「ゼストはどうなったんだ?」
俺が尋ねると、はやては急に苦々しい表情になる。
「ゼスト・グランガイツは・・・死んだんよ」
「・・・え?」
俺が茫然としていると、はやてがぽつぽつと話し始める。
「詳しいことは現場におったシグナムにでも聞いてほしいんやけど、
中将が拘束された後にすぐ息を引き取ったそうや。
詳しいことはよう判らんけど、ゼストとずっと一緒におったらしい
アギトっちゅうユニゾンデバイスによれば、ゼストは7年前の事件で
一度亡くなってるらしいんよ」
「は?じゃあ、あれはなんだったんだよ」
「話は最後まで聞きって。
で、スカリエッティの人造魔導師実験の被検体にされたんやって。
ただ、生命維持に問題があったらしくって、もう限界やったらしいわ」
「そうなのか・・・。あの人の行動原理は一体なんだったんだろうな?」
「判らんけど、ゲイズ中将とは旧知の仲やったらしいから、
その辺が関係してるんとちゃうやろか・・・」
はやての言葉を最後に3人ともしばらく黙りこんでしまう。
やがて、はやてが気分を変えるように明るい声を上げた。
「ま、それをここでグジグジ考えててもしょうがないって」
「そうだな・・・。で、もう1つの話ってのは?」
「そうやね。じゃあ、フェイトちゃん」
はやてがそう言ってフェイトに話を振る。
フェイトは小さく頷くと俺の顔を見た。
「スカリエッティのアジトで7年前の事件の被害者が
生体ポッドに入れられた状態で発見されたんだ。
生きた状態で発見されたのは、クイント・ナカジマ,メガーヌ・アルピーノ,
エリーゼ・シュミットの3名。いずれも意識不明だけど
近いうちに意識を取り戻すだろうって」
俺は一瞬、フェイトが何を言っているのか理解できなかった。
少しずつその意味が脳に染み渡っていく。
「・・・え?姉ちゃんが・・・生きてる・・・のか?」
自分でも驚くほど声が震えていた。
「そうだよ。よかったね、ゲオルグ」
フェイトがそう言って俺に向かって微笑みかける。
そのフェイトの顔がまた涙で滲んでくる。
「くそっ・・・なんか俺、今日泣いてばっかりじゃねえか」
「ええやん。嬉しいことがあったんやから。おめでとう」
はやてが微笑みながら俺の肩を叩く。
「ゴメン、俺ちょっと・・・」
「うん。ええよ。私らはここで待ってるから」
はやての返事を聞いて俺は立ち上がって、屋上から降りる階段へと向かった。
階段を下りて一番近くのトイレに向かうと、個室に入って鍵を閉めた。
それから、30分ほど俺はさめざめと泣いた。
ようやく気分が落ち着いたところで、個室を出る。
トイレを出る前に洗面台の鏡で自分の顔を見ると、目が真っ赤だった。
しょうがないとあきらめ2人の待つ屋上へと向かう。
「おっ、戻ってきた。おかえり、ゲオルグくん」
「悪いな、2人とも忙しいだろうに」
「かまへんって。ま、もう話すことはないんやけどな」
「ところでクイント・ナカジマさんって、ひょっとして・・・」
「うん。ナカジマ3佐の奥さんだよ」
「やっぱりそうか、もう一人のメガーヌ・アルピーノさんってのは・・・?」
「今回エリオやキャロと戦った召喚師の女の子がおったやろ?
あの子、ルーテシア・アルピーノっていうんよ。
つまり、メガーヌさんはルーテシアのお母さんやね」
「そっか・・・。でも、あの子は・・・」
「そうやねん。公共施設破壊やら危険魔法使用やら
ゲオルグくんへの殺人未遂やら罪状が一杯あるんよ・・・」
「え?俺を刺したのってあの子なのか?」
「正確にはあの子の召喚虫やね。ただ、あの子もスカリエッティから催眠を
かけられてたみたいやから、刑はかなり酌量されると思うで」
「そっか。早くお母さんと一緒に暮らせるようになるといいな」
「そうやね。さてと、私らはそろそろ帰るわ」
はやてはベンチから立ち上がる。
「ゲオルグくんも早く復帰してや。仕事が多くてかなわんわ」
「はは・・・了解。それまでは、シンクレアをこき使ってくれや」
「大丈夫。もうこき使ってるから。な、フェイトちゃん」
「え?う、うん。シンクレアには私と一緒に捜査資料の整理とか分析を
やってもらってるんだ」
「そうなのか。ま、あいつも情報部だからそういうのは得意だからな」
「そ、そうなんだ。私もすごく助かってるんだよ」
一見何でもないやりとりではあるが、俺はフェイトの様子に
わずかな違和感を感じる。
どうも先ほどからちょくちょくどもっている。
が、とりあえずはどうでもいいことかと俺は考えることを放棄した。
「なら結構なことだな。じゃあ、またな」
「うん。またお見舞いに来るわ」
「へいへい。今度は何か旨い菓子でも頼むわ」
「りょーかい。ほんならねー」
俺は2人を見送ると、日の傾きかけたクラナガンの町並みに目を向ける。
「さてと、それじゃあ我が娘の寝顔でも見にいきますか」
俺は屋上から降りて、ヴィヴィオが入院している部屋に向かった。
ヴィヴィオが入院している病室の前につくと、俺は控えめに扉をノックする。
中から女性の声で、どうぞと返って来たのでそっと扉をあける。
中に入ると、寮母のアイナさんが出迎えてくれた。
「アイナさん?なんでこんなところに」
「ゲオルグさんも、なのはさんも入院して動けないですし、
フェイトさんはお仕事が忙しくてなかなか来れないということなので
私が、ヴィヴィオの面倒を見るって買って出たんですよ。
ほら、隊舎があんなになって仕事がないので暇でしたから」
「そうだったんですか・・・。お手数をおかけしてすいません」
「いえいえ。それよりヴィヴィオに会いに来られたんですよね。
今は寝ちゃってますけど、寝顔だけでも見て行かれますか?」
「ええ、そうさせてもらいます」
ベッドのそばに寄ると、穏やかな顔で眠るヴィヴィオの顔が見えた。
俺はアイナさんが勧めてくれた椅子に腰を下ろすと、ヴィヴィオの顔を眺める。
「ゲオルグさん。私ちょっと売店のほうにいってきますので」
「あ、はい」
俺が返事をすると、にこやかにお辞儀をして病室を出て行った。
(気を使ってくれたのかな・・・)
俺は再びヴィヴィオの寝顔を眺めはじめた。
「ごめんなヴィヴィオ。パパが頼りないばっかりに辛い目に遭わせちゃって」
俺はそう呟くと、ヴィヴィオの綺麗な金色の髪を撫でる。
しばらくそうしていると、突然ヴィヴィオの目がパチっと開いた。
「んっ・・・ぱぱ?」
「あ、ヴィヴィオ。ごめんな、起こしちゃったか」
「パパっ!」
ヴィヴィオはそう言うと俺の首に飛びついてきた。
まだ治っていない肋骨のあたりに痛みが走る。
「いててて・・・おいおいヴィヴィオ、パパだってけが人なんだから
もっと優しくしてくれよ・・・」
俺はそう言いながら、首にしがみつくヴィヴィオを引きはがす。
「ねえパパ、へーき? おケガはだいじょうぶ?」
心配そうに俺の顔を見上げてヴィヴィオが尋ねてくる。
「あんまり平気じゃないかな。でも、じきに治るから大丈夫だよ」
「・・・いたいの?」
「そうだな・・・まだちょっと痛いかな」
「じゃあねえ、ヴィヴィオがおまじないしてあげる!」
「おまじない?」
「うんっ。ヴィヴィオがころんだときにママがしてくれたの」
「じゃあ、やってもらおうかな」
「いいよ。じゃあねぇ・・・”いたいのいたいのとんでけー”」
ヴィヴィオはそう言いながら指を天井に向けた。
「どう?いたいのなおった?」
「そうだな・・・ちょっと痛くなくなったかも。ありがとな、ヴィヴィオ」
俺はそう言ってヴィヴィオの頭をやわやわと撫でる
「えへへ・・・どういたしまして」
その時、外に出ていたアイナさんが戻ってきた。
「あら、ヴィヴィオ起きたんですね」
「ええ、俺が起こしちゃったみたいで・・・」
その時、ヴィヴィオが俺の入院衣の袖をくいくいっと引っ張る。
「ねぇ、ママに会いたい」
「うーん、そうだな・・・」
俺はアイナさんの方を見る。
「ヴィヴィオは病室から出ても構わないんですか?」
「一人では出ないように言われてますけど、誰かがつきそうなら構わないと
聞いてますよ」
「そうですか・・・。よしっ、じゃあママの顔を拝みに行くか!」
「うんっ!」
ヴィヴィオは満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。
ヴィヴィオの手を引いてなのはの病室へ向かう。
ドアをノックするが応答はない。
「なのはー、入るぞー」
小声でそう言ってそっとドアを開けると、なのははベッドで眠っていた。
「残念、ママは寝てるよ」
「えーっ、やだー」
ヴィヴィオは頬を膨らませる。
「やだって言ってもな・・・。ママを起こすわけにもいかないから
ちょっとだけ寝顔を見てから部屋に戻ろうな」
「・・・わかった」
「そっか。いい子だな、ヴィヴィオは」
そう言って頭を撫でてやると、ヴィヴィオはくすぐったそうに目を細めた。
ヴィヴィオを抱き上げてベッドのそばまで行く。
ちょっと胸のあたりが痛むが我慢だ。
ヴィヴィオはなのはの寝顔を見ると不安そうな表情を浮かべる。
「ママ・・・どこかいたいのかな?」
「そうだな・・・ママはちょっと頑張りすぎて疲れちゃったんだよ。
だから、しばらくお休みしてるんだ」
「・・・ヴィヴィオのせいなの?」
泣きそうな顔でヴィヴィオは俺の顔を見る。
「ヴィヴィオのせいじゃないよ」
「でも・・・ヴィヴィオがママと戦ったりしたから・・・」
「そうだね。でも、ヴィヴィオもママと戦いたくて戦ったわけじゃないだろ?」
「・・・うん」
「じゃあ、ヴィヴィオのせいじゃないだろ。な?」
「・・・うん」
(こんなことになったのは元はと言えば・・・)
少し自罰的な思考に陥りそうになり、俺は頭を振ってそんな考えを吹き飛ばす。
「さ、ママを起こしても悪いし、部屋に戻ろうか」
「・・・うん」
ヴィヴィオはなのはの顔をもう一度見つめると、さみしげに頷いた。
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