展覧会の絵
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第十八話 我が子を喰らうサトゥルヌスその六
暫く考えてからだ。彼はこう神父に述べた。
「そうだね。学校だね」
「今回もですか」
「けれどまた校門に置けば同じだからね」
それではだというのだ。
「芸がないからね」
「趣向は常に変えてこそですね」
「そう。裁きの代行にはそれがあるべきだからね」
「では次の場所は」
「僕に任せてくれるかな。では後でね」
「わかりました。骸の運搬はお手伝いします」
「有り難う。いつもね」
こうした話を淡々としてだった。十字は神父の手伝いを受けて一郎の無残な骸を運び出しもした。そして朝にだ。学園の生徒達は見たのだった。
「これ、誰だよ」
「おい、また無茶苦茶な殺し方だな」
「タマ潰されて内臓出されてるぞ」
「あちこち何かで引きちぎられてるな」
「しかも爪まで剥がされて」
「何だこりゃ」
生徒達は骸の無残さとそこから湧き出る血と死臭に吐き気を催しながらも見ていた。好奇心があったが恐怖が視線を外させはしなかった。
そうして骸を見ながらだ。彼等はさらに言う。
「首、ねえよな」
「ああ、首から上はな」
「首なし死体って何なんだよ」
「誰の死体だよ、これ」
「無茶苦茶な殺し方しやがって」
学校の木から逆さ吊りにされていた。両足の足首を縛られてだ。そのうえでその無残な姿を晒していたのだ。あまりにも陰惨な有様だった。
その骸を見て誰もが唖然となっている。そして。
春香は望と共にその骸を見てだ。こう彼に囁いた。
「この死体の人ね」
「まさかと思うけれど」
「ええ、多分だけれど」
こう言うのだった。小声で。
「清原先生よ」
「あの先生なんだ」
「そう。何となくわかるから」
宴からだ。彼の身体を知ったせいだ。
「殺されたみたいね。誰かに」
「それはわかるけれどな。これってな」
「誰がやったのかしら」
春香もだ。このことを考えていた。
「こんな無茶苦茶なことを」
「あれかな。清原塾の理事長先生を殺した奴かな」
「先生理事長さんの親戚だからね」
「ああ。その関係じゃねえのか?」
「じゃあ遺恨?」
「どういった遺恨だよ。それじゃあ」
「私のことならわかるけれど」
春香はここで望を見て言った。
「望がしたのなら」
「確かに俺はこの先生は憎いさ」
春香を汚した、だからこそだ。
だがそれでもだとだ。彼は強い声で彼女に答えた。
「けれど勝ったからな」
「だからなのね」
「ああ。殺すつもりなんて最初からなかったさ」
「そうよね。望はそんな人じゃないわ」
殺人を犯す様な人間ではない、望はそうした人間であることは春香もわかっていた。
ましてやだった。今の一郎の骸を見て言うことは。
「それにこんな殺し方は」
「急所潰して内臓出してな」
「あちこち何かで千切って」
「首まで切ってな」
「こんな殺し方普通しないわ」
あまりにも残虐だというのだ。ただ殺すだけではなく。
「これってもう」
「何かな。あれだよな」
「あれって?」
「ほら、魔女狩りってあっただろ」
望が今春香に言うのはこのことだった。
「ヨーロッパであったな。あれな」
「魔女狩りってあの」
「ああ。徹底的に拷問して最後は火炙りになるな」
「魔女だって疑われた終わりっていう」
「あれに似てないか?」
こう春香に言うのだった。
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