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チートゲーマーへの反抗〜虹と明星〜

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L9話 Nuisance【邪魔者】

「はぁっ!!」
「ふっ!」


繰り出される剣戟。戦況はまさしく剣、拳、矢が飛び交う乱打戦。一瞬の油断が死へとつながりかねない。

セイバーが振り下ろした火炎剣烈火を仮面ライダーグレイブはなんとか手持ちの剣で受け止める。しかし……その重みは明らかにセイバーの方が上であった。グレイブの剣は徐々に後方へと押される。


「剣の衝撃……調べ通りの強さです。」
「調べだと?」
「天羽速人。文武両道に恵まれた男———その身体能力は新聞紙で相手を気絶させる腕力……そうですね?」
「くっ……!」


セイバー…その変身者たる速人はこの羽田淳一なる男の底知れなさに毒される。

底知れなさとは何も「実力」という意味ではない。自分の手の内を知っている……「かのんたちの情報も漏れているのでは?」という疑念。それが速人の気分を害している。


その隙をつくように、グレイブは剣によるガードを解いて、横っ腹を薙ごうとする。セイバーは背後へと引く。


「どこまで知ってる……?」
「はい?」
「惚けるな。俺たちの情報をどこまで握ってる!?」
「答える義理はありません。貴方はここで……」
「————そうか。」


グレイブはセイバーの問いかけに対して、剣を向ける。

セイバーは微量の嘆息を吐いたのち、同じく火炎剣烈火を向け返す。

再び空気は冷凍状態へと突入した————


しかし、その空気は思わぬところから熱せられた。


蜘蛛の糸がグレイブラウザーに巻き付く。


「はぁっ!!」
「ぐっ…葉月稔——!」
「戦いは2対2……後方から横槍が入らないとは言ってないだろ?」


蜘蛛の糸……もとい蜘蛛の綱を引っ張り合うグレイブとデモンズ。そこにランスの放つ赤いエネルギー矢が飛んでくる。

デモンズはそれをスッと避ける。


「よそ見してる余裕はあるの?」
「あぁ。お前とは……経験値が違う。」
「!!」

お前では俺の相手にはならない……そう言われたランスはショックで言葉に詰まる。

デモンズは声を上げる。

「今がチャンスだ!!セイバー!」
「ああ!」

大きく頷いたセイバーはそのまま火炎剣烈火を納刀し、そのレバーを引く。

【必殺読破!】

【烈火抜刀!!】

【ドラゴン一冊斬り! ファイヤー!】


纏う炎が最高潮に達する刀身。そんな火炎剣烈火を手にセイバーはグレイブに斬りかかろうとする。

グレイブは致し方なく、武具たるグレイブラウザーを手放し、防御の姿勢を見せる。


しかし……


火炎剣烈火が宙を舞った————その場にいる他のライダーたちは理解するより先に、燃え盛る火炎剣に視線を向けてしまう。

否が応でも、それが人間の性である。


「かかったな?」
「「「!!!!!!!」」」


次の瞬間にはグレイブの前にセイバーは立っていなかった。


セイバーの目の前にいたのは…….ランスだ。


「ぶっつけ本番……うまくいったな。」


セイバーの隠し玉————以前、那由多よりパクった水勢剣流水。それを空になったソードライバーに納刀する。


【必殺読破!】


南国のリゾートのようなBGMが流れる……その音楽にのせられるまま、抜刀!!


【流水抜刀!】

【ドラゴン一冊斬り! ウォーター!!】


虚を突かれたランスに、防御の術は残されていなかった。そのまま水龍に呑まれるように居合斬撃が彼女に炸裂した。


水でできた水晶玉に閉じ込められたランスは、玉が爆発するとともに、その装甲を解除されてしまった。

そのままランス……その変身者たるアキは地面に倒れ込む。


「さて……あとは———」


セイバーは突き刺さった火炎剣烈火を二刀流に、グレイブの方を再度振り返る———「次はお前だ」と言わんばかりに。

これがセイバーの作戦。2対1という圧倒的優位な状況に持ち込むための。


「羽田淳一、観念しろ。」
「………」


デモンズが威圧しながら丸腰のグレイブへと近づく———

もはや勝敗は決した……セイバーとデモンズはそう確信した。


そんな時だった。



カランコロン……



「ん……?」



プシュー!!!


転がったスティール缶から放出される大量の煙———いや、煙幕と言った方が正しいか。

故意であるかに関わらず、この煙幕はグレイブにとって好都合でしかない。


「くそっ……!」


火炎剣烈火の熱風で散らばる煙を斬り分けた。

しかし……そこにもうグレイブの姿はなかった。


セイバーとデモンズの2人は変身を解除する。


「逃したか……」


複雑な表情の稔。そんな彼に速人は駆け寄る。


「アンタ……葉月って言ってたな?」
「ああ。改めて……俺は葉月稔。またの名を———仮面ライダーデモンズ。」
「俺は天羽速人。仮面ライダーセイバー……ってことでいいか。」
「天羽速人……か。」


稔は少しの間、言葉を詰まらせる。そして少し目を泳がせたのちに再び速人の方を向いて、肩に手を置く。


「じゃ、俺はこれで。また会う日も近いだろう。」
「あ、あぁ……」
「またな———」


そう言って稔は立ち去ろうとした。当然速人も留まらせる理由はないため、そのまま見送ろうとする。

しかし……凛々しい声が彼を止める。


「待ってください!」
「「………!?」」


稔を止めたのは……


「恋……」
「先ほどから見ていました……やっぱり———貴方も関わっていたんですね。お父様。」
「生徒会長……」


スッと春風が間を通り抜け、生徒会長 葉月恋の綺麗な黒髪を靡かせる。


「お父様…結ヶ丘はお母様の最後の形見——もうこれ以上…死してもお母様を苦しめないでください!!」
「……すまない。」


娘の怒りに、稔はただ謝る———抗弁など垂れず、ただ謝った。

流石にこれまでの状況を見て謝らせるのを気の毒に思った速人は割って入る。


「ちょっと待て。アンタらにどんな因縁があるかしらねぇが、この人は少なくとも現時点において街を守った。そんな人を責めるのは筋が違うんじゃないのか?」
「いいえ。この人は母を見捨てておきながら、自分の都合で母の形見をもメチャクチャにしようとしている——私はそれが許せないのです!」
「どういうことだ……?」


思わず聞き返す速人。恋はその問いに一刻の瞬きを挟んで返す。

「父が仮面ライダーという存在であるというのは母の話から何となく察していました。そして怪人と呼ばれる魑魅魍魎と戦っているという話も。」
「そうか……【花】が———」
「速人さん、ここまで言えばもうわかりますね?」
「この街に怪人の仲間が現れたのは稔さんの所為だってのか……」


恋はその答えを肯定するように、父を横目に睨む。

稔は何か悲しそうな顔で……後退りし始める。


「そうだな……そうかもしれない。俺は謝ることしかできない。だから———決着はつけなきゃダメなんだ。」
「え……?」
「【影】を背負うのは———俺だけでいいんだ。」


そう言って———稔は去っていった。


ただ……速人に【頷き】を託して。

頷きが何を意味するのか———速人は察した。



【恋を頼んだ。】


そう言っているような気がした。


 
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