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体温計

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第一章

                体温計
 いつも冷静だと言われていた。
 オーストリアでピアノの演奏家をしているラインハルト=ノヴァーリスはピアノを演奏している時もその後も表情を変えない、そして何があってもだ。
 態度も変わらない、ライトブルーの目はいつも落ち着いた光を放ち卵型の顔と小さい唇も基本無口でありショートにした茶色の髪も騒がしいものはない。
 一八〇を超える長身ですらりとしている、その彼を見て友人達は言っていた。
「いつも冷静だな」
「何か騒ぐものがないな」
「全くだな」
「基本体温低そうだ」
「それは確かだな」 
 その彼を見て言う、兎角だ。
 彼はピアノを演奏する時も仕事で子供に教える時もピアノの調律を行う時もいつも無表情だ、だがそのことを言われると。
 ノヴァーリスは冷静にだ、こう返した。
「いや、僕は冷静でもないよ」
「本当かい?」
「そう見えるがね」
「君程の冷静な人間は見たことがないよ」
「至って冷静だよ」
「体温計を計っても体温が低そうだ」
「その体温もだよ」
 これもというのだ。
「そうでもないよ」
「高いのかい?」
「そうなのかい?」
「実は」
「普段は低いよ」
 その時はというのだ。
「けれどだよ」
「それでもかい」
「君は何かがあるとか?」
「変わるのか?」
「変わるよ」
 実際にという返事だった。
「僕はね」
「じゃあどういう時に変わるんだい?」
「一体」
「どういった時にだい?」
「今度家に来ればわかるよ」
 ノヴァーリスは落ち着いた顔のまま友人達に話した、そうしてだった。
 実際に彼は休日に友人達を自分のマンションの部屋に案内した、丁度昼食の時間だったのでウルスト他の国で言うソーセージとだ。
 ザワークラフトにジャガイモ料理を出してきた、全体的にオーストリアというよりドイツの趣きのメニューだった。
 それ等を出してだ、さらに。
「やっぱりね」
「ああ、それは欠かせないな」
「ビールはな」
「これがないとな」
「はじまらないよ」
「そう、ワインもいいけれど」
 それでもとだ、ノヴァーリスも話した。
「僕達にとってはね」
「ビールだよ」
「これなくしては動けない」
「お昼どころか朝から飲む位だ」
「それが僕達だよ、それで今日はホッケーの試合があるから」
 ノヴァーリスはいつもの無表情なまま言ってきた、口調にもそういったものは見られない。
「観ようね」
「ああ、お昼からあるか」
「そうなんだな、今日は」
「じゃあホッケーの試合も観て」
「そうしてビールも楽しもう」
「ウルストは沢山あるから」
 ビールのつまみはというのだ。 
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